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『未来に残すもの』完


「決着」


朝から降り続く雨も止み、薄くなった雲からは日が隠れ見えていた。

8人の加勢は私たちに士気を取り戻させ、戦況は一変した。

梅:オラァァァ

私も全力で戦っていた。美月の無事が分かれば、もう怖いものなんて何も無い。

西:梅ちゃんも大きくなったね

戦いながら話す余裕があるのか…すごい。

梅:美月が無事なら…今なら何でも出来る気がします

西:うちらに任せてくれても良いんやで?

七瀬さんは全く息が切れていない。でも…

梅:大切なものは自分で守ります

本心でもあり、私の大切な言葉でもあった。

西:フフフッ、梅ちゃんもお父さんに似てきたなぁ

お父さん。七瀬さんから出たその単語に私はびっくりした。

梅:えっ…

西:10年前、うちも梅ちゃんのお父さんに同じこと言われたよ

10年前、それはつまり前回の戦いということだろう。


10年前、草原

西:ハァ…ハァ…

目の前を敵が囲む。どうやら私はここまでかもしれない。私は膝を地面についた。

?:オラァァァ

猛々しい叫び声と共に目の前の敵が倒れていく。

西:う…梅さん!

そこには梅さん…梅ちゃんのお父さんが立っていた。

梅父:七瀬ちゃん、今一瞬諦めただろ?

心を見透かされたことに驚いて言葉が出ない。

梅父:まだ終わっちゃ無いぞ。ほら

手を借りて私は立ち上がる。大きくてゴツゴツした手だった。

西:ありがとうございます

少し笑顔が戻る。それを見て梅さんもニッコリと微笑む。

梅父:いいか七瀬ちゃん、大切なものは自分で守るんだ

大切なもの…そうだ、私は大切なものを守りに来たんだ。

西:はい!

元気に頷く。大切なもの…奈々未を探しにまた戦場へと走り出す。

梅さんの言葉に救われた瞬間だった。




梅:そっか…お父さん…

10年前、お父さんが戦いに行く前に私に言った言葉。あの時、私は行って欲しくないって泣いたっけな。

でも今なら分かる。どうして戦場に向かったか。

西:大丈夫か?

梅:はい。ただ、最高にかっこいいお父さんだったなぁって

私は力を込めて剣を握り直した。



橋:もうお終い?

なんだこいつ、前回よりも強くなってやがる。

蓮:ハァ…ハァ…まだまだこれからだ

自分に余裕が無いのが分かる。クソっ。

橋:1つ聞いていい?

蓮:なんだよこんな時に

橋:どうしてここまで戦うの?

どうして…か。俺は俺の為に戦っているんじゃない。

蓮:そんなの、帝都の民の為に決まってんだろ

一瞬、こいつの口が緩んだように見えた。

蓮:俺には帝都の人々の暮らしを守る義務があるんだよ!

自然と口調が強くなる。この気持ちは嘘じゃない。

橋:私たちと共存すれば良いじゃない

共存?簡単に言うなよ。お前だって分かってんだろ。

蓮:そんなこと…

橋:出来るわけない。私も昔はそう思ってた

俺の心を見透かしたかのように話を続けた。

橋:なんで私たちが…って思ったこともあった。ただ、生まれた種族が違うだけなのに。
でも、今は違う。歩み寄ることにしか未来は生まれないの

蓮:簡単に言うんじゃねぇ。お前らは俺たちとは馴染めない。そんなのお前が一番分かってるんじゃないのかよ

俺は拳を突き出した。互いの両手を両手で掴み合う。まだこんな力残ってんのかよ。

橋:そんなこといつまで言ってんの?私はもう違う。私はもう…あなたには負けない

蓮:ざけんじゃねぇよ!

腕を振りほどき力いっぱいの拳を繰り出す。しかし、簡単に避けられると右頬に強烈な一撃をくらった。

橋:今のは前回のリベンジ。そして…これは可愛い妹の分よ!

