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  • 早川沙織からの手紙

    2024年の春。 楠将樹(くすのき・まさき)の通う高校に、早川沙織(はやかわ・さおり)が転校してくる。 沙織は、艶のある黒髪をした美少女だった。 初対面にもかかわらず、なぜか突っかかってくる沙織と言い合いになる。 去りぎわに、沙織が放った言葉「暗い洞窟の夢」に動揺する。 高校入学以来、将樹は不思議な夢を定期的に見ていた。 なぜ、そのことを沙織は知っていたのか・・・? 4月の大きな地震、学校にある古墳、軍人のヤガミ少尉。 夢について調べるうちに、主人公は沙織のことが気になりはじめて・・・。 全31話予定 ※初のオリジナル作品 ※エロなし

最近の記事

早川沙織からの手紙 #21

ぼくは、それを一番おそれている5  数学の小テストで勝負することになったのは、夏期講習の申し込みをした週のことだ。  負けたら相手の要求を聞く、賭けで。学校で、よくある話だ。  これは、はじめから仕組まれた勝負だった。勝負を持ちかけたのは沙織だし、判定したのも沙織だ。  エサで釣ってぼくのやる気を引き出し、勝たせることで自信をつけさせようという、沙織の狙いがはじめから見え透いていた。  昼休憩にヤガミ少尉の部屋で、お互いの答案を見せあった。  50点満点で、沙織は40点、

    • 早川沙織からの手紙 #20

      ぼくは、それを一番おそれている4  駅前にある、大手予備校に下見に行った。  10階建ての立派なビルで、大きな看板を誇らしげに掲げてある。ぼくも場所は知っていた。  名古屋に本部があるK予備校は、テキストと設備が充実していて、学力や志望によって講座が細分化されている。東大理類数学なんていう、名前を聞いただけで背筋が伸びそうな講座もある。合格実績で、毎年1位を取り続けている。  同じ駅前には、いま勢いのあるT予備校もある。こちらは東京に本部があって歴史は浅いが、有名講師が多数

      • 早川沙織からの手紙 #19

        ぼくは、それを一番おそれている3  日が変われば、沙織の機嫌が直ると思ったのは、ぼくの甘い考えだった。  あれから三日すぎたが、沙織は口を聞いてくれないどころか、廊下ですれ違っても目も合わせてくれない。小田桐ヒナの仲裁も不発に終わった。  何度か3組の教室にいって、「そろそろ機嫌を直してくれよ」と話しかけてみたものの、まるでぼくの声が聞こえないみたいに、机に頬杖をついて、窓の外を死んだ目で眺めてた。  沙織は、話しかけないでオーラを出す達人だ。  昼休憩には、ひとりでヤガミ

        • 早川沙織からの手紙 #18

          ぼくは、それを一番おそれている2  女子のダンス動画を撮るから手伝ってくれとヨシオにいわれたのは、その日の午前中のことだ。  沙織とばかり行動していて、放課後にヨシオと遊ぶこともめっきり減っていたので、たまには付き合わないと悪いよなと思った。 「撮影場所は教室で、自習時間中に女子が踊るという設定なんだ」  席について、教科書やノートを開いて勉強してるフリをしてればいい。ぼくの得意分野だ。  教室には、暇な男子が残って、踊るスペースを確保するために、協力して机の半分ほどを廊下

        早川沙織からの手紙 #21

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        • 早川沙織からの手紙
          21本

        記事

          早川沙織からの手紙 #17

          ぼくは、それを一番おそれている1  昼休憩のヤガミ少尉の部屋で、ぼくらは音楽を聴いていた。  窓を開けて椅子を並べて、イヤホンの片方を沙織に貸して。  自転車に乗っていて、ワイヤレスのイヤホンを片方だけポロッとなくしてしまい、同じのを買うのもバカらしいので、有線でいいやってなった。おおげさではなく、学校の通学路には、イヤホンが1000個ぐらいは落ちてると思う。  スマホはAQUOSのsense7だ。バッテリーのもちがよくて、価格も4万円台でそこまで高くない。ぼくは、ゲームも

