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10秒で読める小説

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100作書けたので、次の目標は150作!ってことでボチボチ書いていきます。
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2022年3月の記事一覧

【10秒で読める小説】ラブストーリーは突然に?

「妻子が出て行っちゃいましてね」
たまたま乗ったタクシーで運転手が身の上話を始めた。

「また出会いがありますよ、恋は突然始まるから」俺は適当に答える。
ふとミラー越しに運転手の哀しい瞳とぶつかった。ドキッ。
運転手は俺を見詰めたまま呟く。
「トゥクトゥーン♪」

「いや強引に恋を始めようとしないで?」

【10秒で読める小説】お帰りはこちらから

【10秒で読める小説】お帰りはこちらから

富士山登山客の増加は喜ばしい事ばかりではない。様々なトラブルも増えた。
例えば、道幅の狭い登山道では登り優先だから、下山客がいつまでも待たされる、といった問題だ。

せめて下山をスムーズにおこなって貰おうと、行政は富士山頂から超ロング滑り台を設置した。

ちなみにこの滑り台、スリリングでなかなかのシロモノ。
「もう一回滑りたい」「もう一回…」

登山客はかえって増えたそうだ。

【10秒で読める小説】臨死体験

【10秒で読める小説】臨死体験

ずっと臨死体験に興味があった。
三途の河で死者に逢えるのか。それとも幽体離脱するだけか。
気になって夜も眠れない。

ついに俺は三日間だけ仮死状態になる薬を入手し、友人ひとりに告げて薬を服用した。
目を閉じた次の瞬間、友人の声で目覚めた。

「三日間どうだった? 珍しい体験できたか?」
「…よく寝たぁ」

【10秒で読める小説】乳歯

【10秒で読める小説】乳歯

仕上げ磨きの為に娘の口を覗くと、乳歯の手前に永久歯が生えていた。

子供のまま大人びていくこの子そっくりだ。赤子の世話に追われる私に文句も言わず、手伝ってくれるのだから。

旦那に話すと「俺、永久歯が生えずに乳歯が残ってるとこあるよ」とゲームしながら答えた。
オメーは早く大人になれ。

【10秒で読める小説】信長の野望

【10秒で読める小説】信長の野望

フロイスが「この世は丸い」と説明すると信長は即座に理解した。
それどころか
「他の星にも人の如き生物が居るに違いない」
とまで言い出した。

「もし居たら、生捕りにしたいですか?」
「たわけ。交易するのじゃ」
「!」
ただの派手なマント男ではない、と敬服したフロイスに信長は言った。

「きゃつらのマントは南蛮のマントより派手じゃろて」

【10秒で読める小説】今は昔…

【10秒で読める小説】今は昔…

今は昔、陽気な姫がおり、たいそうな人気じゃった。

「のう、余の女御にならぬか?」
「絶対ヤダー!マジウケる」
「冗談じゃ、にしてもハッキリ申すのう」
「竹を割ったような性格だから、『お前の親、竹やろ』って言われてんの、アハハ」

後世、竹から生まれ、帝に求愛された美女として語り継がれたとさ。

【10秒で読める小説】ヒーローの正体

【10秒で読める小説】ヒーローの正体

マジやば!

同級生の冴えない男子がヒーローの正体だったなんて。
ギャップにやられた私は、駆け寄ってキスした。悪者に襲われかけているというのに!

途端に彼の筋肉は萎んで細ガリの姿に。
「君のキスで、ヒーローになる呪いが解けたよ」
ヒーローは呪いだったの!?
いやそれより、この悪者どうすんの!?

マジやば!

【10秒で読める小説】夢の欠片

【10秒で読める小説】夢の欠片

夢はパティシエ。
叶えるために娘ちゃんは保育園で練習してるんだね。
エプロン代わりの上着のポケットに、夢の欠片を詰め込んで。
ドングリはチョコレート、綺麗な小石はキャンディだってね。素敵だね。

もう手遅れなんだけど、もっと早く知っておけば良かったって、思わずにはいられない。
そしたら、夢の欠片が洗濯機を壊すこともなかったはずだから。

【10秒で読める小説】今どきは…

【10秒で読める小説】今どきは…

俺が「いいな」と思った子はみんな、別の奴にかっさらわれた。透き通る肌のあの子も、キラキラ輝くあの子も。

「古いな、今はこうやるんだよ」
友人は、画面をスワイプさせて、気に入った子をチェックしていく。
「ほら、お前も見ろよ。え、いい?じゃあ俺は遠慮なく頼むぞ。マグロ、コハダ、海老…」

回転寿司での出来事。

【10秒で読める小説】根に持つタイプ

【10秒で読める小説】根に持つタイプ

「愛を知るために愛じゃないものを経験する必要があったの。美しくなるために、醜く見られる必要があったの」
魔女は、王子の妃となったシンデレラに言ったが、彼女は膨れ面のままだ。
魔女は溜息混じりに懇願した。

「お願いだから、綺麗な結末で終わろうよ。義姉の目をくり抜けとか、継母をヒキ蛙にしろなんて願いは取り下げて、ね?」

【10秒で読める小説】卒業タイムリープ

6度目の2022年3月19日を迎えた。
卒業したくない、と流した涙はとうに枯れた。

考え抜いた末、私には高校生活でやり残したイベントがあるのだろう、という結論に達した。だから次のステージに行けないのだ。

思い切って告白した。彼に会えなくなるから、卒業が嫌だったのだから。
結果、見事玉砕。でも彼の肩越しに虹が見えた。
これで明日が迎えられる。

【10秒で読める小説】そんな都合のいいやつおらん

【10秒で読める小説】そんな都合のいいやつおらん

なぁSiri、理想の彼女はどこにいる?
「理想とは?」
僕の好物のパン作りが得意で、夜中でも飯と酒を用意して、笑顔で迎えてくれる子。
「でしたら1キロ先の山崎様がピッタリかと」
近!でも運命は案外近くに転がってるものかもな。

意気揚々と場所へ向かうと、そこには煌々と光るデイリーヤマザキ…

【10秒で読める小説】あの、バレバレです…

【10秒で読める小説】あの、バレバレです…

金星人を名乗る女の声が響く。

「お前は我々の観察対象に選ばれた。
他言すれば命はないぞ。
私はお前の周囲の誰かに、そっと成り済ましている。お前には誰が私だか、見抜けまいがな」

「──朝ご飯やでー!」
階下からのオカンのダミ声に起こされた。
変な夢やったなぁと台所のドアを開けると、

「早うせんと遅刻すんで」

割烹着姿の金髪美女が言った。

【10秒で読める小説】覚醒

「君が何にも欲しがらないのは、欲しがったら愛されないと思ってるからじゃないの?
そういう自分なら、愛されるんじゃないかって、考えてるからじゃないの?
分かるよ、君のお母さんは厳格な人だもん、そういう風に育てられたんだろうね。でもそれは、呪縛だよ。
自分の心に正直になって、僕にだけ教えて。
どんなささいなものでもいい、君が心から欲しいものを…」

「一兆円が欲しい」