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  • 空の忘れ物

  • 「死神ちゃん」

  • 君は預言者

    青春ストーリーの予定

  • 「ホームラン」

  • 「Nameless Story」

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空の忘れ物 最終話

「ん…ここは…」 目を覚ますといつもと同じコックピットにいた。しかし、周りの景色は、一面真っ白だ。 「おぉ、起きたか」 隣で操縦桿を握る人。その顔は光が反射してよく見えない。 「良い操縦だった。 でもな、もう少し頭上げてりゃ、揺れは少なかったな」 橋田さんの声では無かった。でも、私はこの声に絶対の安心感を覚える。 「相模湾に緊急着陸なんて、腹が据わってるな」 私はまだ頭がボーッとしていた。今のは…褒められたでいいのかな? 「本当によく頑張ったな、史緒里」

    • 空の忘れ物 第4話

      数時間前 「はぁ…」 ため息は夏の蒸し暑さの中に消える。目の前には轟音を上げる飛行機が空の旅から戻ってきた。 金網に手をかける。ガシャンという音が心に反響する。 ウッドデッキには子連れの姿。幼き日の私に姿を重ねる。 「お父さん…」 堪えたはずの涙が零れた。 いつも通りにフライト前にウッドデッキに足を運ぶと、制服を着た女の子が飛行機を眺めていた。 家族や恋人が多いウッドデッキには異様な光景に見える。 少し気になって近付いてみるとその子は目をうるませていた潤ませ

      • 空の忘れ物 第3話

        『今日は頑張ろうね💪』 『もちろん、美月こそね』 LINEを返すと家を出る。鍵を閉めるとまたLINEの通知音がした。 『今日、下手な操縦すんなよな』 生意気な文面だった。朝の清々しい気分がちょっと台無しだ。 『そっちこそ、ちゃんと管制しなさいよ』 生意気に返信をする。 朝は強い方ではない。今朝も眠気は覚めきってはいない。 しかし、今日はいつもとは違う感覚があった。眠気と緊張の間にどこか浮き足立った私がいた。 「あ、やばい」 そんな感情に浸っていても時計の針

        • サボテン

          学生時代、私は人間関係に悩んでいた。 直ぐに他人と比べてしまう私は、本当の自分をひた隠し、劣等感を押し殺して生きるのに疲れてしまった。 そんな私を救ってくれたのは1鉢のサボテンだった。 「あ、まいちゅん!ばいばーい!」 高校生とは不思議な生き物だ。みんなキラキラしている。 「新内先生でしょ。気を付けて帰るんだよ〜」 でも、私は知っている。その輝きはメッキでしかないことを。 薄く延ばされたメッキの中には誰にも言えない悩みを抱えている。高校生とはそんな生き物だ。

        空の忘れ物 最終話

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        • 空の忘れ物
          5本
        • 「死神ちゃん」
          3本
        • 君は預言者
          11本
        • 「ホームラン」
          3本
        • 「Nameless Story」
          12本
        • 「棘と人」
          9本

        記事

          空の忘れ物 第2話

          『皆さま、今日も乃木航空220便、羽田行きをご利用くださいましてありがとうございます』 入社式から1年が経ち、CAの仕事が少し板についてきた…気がする。 『羽田空港までの飛行時間は1時間5分を予定しております。それでは、ごゆっくりおくつろぎください』 慣れた手つきでアナウンスを終えた。 それに今日は記念すべき日でもある。今日のコックピットには… 「はい、久保はオレンジジュースね。橋田さんのコーヒーはここに置いておきますね」 「おぉ、ありがとう」 「ありがとう美月

          空の忘れ物 第2話

          空の忘れ物 第1話

          ピーピーピー いつもなら静かなコックピットは警告音と機体の揺れ、管制塔との無線の大声で満ちていた。 「エンジンプレッシャーオールロスト!」 「頭上げろ!ディセンドするぞ!」 「はいっ」 操縦桿を握る手が震える。目下には御巣鷹の山肌が近づいていた。 「く…久保さん、もうダメです」 操縦席で副操縦士の井上が言う。 その言葉に誰もが沈黙するしか無かった。515人を乗せた鉄の塊はコントロールを失っている。 「やれ!頭を上げろ!」 パニックを起こしている井上の肩を思

          空の忘れ物 第1話

          あなたが教えてくれたもの

          『命は美しい』 いつからだろう、私はずっとそう思っていた。 凛と咲く華も、颯爽と吹き抜ける風も、地平線から差し込む藍色の陽も… 全てが自分の役割を全うし、その命を使い切るまで、独りで走り続けていた。 じゃあ、私は何のために生きているのだろう? 何かに怯えながら、理不尽に耐えながら、毎日という檻に繋がれながら… 無機質な心のキャンバス。私は自分の命を全うできているのだろうか。 何度問いかけてみても、心の暗闇は黙り込んだままだった。 あぁ、そうか。そんな答えが見つ

          あなたが教えてくれたもの

          雨のち晴れ

          大雨の後には、必ず綺麗な青空が顔を出す。私の心も、そうあってほしい。 4月2日(金) 今日から高校2年生になった。心配していたクラス替えも、幼馴染の美月と○○と同じクラスになれて、とても嬉しかった。満開の桜の樹の下で撮った写真は一生の宝物だ。 今日の天気は晴れ 5月11日(月) 新しいクラスも楽しそうで良かった。今日驚いたのは、○○は意外と女子にモテているらしい。帰り道、本人に聞いたら、「山下も久保もモテるだろ」だって…///。嬉しくて、絶対に顔がニヤついていたはず

