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映画『クリード 過去の逆襲』感想

予告編
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誰もが過去を持つ


 『チャンプを継ぐ男』『炎の宿敵』(感想文リンク)に続く、『クリード』シリーズの第三作目。まぁ、なんとなくですが、シルベスター・スタローンが権利関係云々で揉めているという話はネット記事などで知っていたので、わかってはいたんです……。とはいえ、ロッキーもアポロも顔すら映らなかったのは寂しいなぁ、なんて。公開して一週間ちょっとですが、大手シネコンなんかでも上映館が限られていたり、しかも(たまたまかもしれませんが)客席もまばらにしか埋まっていなかったのは、『ロッキー』シリーズファンの気持ちの表れなのでしょうか? 予告編であれだけIMAX上映を推していたのに、全っ然やってなかったし……。IMAXのスクリーンは『ワイルド・スピード』『スーパーマリオ』(感想文リンク)『名探偵コナン』等々に持っていかれてしまったのか笑。不遇というか何というか。しかしながら、そんな大看板である二人が一切映らないからこそ、本作の主人公であるアドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)のドラマ一点に集中することができたんじゃないかな。



 
 序盤のうちに描かれる、クリードの引退試合(もちろん、この試合自体も観ていて面白いシーンではあったのですが)。引退とはいえ、なんやかんやで復帰する展開になるのはお約束。タイトル戦に挑むため、改めて過酷なトレーニングに打ち込むクリード。その途中で一度ヘバってしまい、へたり込む彼を焚き付け、再び立ち上がらせたのは、過去二作品で描かれた激闘の記憶。回想シーンというよりはフラッシュバック的に映像が挟み込まれるので、想い出したことで彼の意思となり行動に移ったのではなく、どこか無意識的に刻み込まれたボクサーとしての血が彼を奮い立たせていたような印象があり、とても熱い気持ちになってきます。アポロやロッキーの存在も大きいけど、アドニス自身がこれまでに築き上げてきたものが、彼自身を強く焚き付け、支えていたように見受けられます。

 
 そんな側面もある一方で、本作の戦いは、逆にアドニス自身の過去が引き金となったもの。暗い側面を描いていくことは、なんとなく『ロッキー』っぽくない気もするけれど、そのおかげでアドニスのドラマを深掘りできる。アメリカンドリームというか大番狂わせというか、“持たざる者” が故の魅力があった『ロッキー』とは異なり、クリードの戦いには持たざる者とは真反対の、“持つ者” としての戦いがとても印象的だと思っています。クリードという血統然り、チャンプになって手に入れた地位や財産、愛する家族、引退してからの平和な生活然り。そして何より本作では、“過去に傷を持つ者” としての印象が最も強く描かれています。
 
 過去の二作品では、壁の肖像画や写真等々、アポロ・クリードという偉大過ぎる父親の影がアドニスにとっての重荷やプレッシャーになっていたように見えたものの、本作ではアポロの存在に取って代わり、アドニス自身の肖像が大きく映されており、今度は父親の影ではなく、これまで自身で積み上げたものが重くのしかかっている印象。“持つ側” になってしまった彼を象徴するかのように、企業の広告やジムの壁に掛けられた写真なども、やたら大きなものになっている。ロッキーやアポロの姿が一切映らないからこそ、尚更に。作品全体を通して、様々な想いが過っているアドニスの心情が表現されていたように思います。
 


 そんな彼の葛藤をより複雑にしているのが、今作で戦うことになる幼なじみの親友・デイム(ジョナサン・メジャース)。再会後に食事に行ったシーンや、デイムがアドニスの自宅を訪れるシーンはとても印象的。服装もそうだし、やたらとリッチな暮らしが窺える家の中もそうだし、口にしなくても二人の間に差があることが見えてきてしまう。冗談交じりとはいえ、どこか卑下したような表情を浮かべるデイムの姿からも、アドニスの複雑な心境を想像できてしまいます。デイムの “持たざる者” 感が故の危うい雰囲気も相俟ってか、成功した自分とは反対に、自分のせいで人生が変わってしまった相手を目の前にしたアドニスが抱える、一方的に “持つ側” になってしまったことへの罪悪感みたいなものが際立ってくる。先述したアドニス自身の大きな肖像は、こういったことにも呼応してくるんじゃないかな。そんなドラマの先にある激闘の行方は是非ご覧になって頂きたいところです。
 
 経済的事情や家族事情など、過去の傷の中には環境が故とも見て取れるものもある。そういったものも含め、過去と向き合うことが己自身とも向き合うことに直結していく感じは、同様に自身の過去と向き合っていたロッキーを描いた前作とも相通じる部分じゃないかな。そんな前作でアドニスは、愛する妻や子供のことといった家族について、つまりはロッキーとは対照的に過去ではなく現在、或いは未来と向き合っていたようにも見え、そんな彼が本作では過去と対峙する。もちろんこれまでも十分魅力的だったけど、本作を経てより一層、主人公としての骨格がはっきりと、力強くなった印象です。
 



 ロッキー役のシルベスター・スタローンは出演せず、シリーズの功労者でもあるライアン・クーグラーも監督ではなくスタローンと同様に制作側に回り、主演のジョーダンが監督を務めた本作。『ロッキー』シリーズもスタローンが監督を務めていたこともあったけど……、なんか、シリーズ三作目にして遂に『ロッキー』のスピンオフという枠を超えたような印象があります。現時点(note投稿の2023年6月4日)では日本では微妙な感じになってしまっているように見受けられますが、個人的にはとても良かったと思います。
 


 そういえば他の劇場はどうだったんだろう? 僕はTOHOシネマズで観てきたのですが、特別短編のアニメが同時上映されていた本作。あくまでも付録というかオマケというか、本編の物語とは全く関係無い感じ。本編の冒頭でジョーダンから日本のアニメへのリスペクトが込められたメッセージがテロップで流されていたので、本当に本人が好きで制作しただけなのかな? 試合シーンのデフォルメされた表現などとも結び付けられるなぁ、なんて思えたのは、冒頭でのテロップによる先入観もあったのかもしれません。


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