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メイド・ハンド・メイド

整った顔立ち

可愛らしいメイド服

『これからよろしくお願いします!ご主人様!』


ある日突然やってきたメイドは、私の足元でハツラツとした笑顔を私に向けた。


・・・


は?私の世話?メイド?え、小さ・・・ていうかなんなのこの生物は?
見た目は人間そのものだが、とにかく小さく、頭から足まで15cm程度しかない。


『あなたは誰?なぜ私のところに来たの?』

『私はハンド・メイド。ご主人様のお世話をするため、やってまいりました!』


なるほど、手のひらサイズのメイドだから、ハンド・メイドか。こいつは得体の知れない存在ではあるが、悪い子ではなさそうな気がする。とりあえずこんなところをお隣さんに見られるわけにはいかないので、家にあげることにした。私のお世話をすると言っていたが、このサイズで何をするのだろう。


小さなメイドはその日から私の家の家事全般をしようとするが、案の定全然うまくできない。私が普段扱う器具は当然扱えない。掃除は私が作った彼女用の雑巾であちこちを拭いているが、家事と呼べるものはそれだけだ。洗濯、料理、洗い物、全てできない。紅茶を入れようとして、自分がカップに嵌まる始末。彼女が私の世話をしようとするたびに、私にストレスが溜まってゆく。

この子は一体何をしにきたんだ。私はうんざりしていた。

でも、そんな彼女にも得意なことが一つだけあった。


『はい、ご主人様。あなたに似合うと思って、作ってみました!』


そういって、彼女は手作りのネックレスをくれた。かなりシンプルなディテールだが高級感があり、真ん中で青い宝石が輝いている。
彼女は、アクセサリーを作るのが得意なのだ。

私は元々アクセサリーをよく作っていた。この間ふと思い立って作っていたところを彼女も横で見ていて、試しに作らせてみると、初心者とは思えないとてもかわいいものを作り上げた。彼女もすっかりアクセサリー作りにハマり、それからというもの、二人で一緒にアクセサリーを作るのが日課となった。


・・・


私は、昔からアクセサリーを作るのが大好きだった。自分のイメージしたもので自分をキラキラ飾り付けるのが楽しかった。友人にプレゼントするととても喜ばれた。
いつしか私はアクセサリーを作って販売することを始めた。私の数少ない、熱中できること。好きなことを仕事にしたいという思いだった。でも、現実は甘いものではない。
やはり趣味の延長にすぎないのか、ほぼ全くと言っていいほど売れなかった。ネットで出品したり、フリーマーケットで出店したこともあった。それでも売れない。プレゼントした友人も、気づけば私のアクセサリーを身に付けなくなったことに気づいた。

誰にも認めてもらえない。
いつの間にか、あんなに楽しかったアクセサリー作りは苦痛でしかなくなり、いつしかアトリエには立ち入らなくなってしまった。

アルバイトに行きコンビニ飯で食いつなぐ、無気力な日々。そんな中、彼女が暗い我が家にやってきた。
私が作ったアクセサリーに彼女は甚く感激してくれて、気が付くと二人でたくさんのアクセサリーを作っていた。楽しかった。昔ほど、いやそれ以上にアクセサリー作りがただただ楽しかった。


・・・


彼女と一緒に作るアクセサリーには不思議な魅力があるらしく、アクセサリーを着けて友人達と出会うと、皆例外なくどこで手に入れたのとか、私も欲しいとか、口々に問い詰めてくる。
友人達を家に招き、メイドとたくさん作ったアクセサリーを見せて、気に入ってくれた友達に売ってあげるようになった。
友人達の中で口コミで私達のアクセサリーが広まり、友人が別の友人を連れてきたり、プレゼントだとかでたくさんの依頼をいただくようになった。どんどんとお客が増えてゆく。
一年が経ち、趣味の延長だったものが十分収入源と呼べるようなものになってきたとき。



小さなメイドは、私の前から姿を消した。


ある日スーパーから帰ってくると、机の上にメモが残されていた。


『ご主人様、今までお世話になりました。突然で申し訳ありませんが、お暇をいただきたいと思います。一年間、とても楽しかったです。』


急なことで驚いたが、不思議と涙は出なかった。
むしろずっと前から、いつかこういう日が来ることを心のどこかで分かっていた気がする。
彼女が一体何者でどこから来たのか、本当のところは結局最後までわからなかった。だが、きっと彼女は別の苦しんでいる人の所へ向かったのではないだろうか。


一年間、お世話になったのはこちらの方だ。彼女のおかげで私は好きだったものを取り戻すことができたし、好きなことで生きていくスタートに立たせてもらった。家事の一切できない小さなメイドは、立派に私の世話をしていったのだ。

もしまた出会えることがあれば、その時はお礼と一緒に私の最高のアクセサリーをあげよう。

メイドが最初に作ったネックレスが、カーテンの隙間から差し込む光で青く輝いていた。



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