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2020年12月の記事一覧
「小説 名娼明月」 第32話:母娘の悪運(後)
夜は沈々と更けて、庭の虫の音が浸(し)みるように枕に通うて来る。要助はじっと頭を擡(もた)げた。和平次の寝息を窺(うかが)ってみると、和平次は前後も知らず寝込んでいる。むくむくと起き上がって奥の間を覗けば、阿津満母娘のスヤスヤと眠っている寝姿が、枕元の有明行灯の灯(ひ)でよく判る。隣室に耳傾くれば、家(うち)の者も熟睡をしている様子。
この時だと思って、和平次から聞いておいたる次の室(ま)の押