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ソムニウム(16)猫と観音像


満員電車に乗っている
ぺらべらの体になって
人の隙間をつるつるすり抜け
車両から車両へ移動する
最後尾で折り返し先頭へ戻る
楽しすぎてやめられない
西日暮里で急停車する
乗客全員が降ろされる
ホームが断崖絶壁の小道に変わる
雨が降り出し土砂降りになる
岩肌にしがみついて歩く
踏み外して滑落する
観音像の頭に落ちる
観音像はつるつるで
どこにもつかまるところがない
滑って民家の屋根に落ちる
屋根にはたくさんの靴がある
どれも自分の足には合わない
土砂降りの雨が降ってくる
屋根を飛びおり裸足で走る
見知らぬ家に裏口から入る
靴やサンダルがたくさんある
どれも自分の足には合わない
人が来たので慌てて逃げる
納屋に十年に隠れている
納屋の扉を誰かが開ける
生きていたのか、と自分に言われる
隠れていたのは黒猫だった
手をすり抜けて矢のように駆ける
逃げろ 逃げろ つかまるな
観音像の頭に飛びのる
猫の爪だとしっかりつかめる
黒猫を乗せた観音が
西の空へと飛び去るのを見送る


(終わり)

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