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『Mrs.バタフライの御乱心』 #第3回心灯杯前夜


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1日1個。

そう決めて食べているチョココロネがMrs.バタフライの朝食である。

しかし、このチョココロネ、なかなか手に入らない代物で、チョココロネが無い朝は、お香の香りと煙だけが彼女の食事となる。

「“煙を食む”だなんて、死者の魂みたいで悪趣味ですねぇ、奥さまは。」

執事のルーベラは、露骨な呆れ顔を女主人に向けてみせる。

「ルーベラ、あなたこそ、朝から縁起の悪いこと言うのはよしてちょうだいよ。“反魂香”みたいでしょ。黄泉の国にいる想い人に会えるのよ♪ 色っぽいじゃない?」

「ははっ。煙の中に会いたいお相手でも浮かびましたか?」

鼻先でバカにするルーベラに、大人げなくついついムキになるMrs.バタフライ。

「煙の中にちゃんと浮かんだわよっ!」

「ほぉうっ。誰がですか?」

一馬と江口くん!」

一瞬にして流れる気まずい沈黙。
無表情で見つめあう女主人と執事。

「・・・おふたりともご存命なのでは?」

「・・・あ」

ふたたび沈黙。それを破るようにルーベラがはやし立てる。

「あーあ。やっぱり奥さまのほうが縁起悪いこと言うんだー!あーあ、一馬かわいそー!あーあ、江口くんかわいそー!いーけないんだ、いけないんだーー!せーんせいに言ってやろー!やーいっ、やーい!」

調子に乗った執事ルーベラが尚も小学生のようにからかい続けるので、Mrs.バタフライの瞳は赤々と涙を浮かべることに・・・。

「・・・あーーーんっ!一馬と江口くんになにかあったらどーしよおぉーーーーっ。うぁーーーんっ!」

(・・・あ、やべっ。またメンドクサイ展開になりそだな、コレ・・・。)

「だーいじょーぶですよ!おふたりともお元気ですよっ!いちいち感情が激しすぎるの、なんとかなんないんですか?」

女主人は、恨めしそうな表情でルーベラを見上げた。

「そもそも奥さまは偏り過ぎなのですよ。極端なのです。何かに掛ける愛情も、日々の食生活も。どーせ今日もお香の煙を召し上がったら、連雀亭に落語を聴きにいくのでしょう?で、その帰りに無花果のパフェを召し上がるんでしょう?」

「1日1コロネ。1日1無花果よ!」

「いや、なんかの格言みたいに見せ掛けた早口言葉で言えなそうな言葉の並び、やめてくださいよっ。あんまりいろんなことに“好き”の程度が甚だしいと、気持ち悪がられて嫌われますよ?」

「あ。それはいいのよ。」

ビシッ!と伸ばした右腕の手のひらをルーベラの眼前につきだしたまま、Mrs.バタフライは真顔で続ける。

「わたしが勝手に一馬と江口くんを好きなだけだから、それでいいのよ☆ 誰にどう思われていても。彼らのお仕事の邪魔にさえならなければよいの。わたしが彼らを好きだという事実が大事なだけで♪」

(・・・な、なんなんだっ。このご都合主義のポジティブさからくる、不屈のメンタルはっ。なんよくわかんないけどイラっとするから、もう一度“No.11”に逃げられてしまえっ!)

泣いたり笑ったり情緒の安定しない女主人に毎度振り回されっぱなしの執事は、腹のなかで、小さく舌打ちをした。




全国紙の朝刊をMrs.バタフライに差し出しながら、ルーベラはため息混じりに諭すよう言った。

「それにしても、偏食だけはお気をつけくださいね。チョココロネと無花果パフェだけでは健康に障りますよ。」

「うーん。でも、美味しいんだもん」

空返事の女主人は、執事から受け取った朝刊の紙面をめくって目を落とす。

「だから、痩せないんですよ〜? 一馬みたいにスリムになれないですよ?江口くんみたいに美肌になれませんよ?」

と言い終わらないルーベラの声をかき消すように

「あーーーーーっ!!!」

と声をあげて、紙面を二度見するMrs.バタフライ。

「見て!ほらここに!先日の『第2回 心灯杯 #2020のゆくえ 』についての特集記事が載ってるわ!今回も実力者たちの創作落語台本が集まって盛り上がったわね~!・・・うーん、なになに?出場者たちの感想記事だわ!」



