3話★フィッシュマン 創作大賞応募作品 魚のヒーロー 海を汚す者はぶっ飛ばす! ゴミ拾いと環境問題
主人公は、中学生の広海(ひろうみ)。
海を守る魚の戦士に選ばれた!
選んだのは、魚戦隊 ギョニュー特戦隊。
一悶着ありそうな・・
★第3話★
「やだっ!」
「海へ行くギョギョ!」
「いやだ!」
「広海!いい加減にしなさいギョギョ!」
「やだってば!」
「ゴミを放置する人間がいるギョギョ!
フィッシュマンとなり、注意するギョギョ!」
「い・や・だっ!」
僕は今、ギョニュー特戦隊に取り付かれている。
彼らは、あの世からやってきた魚の幽霊なんだ。
「フィッシュマンの力があれば、人間に反抗されても大丈夫ギョギョ!」
「そういう問題じゃないよ!
嫌だよ!僕をフィッシュマンにしないで!」
僕は図書館に駆け込んだ。
僕の逃げ場は、ここしかないから。
「こら、広海!待ちなさいギョギョ!」
特戦隊も一緒に図書館に入ってきたけど、この5匹の姿は僕しか見えない。
だから、彼らが騒いでも誰も注意をしてくれない。
「はぁ~」
僕は、本棚を見ながら歩いた。
「広海!本を読むなら、この図鑑にするギョギョ!
ギョニュー特戦隊の歴史を、俺達が書いたギョギョ!」
「えっ?」
差し出された図鑑は、前に読んだおかしな図鑑だった。
「これ、図書館の本じゃないよね?
勝手に、変な本を置いたらダメだよ!」
「変じゃないギョギョ!
戦士の決めポーズを、55パターンまで書いたから、広海に渡すギョギョ!
しっかり予習をするギョギョ!」
「嫌だよ。これは、フリマアプリでも値段がつかないよ」
そう言って図鑑を押し返すと、周囲の人が僕を見ている事に気付いた。
しまった!
特戦隊の姿は僕しか見えないから、1人で喋っていると思われている!恥ずかし~!
「広海!ギョリギョリ君のアイスを買ってあげるから、海で決めポーズを練習するギョギョ!」
また、その話だよ。
彼らは決めポーズがやりたくて、この世に戻ってきたんだと思う。
ギョリギョリ君は食べたいけど、特戦隊はお金が無いから万引きしそうだし、僕はポーズを決めるのは戦う事より嫌だ。
もう、無視をしよう。
僕は、何を話しかけられても無視をした。
すると、特戦隊の熱い励ましが始まった。
「広海!君は、諦めるのか?
海は、もうダメだって?
諦めんなギョギョ!
そういうの、ダメ、ダメ、ダメギョギョ!
あの時の誓い、忘れたギョギョ?
【僕が海を守る】って言ったギョギョ!
自分を信じるギョギョ!
ドント ウォーリー、ネバーギョブアップ!ギョギョ!」
「・・・。」
そういえば、前に戦った時に【僕が海を守る!】って言ったっけ?
でも、特戦隊に言った訳じゃないし・・。
僕は返事をしなかった。
すると、次第に特戦隊のテンションは下がった。
「今時の若者は、ノリが悪いギョギョ」
そう言って、5匹は本棚の上で戦隊会議を始める。
「広海は、ヤル気無いギョギョ」
「フィッシュマンを変えるべきギョギョ」
「広海の魚の知識は、ピカイチギョギョ」
「知識だけでは、海を守れないギョギョ!
もっと、怒りのエネルギーが強い人間にするギョギョ!」
「では、ヒーローに相応しい人間というのを研究するギョギョ!
漫画で勉強をするのが、一番良いギョギョ!」
「ギョギョ~ン!」
5匹が揃って声を上げると、特戦隊は消えてしまった。
「・・行っちゃった。はぁ~。」
ため息をつきながら、特戦隊から貰った本をチラリと覗いた。
おかしなポーズが書いてある。
【決めポーズは、広海をセンターに入れてやるギョギョ!有り難く思えギョギョ!】
「フフフ。なんだよ、このポーズ!」
僕は、本をカバンに入れた。
いなくなれば、ちょっと寂しいんだよね。
だって僕は魚が好きだから、古代魚と話せるなんて本当は嬉しい事なんだ。
でも彼らは口を開けば、僕に言う。
「海を守るギョギョ!ヒーローとなり、戦うギョギョ!」
彼らは海を守る為と、決めポーズをやりたくて、あの世からやってきた。
僕と友達になる為に やってきた訳ではないんだ。
でも僕は、戦士になりたくない。
ただの友達になりたい。
フィッシュマンを断り続ければ、彼らは僕から離れていくのかな・・?