          雨のち晴れ

          死神ちゃん 第3話

          カキーン 雲ひとつない青空に白球は勢いよく吸い込まれていく。 ランナーが1人帰り、2人帰る。バッターの私は意気揚々と2塁ベースを蹴っていた。 ふとベンチの方を見る。そこには味方がホームランを打ったのに、悔しそうに唇を噛む〇〇の姿があった。 その試合は圧勝だった。私は最終回のマウンドにも立った。 「ストラーイク!バッターアウト!」 最後の打者も三振にとってみせた。 「ありがとうございました」 そう言って試合後の挨拶をする。気持ちの良い風が試合の熱を冷ます。 「

          死神ちゃん 第3話

          最終話

          無機質な部屋に響く機械の音。何度も寝たこのベッド。 目をつぶる度に最後のような気がしてしまう。 君と夏祭りに行きたかったなぁ… 朝から降りしきる雨。夏の終わりを告げる雨は僕の気持ちを代弁している。 雨はやっぱり好きじゃない。意識していなくても、あの日のことを思い出してしまう。 球児たちの夏も終わった。彼らも夢の時間から現実に戻っているだろう。 それは僕も同じだった。 あれからさくらと連絡は取れていない。 僕の輝いていた夏休みは、もう面影もない。 ただ、もやも

          最終話

          第10話

          君には嫌われちゃったと思っていた。図書館に君が来た時、本当は嬉しくて泣いちゃいそうだったんだから。 ありがとう。 君に出会えて、本当に良かった。 夏休みも半分を切った。やることも特になく、僕は球児たちの青春を眺めている。 『カキーン』 金属音が響き、観客が湧く。ボールはレフトスタンドの柵を超えた。 サヨナラホームランを見届けた僕はテレビを消した。コップに麦茶を入れると、自室に戻る。 なんてことの無い1日。僕の夏休みは昔からこれだ。 部屋に戻るとスマホに留守電が

          第9話

          電気を消してからすぐに君の寝息が聞こえた。 こんな無理言ってごめんね。そっと君の背中に手を添える。君の温もりを肌で感じたかった。 僕の夏休みは慌ただしく始まったが、その後はいつもの様子を取り戻していた。 さくらや遥香と遊ぶことも無ければ、顔を見る機会すら無かった。 「うまっ…」 博多土産のめんべいを食べながら、僕は宿題を進める。宿題はさっさと終わらせるタイプだ。 『やっほー。今日はね、かっきーとショッピングに行ったんだ!』 1つ変わったことがあるとすれば、毎晩さ

          第8話

          どうしてあんなことしたんだろう。今思うと恥ずかすぎる。 でも、君にかわいいって言われたの、少しドキッとしちゃった。 はぁ…明日の病院、嫌だなぁ。 「はぁ…はぁ…」 インドアな僕には早歩きもしんどい。病院に着く頃には肩で息をしていた。 「あれ、さくは?」 病院の入口にさくらの姿は無かった。まさか、拗ねて帰ったのか? 「いた!」 遥香の指差す方向を見る。そこには、タクシー乗り場でおじさんと楽しそうに話すさくらの姿があった。 「え〜、そうなんですか?!」 さくら

          第7話

          お揃いのお守りを買った。受験が終わったらかぁ…頑張らないとなぁ。 大丈夫、私なら大丈夫。だって、神様にお願いしたもん。 「うわぁ、広い!」 大きなテレビに寝心地の良さそうなベッド、さくらのテンションが上がるのも分かる。 「さく、ベッドめっちゃ柔らかいよ!」 「すご!君もおいでよ」 お子様の輪に入るのは嫌だが、僕もベッドに腰掛けた。 「すごっ…」 思わず声が漏れる。さくらはニヤニヤと笑っていた。 風呂場を覗くとそこにはジャグジーがあった。 「絶対に入る!」

          第6話

          この1週間、私は人生で1番勉強した。いつもなら「補習でいいや」って思ってた。 でも、今年はそういう訳にはいかないんだ。 朝は得意な方ではない。どうして僕は夏休み初日に、人気のない駅前にいるのだろうか。 「お、気合い入ってるねぇ」 諸悪の根源は早朝でもニコニコして登場した。 「気合いじゃなくて悲哀の間違いじゃないか?」 「これから楽しい楽しい旅行なのに?」 旅行自体に不満な部分はない。ただ、夏休みの初日、女の子2人と、という状況には不満を言いたい。 「あ!かっき

          第5話

          ジェットコースターは楽しかった。お化け屋敷は怖かった。観覧車は2人がすっごく楽しそうだった。 君はこんなデートをするんだね。 週末が終わる。週末が終われば、僕らの繋がりは嘘かのように無くなる。 今日は木曜日。夏休み前の期末テストを来週に控え、自然とクラスは勉強ムードに包まれる。 「○○、今日の予定は?」 「今日は大人しく勉強するよ。夏休みに補習させられるの嫌だし」 俺もこいつも部活に所属していない。夏休みはいつもダラダラ過ごして、気づいたら終わっている。 「頑張