間髪入れずに腹に2発目をくらう。気づいた時には、俺は空と平行になっていた。

ドサッ

真上には雲から顔を出した太陽が見えた。

倒されて空を見上げるなんていつぶりだろうか。あの時…士官学校時代に眞衣のやつに倒されて以来か…。

体に力は入らない。俺は負けた。

周りが騒がしい。ちょっとは休ませてくれよ。

ゆっくりと目を閉じた。喧騒は次第に遠ざかっていった。


飛:やった…

目の前には宙を舞う蓮巳の姿。奈々未の渾身の一撃で勝敗は決した。

飛:奈々未が勝ったぁ!

ウォォォォオ
歓声で辺りが包まれる。そんな私たちとは対照的に、大将を失った敵の戦意は目に見えて落ちていった。

敵は陣を引いていく。この戦いは私たちの勝利だ。

西:おーい、奈々未

遠くから手を振る姿が見える。その姿は10年前と変わらない。

飛:七瀬!

私は戦いの傷の痛みは忘れていた。そのまま七瀬に抱きつく。

西:いつからこんなに甘えんぼさんになったん飛鳥

そうは言いつつも頭を撫でてくれる。懐かしい匂いがした。

白:みんなお疲れ様

気づけば8人が勢揃いしていた。懐かしい面々。色々な気持ちが混じり合い、私の涙腺は崩壊した。

飛:みんなぁぁぁぁぁ…

橋:全くもう

村を守れた。みんなも生きていた。こんなに嬉しいことはない。もちろん、生きているって信じてたけどね。

橋:さてと、行きますか

西:やな

飛:村に戻るの?

七瀬と奈々未は首を横に振った。

飛:じゃあ、どこに行くの?

私はまた不安になった。せっかく戻ってきたのに…またバイバイなんて嫌だ。

西:そんな不安そうな顔せんでや

橋:しっかりとケリをつけに行くだけよ

しっかりとケリをつけに行く。私にはどういう意味かは分からなかった。

橋:みんなは村に戻って、怪我人のことお願いね

松:任せてや!

西:よっしゃ奈々未、行こか

奈々未は頷くと私の頭に手を置いた。

橋:飛鳥、また後でね

そう言うと2人は走っていった。

「また後で」
その約束が嬉しかった。



橋:着いた

西:久々やな

目の前の帝都の門をくぐる。その奥はいつもと変わらない日常が流れていた。

西:なんか戦場が嘘みたい

しかし、議場に近づくと雰囲気は一変した。

橋:悠長なことは言ってられないみたいだね

議場の前にはがっちりと兵士たちが剣を構えていた。

西:ここまで長かったなぁ

橋:まだ終わってないわよ。最後の大仕事、やってやろうじゃない

西: あの時もそないなこと言うてへんかった?

七瀬は悪戯に笑う。

橋:今のは違うよ。だって、未来に繋がるんだからね

七瀬は剣を構え、私は棘を出す。目配せをすると私たちは兵士の群れに突撃した。

議場前での戦闘は直ぐに帝都の人々を集めた。戦いに疎い人々にとっては、生で見る初めての戦いなのだろう。


ピチャン…ピチャン…

朝から降り続いた雨は上がり、天井の隙間からその残骸が私の顔に注がれる。

新:ちょうど今頃は…

今頃は戦いも終わっているだろうか。ここに入れられてから何も喉が通らない私にとってそれを考えるだけが限界だった。

新:あすか…みんな…

蓮巳に言われたことをずっと考えていた。それでも私の選択は間違っていない。

私はみんなを守りたかったんだ。帝都の人たちも、村の人たちも。

ガチャン
そんなこと思っていても今の私には何も出来ない。虚しく足の重りが響くだけだった。

新:ん…なんだろう

少し外が騒がしい気がする。壁の小窓からは照り返しが強くて外はよく見えなかった。

それからは外の喧騒は止まなかった。それどころか次第に近づいている気さえする。

新:そろそろお迎えかな…

死を意識するのは2回目だ。このままここで野垂れ死ぬか、首を切られるかのどちらかしか道はない。

新:奈々未、そろそろそっち行くわ。ごめんね…私…何も…何も…

弱った体からでも涙はでるから不思議なものだ。

はぁ…もう泣き疲れた。外の騒がしさに少し苛立つ。

ゆっくりと目を瞑った、その時だった。

ドガァン
大きな音を立てて目の前が埃と煙でいっぱいになった。

吹き飛んだのは牢の鉄格子の扉だった。そして懐かしい声が聞こえる。

橋:新内さーん、いる?