          早川沙織からの手紙 #17

          早川沙織からの手紙 #16

          沙織ふたたび4  カフェを出ても、沙織とナオミは、空白の時間を取り戻すみたいにしゃべりっぱなしだ。  薄い青のワンピースの背中で、セミロングの黒髪がリズム良く左右に揺れているのを眺めているだけで、機嫌がいいのがわかる。 (会うのは3ヵ月ぶりだけど……絶交期間があったから、まともに話すのは半年ぶりぐらいか)  女子が本気を出すと、男子が口を挟む余地はない。  で、なにを話しているかと思うと、付属高校のだれとだれが付き合ったとか別れたとか、苦手な教師の悪口、そんな感じだった。あ

          早川沙織からの手紙 #16

          早川沙織からの手紙 #15

          沙織ふたたび3  土曜日の昼下がり、センター街の時計広場に到着すると、すでに沙織の姿があった。  薄い青のシックなワンピースで、頭にはカチューシャをして、いいとこの女子大生みたいな格好をしてた。女子はほとんどそうだけど、私服姿だと制服とちがっておとなっぽく見える。 「もしかしてまった?」  ぼくは、鉄塔がねじれたような時計塔で時間を確認した。待ち合わせの時間まで10分ある。 「私もいまきたところよ」  沙織は、ぼくの服装をチェックするように眺める。 「楠くんは、服装とかあん

          早川沙織からの手紙 #15

          早川沙織からの手紙 #14

          沙織ふたたび2  翌日、沙織はケロッとしてた。  ヤガミ少尉の部屋で、肘掛け付きの木製の椅子に座って、昨日はよく寝たぐらいの感じだ。  まー、元気そうでなによりだ。  それよりもぼくが気になったのは、沙織が着ている水色のパーカーだった。 (どう見ても、ぼくのパーカーだよな)  あまりに堂々と着てるので、たまたま同じのを持ってたのかと思った。  窓の外に見える木々の緑が濃くなって、もうすぐ夏だなって感じの匂いがした。  沙織が、ぼくのために用意してくれたランチボックスには、ア

          早川沙織からの手紙 #14

          早川沙織からの手紙 #13

          沙織ふたたび1  廊下で、沙織が木嶋と親しそうにしゃべっているのを見かけた。  ぼくは、(へー、意外な組み合わせだな)と思った。  たまに3組の教室を見ることがあるけど、沙織が小田桐ヒナ以外の女子といるのをはじめて見た気がする。  木嶋は明るい髪をしてるし、ネクタイを緩めて、スカートもかなり短い。6月に入って衣替えの時期だけど、制服の着こなしからして対極的なふたりだ。  ぼくは、沙織に近寄って声をかけた。 「なに話してたんだ、木嶋と」 「面白い人ね、彼女。陽気というか、畳み

          早川沙織からの手紙 #13

          早川沙織からの手紙 #12

          水晶の柱2  昼休憩になると、ぼくと沙織は中庭で待ち合わせて、図書館の2階にある特別閲覧室で昼食を一緒に食べるようになった。  ぼくらは、その部屋を『ヤガミ少尉の部屋』と呼んでいる。  不思議なことに、部屋の鍵はいつも開いていて、ついさっき掃除したばかりのように清掃が行き届いている。まるでぼくらが来るのを、楽しみにして待っているかのように。  休憩時間中、職員が様子を見に来たり、通路に人が近づく気配すらない。1回も。  通路入り口に張ってある、関係者以外立ち入り禁止のロープ

