警察署 妻が死にました(3)

※だんだんと前向きになれている今、同じ自死遺族の方々に読んでいただきたいと思いnoteを始めます。死にまつわる表現がでてきますので、ココロがきつい時はムリをせず。

警察署

妻と自分の身に起こったことはまだ理解できていなかった。それでも、両親と妻の母親に電話しなくては、と気が付く。妻の父親は早くに亡くなっている。もう夜もふけ始めていた時間ではあったが、父はすぐに電話に出た。これまでの話を伝えると、また涙が止まらなくなっていた。父の動揺はすさまじかったが、それをおもんぱかることは出来なかった。とにかくすぐに合流する。そう返事をもらい、電話を切った。

妻の母親もすぐに電話に出た。明るい声が左耳に届く。妻の自死を伝えた。一瞬の沈黙の後、なんなの?うそでしょ?もうだめなの?なんとかしてよ!とぼくを責め立てる言葉が飛び出してきた。

もうだめなんです。すみません、だめでした。ぼくは謝るしかできない。もうだめなんだ。だめじゃなかったらどんなにいいか。そんな事を考えながら病院の名前を告げると、妻の母親はなにも言わずに電話を切った。

呆然としているぼくの傍らにはいつの間にか警察官が二人立っていた。声をかけるタイミングを見計らっていたらしい。こんな時に恐縮ですが、病院以外で人が亡くなった場合はその死因を特定しないといけないんです。警察署でお話を聞かせていただけますか?と、恐る恐るではあるがきっぱりとした声で尋ねられた。

小さくうなずきながら、妻はどうなるのかを聞くと、警察署に移送して検視を行うとのこと。いまの状態の妻の顔を見れるのはこれが最後かも知れない。また涙が溢れてくる。分かりました、と力なく返事をしながら、ふと思い立って左手の薬指にはめてある指輪を抜き取った。細い指にはまっていた指輪。ぼくの小指にすら入らない。ポケットに入れ、警察官の顔を見ながら立ち上がった。

病院の裏口からパトカーに乗せられる。ガッガッと無線が音を立てている。これから行く警察署の名前を聞き、両親と妻の母親にLINEを送る。すでにこちらに向かっていたようで、数十分で到着見込みとの事。とてつもなく身体が重い。視界はぼやけっぱなしで、思考がまとまらない。まったく現実感のない時間のまま警察署につき、いわゆる取調室だろうか、個室に通された。

簡単なあいさつの後、若い警察官はこちらを気遣うように言葉を選びながら、それでもしっかりと聞き出すことを聞いてくる。妻が自死した原因に心当たりはあるか。なにか問題を抱えていなかったか。借金はあったのか。人間関係は。

何も心当たりがありません。あるとすれば私が独立を考えている事を話したくらいです。警察官はなかば納得したような、まだ聞きたいことがある消化不良のような顔で、わかりましたと言った。

個室から外に出ると両親が待っていた。母の顔は泣きならしており、父はぼくの目を見て一体なにがあった、と聞いてきた。独立を考えていることは両親にも話していたので、心当たりはそれだけだと伝えた。母は顔を覆い泣き崩れ、父は一瞬天井を仰ぎ見た後、視線を落とした。ぼくはベンチに座り、床を見つめていた。ぼたぼたと溢れてくる涙が床を濡らしていくのを、眺めていた。


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