西:あ、いた

いきなり目の前に現れた2人に私の頭は追いつかなかった。

新:えっ…私、死んだ?

頬をつねるがめっちゃ痛い。夢でもないようだ。

橋:詳しいことは後で。行こう

奈々未に手を引かれて牢を出る。2人に会えたことで活力がみなぎった。

西:なぁ、演説できる機械ないん?

新:あるけど…どうして?

橋:戦いを本当に終えるため。新内さんにしか出来ないの

聞かれるがままに私は2人を部屋に案内した。

新:ここからなら帝都中、いや村のラジオにだって届くはずだけど…何を話すの?

橋:思っていること全部伝えてほしい。お願い…この戦いを終わらせて

2人は頭を下げる。窓の外には議場前に集まった大勢の人々が見える。

捕まっている時に何度も、何度も何度も考えた。それでも、怖くて口に出すことは出来なかった。

2人は、いや、みんなはやってのけた。

自分のため、家族のため、村のため、そして大切な人のため。

大きな困難に立ち向かった。そうだ、次は私の番だ。

腹を括った。私は大きく息を吸うと機械のスイッチを入れた。




んっ…痛ってぇ。俺は確か…あいつにぶっ飛ばされて…。

蓮:どこだ、ここ

目を開けると俺は簡易的な病院のようにな場所いた。周りには傷ついた仲間が横たわっていた。

松:ほら、そこ傷開いてまうやろ。まだ寝とき

蓮:どうしてお前らが…

俺たちを手当しているのは棘人や神人たちだった。

松:傷ついてる人助けんのに理由なんていらんやろ?

蓮:でも俺たちは戦って…

松:戦いなんてもう終わった。終わったら、うちらがいがみ合う必要なんてへん

ちっ、どうして…。俺が頭を悩ませたとき、ラジオから聞き覚えのある声が聞こえた。

松:お、始まったな

その声は弱々しく話を始めた。


新:私は…帝都の人間が、帝都の暮らしが1番だと思っていました。

だから、他の種族は野蛮で関わる必要なんてない、関わりたくない。ずっとそう思って生きてきました。

1度爆発した思いは簡単には止まらない。話す声は震え、目からは涙が出る。それでも今話しておかないと後悔する、そう思った。

新:でも、違った。私の考えが間違っていることに気付かされた。

そこには村があり、人がいて…私たちと何も変わらなかった。違うのは生まれた場所だけ。彼らは私を優しく受け入れてくれた。

それなのに…それなのに、私たちだけいつまでも偏見や敵意を持っているわけにはいかない。

新:人は自分とは違うものに偏見や敵意を抱いてしまうものです。

ただ、それを払拭し進むことが必要だと私は思います。こんな…こんな悲しい戦いは私たちの世代で終わらせましょう。未来に棘を残すのは…私は嫌です。

時間がかかるのは分かっています。どうか…どうか私にその時間をください


私は深く頭を下げた。誰に見られるわけでもない。それでも頭を下げ続けた。

一瞬のはずの時間が無限にも感じる。頭を上げるのが怖い。帝都の人々に私の言ったことが届いているだろうか…。

私は中々頭を上げられずにいた。先に反応を示したのは七瀬だった。

西:届いたみたいやね

橋:そうだね

私はその声で我に返った。我に返ると2人のものではない無数の拍手の音が聞こえた。

西:こっち来てみ

七瀬に手を引かれて外のベランダに出る。そこには…

新:えっ…

そこには議場の前に集まった人々が歓声を上げていた。

止む気配のない拍手に私の涙腺は崩壊する。

橋:さっきから泣き過ぎ、全く

そういう奈々未の目も若干潤んでいるように見えた。

西:未来にはええもん残したいよな。よっしゃ、頑張ろな

七瀬が手を差し出す。続いて奈々未も手を出す。私はその手を力いっぱい握った。


松:まいちゅん、ええ事言うやん

そう言って俺の事を見る。俺は今どんな顔をしているのだろうか?

