政府の「賢い投資」は有効か

「嘘はつかないが全部を語らないことでミスリードする」という誘導のテクニックがあるが、最近のアトキンソンも、論拠の一つ一つは概ね正しいのだが、重要な要因をスルーしているために、的を外した政策提言になっているように思われる(悪意があるという意味ではないので念の為)。

アトキンソンの「労働力人口が急減する日本が経済力を維持するためには生産性向上が不可欠」は言うまでもなく正しい。「従来型の需要追加策では抜本的対策にならず、供給側の改革が必要」も正しい。

アトキンソンは日本の生産性向上を妨げる要因として、

①中小零細企業を過度に保護する政策(これについては議論の余地あり)
②低賃金雇用の多さ
③生産的政府支出の少なさ

を挙げて、これらの逆をすれば生産性向上・賃金上昇・経済成長が実現すると主張している。

しかし、残念ながらそうは問屋が卸さない。バブル崩壊後の日本には、

➊人口増加から減少への転換/少子高齢化
➋インターネット革命(情報通信技術の飛躍的発展と普及)
➌新興国の経済成長(特に中国が世界第二位の経済大国に)
➍グローバリゼーション(グローバルサプライチェーンの深化と対外直接投資の増加)
➎株主重視経営の普及/株主資本コストの大幅上昇(資本の値上げ)

などの劇的な環境変化が生じている。賃金抑制・低調な設備投資・利益と配当の激増は、企業の新たな環境への適応(サプライサイド改革)の結果なので、アトキンソンの提言が実施されたとしてもその方向性を反転させることは難しく、焼け石に水となる可能性が大である。


それは別として、最近のアトキンソンは反緊縮カルトの狂信的陰謀論者に絡まれて気の毒に感じる。有名税だとしても高過ぎる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?