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経済

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2021年9月の記事一覧

賃金・利益・配当

このような主張が増えてきたのは好ましい。 ところで、企業が賃金を抑制して利益と配当を大幅に増やすようになった主因は、 Ⓐ:株主利益重視/資本効率重視経営への転換 Ⓑ-1:消費税率引き上げ Ⓑ-2:プライマリーバランス黒字化目標 🄫デフレ のどれだろうか?(あるいはそれ以外か) 参考日本銀行調査論文(1999)「資本効率を巡る問題について」 資本効率を重視するもとでは、企業は設備投資の抑制(資本蓄積の抑制)、人件費抑制(資本分配率の引き上げ)によって対応するものと

PB規律撤廃派の印象操作

毎度おなじみの印象操作の検証。 米日中の3か国を抜き出す。 為替レートと物価の変動を調整するとこうなる。 日本をピックアップして比較。2010年ドルベースではバブル崩壊後に成長率は鈍化したものの、「全く成長できない国」にはなっていない。PB規律は日本を破壊していない。 人口1人当たりにすると藤井のグラフとは全く印象が異なる。 1999年→2019年の20年間でアメリカは+29%(年率+1.3%)、日本は+19%(同+0.9%)だが、この差は主に高齢化の差によるもので

As a taxpayer

この界隈の高市推しには何やら怪しいものを感じるが、それはさておき、 出世作となった1989年の著書から反緊縮派が喜びそうな一節を紹介する。 アメリカの赤字は、国家が国民の快適な生活と権利を必死で守っている結果であって、財政赤字の国というのは国民が幸せなんだ、というのが私の印象です。 議会の強いアメリカ国家は、国民の生活を守るために一所懸命支出しているのです。消費者の権利を代表する議員がちゃんといる、ということでしょう。 (p.188) 消費者の生活など考えもしないで

非生産的政府支出

非生産的政府支出の増大が日本経済の重荷になっている。成績優秀者がこの支出先のセクターに殺到していることも供給側にはマイナスに働く。 日本は財政出動を増やす必要があります。日本の政府支出を対GDP比率で見ると、先進国平均よりは高いですが、その大半は社会保障が占めるようになってしまっています。経済を成長させるための、いわゆる生産的政府支出(productive government spending:PGS)は先進国平均の3分の1程度しかありません。日本では、研究開発・設備投資

政府の「賢い投資」は有効か

「嘘はつかないが全部を語らないことでミスリードする」という誘導のテクニックがあるが、最近のアトキンソンも、論拠の一つ一つは概ね正しいのだが、重要な要因をスルーしているために、的を外した政策提言になっているように思われる(悪意があるという意味ではないので念の為)。 アトキンソンの「労働力人口が急減する日本が経済力を維持するためには生産性向上が不可欠」は言うまでもなく正しい。「従来型の需要追加策では抜本的対策にならず、供給側の改革が必要」も正しい。 アトキンソンは日本の生産性

日本の異常な「安値思考」の源流

これ👇はその通りで、賃金抑制が物価を上がりにくくしている。 私は年に一度、物価に関するアンケート調査を行うが、「日銀が2%の物価上昇目標を掲げていることについてどう思うか」と聞くと、多くの人が「とんでもないことだ」という。その理由を深掘りしていくと、「賃金は上がらない」と強く思っていることがわかる。本来は物価も賃金も上がることが普通であるのに、賃金が上がらないという固定観念を持っている状態では物価上昇の話も拒んでしまうのだ。 国はこれまで物価目標のみを打ち出してきたが、そ

国の借金1200兆円は(現時点では)ヤバくない

「国の借金」について森永卓郎と藤巻健史が討論していたが、どちらも極論で聞くに堪えない内容である。 藤巻の「日銀が債務超過に→ハイパーインフレーション」は論外だが、森永も(おそらく情弱ビジネスのセールストークとして)いい加減な話を連発している。 一点指摘すると、24:40~で「円が暴落して1ドル=300円や500円になれば、世界最強の輸出競争力をもって雪崩のように輸出する」と言っているが、日本経済は既にそのような構造ではなくなっている。むしろ、為替レートの暴落が貧困化を促進