蓮:ちっ、こんなの綺麗事だ

悔し紛れの答えしか出来ない。情けねぇ。

松:綺麗事でもええんよ、最初は。目指そうとしないものには1歩も近づけないんやで

目指そうしない…痛いところを突かれた。

松:あんたらは自分らの国の為に戦った。

うちらは自分らの村の為に戦った。

それはどっちにも守りたいものがあったってことやんか?

俺は頷く。別にこいつらが憎くて戦っていた訳じゃなない。

松:目指している所は一緒。たまたま今までは平行線で進んできただけや。

松:歩み寄って、太い線になって、同じ目的目指してみたってええと思えへん?

蓮:そう…だな

女は嬉しそうに笑う。周りを見渡しても、もう敵味方の壁は見えなかった。治療を受けたり、楽しそうに話してる奴もいる。

蓮:俺たちが意地になってただけなのかもな

俺の呟きは俺の中で何かを消し去った。


ラジオを止める。自然と昔の記憶が頭の中に浮かんだ。

「俺が絶対、お前たちとの架け橋になってやる」

そう豪語した男はもうこの世にはいない。しかし、そいつの意思は継がれ、言葉は現実のものになろうとしていた。

遠:ちょーろー、なんでないてるの?

いつの間にか涙を流していたようだ。

遠:どこかいたいの?

神長:大丈夫、ありがとね

純真な瞳がクシャッと潰れる。ポケットからハンカチを取り出した。

遠:これ、どーぞ!

神長:ありがとう、さくら

私は頭を撫でてハンカチを受け取る。君たちの未来にやっと顔向けできる、そう思った。




西:そうか…梅ちゃんのお父さん…

梅:そんな暗い顔しないでください。自慢の父ですから

2人で墓前に手を合わせる。

梅:お父さん、私守れたよ

あれから数日、戦いの傷跡はあるものの日常が戻りつつあった。

久しぶりの村は発展していたが、居心地のよい雰囲気はそのままだ。

新内さんが帝都の総督となり、村との和平をすぐに取り纏めた。また、色々と改革に奔走しているらしい。あの日以来、まだ会えてない。

橋:ちょっと、これが例のやつ?

奈々未の指さす先には慰霊碑が立っていた。

白:生きているうちに自分の名前が刻まれるとは思わなかったよ

麻衣だけでは無い。私たち8人の名前がそこにはあった。

生:この慰霊碑も取替えないとね

若:私たち生きてるしね

桜:平和の記念碑でも作ろうか

高:それ、いーね!

松:まちゅの功績をいっぱい書いて欲しい!

橋:みんなのでしょ、全くもう

いつもと変わらない私たちがそこにはいた。

橋:あれ…これって…

慰霊碑の花瓶には8本の白い花が挿してあった。

橋:白棘草、8本の意味は確か…

「未来」

今にピッタリの意味合いだ。

西:奈々未、置いてくで?

橋:待って、今行く

みんなの元とへ駆け寄る。爽やかな風が白棘草たちを揺らしていた。



膨大な後処理を終え、久しぶりに村に迎えたのは終戦してから1週間後だった。

山:あ、新内さん!

最初に私を見つけたのは美月だった。

山:あれ、またシ…んっ?!

思わず美月に抱きつく。美月はさぞ驚いていたことだろう。

新:良かった…本当に良かった

久しぶりの再開で気持ちが爆発した。

山:も〜可愛いなぁ

新:うるさいぞ、生意気娘

久しぶりの生意気も今日だけは許せる。今日だけはね。

新:傷は大丈夫なの?

