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《「あったらいいな」想像》に関する「ドラえもん」の功罪 (エッセイ)

工業高専で講師を務めた時に、次のような宿題を出し、翌日、学生にそれぞれの《商品企画》を発表・議論してもらった話を書きました。

(1)あなたが「こんなモノがあったらいいな」という製品を書いてください。できれば、イラストを使って表現してください。

(2)その製品は、どんな《技術上のブレイクスルー》があれば実現するでしょうか?

工専での講義を3年3回終えた後、今度は某国立大学の工学部から、短期留学生向けの講義を頼まれ、こちらは5年間務めました。
半年間だけ来日している種々の学科の外国人留学生に、応用化学系講義を6回行います。講義は全て英語ですが、希望すれば日本人学生も受講および単位取得が可能でした。
この時も、「あったらいいな」宿題を出して、学生に提案内容を発表してもらいました(問(2)の英語文面は少々変えてあります)。

下の写真は、2001年の夏学期に、留学生M君の提案による「プラスチック・ゴミを燃料とする自動車」発表風景です。

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この「あったらいいな」提案・発表・議論を含めた形の講義は、留学生を対象に5年間実施した後、同じ大学の3年生と修士課程の1年生に、日本語で行いました。
修士課程の学生向け講義では、「特許出願の請求項目記述法」の講義も行った上で、宿題にもう1問付け加えました:

(3)あなたが、その製品に関して特許出願を行うとしたら、どんな請求項目を提案しますか。

それはともかく、この合計10回ほどの宿題回答の結果は、

日本人学生には「ドラえもんグッズ」のパクリが結構多い。

でした。もちろん、たまたま一致したものもあるでしょうが。

これに比べ、留学生の方は、ひとりの米国人女子学生(おそらくネットで引っかかってきた珍商品をそのまま書いてきた)を除き、ほとんどが自分のアタマで考えた《提案》でした。

この差の要因は、
・日本人学生のほとんどは、幼少期からこの超人気マンガ/アニメにさらされ続け、しかも「ドラえもん」には、既にありとあらゆる「あったらいいな」が散りばめられている。
という《環境》に起因するのか、あるいは、
・海外に留学するような学生には、能動的に思考する者が多く、「自分のアタマで考える」傾向がある。
という、《サンプリング集団の特性》によるものなのか、はっきりとはしません。おそらく、両方でしょう。
でも、《ドラえもん》で育ったことが、《想像》を《制約》しているのだとしたら、ちょっと悲しい

短期留学生の講義には、世話係を務めていただいた助手の先生(現制度の「助教」に該当)にも参加していただき、宿題回答もお願いしました。
たぶん忙しかったのでしょう、
「いやあ、何も思いつかなくて」
《タケコプター》を書いてこられました。2001年度前期の講義です。

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でも、これはこれでいいのです。より重要なのは問(2)です。
30年前、「ウルトラマン研究序説」という、ウルトラマンを科学的に検証する本が出版されました。
同様に、《タケコプター》の技術的可能性を議論すればいいのです。

この先生も、《タケコプター》に関しての《技術的実現可能性》を書いています。この、首がちぎれてしまうイラスト、私は好きです。

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この回答をもとに、クラスみんなで、
・人間ひとり(例え小学生・のび太であっても)を持ち上げるのに必要なトルクを考えれば、もっと巨大なプロペラが必要であり、
そのトルクに首頸椎けいついの強度は耐えられないであろう、
という議論をしました。

工学部、というエンジニアを養成する場所ですから、時間的余裕があれば、「……であろう」ではなく、必要なトルクを計算し、頸椎のねじり強度データと比較する、という《定量的検証》にまで発展させるべきでしたが。

「ドラえもんグッズ」をまな板の上に置いてもいいのですが、実際には物理的に不可能なものが多い。
(「何マジに言ってんだよ!」という声も聞こえてきそうですが……)

ですから、《ほんやくコンニャク》をパクるのではなく、例の女子学生のように、自分のアタマで《通訳メガフォン》まで想像して欲しい。
もし《ほんやくコンニャク》を挙げるのなら、それが技術的に可能なのか、どんな技術ができれば可能になるのか、しっかり考えて欲しい。


【追記】11/4
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「タケコプター」に関する20年前のクラスでの議論は上記のものでした。
しかし、Noterさんから、コメント欄で、
「タケコプターはプロペラが回っているのであって、プロペラを支えている軸が回転しているのではない。のび太くんの頭は、ヘリコプターの本体と同じく、静止状態では?」
とのご指摘を受けました。
なるほどなるほど。ごもっともです。

そこで調べてみると、ありましたありました。
「空想科学研究所」が「タケコプターの実現性」を真面目に議論しています:

素晴らしい!
「空想科学研究所」の結論は、
➀あの小さなプロペラのままでは、プロペラと頭の間に巨大な風圧が生じ、タケコプターが接している頭頂部が剥がれてしまう。
➁プロペラを大きくすれば持ち上がるかもしれないが、その反作用で逆方向に回転し、目が回る。

とのことです。
ヘリコプターは、尻尾についている「テールローター」で、この反作用の問題を解消しているようです。

ただ、上記結論はドラえもんを対象としています。助教の先生が描いたのは「人間」であるのび太君です。
➀小さなプロペラのままでは、やはり、タケコプターが接している部分の頭皮が剥がれてしまう。
➁体全体が持ち上がるほど大きなプロペラを取り付ければ、やはり反作用で体全体が逆回転する。この時、「空想科学研究所」は一定速度に達した後の「定常状態」の回転速度から「目が回る」と言っているが、そこに至る過程、つまり、回転速度が増加していく過程では、反作用で頭部に回転の力がかかり、それにつられて胴体が回転する。この時に、やはり大きな「ねじり」のトルクが首にかかり、頸椎は耐えきれない。

のではないかと思います。

さらに言えば、回転しないとしても、もしのび太君の体が持ち上がったら、やはり頭頂部は剥がれてしまうでしょう。ヘルメットを被った場合には、頸椎が損傷するでしょう。

ちょっと深掘りし過ぎて、夢がなくなりそうですね。ごめんさない。

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