見出し画像

第263号『ドラゴンボールには一度も見開きが無い』

現代の漫画制作や手法・演出、もっと言うと描き方(アナログ・デジタル)は変化してきました。

先日Twitterで独自に取ったアンケート結果をこうして改めて見るともうデジタル作画が(ハイブリッド含めて)84%という現実があるのです。

最近はアジア(主に韓国&中国)で作られている多くの大ヒット漫画作品はどれも『縦読み』が主流になってきています。というか『縦読み+カラー』しかありません。

先日ニュースにもなっていたピッコマ連載中の『俺だけレベルアップな件』は月額課金売上が1億を突破するという快挙を成し遂げました。

こちらのKuraさんの記事でも詳しく解説されていますので良かったらご覧ください。

ここでも紹介されているように『俺だけ』は韓国の漫画作品です。それをピッコマさんで独占契約&ローカライズを行っているようですね。

*****

さて、ここからが今回の記事の本題となるのですが。世の中がこうして変化していくと必ずそれまでにその業界で活躍されていた古参プレイヤーの皆さんから異議が飛び出してきたりもします。

「『縦読み』だと単行本化する時に面倒」

「そもそも全然迫力が出ない」

「見開きという漫画文化の代表的な演出が使えない」

だいたい主だった意見はこんなところでしょうか。世の中に変化が起きるこうしたタイミングでは必ず最初に否定的な意見が出てきます。もちろんこれまでの伝統やテクニックが軽んじられたり表現の幅が狭くなってしまうのは悲しいことではありますが、そもそもの現実をまずは知らないといけません。

それぞれの意見に対する私の所感を述べさせていただきます。

『縦読み』だと単行本化する時に面倒

確かにおっしゃる通りではあります。広く縦にレイアウトされた『縦読み』漫画作品を単行本化(横読み)するためには大きな編集作業が発生します。

それはなかなか大きい作業で相応の労力が必要になってきます。

が、それは本当に『必要』なのでしょうか?

事実、韓国や中国ではそもそも『縦読み』だけでマネタイズ(課金)されていてわざわざ単行本化するという作業を行っていません。

『俺だけ』が日本国内の月額売上だけで1億円を突破したことからも、そこには説得力があります。

そもそも全然迫力が出ない

今の漫画はスマホで片手で読まれることが多いという傾向から世界的にも『縦読み』が増えてきているワケですが、そんな読者の方々が読みながら「迫力が無いなぁ」なんて思っているでしょうか?

恐らくはこの意見は結局のところ『古い人』がそうしたことを言っているだけで肝心の読者は何も感じることなく楽しく漫画を読んでいます。

私自身もいくつか『縦読み』漫画作品を読んでますが、すぐに慣れますね。

そしてしっかりと迫力もあります。

見開きという漫画文化の代表的な演出が使えない

「いわゆるメクリ演出や見開きというテクニックが使用できないと漫画自体の表現の幅が狭くなってしまう」という意見もよく目にしますが。

確かに私も漫画好きとして効果的なメクリ演出や見開きは大好きなので最初は「確かにこれはキツいな」とも思ったりしました。

けど、ふと「『ドラゴンボール』には一度も見開き演出が無い」ということに気づいた瞬間にその考えも消し飛びました。

あれだけの迫力あるアクションを漫画で展開していながら『ドラゴンボール』には一度も見開きが無いんですよ?信じられます?

けど事実なのです。

(読み返してどうぞご自身の目で確認してみてください。)

「見開きが使えないと迫力が出ない」ということは決して無いのです。

(まぁ『ドラゴンボール』に見開きが存在しない理由のひとつに毎話15ページ連載だったということもあります。他の連載ストーリー漫画は全部19ページだったのに『ドラゴンボール』だけは1話15ページでした。これは鳥山明先生が「それ以上描けない」とおっしゃったことと、そもそも『Dr.スランプ』も『ドラゴンボール』もギャグ漫画枠として連載がスタートしていたので15ページだったとも聞いています。いずれにせよ物語の途中から完全にバトル漫画になっていった『ドラゴンボール』ですが、15ページしか無い中で見開きなんかを使うと話の中身が無くなってしまうために当時の編集担当だった鳥嶋和彦さんが禁じたという話も聞きましたね)

追記:『ドラゴンボール』38巻17~18ページに見開きが存在します、という指摘をいただきました。改めて確認すると2ページ見開きを使ったいわゆる上段見開きが使われていました。しかしあくまで上段のみの見開きなので下段含めて2ページを5コマで表現されていたので、(上段)見開きであることは確かなのですがやはり上記の理由でページに対するコマの使い方は他漫画作品と大きく異なるということで解釈させてください。

要するに『漫画の作り方も演出も媒体も変わりつつある』ということです。

今はまだ日本国内では紙媒体の雑誌や『横読み』が主流ではありますが、ここ最近の出版不況とアジア初の『縦読み』漫画のブームも相まって大きく作り方や楽しみ方も変わってくると思います。

これは漫画業界に限ったことでは無く、どの業界でも同じことが言えると思います。

アニメ業界だってほんの10年前まではDVD・Blu-rayといったパッケージを売ることが主体で、現代のサブスクリプション(ネットフリックス・アマゾンプライム・hulu)ビジネスになるなんて誰も思っていませんでしたからね。

ゲーム業界も同じです。どんどんパッケージ販売とダウンロード販売の比率は変わってきています。(現在はおよそ7:3ですが年々ダウンロード販売の比率が上昇中です)そして無料&有料DLCやアップデートを重ねることで販売寿命の長期化がなされています。

我々のようなビジネスマンは近しい業界の情報や状況にアンテナを貼りつつ柔軟にその変化に対応していきたいですね。

*****

さて後半部分はサイバーコネクトツー社内にある『漫画チーム』ならびに『漫画研究部』の取り組みとその指導や漫画制作テクニックについてご紹介しようと思います。

今回ご紹介する内容はサークル『松山洋エンタメ研究所』内の“出版マンガ業界”スレッドでも共有した内容と重複する部分もあります。

日々色んな人たちとマンガ・ゲーム・アニメ・映画の話から業界を目指して勉強している人たちへのアドバイスなども行っています。(最近は新企画をサークル内で共有して感想・意見などを述べあうスレッドも新設しました)

良かったらご参加ください。

では、改めましてお届けしましょう。

漫画のネームを描く:1ページ5コマの法則

現在サイバーコネクトツーでは漫画チーム(サラリーマン漫画家)が社内にいて様々な漫画の制作に取り組んでいます。代表的な作品は私が原作を務める『チェイサーゲーム』ですが、それ以外にも新作の原作を2本制作中です。

で、更にそれとはまた別に「ネーム原作をやりたい」という意欲のあるスタッフ(ゲーム開発・業務部、職種を問わず)が数名いて、定期的にランチーミーティングを通じて私が直接指導を行う『漫画研究部』という取り組みを行っています。

ここから先は

1,332字
この記事のみ ¥ 300

良かったらサポートいただけると嬉しいです。創作の励みになります。