積極財政では「給料が上がる国」は取り戻せない

実質賃金の低下の主因は緊縮財政ではないので、積極財政への転換は「給料の上がる国」を取り戻す一助にはなっても根本的解決にはならない。

先週の日本経済新聞の一面記事でも賃金上昇が失われたことが取り上げられていたが、この分析も正しくない。

理由の一つは、賃金上昇と物価上昇の好循環が失われたためだ。経済協力開発機構(OECD)によると、過去20年間で米国の名目平均年収は約8割、ドイツやフランスは約5割増えたが、日本は逆に5%減少した。日本はバブル崩壊後も雇用維持を優先する一方、賃下げなどで人件費を圧縮。物価も賃金も上向かないとの将来予測が定着し、企業と家計の心理が萎縮した。

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「日本は経済成長しないから給料が上がらない」という見方が一般的だが、そうではない。確かに、バブル崩壊と金融危機があった1990年代は低成長だったが、2000年代以降は人口動態を調整すると他国と遜色ない成長率を達成している。

Now the truth is that Japan’s failures have, in their own way, been overhyped as much as the country’s previous successes. The island nation remains wealthy and technologically sophisticated; its slow economic growth mainly reflects low fertility and immigration, which have led to a shrinking working-age population. Adjusting for demography, the economies of Japan and the United States have grown at about the same rate over the past 30 years:

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しかし、賃金上昇率は低く、

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単位労働コストは主要国では唯一低下している(→デフレ圧力)。

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つまり、こういうことである。

日本経済の問題は「パイの大きさ」ではなく「パイの切り分け方」だということである。「経済成長しないから実質賃金が上がらない」ではなく「経済成長しているのに実質賃金が上がらない」とも言える。

リフレ派も積極財政派も構造改革派も「賃金上昇しないのは経済成長しないから→◯◯◯◯すれば経済成長が回復して賃金も上昇する」という論理は同じで、◯◯◯◯が金融緩和/財政出動/構造改革(規制緩和と外資導入)の違いだけである。

この根本原因👇から国民の目を逸らそうという点では同じ穴の狢と言える。

日本企業の性格はこの10年間で本当に変わったと思います。
もっとも端的にいえば、経営者マインドにおける経営目標の優先順位の変化です。15年前だったら、株価の維持よりも従業員の待遇をよくすることが、ずっと重要に思われていました。今はその逆なのです。
賃金が上昇しないのは、経営者マインドの変化、すなわち株主への奉仕を優先目標にしてきたことに起因しています。

[引用者注:初版刊行は2004年]


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