最後の記事を読んで、Mrs.バタフライは「あっ!」と声を上げた。

「エリーゼ夫人以外にも、ジュエリーボックス『2020』の宝石を買収しようとしている人間がいるわ!・・・いや、もしかして、“心灯ギャラリー”や“心灯杯”を買おうとしているのかも! 少なくとも“心灯杯”のスポンサーにはなってくれそうよ!嬉しいわね!おもしろくなってきたわねーー♪ わーーいっ☆」

と、新しいおもちゃを手にいれた子供のように、無邪気にはしゃぐMrs.バタフライ。






「ところで奥さま。また何か新しい美術品でも仕入れたのですか?」

そう、Mrs.バタフライは、大きなお屋敷に併設された“心灯ギャラリー”を営んでいた。そこに飾るための世界中の珍しいものが、毎日彼女の元に集められる。

今朝も早速彼女の元に何かが届いたご様子。

「そうそう!これね、19世紀初頭に流行ったマシンらしいのよ。見た目はドラゴンレーダーみたいでしょ?名前を入れて、ここのボタンをポチっと押すの!たしかね、エテキテルで有名な平賀源内が発明したとかしないとかで、それを初代三笑亭可楽という人が落語の高座で『今週のビックリドッキリ噺!ポチっとな!』と使い始めたのが最初らしいのよ。」(※)

「・・・そう騙されて売りつけられたんですね。落語で使うマシンなんか見たことないですよ。(よくて、笑福亭鶴笑師匠のパペットくらいでしょうよ・・・)」

「いいえ。買ってないわ。タダだもの」

「タダ!?無料で手に入れたものを高く売りつけるつもりですか!?“心灯ギャラリー”も落ちぶれましたねぇ。ルーベラはかなしゅうございます。ほろろん」

と、もちろん悲しんでなんかいない執事は、意地悪そうに笑いながら舌を覗かせている。

そろそろ学習能力を身につけはじめた女主人は執事のあおりをするりとかわし、マシンにのめり込んでいる。

「ここに名前を入力、、、っと」

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「そして、『今週のビックリドッキリ噺!ポチっとな!』で、ボタン押す!」

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「見て!ルーベラ、こんなでましたーー♪(by. 泉アツノ)」

「ふむふむ『過去』『見返り』『増えるツンデレ』って言葉が並んでいるだけですけど・・・?」

「そうよ!これが、初代三笑亭可楽が1800年頃にはじめた“三題噺”なのよ!」

【三題噺】聴衆に3つのお題を出してもらい、即興でひとつにまとめた落語噺。諸説あるが、『芝浜』や『鰍沢』などの演目も三題噺が起源だと言われている。


「よし! 『第3回心灯杯』は、三題噺でいきましょう!!! せっかくだから、たまたま試しで出てきた、『過去』『見返り』『増えるツンデレ』を使いましょう!」

「えっ!? そんな安易に決めちゃっていいんですか? しかも即興で作ってもらうんですか!?」

Mrs.バタフライ の突飛な発言に、目を白黒させずにはいられない執事ルーベラ。

「敢えて今回は即興にはしないわ☆ むしろその真逆を行こうと思ってる。三題噺だけどもいつもの心灯杯よりも時間をかけて作ってもらおうって。しかも今回は“落語”の縛りはナシ!『note』上で表現できるものならば、落語以外のジャンルもOK!みんなが自分の得意分野で遊べるの♪ いいと思わない? ステキでしょ☆」

年甲斐もなく、嬉しそうに飛び跳ねるMrs.バタフライを横目に、やれやれという表情を見せるルーベラ。無茶苦茶な女主人であることは間違いないが、どうしても憎めないと思ってしまう執事であった。

「ルーベラ!“第3回 創作落語de 『心灯杯』 #三題噺で原稿打つわよ! 次の新聞に載せてもらえるように手配しておいてね☆ さあ、今回も大々的に募集をかけるわよ!」





・・・to be continued!!!!








(※)史実に基づいていない内容を含みます。










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