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ソムニウム~夢~

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夢をモチーフにした詩と短編小説です。
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#幻想小説

ソムニウム(25)読めない名前

ソムニウム(25)読めない名前

青い空に
はためく白い旗
黒いベールをつけた女が
ターコイズブルーの瞳で
じっとこっちを見つめている

恋人ができる
鼻が個性的
ショートヘアで手足が長い
ギターを弾くのがとても上手い
名前を書いて見せられる
シュメール文字の塊
読むことができない

ファミレスのバイト
後輩ができる
髪がオレンジの女の子
唇が個性的
バイトをやめる
女の子もやめてついてくる
先輩と一緒に働きたい
名前を書いて見せ

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ソムニウム(24)音喰い魚

ソムニウム(24)音喰い魚

漁に行こうと
バンドのベースに誘われる
海ではなくて地下鉄のホームに
ボートを担いで降りていく
軌道に入れるとボートが浮く
トンネルの闇の中へ入る
千代田線から丸ノ内線方面へ
大きな影が移動してると
レーダーを見ながら友人が言う
歌え、と
マイクを渡される
舳先に立ってアカペラで歌う
思いつくまま次々に
十曲目のサビに入ったとき
出した声が聞こえなくなる
友人が銛を用意する
闇の奥から
車くらいの

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ソムニウム(23)アゲハ

ソムニウム(23)アゲハ

春の山道を歩いている
杉の木立の木漏れ日の中に
女の子が立っている
瑠璃色のワンピースを着ている
しらんぷりして通り過ぎる
道の行く先に立っている
ふんわりにこにこ笑っている
ひらひら後をついてくる
きらきら頭上で太陽が光る
瑠璃色の粉が舞い上がる
あなたのことを待っていた
あなたと一緒に生きたいの
それもいいかな、と考えて
女の子の肩を抱きよせる
肌がとても柔らかい
体がすごく軽そうだ
しなだれ

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ソムニウム(18)虹色マンボウ

ソムニウム(18)虹色マンボウ

新宿が大火事になっている。
現場は遠くで
炎より黒煙がすさまじい
風に流されこちらにはこない
平気だな、と見定めて
城塞のような飲食モールをぶらつく
大門の外の店が美味いと
蟹の顔をした肉屋が言う
壁の中にその店はある
入って回鍋肉を注文すると
城塞の展望台に立っている
食べられなかった、と思いながら
外の街並みを眺めていると
川から魚が何十匹も
上陸してきて歩き出す
そして途中で烏賊になる
自分

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ソムニウム(17)海亀ベッド

ソムニウム(17)海亀ベッド

皆既日食を見ないように
カーテンを締めて喧嘩する
妻と大声でののしりあう
叩かれながら
いま空で
金色のリングができてると思う
車より大きな海亀の
甲羅の上にベッドがあって
その上に妻と乗りながら
北の海を漂流する
空は晴れ波は荒れている
テトラポットの港に着く
妻と手をつなぎ砂浜を歩く
あちこちに花が咲いている
黄色い花の写真を撮る
海辺に座って夕日を見る
凪いだ海が桃色に染まる
海亀ベッドが遠

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ソムニウム(16)猫と観音像

ソムニウム(16)猫と観音像

満員電車に乗っている
ぺらべらの体になって
人の隙間をつるつるすり抜け
車両から車両へ移動する
最後尾で折り返し先頭へ戻る
楽しすぎてやめられない
西日暮里で急停車する
乗客全員が降ろされる
ホームが断崖絶壁の小道に変わる
雨が降り出し土砂降りになる
岩肌にしがみついて歩く
踏み外して滑落する
観音像の頭に落ちる
観音像はつるつるで
どこにもつかまるところがない
滑って民家の屋根に落ちる
屋根には

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ソムニウム(15)キスキル

ソムニウム(15)キスキル

夜の梅田を歩いていると
大きなビルの地下駐車場から
フクロウが飛んできて肩にとまる
クリーム色のフクロウで
チャコールの模様が翼にある
夜の庄町を歩いていると
路地に立っている鷺に出会う
チャコールの模様が翼にある
並んで歩いて橋を渡る
夜の恵比寿を歩いていると
女が現れて横に並ぶ
とても個性的な顔をしている
チャコールの筋が髪にある
坂の途中のバーに入り
親密になって一緒に眠る
女の瞳は丸々と大

