マガジンのカバー画像

「棘と人」

9
その感情は棘となって心に突き刺さる。互いの立場を乗り越えるのは、壊した時の何倍も難しかった。
運営しているクリエイター

記事一覧

『未来に残すもの』完

『未来に残すもの』完

「決着」

朝から降り続く雨も止み、薄くなった雲からは日が隠れ見えていた。

8人の加勢は私たちに士気を取り戻させ、戦況は一変した。

梅:オラァァァ

私も全力で戦っていた。美月の無事が分かれば、もう怖いものなんて何も無い。

西:梅ちゃんも大きくなったね

戦いながら話す余裕があるのか…すごい。

梅:美月が無事なら…今なら何でも出来る気がします

西:うちらに任せてくれても良いんやで?

もっとみる
『最終章 未来に残すもの』③

『最終章 未来に残すもの』③

「絶望のその先」

屋根を打つ雨音で目が覚める。障子の隙間からは風に乗って雨の匂いが伝わってくる。

飛:最悪、髪の毛潰れる…

雨の日はこれだから気がのらない。もっとも、今日気分がのってないのは雨のせいだけじゃない。

飛:んーっ、よしっ

背伸びをすると私は部屋を出た。決戦の朝も別に普段と何にも変わらない。

飛:お待たせ

待ち合わせ場所に着く。みなみも未央奈も日奈子もどこか緊張している。

もっとみる
最終章『未来に残すもの』②

最終章『未来に残すもの』②

「いつかも見た悪夢」

棘長:何だか嫌な予感がする

飛:えっ?

今年も棘刀式を間近に控えたある日、長老がボソッと言った。

棘長:神村の体調が優れないらしい

飛:総督さん、大丈夫ですかね?

棘長:まぁ老人の戯言だよ。さぁ、準備をしよう

飛:はい

私にはこの時、長老が戯言を言ったようには見えなかった。

棘刀式の女役には史緒里が、男役には美月が選ばれていた。

堀:私たちが務めてから、も

もっとみる
最終章『未来に残すもの』①

最終章『未来に残すもの』①

「傷跡」

時間というのは残酷で、楽しい時も悲しい時も同じペースで進んでいく。

それでも、私の時間はあの日で止まっている。

あの日、頭では分かっていても、幼い私には新内さんに八つ当たりをするしか方法が見つけられなかった。

あれから10年、村はすっかり発展した。でも、私だけが過去に取り残されていた。

帝都との関係は良好で、10年前に戦いがあったなんて嘘みたいだ。

山:飛鳥さぁ〜ん、おはよう

もっとみる
第2章 『守りたいもの』完

第2章 『守りたいもの』完

「決戦とその後」

人は最期の瞬間、何を考えるのだろう。今までの思い出、大切な家族や友人、恐怖…

私は今日、何を感じるのだろう。そこは少し興味がある。

大きく息を吸う。明朝の冷たい空気、吸い慣れた空気も今日はなんだか新鮮な感じがする。

橋:ありがとう、みんな

私は村を後にした。

まだ薄暗い朝。私が目覚めたときには奈々未の姿はもう部屋にはなかった。

飛:そっか、行ったのか

私は涙でぐし

もっとみる
第2章 『守りたいもの』③

第2章 『守りたいもの』③

「平穏の終わり」

新:棘刀式?

私が心を開いてから半年ほどが経った。今では昔からいたかの様に馴染めている。

桜:そう、この村の伝統的なお祭りなの

若:男役の神人が女役の棘人の爪を刀で切る…って感じだったんだけど…

佑美は七瀬の方をチラッと見る。七瀬も照れくさそうに笑う。

高:七瀬が去年、それをぶち壊したんだよねぇ〜

生:ちょっとずー、言い方

その場が笑いで包まれる。一同の認識は同じ

もっとみる
第2章 『守りたいもの』②

第2章 『守りたいもの』②

「正しさとは」

帝都から帰ってから数日、私たちはいつもと変わらない日々を過ごしていた。

橋:いよいよ今日だね

生:何が?

西:何が?

奈々未以外はキョトンとしていた。

橋:いや、七瀬は分かるでしょ。ほら、帝都の…

西:あー、その事ね

松:2人だけでなんやなんや?

以依然として残りのメンバーはキョトンとしていた。

棘長:そう言えば、帝都から人が派遣されて来るってよ

帰りの電車内

もっとみる
第2章『守りたいもの』①

第2章『守りたいもの』①

「現実と希望」

私たちは村に戻り、棘人たちが生活していた方面を奈々未に案内してもらった。

西:んー、よー歩いたなぁ

橋:お疲れ様、そこ座ってて

奈々未に言われて縁側に腰を下ろす。案内の最後は奈々未の家にお邪魔していた。

「やだー!」

どこからが子供の大声が聞こえる。これは…喧嘩だな、私はそう直感した。

声の方向に向かうと、女の子2人に麻衣が引っ張られていた。

少女1:ももこはきのう

もっとみる
第1章『その先に見えるもの』

第1章『その先に見えるもの』

「では、握り手を」
私は手を差し出す。その手はなかなか握られることはない。

彼女のメガネの奥には恐れと緊張と、そして何かが入り交じった瞳があった。

彼女は震えながらも、ゆっくりと手を差し出した。
私はそれに耐えられなくなり、その場を後にした。

生:どう?

高:すご〜い、あーぁでもない方がキラキラしてる

生:もういいよ〜

2人の会話を後目に私は本を読む。

生:七瀬、その本いつも読んでる

もっとみる