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苦しい時期に助けてくれたのは小説

暗くて悩み過ぎていて、ふとした拍子で、あるいは何かのタイミングが合えば、死んでいたんだろうなと思うような、あの暗い時期のわたしを救ってくれたのは、本だった。

小説は自分を許してくれる

きっかけは実家に帰って間もないころに、部屋でひとりでいたときに母親に「悩んだときは小説を読みなさい」と言われたこと。そこから小説を読み始めて、自分がどんどん許されていくような感覚を味わった。

世間一般の目線で見れば馬鹿にされそうなこと、幼稚なこと、矛盾すること、道徳的でないこと、否定しなければならないように思えていた自分の感情が、本の中では”ただそこにあるもの”として存在しているだけ。否定もされない。当然の自然のこととして置かれている。そのことが自分をどれだけ救ってくれたか。

感情がぐちゃぐちゃになったとき、どうしても自分を責めるしかないとき、何もかも考えたくないとき、小説を読んで読んで、自分の中のどす黒いものを流していった。そして許してもらっていた。

宝石箱のような「小川洋子」さんの小説

私が最初に没頭したのは「小川洋子」さん。「薬指の標本」や「博士の愛した数式」などもともと好きな小説はあったのだけれど、特に小川洋子さんの初期の小説はすごい。「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」「シュガータイム」・・・。

小川洋子さんの小説は春のやわらかい日ざしの中に、小さな宝石箱みたいなきらきらしたものがあって、その宝物をぎゅうっと抱きしめたくなるような感覚。小川洋子さんの小説を読んだ後は、一枚の絵画を見たような感覚になる。しばらく何もせずにぼーっとして、作品の余韻にひたっていたくなる。

運命と思っている「宮本輝」さんとの出会い

「宮本輝」さんの本にもたくさん助けられた。特に印象に残っているのは「錦繍(きんしゅう)」「青が散る」「星々の悲しみ」。

宮本輝さんとの出会いはとても偶然で、私は運命だと思っている。中学生のときの国語の文章問題で、この小説いいなと思ったのが「星々の悲しみ」。高校生になってもずっと忘れられないでいたら、偶然入ったブックオフの外のワゴンセールにこのタイトルを見つけた。

高校生になって初めて「星々の悲しみ」を全部読んだ。そのときの感想はもう覚えていないけど、今日までに何回も何回も、救いを求めたいようなときに読んでいる。

特に「錦繍」はほんとうに美しい小説。大人になって、舞台となった山形の蔵王まで紅葉を観に行った。もう紅葉シーズンは終わっていてさびしい木ばかりだったけど、寒さのなかロープウェーに乗って、ドッコ沼の写真を撮って、良い思い出になった。

村上龍さん、山田詠美さん、吉本ばななさん…

村上龍さんの「限りなく透明に近いブルー。」何がすごいのか言い表せないけれど、何かものすごいものに打たれて、心に一生の残りる重い石を置いていかれた感覚。いち読者にすぎなけど、この人は天才なんだと思った。

山田詠美さんも大好きだ。山田詠美さんを知ったのは大学時代に図書館に置いてあった文芸雑誌に「大切なことはすべて山田詠美に教えてもらった」みたいな特集があって、気になって読み始めたのがきっかけ。「ジェシーの背骨」は名作。涙が止まらず、ココの気持ちもジェシーの気持ちもわかると共感した。

山田詠美さんの「ぼくは勉強ができない」も大好きだ。すっと心に入ってくる。固定概念や世間一般というものへの、誰でも特に若いからこそ大きく感じる違和感が、言葉として表されていて、「ありがとう」と言いたくなる。

他にも、吉本ばななさんの「とかげ」も忘れられない。繰り返し繰り返し読んで、いろんな場面で助けてもらっている。

底が知れないゲーテとサガンの小説

ゲーテの「若きウェルテルの悩み」、サガンの「悲しみよこんにちは」も、ものすごかった。

私が教えて欲しいことがたくさん詰まっていて、これらの本にはたくさんの奥深いこと、大きすぎること、私たちが大切にしなければいけない重要なことが込められていて、私は一体あと何回この本を読めば、それらがわかるようになるのだろうと思う。

まだまだこの本たちから学べることを私は感じきれていないので、これからも何回も読む。

小説が私にしてくれたこと

苦しいとき、死にそうなとき、どうしようもないとき、自分を責めるしかないとしか思えないとき、誰にも認められないと思うとき、絶対に小説は私の気持ちを否定しない。私を許してくれる。

大切にしなければいけないこと、大切にしたいと本当は心の奥底で感じていたことに、小説は気づかせてくれる。

うまく言葉にできないけれど「私が感じた何か」を、言葉にして表現してくれる。共感したいから小説を読む。わかってほしいから、わかりたいから小説を読む。表現できない「私が感じた何か」をすくいとって存在させてくれる。

そうしたら次は、この作者には、どんな世界が見えているんだろう、もっと教えて欲しい、知りたい、と思って、私の心の中がどんどん豊かになっていく気がする。

小説がこの世になかったら、小川洋子さんと宮本輝さんの作品がなかったら、私は死んでいたと思う。死にたくても死ねないけど、もし何かのタイミングが合えば死んでいたかもしれない、一歩間違えれば死んでいたかもしれないと思うような時期に、小説のおかげで命びろいした。

そんな自分の苦しい心の体験と一緒に、やさしい小説の言葉の思い出があるから、私はこのままもし元気に生きられたら、私と同じように苦しんだことのある人を、もしかしたら助けることができるかもしれない…、と大それたことを思っている。


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