マガジン

  • 君は預言者

    青春ストーリーの予定

  • 「ホームラン」

  • 「死神ちゃん」

  • 「Nameless Story」

  • 「棘と人」

    その感情は棘となって心に突き刺さる。互いの立場を乗り越えるのは、壊した時の何倍も難しかった。

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第9話

電気を消してからすぐに君の寝息が聞こえた。 こんな無理言ってごめんね。そっと君の背中に手を添える。君の温もりを肌で感じたかった。 僕の夏休みは慌ただしく始まったが、その後はいつもの様子を取り戻していた。 さくらや遥香と遊ぶことも無ければ、顔を見る機会すら無かった。 「うまっ…」 博多土産のめんべいを食べながら、僕は宿題を進める。宿題はさっさと終わらせるタイプだ。 『やっほー。今日はね、かっきーとショッピングに行ったんだ!』 1つ変わったことがあるとすれば、毎晩さ

    • 第8話

      どうしてあんなことしたんだろう。今思うと恥ずかすぎる。 でも、君にかわいいって言われたの、少しドキッとしちゃった。 はぁ…明日の病院、嫌だなぁ。 「はぁ…はぁ…」 インドアな僕には早歩きもしんどい。病院に着く頃には肩で息をしていた。 「あれ、さくは?」 病院の入口にさくらの姿は無かった。まさか、拗ねて帰ったのか? 「いた!」 遥香の指差す方向を見る。そこには、タクシー乗り場でおじさんと楽しそうに話すさくらの姿があった。 「え〜、そうなんですか?!」 さくら

      • 第7話

        お揃いのお守りを買った。受験が終わったらかぁ…頑張らないとなぁ。 大丈夫、私なら大丈夫。だって、神様にお願いしたもん。 「うわぁ、広い!」 大きなテレビに寝心地の良さそうなベッド、さくらのテンションが上がるのも分かる。 「さく、ベッドめっちゃ柔らかいよ!」 「すご!君もおいでよ」 お子様の輪に入るのは嫌だが、僕もベッドに腰掛けた。 「すごっ…」 思わず声が漏れる。さくらはニヤニヤと笑っていた。 風呂場を覗くとそこにはジャグジーがあった。 「絶対に入る!」

        • 第6話

          この1週間、私は人生で1番勉強した。いつもなら「補習でいいや」って思ってた。 でも、今年はそういう訳にはいかないんだ。 朝は得意な方ではない。どうして僕は夏休み初日に、人気のない駅前にいるのだろうか。 「お、気合い入ってるねぇ」 諸悪の根源は早朝でもニコニコして登場した。 「気合いじゃなくて悲哀の間違いじゃないか?」 「これから楽しい楽しい旅行なのに?」 旅行自体に不満な部分はない。ただ、夏休みの初日、女の子2人と、という状況には不満を言いたい。 「あ!かっき

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        • 君は預言者
          9本
        • 「ホームラン」
          3本
        • 「死神ちゃん」
          2本
        • 「Nameless Story」
          12本
        • 「棘と人」
          9本

        記事

          第5話

          ジェットコースターは楽しかった。お化け屋敷は怖かった。観覧車は2人がすっごく楽しそうだった。 君はこんなデートをするんだね。 週末が終わる。週末が終われば、僕らの繋がりは嘘かのように無くなる。 今日は木曜日。夏休み前の期末テストを来週に控え、自然とクラスは勉強ムードに包まれる。 「○○、今日の予定は?」 「今日は大人しく勉強するよ。夏休みに補習させられるの嫌だし」 俺もこいつも部活に所属していない。夏休みはいつもダラダラ過ごして、気づいたら終わっている。 「頑張

          第5話

          第4話

          友達と友達を会わせるのってなんだか緊張する。 でも、2人には仲良くしてもらいたいの。ずっと、ずぅぅぅっとね。 僕の初めてのデートは思っていた始まりでは無かった。 「まだ、この状況が飲み込めないんだけど」 「あの顔見てみ?」 後ろを指さした賀喜さん。そこにはニヤニヤとこの状況を楽しんでいるさくらがいる。 「諦めて今日を楽しみなよ。私の事を覚えてなかった贖罪も忘れずに」 人付き合いを避けていた自分を恨む。でも、クラスメイトを覚えていなかったのはさすがに心が傷んだ。

          第4話

          第3話

          君との初めてのお出かけはとっても楽しかった。 あ、でもラーメン残しちゃってごめんね。美味しかったよ。 後は…あの本、ずっと持っていてくれたら嬉しいなぁ。 今日一日で何度も突飛なことを言っていた。僕はそれを真に受けないと決めていたはずだ。 「なんでそう思うのさ」 隠していたつもりだが、僕は明らかに動揺していた。言っていることが1ミリも分からなかったからだ。 「だって私、預言者だから」 返答まで一貫して意味不明だ。 「僕を殺人鬼に仕立てたいの?」 「んーそれも面白

          第3話

          第2話

          いきなりあんなこと言って嫌われないかな? いや、きっと大丈夫。 だって、とってもお節介な君だから。 「ちょっと、黙らないでよ!」 答えに困っていた僕を彼女は現実に引き戻した。 「ごめん、返す言葉がなかった」 「可哀想だ、って思った?」 また、答えにくい。僕のボキャブラリーの中には人を労える様な言葉は多くない。 「僕と同じ歳の君がそんな運命を背負っていることに驚いた」 「ふふふっ…君、正直者だね」 この答えで褒められるとは思っていなかった。褒められているのかも