でも僕は14歳なのに、環境問題を背負って戦うなんて負担が重すぎるよ。
外を歩けば、落ちたゴミを何度も見つける。
ポイ捨てを何とも思わない人が沢山いるって事。つまり、世界はフィッシュマンの敵だらけ。
ゴミを放置する大人は、それを悪いと思っていないから環境は改善しない。
かといって、ゴミがポイ捨てされる度に警察を呼ぶ事はできない。
理解の無い人から暴力を受ける度に、僕が戦うなんて嫌だよ。
落ちているゴミの数だけ、無責任な人間がいるんだ。毎日戦いになっちゃうよ。
人と人が争うのは、最も危険な事。
【もう二度と戦争をしてはならない】
戦争の経験者が、後世に想いを残しているでしょ。人は争ってはいけないんだよ。
なのに、今でも人が人の命を奪っている。
それが、人間の世界。
無責任な大人のせいで、責任感や正義感が強い人、力の弱い人が傷付けられる。
争いを避ける為には、ルールを守る人達が負担を背負わなければならない。正直者がバカをみるようじゃないか。
だから、海はキレイにはならないよ。
すっぎょい悲しい事だけど、人間がいなくならない限り、海も山も川も美しい自然は取り戻せない。
大好きな魚がいる、海や川なのに・・。
【このまま海が汚れ、魚が滅ぶのを見て見ぬ振りをするのは許さないギョギョ!】
特戦隊に言われた言葉。
僕だって、魚が絶滅するなんて絶っ対に嫌だっ!
でも、仕方ないんだよ。
これが人間が作り出した、今の地球なんだから。
「はぁ・・。」
魚の図鑑を見るのが辛いなんて、初めてだ。
とはいえ、図書館は利用者の為の施設なので、ボーッとしている訳にはいかない。
僕は本棚を見て回った。
【司書のオススメコーナー】
このコーナーの1冊が気になった。
【お天道様は見てる 尾畠春夫のことば】
本の表紙の写真には、笑顔を見せるお爺さんが写っている。
この人を、テレビで見た事がある。
ボランティア活動で有名になった人だ。
オススメコーナーのポップには、こう書かれていた。
【様々な人の考えに、触れてみませんか?】
僕は、この本を手に取って席に戻った。
「どんな事があっても、お天道様は見てる。蒔かない種は芽が出ないんよ。」
そう述べる尾畠春夫さんは、80歳を過ぎてもボランティアに参加する元気なお爺さん。
そんな尾畠さんは、戦後の物が無い時代に貧しい家庭で育った。母親は7人の子供の成長を見届ける事はできず、栄養失調で亡くなった。
尾畠さんは小学五年生の時に、家族の為に働きに出る事になった。中学を卒業するまでに学校に通えた期間は、約3ヵ月半だった。
漢字が読めないだけでなく、子供の頃に充分な栄養が取れなかった為、19歳で全ての歯が抜けて入れ歯になるという壮絶な人生だ。
それでも、学歴のない自分が50年の間 働き続けられたのは、支えてくれた人達のおかげであるいう感謝の気持ちから、ボランティア活動を始めた。
国道の掃除や災害現場の泥かき、子供の救出など、沢山の現場で活躍してきた。
僕が一番気になったのは、尾畠さんが魚屋を経営していた事だ。
商売といえども、ずっと魚の命を頂いてきたので、人と自然に恩返しをしたいという想いを持っている。
海に入って、テトラポットの下まで掃除したらしい。
僕だって魚に感謝しているけど、テトラポットの下を掃除しようと言われたら気が引ける。
「人間ほど悪くて最低な奴はいない。
人間がいなくなれば、素晴らしい国になる」
尾畠さんと僕は、同じ考えだった。
僕が尾畠さんだったら、戦争を起こした世の中と家庭環境を恨むだろう。学歴を持てなかったのは、尾畠さんのせいじゃない。
でも尾畠さんは、人を恨んでも人に優しくしても同じ1日なら、人に優しく笑顔の1日が良いと考える人だ。
尾畠さんを取材した記者の白石さんは、こう綴っている。
【尾畠さんは、苦労に耐えてきた強さを自分の幸せの為でなく、困っている人の為に使っている。
今の日本に必要なものは、他者への想像力と、ほんの少しの優しさではないか。】
尾畠さんは、スーパーボランティアと賞賛される事を望んでいない。
それでも、尾畠さんが有名になる事を拒まないのは、ボランティアに興味を持つ人が増えて欲しいからだ。
尾畠さんは、自分に感化され、ボランティア活動を始めた人がいる事を嬉しく思っている。
そして、ボランティアは世の為、人の為でなく、自分の為にしていると何度も語っている。
本には、そう綴られていた。
僕は、セルフ貸し出し機で本を借りた。
図書館から出て、歩きながら考えた。
海でゴミ拾いのボランティアを募集しているのは知っている。
でも、やる気になれずにいた僕は迷った。
無趣味な僕が生きる為の支えは、魚しかない。
今の僕に、海の魚達の為にできる事は、きっと掃除しかない。
前から思ってはいたけれど、清掃ボランティアに参加する気になれずにいた。
「・・・。」
僕は、立ち止まってスマホを取り出した。
【清掃ボランティア】と検索する。
「フィッシュマンにはならないけど、海の掃除をする事で、少しでも海を守りたい!」
そう言ったら、特戦隊は何て言うかな・・。
「はぁ~」
僕は、すぐにため息が出てしまう。
こんな世の中が、いけないんじゃん。
こんな世の中が、人間をダメにするんじゃん。
掃除なんてしたって意味がない。
僕はスマホをカバンに入れた。
すると、笑顔の尾畠さんが見えた。
尾畠さんは、今日もどこかでボランティア活動を続けているのだろう。
「蒔かないものは芽が出ない。人を育てるのも一緒。
良い種を蒔かないのに、文句ばかり言ってたらダメなんよ」
ミーン ミーン ミーン・・
特戦隊が帰って来ない日々が続いた。
トイレにまで付いてくる彼らが面倒だったのに、僕はずっと帰りを待っている。
「このまま帰って来ないかも・・」
僕は、フィッシュマンに向いていないって言われたもんね。
もう僕は降板されて、新しいヒーローが誕生しているかもしれない。
ヒーローになるなら、熱血テニスプレーヤーみたいな人がいいよね。
「みんな!しっかり自分を持つんだ!
