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Rain
2024年6月30日 21:08
「ん…ここは…」目を覚ますといつもと同じコックピットにいた。しかし、周りの景色は、一面真っ白だ。「おぉ、起きたか」隣で操縦桿を握る人。その顔は光が反射してよく見えない。「良い操縦だった。でもな、もう少し頭上げてりゃ、揺れは少なかったな」橋田さんの声では無かった。でも、私はこの声に絶対の安心感を覚える。「相模湾に緊急着陸なんて、腹が据わってるな」私はまだ頭がボーッとし
2024年6月29日 22:46
数時間前「はぁ…」ため息は夏の蒸し暑さの中に消える。目の前には轟音を上げる飛行機が空の旅から戻ってきた。金網に手をかける。ガシャンという音が心に反響する。ウッドデッキには子連れの姿。幼き日の私に姿を重ねる。「お父さん…」堪えたはずの涙が零れた。いつも通りにフライト前にウッドデッキに足を運ぶと、制服を着た女の子が飛行機を眺めていた。家族や恋人が多いウッドデッキには異様
2024年6月28日 21:51
『今日は頑張ろうね💪』『もちろん、美月こそね』LINEを返すと家を出る。鍵を閉めるとまたLINEの通知音がした。『今日、下手な操縦すんなよな』生意気な文面だった。朝の清々しい気分がちょっと台無しだ。『そっちこそ、ちゃんと管制しなさいよ』生意気に返信をする。朝は強い方ではない。今朝も眠気は覚めきってはいない。しかし、今日はいつもとは違う感覚があった。眠気と緊張の間に
2024年6月21日 23:17
『皆さま、今日も乃木航空220便、羽田行きをご利用くださいましてありがとうございます』入社式から1年が経ち、CAの仕事が少し板についてきた…気がする。『羽田空港までの飛行時間は1時間5分を予定しております。それでは、ごゆっくりおくつろぎください』慣れた手つきでアナウンスを終えた。それに今日は記念すべき日でもある。今日のコックピットには…「はい、久保はオレンジジュースね。橋田さん
2024年6月15日 22:36
ピーピーピーいつもなら静かなコックピットは警告音と機体の揺れ、管制塔との無線の大声で満ちていた。「エンジンプレッシャーオールロスト!」「頭上げろ!ディセンドするぞ!」「はいっ」操縦桿を握る手が震える。目下には御巣鷹の山肌が近づいていた。「く…久保さん、もうダメです」操縦席で副操縦士の井上が言う。その言葉に誰もが沈黙するしか無かった。515人を乗せた鉄の塊はコントロー