          第2話

          第1話

          その出会いを私は偶然とは呼びたくない。人は必要な時に必要な人と出会う、そう思っているから。 「君は私の事、殺さないといけなくなると思うなぁ」 君に言われた衝撃的な言葉。今でも脳裏に焼き付いている。 「なんでそう思うのさ」 「だって私、預言者だから」 君との出会いは偶然、いやそんなこと言ったら怒られるかな。 春と夏の狭間、不快な暑さの漂う雨の日だった。 「何してるの?」 病院近くの公園で傘もささずにベンチに座る君。 「別に、あなたには関係ないよ」 僕の心配を

          第1話

          後編

          「史緖里!」 病室の扉を開くと同時に名前を叫ぶ。そこにはベッドの上に座り、何かを編んでいる史緖里がいた。 「〇〇…ここ病院だよ、静かに」 口に手をやる史緖里。声は震えていたがいつもの史緖里だった。 「でも、どうして?」 不思議そうな顔をする。遅れて来た美月が訳を話した。 「ごめん、私が〇〇に伝えた」 俯く美月に史緖里は優しく答える。 「そっか。今まで隠してくれてありがとね、やま」 今日の史緖里の言葉の節々には、風に揺れる灯火の様な儚さが見えた。 首を横に振

          中編

          東東京大会準決勝。相手は3年連続代表校の初森第二商業高校。 1点差で迎えた9回裏2アウト1、3塁に俺に代打が告げられる。 いつものように打席に入る。1塁ベンチは全員が俺のヒットを祈っていた。 相手のピッチャーが大きく腕を振る。タイミング良くバットでボールをとらえた。 カキーン ボールは高々と空に上がる。球場が一気に沸いた。 パシッ ボールが辿り着いたのはレフトスタンドではなくレフトのグローブの中だった。 3塁スタンドからは歓喜の声が聞こえた。 試合終了のサイ

          前編

          カキーン 雲ひとつない青空に白球は勢いよく吸い込まれていく。 ランナーが1人帰り、2人帰る。当のバッターは意気揚々と2塁ベースを蹴っていた。 俺はベンチの中からそれを見ていた。悔しくて仕方なかった。 幼かった記憶に強く刻まれたホームラン。それが俺が野球を続ける原動力でもあった。 その試合は圧勝だった。俺のライバルは最終回のマウンドにも立っている。 「ストラーイク!バッターアウト!」 最後の打者も三振にとってみせた。 「ありがとうございました」 そう言って試合

          『第2話』

          「このお花はねシロツメクサっていってね、花言葉はね…」 花の名前や花言葉なんて興味が無い。当時の俺はすぐにでもサッカーに混じりたかった。 「瑠奈は色んな花のことを知ってるんだね」 そう言うと瑠奈の顔にも花が咲く。 「だってね、瑠奈大きくなったらお花屋さんになるんだ!」 俺は瑠奈のこの顔が大好きだった。この顔を見るためなら、退屈な花の話も何時間でも聞いていられた。 「えっ…だって私、まだ17歳ですよ…」 目の前の医者は暗い顔をして俯くばかり。隣のお母さんは私より先

          『第2話』

          「26日のサンタさん」

          「ねぇ、なんでうちにはサンタさんこないの?」 子供の頃、私にはサンタさんが来たことがなかった。 「ごめんなぁ美月ちゃん、サンタさん忙しいみたいでね」 おかあさんは毎年そう言って謝った。 次の日、学校に行けばプレゼントの話でもちきり。 新しいゲームをもらった 新しい人形をもらった 新しい洋服をもらった そんな話を聞く度に胸が締め付けられた。でも、本当に悲しかったのは… 「美月ちゃんは何をもらったの?」 「わ…私もお人形さんもらったよ!」 そんな嘘をつく自分

          「26日のサンタさん」

          『第1話』

          「はぁ…」 いつもより高い目線。しかし、目の前に見えるのは頑丈に縛った縄。 「はぁ……」 ガキの頃に見ていた夢は何一つ叶わなかった。強いて言えば、あの大きな舞台で大勢の客を笑わせることが出来たくらいだ。 そんな僅かな走馬灯を振り払い、縄に首を通す。ギュッと握った。 椅子を蹴ろう。そう思った時だった。 「ちょっと、何してるんですか!」 この部屋には俺しかいないはず。でも、声のする方向には、見たことの無い女の子が上目遣いで俺を見ていた。 「そんな事しないでください

          『第1話』

          『Nameless Story』完

          「それぞれの歩み」 「ほらそこ、腰が高い!」 未曾有の大震災から数年後、あんなにひよっこだった私も、気づけば後輩の指導役になっていた。 「井上!菅原!」 自然と声に力が入った。私の隊の2人だけの女性隊員だ。 「「すみません!!」」 嫌いなわけじゃない。その若さが羨ましいわけじゃない。ただ… 私の恩人もこんな気持ちだったのかな。そうだとしたら、本当に頭が上がらない。 空は透き通るくらいに青い。まだ訓練は始まったばかりだった。 「本当にありえない!」 訓練後だ

          『Nameless Story』完