「日本のタリバン」の黒幕

タリバンにはパキスタンのISIのバックアップがあったらしいが、日本のタリバンこと「低賃金に依存した企業」のバックにも、二つの大きな勢力がある。 本家タリバンが女性の人権を抑圧しているように、日本では「低賃金に依存した企業」が女性の賃金を低く抑えているのだ。 賃金はある程度低くないと企業は経営できない、という「低賃金原理主義」から脱却しない限り、日本社会の「タリバン化」はさらに進行してしまうかもしれない。 一方の当事者による誇らしげな説明だが、何故か大手メディアは一切取り

日本だけ給料が上がらないのは

昨日の記事の補足。 共産主義諸国では多数の国民が殺害されたが、人口比ではクメール・ルージュのカンボジアが突出している。 では、「他の共産国では国民の約1/4も殺害されていないのだから、カンボジアの大虐殺は共産主義とは無関係」かといえばそうではない。共産主義が浸透していなければ、これほどの大虐殺が起こらなかったことはまず間違いない。 これの事情👇も似ていて、「金融資本主義(≒株主至上主義)が浸透している他の国々では賃金上昇が続いているのだから、日本の賃金低下は金融資本主義

積極財政では「給料が上がる国」は取り戻せない

実質賃金の低下の主因は緊縮財政ではないので、積極財政への転換は「給料の上がる国」を取り戻す一助にはなっても根本的解決にはならない。 先週の日本経済新聞の一面記事でも賃金上昇が失われたことが取り上げられていたが、この分析も正しくない。 理由の一つは、賃金上昇と物価上昇の好循環が失われたためだ。経済協力開発機構(OECD)によると、過去20年間で米国の名目平均年収は約8割、ドイツやフランスは約5割増えたが、日本は逆に5%減少した。日本はバブル崩壊後も雇用維持を優先する一方、賃

日本円の購買力低下の意味

購買力平価と実質為替レートの説明がおかしいが、話の本筋には影響しないのでさておくとして、円が「強い通貨」から「弱い通貨」になってしまったのは事実である。 海外との相対的な物価比の推移を示す実質実効為替レートはプラザ合意の前の水準に逆戻りしている。 その理由は、こちらの説明👇が分かりやすい。「割高率」は絶対的なものではなく、1973年を基準にした相対的なものであることに留意。 http://doi.org/10.34382/00013130 1955年に日本の物価はアメ

日本とヨーロッパ主要国の実質GDP比較

コロナ禍での日本経済のパフォーマンスが世界最悪の部類と叫ぶ人々(主として反緊縮派)がいるが、ヨーロッパの主要国も似たり寄ったりである。 日本経済の問題は、コロナ禍や2019年10月の消費税増税の前から成長が止まっていたことにある。安倍政権下での成長が、人口減少社会では持続不能な「労働投入量の異常な増大によって牽引された」ものだったためである。

FTの「低金利は続く」

当noteとほぼ同じ見方。 工場や建設現場での仕事が減ってしまうのでは、介護の仕事が増えても大した効果はない。日本を待ち受けているのは、そういう未来のようだ。 30年後にこのような人口構成になる国で投資が盛り上がるとは考えにくいので、実質金利も低位にとどまると予想される。 名目金利が上がるとすれば、輸入インフレが物価全体に波及する後進国にありがちなパターンだろう。

リフレ派の正体見たりフリードマン

2%インフレを達成できなかったにもかかわらず日本銀行副総裁を辞任しなかった岩田規久男が呆れたことを書いている。 1996年には派遣対象業務が26業務に拡大、1999年には原則自由化されているにもかかわらず、非正規労働者の増加の主因はデフレであり規制緩和は無関係どころかむしろ賛成するべきだとしている。 しかし、非正規社員比率が20%台に上昇したのは1990年であり、それ以降も上昇し続け、とくに大きく上昇した期間は97年から2002年である。この期間は、消費者物価の上昇率が低