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ソムニウム(9)皆既月蝕


 ダンボールの空箱の山を登っている。
 こういうところを歩くのは得意だ、と思って進む。
 登っているつもりで降りている。
 大理石の床に立っている。
 そこは中国の奥地の大都市で、
 日本と中国が共同で作った迎賓館の中にいる。
 別れた妻とそっくりの女性が建物の中を案内する。
 ベランダに出ると高原が広がる。
 夜になって皆既月蝕が始まる。
 月蝕は青白く美しい。
 口の中に豚の角煮の食感がする。
 とろけて美味しい。
 噛みしめる。
 すると神田の料理屋にいる。
 スキンヘッドの落語家と差し向かいで話している。
「あんたも座談をやればいい。百人の前で喋るのさ」
 と甲高い声で師匠が言う。
「辛口の○○さんが、あんたのこと良いっつってたよ」
 じゃ、やろうかな、と考えていると、
 師匠が展示ケースに入った等身大の蝋人形になってしまう。
 展示場は真っ暗で、そこだけ照明がついている。
 蕎麦を食べる仕草をしている蝋人形をしばらく見つめる。
 ケースの中に入るのは嫌だな、
 と、考えたところで月蝕が終わる。


(終わり)

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