山:もうばっちし!

服を捲ると細いウエストが見えた。傷は既に見当たらなかった。

松:誰が治療したと思ってるん?

新:松!

松だけじゃなく、そこには8人が揃って出迎えてくれた。

新:みんな…久しぶり…

白:もー泣かないでよぉ

やっぱり耐えられなかった。みんなの顔を見た途端、涙が止まらない。

生:久しぶりです。あ、シワ増えました?

泣きながらゲンコツを飛ばす。それにつられてみんなが笑った。

10年ぶりだが、私たちは変わっていなかった。

新:なんか私だけ老けたみたいで嫌だ

松:うちらも歳はとってんで

歳はとっても、こやつらは見た目に変化があまりない。羨ましい限りだ。

山:まだまだお若いですよ〜。あっシワ…

新:おいコラ山下

逃げた美月を追いかける。

こうして私にも日常が戻ってきた。



橋:ほら、ここ座って

蓮:ちっ、なんで俺が

橋:あら、約束忘れちゃったの?

蓮:本当に生意気な奴だ

そう言いながらテラス席に座る蓮巳の表情はどこか柔らかい。私はコーヒーを差し出す。

橋:お気に入りの店なの。お味はどう?

蓮:不味くはないな

橋:素直に美味しいって言いなさいよ

本当に素直じゃなくて、どこか私に似ている。

橋:村はどう?

蓮巳は新内さんの後任として村と帝都を繋ぐ役割を担っていた。

蓮:帝都と何にも変わんねーよ。でも…良いところだな

橋:良かった。これからもっと好きになってよ

照れくさそうに笑う蓮巳。なんだかこっちまで照れくさい。


目の前では奈々未とあいつがお茶をしている。なんかムカムカする。

飛:良い2人とも、敵は左のツンツン頭だぞ?

遠賀:あいあいさー

2人の可愛いヒーローを従えた私は敵の殲滅作戦に取り掛かっていた。

飛:よし、今だ行け!

2人は元気よく突撃しに行った。


橋:共存は出来そう?

意地の悪い顔をしている。本当に食えねぇ奴だ。

蓮:俺がもっと前に村のことを知ってたら、戦いなんて仕掛けなかった

これは俺の本心だ。自分の視野がいかに狭かったかを思い知らされた。

橋:その方がどんだけ楽だったか

蓮:悪かったな

俺はコーヒーを口に含んだ。

カップをテーブルに置いた、その時だった。

遠:かくごぉー!

賀:おりゃぁぁぁあ

ちびっ子2人が突然俺の足を木の棒でボコボコにし始めた。

蓮:おいなんだコイツら!

橋本の奴は笑ってやがる。ったく、面白がりやがって。

遠:かっきーもうすこしでたおせるね!

賀:うん、もうすこし!

ちびっ子は攻撃の手を緩めない。遠くにこちらを覗く人影が見えた。あれは…こいつの妹だ。

蓮:あー、もう許さないぞ

遠:うわ、たちあがった!

賀:にげろー!

もうあのちび共は許さん。俺は全力で追いかける。

蓮:おいコラ、待ちやがれ!

遠賀:キャー


思わぬ襲撃で蓮巳は行ってしまった。遠くで2人を捕まえた蓮巳の姿が見えた。これじゃあどっちが子供か分からない。

コーヒーを飲む。本当に美味しいコーヒーだ。

思い返せば全てはあの日、七瀬が私の手を握らない所から始まった。

色々なことがあったが、私は1つも後悔はしていない。


人は自分の殻から出るのは難しい。そして知らないものに対して棘を持ってしまうものだ。

その棘は中々折れることは無い。でも、誰かが折る必要なんてない。

誰かのその棘を優しく包んであげればいい。

そんな簡単なこと、でも、とても難しいこと。

私は空を見上げる。誰の上にも平等なそれは、いつもと変わらない、綺麗な青空だった。

fin.

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