当たり前の幸せ。
「GWはせっかくだから、どこか行こうね」
インドアな僕を無理やり連れまわす宣言をしてきた彼女。
これは、僕にとっては死刑宣告に近いものがある。
GWは見たい映画や録画してあるドラマを見たり、
領収書の整理、部屋の片づけ、
のんびりと読書をしようと考えていたのにだ。
「人混みアレルギーなので、
お医者さんに外出しないように言われてるんですけど…」
「そんなアレルギーないから、もう行くとこ決めたから。」
彼女はいつもこうだ。
僕に決定権はない。
無論、趣味は似ているので、
彼女の生きたいところ=僕の生きたいところ
という謎の等式が成り立っている。
「どこに行くの?」
「京都、お寺でのんびりしたい。
運転よろしく♪」
GW中に、京都に安息の地があるとは思えないが
「はーい、明日また迎えに行くね。」
そう言って電話を切った。
彼女と出会ったのも、お寺である。京都である。
彼女は極度の方向音痴で、
泣きそうな顔で、
「清水寺ってどこですか?」
と聞いてきた。
僕も一人、清水寺の方向に行き先があったので
一緒に行くことにした。
話し相手ができた安心感からか、
彼女は泣き面から笑顔に変わり、
様々な歴史の知識を話してくれた。
流行りの歴女だったのだ。
結果、僕の行き先は無視され、
一緒に清水寺に行かされた笑
その後なんだかんだあり、
「あなたと付き合いたいんですこど、どうしたらいいですか?」
と謎の質問をされ付き合うことになった。
ピロンッ
スマホが光る。
”起きてますかー?”
”起きた、あと30分くらいしたら着く”
”遅い、15分で”
”なるべく急ぐ”
”マッハでね♡”
”はーい”
彼女は身支度が以上に速い。
いつも急かされている、僕。
尻に敷かれている、僕。
とりあえず、起床の一服を済ませ、
車のキーと財布、スマホを持って彼女の家に向かう。
「お待たせしました」
「やればできるじゃん、15分で来れるじゃん
タバコ吸わなかったら、もっと早く来れたんでしょうけどね~」
「ごめんなさい」
「ま、とりあえず出発~」
社内では、お互いの最近お気に入りの曲を交代でかけ、
仕事の話、友人の話
普通のカップルがするであろう
他愛のない話をした。
「着いたねー、やっぱ人多い」
「う、アレルギーが…」
「出てない出てない、ほら行くよ」
今日の目的地は龍安寺。
彼女がどうしても、石庭が見たいとのことだったので。
石庭を眺めながら、彼女は
龍安寺についての雑学、歴史を淡々と語った。
「ほんとに歴史好きなんね」
「歴史と結婚したいくらいですからね」
「ご結婚おめでとうございます。」
「いや、そこ否定するとこでしょ。」
いい感じに突っ込まれたところで、寺を後にした。
昼ごはんはそばを食べ、
おやつに二人でみたらし団子を食べた。
「楽しかった~、帰りも安全運転よろしく!」
「はーい」
遠出をしたとき、帰りの車の中は
行きとは違い、彼女の寝息だけが車内に響く。
しばらくすると、彼女が眠気眼でこう言った。
「結婚しない?、そろそろ私たち」
「突然やね」
「いや、今日なんかまじめな話をしたい気分。」
「うーん」
「私では、不釣り合いですか…」
「そうではなくて」
「なくて?」
「プロポーズはちゃんとしたい」
「じゃあ、どうぞ。」
「いやそうじゃなくて、いいレストランとかで。」
「明日、予約してあるんでしょ?」
「何で知ってるの?」
「えっ?」
お互いに驚きを隠せない表情で見つめあった。
「付き合って長いし、
そろそろしようと思ってサプライズだったんですけど
何で知ってるの?」
「いや、冗談で言ってみただけ。」
出会った頃のように、少し彼女の眼がうるんでいる。
「じゃあ、明日楽しみにしとく。
サプライズ次第では、返答変わるからね?」
「知ってたら、サプライズの意味ないじゃん。」
「え、私何にも知らないよ、おやすみー」
そう言って彼女は夢の世界へ戻っていった。
「着いたよ、起きて」
「う~ん、ありがと。」
「多分、明日夕方迎えに来るから」
「多分て何よ」
「サプライズ?」
「うるさい、またね」
「またね」
いつものやり取りをして、彼女を下した。
ここでテールランプを5回点滅させるべきだったのかもしれないが、
恥ずかしくてできなかった。
ふーっ
家の近くのコンビニに車を停め、
缶コーヒー片手に一息ついた。
”今日も幸せだった”
無意識に彼女にLINEしていた。
”私も。明日はよろしくお願いします”
”こちらこそよろしくお願いします”
”おやすみなさい”
”おやすみなさい”
急に敬語になるんだとほくそえみながら
スマホをポケットにしまった。
明日は、彼女が隣にいるのを
当たり前にする日。
彼女の隣にいるのが僕であることを、
当たり前にする日。
「よし」
そう小さく呟いて、車のエンジンをかけた。
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