          早川沙織からの手紙 #12

          早川沙織からの手紙 #11

          水晶の柱1  いつものように目を覚ますと、ぼくは濃密な暗闇に囲まれていた。辺りは、深い海の底のように真っ暗でなにも見えない。  かすかに水の流れる音が聞こえる。  ぼくは床にしゃがんで、まぶたを開いたり閉じたりさせる。 (しっかり開いてるはずなんだけどな)  とぼくは思う。  ためしに指でまぶたを触ってみる。  上に動いている。  もしかすると、心理的な問題なのかもしれない、と思う。  なにせここは夢の世界だ。銃で撃たれても、ビルから飛び降りても死ぬことはない。  ぼくは

          早川沙織からの手紙 #11

          早川沙織からの手紙 #10

          沙織3 「あの日、先輩と待ち合わせをしてたの。神社のまえで」 「へー」 「先輩に事情を説明したら、新しい浴衣を買ってあげるよって。先輩の父親はコンサル会社を経営してるのよ」 「そうなんだ」 「私、ショックだった。この日のために一生懸命選んで買ったお気に入りだったのに、ちょっと汚れたら、新しいのを買う人なんだって。ウソでもいいから、似合ってるねっていってほしかった。先輩に悪気はなかったのはわかっているのよ。転んだのは私なんだし。そういう人なんだなって気づいちゃったの、そのとき

          早川沙織からの手紙 #10

          早川沙織からの手紙 #9

          沙織2  フードコートは、学校帰りの学生たちで半分ほど埋まっていた。  ぼくらの高校の制服はむしろ少数で、H女子高やJ高校、B学園などいろいろな制服がある。  カップルらしき男女もチラホラいる。  ぼくと沙織は、窓際のテーブルを確保した。  店舗からはすこし離れているけど、落ち着けそうな場所だ。 「モスのフィッシュバーガーとアイスティーのセットね」 「もしかして、ぼくがおごるの?」 「安いもんでしょ。胸を当ててあげたんだし」  沙織は、テーブルに肘をついて、フフっと笑って

          早川沙織からの手紙 #9

          早川沙織からの手紙 #8

          沙織1  HRが終わって、教室でのんびりしていると、メッセージが届いた。  めずらしく沙織からだった。 『まだ教室?』 『さっきHRが終わったとこ』 『一緒に帰らない? 校門にいるから1分以内に来て』  沙織が誘ってくるなんて、はじめてのことだ。  ぼくは、荷物をまとめて、ダッシュで教室を出た。  廊下で、トイレから戻ってきたヨシオとすれちがう。 「おい、バッティングセンターに行くんじゃないのか」 「わりぃ、中止。いまからデートなんだ」  ぼくは、ヨシオのケツにスクールバッ

          早川沙織からの手紙 #8

          早川沙織からの手紙 #7

          古墳4  1986年の学校新聞に、ヤガミ老人の写真はなかった。  沙織の話によると、生前の写真は、地元の新聞や企業の広報誌にも残っていないらしい。  生徒の質問に答える形で、本人が生い立ちについて語っていた。  1910年に青森県の弘前地方の小作農家の次男として生まれた。  青森県と聞いて、ぼくが思い浮かべるのは、リンゴと兜の角みたいにとがった形だ。  おとなしい性格で、ほかの子供と外で遊ぶより、創刊されてまもない『少年倶楽部』という子供雑誌を手に入れて繰り返し読んでいた

          早川沙織からの手紙 #7

          早川沙織からの手紙 #6

          古墳3  ぼくらの学校では中間テストのまえ、つまりゴールデンウィークのまえにクラスマッチがある。  高校生になったばかりの1年生にとっては最初のイベントであり、2・3年にとっても新しいクラスの団結力がためされる大事なイベントだ。  男子はサッカーで女子はバスケだ。1日をかけてトーナメント形式で、別のクラスと対戦する。  ぼくは、なぜかゴールキーパーをやるハメになって、ボコスカ点を入れられた。野球ならとっくにコールドゲームだ。  試合後、「サッカーにもコールドを導入するべきだ

          早川沙織からの手紙 #6