週刊少年松山洋_タイトル_調整

ゲームソフトのクリア率の実情

ゲームソフトのクリア率は30%未満

現在の家庭用ゲームではトロフィー機能などを使って、サーバーで集計されるデータが開発側にも把握できるようになっています。

簡単に言うと、そのゲームソフトを購入した全体のプレイヤーがどこまでそのゲームを遊んでいるかがわかるということです。

例えば、そのゲームソフトが全10章あるとして。

1章をクリアした人の数。
5章までクリアした人の数。
10章(最後まで)クリアした人の数。

こういったデータがわかります。

で、衝撃の事実ですが。

だいたいどのタイトルであっても、最後までクリアした人の数は全体の30%くらいです。

そのゲームソフトを欲しくて購入したはずなのに、プレイヤーの7割は最後まで遊んでいないという事実です。

これはもちろん人それぞれ。

そのゲームソフトを購入したけど、遊び始めるのは買った数週間後という人もいるでしょうし、買った初日に1章だけ遊んだけど続きをプレイするのは数か月後になってしまったという人もいるでしょう。

しかし、発売から1か月後でも半年後でも1年後でも。

データを集計すると、やはりほぼクリア率は30%くらいで変わりません。

PS3以降のトロフィー機能の集計ですから、我々はこの10年くらいこの現実と向き合っています。

なぜ欲しくて買ったはずのゲームソフトなのに最後まで遊んでくれていないんだろう?

この正確な理由はわかりません。

それこそ人それぞれの理由があり、当たり前ですが購入した後のゲームソフトをどこまで遊ぶのかはお客様の自由です。

例えば格闘ゲームなどはやはり極端にストーリーモードのクリア率は下がります。20%を下回ることもザラです。これは買ってすぐにみんなやりたいのは対戦であってストーリーにはあまり興味が無い、ということなのかもしれません。

*****

では開発者としてはどうあるべきか?

こういったデータから我々開発者が考えなければならないことは。

一番多くの時間と労力を使って制作すべきは1章であるということなのです。

先ほどの例に当てはめると。

実態は

1章クリア率=90%
5章クリア率=60%
10章クリア率=30%

こんな感じです。

けど我々開発者がゲームの仕様を制作するときの“労力こだわりポイント”のイメージをざっくり考えると

1章=最初だからとにかくプレイヤーの気持ちをグッと掴むためにもそれなりの労力を使って60%くらいの凄さを体感できるようにしよう。

5章=そろそろ中盤だし、プレイヤーもシステムに慣れてきているころだから、ここらでいっちょドカンと目が覚めるような展開と、難易度を設定しようかな。80%くらいの労力を投入しよう!

10章=ラスボス戦だしこのゲームの締めくくりでもあるわけだから、全ての労力を投入しよう!感動のエンディングにこだわるぞ!120%だ!

やっぱり、“こう”考えて設計してしまいがちです。

しかし、実態はそうじゃあない。

1章クリア率=90%
5章クリア率=60%
10章クリア率=30%

これが現実なのだから。

では、どう設計すべきか?

答えは

1章=とにかく全ての労力とインパクトはここで一番使う。多くの人が必ず遊ぶことがわかっている以上むしろこの最初のパートで心をグッと掴んで最後まで遊んでもらうんだ!いきなり120%!!

5章=中盤の盛り上がりを作るんだ!けどやりすぎ厳禁だ。80%!

10章=感動のエンディングを演出したい!その気持ちはわかる。わかるけどほとんどの人(購入者の7割)がそのエンディングは見ないんだ。ここは気持ちをグッと抑えてその分の労力はやはり1章に注ぎ込もう。エンディングはサクッと終わらせるくらいがちょうど良いんだ!60%!

これが正しい設計ということになります。

あくまでこれは概念でお伝えしてますので必ずしも全てのゲームソフトの開発・設計に当てはまるわけではありませんが。

そもそもプレイヤーからすると“はあ?60%とかなんだよ?全部100%の労力で開発しろよ!”って思われるかもしれませんが。

ゲームソフト開発はやはり(当然ですが)ビジネスであり、スケジュールも予算も限られています。必要な労力を効果的に投入するためにもメリハリはやはり必要なことのです。

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サイバーコネクトツーの場合はこう

ちなみに。

弊社の実態は。

1章=120%
5章=120%
10章=120%

こんな労力で開発を行ってしまっています。

理屈じゃわかっていても、結局、序盤も中盤も最後も“めっちゃ盛り上がって燃えて遊んで感動してほしい!たとえ7割の人がエンディングを見ないってわかっていても。30%の人のために最高のエンディングを作るんだ!”って言って全力で作ってしまっています。

だから、毎回、予算もスケジュールも守れなくてパブリッシャーに迷惑をかけることになるのです。

本当にいつも申し訳ありません。

経営者としても開発者としてもそんなことでは駄目だとわかっていても。

どうしてもやってしまうのです。

これは永遠の課題だなあ。(いつか潰れる)

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さて後半部分は「そもそもそんな作り方しててなんで潰れないの?」ってことと「実際どーなってんの?」ってことを赤裸々にお話ししようと思います。

では張り切っていきましょう。

【なんで潰れないの?】

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