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#6 心の鮮度を落とさないように(詩とは何か?)/紫花豆

うれしいことがあった。
先日紹介したまど・みちおさんの「まめ」を受けて、
尊敬する大月ヒロ子さんが、紫花豆を煮てくださった。

大月ヒロ子さんは、廃材のクリエイティブ・リユースをしている、おもしろくて素敵なひと。(★紹介記事)今日のヘッダー写真は、ヒロ子さんのワークショップで撮影した、プラスチック工場から出る廃棄物です。

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なんてツヤツヤ!お豆さん、よかったね、と言いたくなる。
(お写真は、大月ヒロ子さんのFacebook投稿より拝借しました。)

思い出すのは、ヒロ子さんと同じくチャーミングな女性・濱谷朝さんの
『女人日日(おんなのひび)』というエッセイ集。松浦弥太郎さんの『くちぶえサンドイッチ』で紹介されていて知った本です。

朝さんは、1910年生まれ、写真家・濱谷浩氏と結婚。著者紹介に「職歴なく家事専門」とあるけれど、幼い頃から茶の湯に親しみ、あらゆることに細やかな美を見出すという意味では超がつくスペシャリスト、と思う。

夫の好物なので年中「黒豆」を作るという朝さんの描写がキュートだ。

翌朝、蓋をソッと取りますと、お汁は黒い水飴のようにトロッとお豆を包み、一粒口に入れた時のまだ少し温かみの残っているお味は、お知合い全部の方のお口に一粒ずつ入れて差し上げたいほどのおいしさで、思わず「出来たッ、万歳」と叫んでしまいます。       ー「黒豆」より一部抜粋

いや、かわいすぎんか。キュン…。

そんな朝さんの生き方のキーワードは「心の鮮度」

要は、心の鮮度を落とさないようにすること。それがいちばん大事なのではないでしょうか。           ーまえがき「鮮度」より一部抜粋

ヒロ子さんも、心の鮮度がばつぐんにいい人。
見落としてしまうような欠片もひろいあげて、ニコニコと楽しんでいる人。

あるとき、ふと、「ねえ、メグちゃん。針って、昔はどうやって針穴をあけてたんだと思う?」と聞かれたことがある。ずっと不思議でならないそうだ。昔は魚の骨とかを針にしていたんだろうけど、どうやってこんなに細い針に、穴をあけていたのか。二人していっしょうけんめい調べたけど、結局わからなかった。でも、なんとなく感動してしまった。

いつも、「?」と、「!!」を持つこと。
心の鮮度を保つって、そういうことなのかも。

(「今日は詩の紹介しないの?」と思われるかもしれないけれど)
実は、「詩」は「詩集」のなかに印刷されているとは限らない。

朝さんの、黒豆がうまく仕上がって「出来たッ、万歳!」というシーンも、
ヒロ子さんの「針の穴って、どうやってあけてたんだろう?」というシーンも、メチャクチャ詩だ。

ふしぎで、びっくりで、感動的で。
この感情を、この出来事を、保存したい。名付けたい。
そんな欲望が働く場が、詩だと思う


ヒロ子さんの言葉で、印象的だったのがもうひとつ。
「やりたいことやらないと、人生チュルンって終わっちゃうわよ〜」。

『古事記』によると、「死ぬ」は、「萎ぬ(しなしなになる)」という状態のことだったらしい。

生きているのに、死んでいるような状態でいた時期が、わたしにもあった。
あれは、しなしなになっていたんだと思う。
心にちゃんと水を与え、土壌を耕し、鮮度をみずみずしく保っていきたい。
そして、詩または詩情も、その一助になるような気がする。

◆紫花豆の煮かた
(ヒロ子さんに教えていただきました!)
①たっぷりの水に1〜2日漬けて、表面のシワがとれてふっくらするくらいふやかす。
②何度か煮こぼして皮のアク抜きをすることと、皮がかたいようなら重曹を入れて煮る。
③シロップ(好きな甘さに)は別に作って、そこに柔らかく煮えた豆を煮こぼしたものを加える。煮ては火を落として冷まし、また、煮ては火を落として冷ますを幾度か繰り返して、シロップの濃度や甘さを見ながら、丁度良いところで、完成。

◆作者について

濱谷朝(はまや・あさ)1910、新潟生まれ。幼時より茶の湯に親しみ、江戸千家に入門。濱谷浩氏の妻。エッセイから見え隠れする彼女のチャーミングさ、細やかな感性に、いつ読み返してもほれぼれしちゃう。
写真家である夫・浩さんによる朝さん追悼写真集(https://hamonika-koshoten.com/?pid=142942742)もメチャクチャよくて、いつか入手したい。美しくて、泣いちゃいそう。

◆本
濱谷朝『女人日日』


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