ブルー
2024年の春。 楠将樹(くすのき・まさき)の通う高校に、早川沙織(はやかわ・さおり)が転校してくる。 沙織は、艶のある黒髪をした美少女だった。 初対面にもかかわらず、なぜか突っかかってくる沙織と言い合いになる。 去りぎわに、沙織が放った言葉「暗い洞窟の夢」に動揺する。 高校入学以来、将樹は不思議な夢を定期的に見ていた。 なぜ、そのことを沙織は知っていたのか・・・? 4月の大きな地震、学校にある古墳、軍人のヤガミ少尉。 夢について調べるうちに、主人公は沙織のことが気になりはじめて・・・。 全31話予定 ※初のオリジナル作品 ※エロなし
水晶の見る夢1 授業が午前で終わった日、バスを乗り継いで、街を見下ろす西の高台に向かった。 ふたりで、ヤガミ少尉の墓参りをするためだ。 昨日から降り続いた雨…
科学館4 プラネタリウムのホールは、半分ほどの席が埋まっていた。 ぼくらの席は、同心円状に並んだ座席の後ろ側だった。ここなら投影機が邪魔にならないし、ドーム…
科学館3 展示物が不規則に置かれた広いフロアを、トイレを探して歩く。 案内の矢印を見つけて進むと、巨大な彗星の写真パネルにたどり着いた。 星空を、燃えるよう…
科学館2 こういうのは、早めにいったほうがいいと思い、チケットを譲ってもらった日の夜に電話をした。 沙織は「科学館?」と拍子抜けした様子だったが、べつに嫌と…
科学館1 放課後、ヨシオに誘われて第一体育館に行った。 ヨシオは、観客席の柵に寄り掛かるようにして見下ろす。 元気な掛け声を出して、お揃いの黒いTシャツにハ…
ぼくは、それを一番おそれている5 数学の小テストで勝負することになったのは、夏期講習の申し込みをした週のことだ。 負けたら相手の要求を聞く、賭けで。学校で、…
ぼくは、それを一番おそれている4 駅前にある、大手予備校に下見に行った。 10階建ての立派なビルで、大きな看板を誇らしげに掲げてある。ぼくも場所は知っていた…
ぼくは、それを一番おそれている3 日が変われば、沙織の機嫌が直ると思ったのは、ぼくの甘い考えだった。 あれから三日すぎたが、沙織は口を聞いてくれないどころか…
ぼくは、それを一番おそれている2 女子のダンス動画を撮るから手伝ってくれとヨシオにいわれたのは、その日の午前中のことだ。 沙織とばかり行動していて、放課後に…
ぼくは、それを一番おそれている1 昼休憩のヤガミ少尉の部屋で、ぼくらは音楽を聴いていた。 窓を開けて椅子を並べて、イヤホンの片方を沙織に貸して。 自転車に乗…
沙織ふたたび4 カフェを出ても、沙織とナオミは、空白の時間を取り戻すみたいにしゃべりっぱなしだ。 薄い青のワンピースの背中で、セミロングの黒髪がリズム良く左…
沙織ふたたび3 土曜日の昼下がり、センター街の時計広場に到着すると、すでに沙織の姿があった。 薄い青のシックなワンピースで、頭にはカチューシャをして、いいと…
沙織ふたたび2 翌日、沙織はケロッとしてた。 ヤガミ少尉の部屋で、肘掛け付きの木製の椅子に座って、昨日はよく寝たぐらいの感じだ。 まー、元気そうでなによりだ…
沙織ふたたび1 廊下で、沙織が木嶋と親しそうにしゃべっているのを見かけた。 ぼくは、(へー、意外な組み合わせだな)と思った。 たまに3組の教室を見ることがあ…
水晶の柱2 昼休憩になると、ぼくと沙織は中庭で待ち合わせて、図書館の2階にある特別閲覧室で昼食を一緒に食べるようになった。 ぼくらは、その部屋を『ヤガミ少尉…
水晶の柱1 いつものように目を覚ますと、ぼくは濃密な暗闇に囲まれていた。辺りは、深い海の底のように真っ暗でなにも見えない。 かすかに水の流れる音が聞こえる。 …
2024年10月5日 20:36
