020 | YÔKAÏNOSHIMA/シャルル・フレジェ展を見た



少し前、東京マラソンがあった日銀座に寄り、メゾンエルメスでシャルル・フレジェさんの写真展「YÔKAÏNOSHIMA」を見た。

ギャラリーとしては広い、ミュージアムとしてはそんなに広くない、天井の高いガラスブロック張りの空間(明るく開放感があって好きな空間だから気になった展示はつい見に来たくなる)に、タイトルからも想像される日本の伝統的な装束、そのカラフルで大きな肖像写真が堂々と、何点も散らばるように展示されている。

YÔKAÏ = 妖怪、だよな?

でもその装束は、カメラ側の正面から照明当てたように、細部まで逃すまいと焼き付けられ、普通ならそこから匂い立つような、湿気や因習みたいなものは飛んじゃっててカラっとしている。何かの図鑑か図版のよう。

うーむ、それよりも子供の頃に見たり集めたりした、ウルトラ怪獣や変身ヒーローのカードアルバムの写真が、こんな感じだったなぁ。
どんな例えだよ と問われれば、歴史や風土的なもの、もっと言えば時間、或いは装束を纏っている人の“想い”みたいなもまで濾し取られ、アッケラカンと記録されている。だからパっと見は、怪獣や怪人のブロマイドのようなニュートラルさだ。その細密に描かれたような肖像は、姿カタチの面白さを克明に表しているから、水木しげるの妖怪図鑑みたいでもある。写真の右上にでも「妖怪○○○」とかト書きを入れるとしっくり来そう(実際には写真の傍に、タイトルと撮影地と簡単な説明のプレートが付きます)。




それらは日本各地の山間の田舎や海ぎわの町の、祭事や儀式や婚礼の民族衣装や伝統衣装だ。でもその祭事などの模様までは収められない。もっと言えば時間や感情や空気感みたいなものまで削ぎ落とされている。

それらの撮影場所は日本の北から南から、山村、田園、漁村、離島を巡り巡ってその数58箇所。いくら何でも周り過ぎだ、どんだけ勉強熱心だよシャルルさん と突っ込まずにはいられない、様々な土地で様々な装束は撮影された。

その写真が展示された会場は、建築家の松島潤平氏がセッティングを担当。無機的な壁面や傾斜によって立体的なランドスケープが建ち上がる。そこに愛嬌があったり畏怖を感じたりする、日本各地の奇妙な装束たちが収められ、民俗学とは違うベクトルでサンプリングされたかのように感じる。
だから、装束たちは地域地域でもちろん異なる意匠や性質を有しているけど、逆にどれもどこかで繋がっているみたい。そこにシャルルさんが採取した光がある。




エントランスから反対側の区切られた展示室に向かうと、天井近くまで壁いっぱいに、また様々な装束の写真が散りばめられるように架かっている。

そこでも「みんな何かが共通してるよなぁ」などと楽しく見れしまうのだけど、実はその空間の装束写真の半分くらいが、異国のものなのだった、欧州や南米やユーラシアなどの。なのにプレートやハンドアウトを参照しないと、どれが日本の装束でどれが日本以外の装束なのか、判別するのが困難だ。

日本以外の国の人が見ても、自国と自国じゃない装束を別ける事は難しいと思う。欧州とアジアなんて括りでも、それを判別するのは難しいんじゃないかな。
“みんな同じような装束”などと言ってしまう訳にはいかないくらいに、それぞれ激しく明確に個性的で異なっているのだけど、時々ものすごく離れた国や地域でなんとなく共通項があったりもするし、総じて見るとやっぱり1つの世界観の、妖怪図鑑が組み上がる。

とっても面白くて楽しい写真展だった。
http://www.maisonhermes.jp/ginza/gallery/