初めての抗うつ剤 妻が死にました。(11)

帰りの方向のホームで電車を待っていたときに、それは起きた。薬を飲んでから30分も経っていない。視界が派手に45度ほど回転し、足元がフラついた。立っていられない。慌てて近くの柱によりかかる。身体が重い。コントロールが効かない。横に回転していた視界が、前後にも揺れだす。倒れそうになるのをこらえながら、なんとかゆっくりとホームにへたり込む。頭や身体を打たないですんだ。

2メートルほど先にベンチがあった。ぼくは四つん這いになりながらベンチに這いより、重い身体を持ち上げて座り込んだ。目が回っている。自分の状況がわからなくなっていく中、ああ、これが薬の効果か、これはすぐに横になりたくなるな、とぼんやり考えていた。

しばらくそうしてホームの風に当たっていると、ようやく頭のふらつきが収まり、ぼくはホームに滑り込んできた電車に乗り座席に倒れるように座り込んだ。かなり長い時間ベンチに座り込んでいた気がしたけれど、腕時計を見たら実際の時間は10分程度だった。

時間の感覚がおかしいのは薬のせいばかりではないことは分かっていたけれど、いつまでこの状態が続くのか。不安ばかりが増す中で、ぼくはなんとか自宅までたどり着いた。着替えもせずにベッドに倒れ込み、泥のように眠った。

昼過ぎに帰宅してからそのまま意識を失い、目が覚めると夜中だった。ほぼ12時間寝ていたことになる。これだけ長時間眠っていたのは久しぶりだった。眠りすぎたせいなのか、頭も身体もぼーっとしたまま覚醒してこない。睡眠導入剤を飲まなくてもこれだけ強烈な眠気を連れてくる。自分で体感して初めて抗うつ剤の効果を知った。

身体をしっかりと休めるには効果的なのかも知れない。ただ、心にはどのように作用していくのか。今後薬を飲み続けていけば、それも実感できるのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えながら、強い空腹を感じ始めていたぼくは、ウーバーイーツでマックを注文しようとして、夜中だったことに気がついた。レジで他人と触れ合うのはイヤだったけれど、久しぶりに感じている空腹感がなかなかに強烈だったこともあり、ぼくはのろのろと起き上がりコンビニに出かけることにした。


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