水晶の見る夢1 授業が午前で終わった日、バスを乗り継いで、街を見下ろす西の高台に向かった。 ふたりで、ヤガミ少尉の墓参りをするためだ。 昨日から降り続いた雨も2時間目の授業が終わる頃には上がり、濡れた地面が乾く独特の匂いがしていた。 お墓の場所を知ったのは、前日のことだ。図書館で働いている司書の女性が、沙織の顔を見て思い出したみたいに教えてくれた。 転校早々にいろいろと質問して、学校
2024年9月14日 16:55
科学館4 プラネタリウムのホールは、半分ほどの席が埋まっていた。 ぼくらの席は、同心円状に並んだ座席の後ろ側だった。ここなら投影機が邪魔にならないし、ドーム全体を眺めることができる。リクライニングシートで、ソファみたいにクッションが効いてた。 客席がほとんど埋まっていて、満席に近かった。「まだ夏休み前なのに、思ったより混んでるんだな。もっとガラガラかと思った」「ほら、もうすぐ七夕でしょ
2024年9月14日 16:54
科学館3 展示物が不規則に置かれた広いフロアを、トイレを探して歩く。 案内の矢印を見つけて進むと、巨大な彗星の写真パネルにたどり着いた。 星空を、燃えるように白くて長い尾を引いている。(暗闇を、光の矢が飛んでるみたいだ) 重力があるみたいに惹きつけられる。力強くて美しい。「ハワイのマウナケア天文台で撮影された写真です」 すぐ横に、南国の花が鮮やかな色彩で描かれたアロハシャツと砂色の
2024年9月14日 16:51
科学館2 こういうのは、早めにいったほうがいいと思い、チケットを譲ってもらった日の夜に電話をした。 沙織は「科学館?」と拍子抜けした様子だったが、べつに嫌というわけじゃなくて、よろこんでOKしてくれた。「日曜に現地集合でいいか。ぼくは路面電車で行く」「せっかくだし、中央駅で待ち合わせしましょう」「いいけど、なんでだ。沙織の家からだと科学館のが近いだろ」「デート気分を味わいたいのよ。将
2024年9月14日 16:50
科学館1 放課後、ヨシオに誘われて第一体育館に行った。 ヨシオは、観客席の柵に寄り掛かるようにして見下ろす。 元気な掛け声を出して、お揃いの黒いTシャツにハーフパンツ姿の女子バレー部が練習をしていた。みんな両肘と両膝にサポーターをつけてる。「ヨシオが体育館に誘うのはめずらしいな」「んー、そうか」「とぼけんなよ。気になってるコがいるんだろ」「サーブ練習してる。前髪をヘアピンで止めて、
2024年8月10日 20:57
ぼくは、それを一番おそれている5 数学の小テストで勝負することになったのは、夏期講習の申し込みをした週のことだ。 負けたら相手の要求を聞く、賭けで。学校で、よくある話だ。 これは、はじめから仕組まれた勝負だった。勝負を持ちかけたのは沙織だし、判定したのも沙織だ。 エサで釣ってぼくのやる気を引き出し、勝たせることで自信をつけさせようという、沙織の狙いがはじめから見え透いていた。 昼休憩
2024年8月10日 20:56
ぼくは、それを一番おそれている4 駅前にある、大手予備校に下見に行った。 10階建ての立派なビルで、大きな看板を誇らしげに掲げてある。ぼくも場所は知っていた。 名古屋に本部があるK予備校は、テキストと設備が充実していて、学力や志望によって講座が細分化されている。東大理類数学なんていう、名前を聞いただけで背筋が伸びそうな講座もある。合格実績で、毎年1位を取り続けている。 同じ駅前には、いま
2024年8月10日 20:55
ぼくは、それを一番おそれている3 日が変われば、沙織の機嫌が直ると思ったのは、ぼくの甘い考えだった。 あれから三日すぎたが、沙織は口を聞いてくれないどころか、廊下ですれ違っても目も合わせてくれない。小田桐ヒナの仲裁も不発に終わった。 何度か3組の教室にいって、「そろそろ機嫌を直してくれよ」と話しかけてみたものの、まるでぼくの声が聞こえないみたいに、机に頬杖をついて、窓の外を死んだ目で眺めて
2024年8月10日 20:53