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ソムニウム(14)裸足の旅

ソムニウム(14)裸足の旅

数人の仲間と旅をする
気候の暖かい都市を巡る
歩いてワープしまた歩く
北アフリカのカスバで靴を盗られる
まあいいやと思って笑う
まあいいよと仲間が言う
ベトナム北部の山間の寒い都市へワープする
みぞれの道を裸足で歩く
ひんやりした感触が爽やかだ
橋の上で民族衣装を着た壮年の貴族の女性と出会う
その人の家に招かれる
長毛の猫が何匹もいて暖かい部屋で眠っている
朝になってその家の人達と大きな食堂で食事

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ソムニウム(13)オリオンの三姉妹

ソムニウム(13)オリオンの三姉妹

かつて友人だった作家に
自分が作った作品を
どう思うか訊いてみた
かつての友人は不機嫌になり
もうつきあえないと去っていった
後ろ姿が手紙になった
三枚の刃がついたハサミで
ざくざくとそれを切り刻んだ
眉間が虚空とつながって
瞬くように青く輝く
三角形の輪郭が三つ
智慧の環のようにカチャカチャと
重なったり組み合ったり離れたりした
キャキャキャ、キヤキヤ、キヒリクと
金属的な声がした
オリオンの三

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ソムニウム(12)平屋の日本家屋

ソムニウム(12)平屋の日本家屋

ガ・ギシ・ガリゴリ・ゴ・キリリ

平屋の日本家屋に住んでいる
この家にはお客が泊まっている
東ヨーロッパから来た人たちで
黒髪の青年と金髪の女性とアフリカ系の少年だ
昼間にステイし夜になると出かけ
朝になると戻ってくる
彼らが家を出た後に
姿の見えない『いつもの奴ら』と
和室の広間で料理して食べたり
居間で小便をしてみたり
色んなことをして一晩遊ぶ
朝までに掃除が終わらない

ガ・ギシ・ガリゴリ・

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ソムニウム(11)沼とオートバイ

ソムニウム(11)沼とオートバイ

 
 バイトしていた居酒屋に、
 置いていたオートバイを取りに行く。
 苦手だった板長が出てくる。
 会話を噛んで笑われる。
 オートバイは部品が壊れている。
 居酒屋の裏が工場になり、
 工員が出てきてレストアが始まる。
 死んだ父親も出てきて見ている。
「バイクが修ったら親父も乗れば」
 と話しかけると父親が微笑む。
 すると山奥の村にいる。
 道の真ん中で数人の村人と石橋蓮司が騒いでいる。

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ソムニウム(10)シャム双生児と緑の蛾

ソムニウム(10)シャム双生児と緑の蛾

 洞窟の中にいた。
 シャム双生児の女性になっていた。
 片方の自分の肩の上に、
 白髪白髭白装束の大柄な老人が手をおいた。
 老人の姿にはカーキ色の軍服が重なって見えていた。
 日本軍の軍服だ、と思ったところで目が醒めた。
  醒めた。
   醒めた。
    醒めた。
     五回続けて夢から醒めた。
 ベッドの横にローチェストがあって、
 ラップ音が激しく鳴っていた。
 一番下の引き出しを

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ソムニウム(9)皆既月蝕

ソムニウム(9)皆既月蝕

 ダンボールの空箱の山を登っている。
 こういうところを歩くのは得意だ、と思って進む。
 登っているつもりで降りている。
 大理石の床に立っている。
 そこは中国の奥地の大都市で、
 日本と中国が共同で作った迎賓館の中にいる。
 別れた妻とそっくりの女性が建物の中を案内する。
 ベランダに出ると高原が広がる。
 夜になって皆既月蝕が始まる。
 月蝕は青白く美しい。
 口の中に豚の角煮の食感がする。

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ソムニウム(8)黒い牛

ソムニウム(8)黒い牛

 江戸の町並みを歩いていた
 大きくて真っ黒な牛の群れを連れて
 和服とは異なる着物を着た
 屈強そうな男たちの一行がやってきた
 町人たちに向かって
「牛をとれ、連れていっていいぞ」
「とらないのか」
 と声をかけながら歩いていた
 男たちは目の光が強く
 髪と肌が艷やかで
 生命力に溢れていた
 町人たちは畏れて近寄らなかった
 侍たちも
「構うな、通せ」
 と言いながら一行から距離を置いてい

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