ぼくは、それを一番おそれている2 女子のダンス動画を撮るから手伝ってくれとヨシオにいわれたのは、その日の午前中のことだ。 沙織とばかり行動していて、放課後にヨシオと遊ぶこともめっきり減っていたので、たまには付き合わないと悪いよなと思った。「撮影場所は教室で、自習時間中に女子が踊るという設定なんだ」 席について、教科書やノートを開いて勉強してるフリをしてればいい。ぼくの得意分野だ。 教室
2024年8月10日 20:52
ぼくは、それを一番おそれている1 昼休憩のヤガミ少尉の部屋で、ぼくらは音楽を聴いていた。 窓を開けて椅子を並べて、イヤホンの片方を沙織に貸して。 自転車に乗っていて、ワイヤレスのイヤホンを片方だけポロッとなくしてしまい、同じのを買うのもバカらしいので、有線でいいやってなった。おおげさではなく、学校の通学路には、イヤホンが1000個ぐらいは落ちてると思う。 スマホはAQUOSのsense7
2024年7月28日 20:40
沙織ふたたび4 カフェを出ても、沙織とナオミは、空白の時間を取り戻すみたいにしゃべりっぱなしだ。 薄い青のワンピースの背中で、セミロングの黒髪がリズム良く左右に揺れているのを眺めているだけで、機嫌がいいのがわかる。(会うのは3ヵ月ぶりだけど……絶交期間があったから、まともに話すのは半年ぶりぐらいか) 女子が本気を出すと、男子が口を挟む余地はない。 で、なにを話しているかと思うと、付属高
2024年7月28日 20:38
沙織ふたたび3 土曜日の昼下がり、センター街の時計広場に到着すると、すでに沙織の姿があった。 薄い青のシックなワンピースで、頭にはカチューシャをして、いいとこの女子大生みたいな格好をしてた。女子はほとんどそうだけど、私服姿だと制服とちがっておとなっぽく見える。「もしかしてまった?」 ぼくは、鉄塔がねじれたような時計塔で時間を確認した。待ち合わせの時間まで10分ある。「私もいまきたところ
2024年7月28日 20:35
沙織ふたたび2 翌日、沙織はケロッとしてた。 ヤガミ少尉の部屋で、肘掛け付きの木製の椅子に座って、昨日はよく寝たぐらいの感じだ。 まー、元気そうでなによりだ。 それよりもぼくが気になったのは、沙織が着ている水色のパーカーだった。(どう見ても、ぼくのパーカーだよな) あまりに堂々と着てるので、たまたま同じのを持ってたのかと思った。 窓の外に見える木々の緑が濃くなって、もうすぐ夏だなっ
2024年7月28日 20:32
沙織ふたたび1 廊下で、沙織が木嶋と親しそうにしゃべっているのを見かけた。 ぼくは、(へー、意外な組み合わせだな)と思った。 たまに3組の教室を見ることがあるけど、沙織が小田桐ヒナ以外の女子といるのをはじめて見た気がする。 木嶋は明るい髪をしてるし、ネクタイを緩めて、スカートもかなり短い。6月に入って衣替えの時期だけど、制服の着こなしからして対極的なふたりだ。 ぼくは、沙織に近寄って声
2024年7月27日 19:59
水晶の柱2 昼休憩になると、ぼくと沙織は中庭で待ち合わせて、図書館の2階にある特別閲覧室で昼食を一緒に食べるようになった。 ぼくらは、その部屋を『ヤガミ少尉の部屋』と呼んでいる。 不思議なことに、部屋の鍵はいつも開いていて、ついさっき掃除したばかりのように清掃が行き届いている。まるでぼくらが来るのを、楽しみにして待っているかのように。 休憩時間中、職員が様子を見に来たり、通路に人が近づく
2024年7月27日 19:56
水晶の柱1 いつものように目を覚ますと、ぼくは濃密な暗闇に囲まれていた。辺りは、深い海の底のように真っ暗でなにも見えない。 かすかに水の流れる音が聞こえる。 ぼくは床にしゃがんで、まぶたを開いたり閉じたりさせる。(しっかり開いてるはずなんだけどな) とぼくは思う。 ためしに指でまぶたを触ってみる。 上に動いている。 もしかすると、心理的な問題なのかもしれない、と思う。 なにせこ