絶対に諦めんな、海は必ずキレイになる!
サバになれよ!ネバーギョブアップ!」
なんて言ってくれたら、やる気になるよ。
「トングとゴミ袋をお持ち下さい」
「あっ・・、はい!」
人任せな事を考えてボーッとしていたら、すでに清掃活動は始まっていた。
僕は、初めてボランティアに参加した。
何もする気が無い訳じゃないんだ。
海も魚も、どうなってもいいなんて思っていない。僕は僕にできる事をするよ。
小さな事でも、少しでも海に貢献したいと思っているんだ。
だから、僕の事を嫌わないで欲しい。
僕にとって、魚に嫌われるのは人間に嫌われるより辛い。
でも、もう遅かったかな・・。
「特戦隊は、もう僕には期待していないよね・・」
僕にとって僕自身が何かに選ばれるのは、初めての事だったのに・・。
うつむいて、僕は掃除を始めた。
ミーン ミーン ミーン
朝早くても動くと暑い。
そして、汚い。
昨日の夜に遊んで帰ったと思える、花火のゴミとビールの空き缶が落ちていた。
何でゴミを持ち帰らないんだろう?
家に持ち帰るだけだよ。小学生でもできるよね。
僕は、始まってすぐにイライラした。
だから、嫌だったんだよ。
「何で、僕が掃除をしなきゃいけないの?
何で、人が落としたゴミを拾わなきゃいけないの?僕のゴミじゃないのに!」
そう思ってしまうから、やる気になれなかったんだ。
「若い方が参加しているのね。偉いわ。」
「え?」
僕は、側にいたお婆さんに声を掛けられた。
お婆さんも、トングでゴミを拾っていた。
「えっと・・。暇なんで」
僕は、照れくさかった。
「暑いから、気をつけてね」
そう言ってくれたけど、それは僕のセリフだよ。
なんで、お婆さんが掃除をしなきゃならないの?
シワシワの手と少し曲がった背骨の体で、こんな暑い日にゴミを拾わなきゃならないの?
それは、ゴミを放置する人がいるからだ。
だから、こんな世の中が嫌なんだ。
子供もゴミ拾いに参加しているんだよ。
ゴミを置いて帰った大人は、恥ずかしいと思えよ!
ちっくしょおお!
ルールを守らない奴らがいるから、いけないんだ!
そう思いながら、ゴミを袋に詰め込んだ。
「お姉さん、可愛いじゃーん!一緒に遊ぼうぜ~!」
賢いとは言えなさそうな声が浜辺に響いた。
声がする方には、2人の男性がいた。
サーフボードを持ち、チャラ男というあだ名がピッタリな人達だ。
でも彼らよりも、もっと目立つ人が側にいた。
女性と思える、その人の髪の色は黄色と青。
その後ろ姿は、まるでアニメのキャラクターみたい。
「アンタ達、ゴミは持ち帰りなさい!
ぶっ飛ばすわよ!」
大きな声が浜辺に響いた。
「お姉さん、気強いね~!
でも俺は、そういう子もタイプ~」
「タバコを海に流すんじゃないわよ!」
「そんな事、どうでもいいじゃ~ん!
俺達と遊ぼうぜ!」
女の子は、チャラ男に腕をつかまれた。
「手を放して!タバコを拾いなさい!
本気で、ぶっ飛ばすわよ!」
「いいんだって!
ゴミ拾いしてる連中がいるじゃん!拾わせときゃ、いいんだよ!」
そう言って、加えていたタバコを地面に落とした。
これには、僕もカチンときた。
「自分のゴミは、自分で片付けなさいよ!」
女の子は、男の手を払いのけようとした。
でも、細い腕では払う事はできなかった。
「ゴミなんて、どーでもいいじゃん!行こうぜ!」
すると、女の子の全身が光に包まれた。
「アンタ達みたいな動物以下の人間は、魚に食われてしまえばいいのよ!」
そう叫んだ女の子の右腕が、強い光に包まれた。
あれって、もしかして・・。
ギョギョギョーーン!
やっぱり!腕が、魚に変わった。
海のギャングと呼ばれるウツボが現れた!
「海を汚す者は、ぶっ飛ばす!」
あの能力は、フィッシュマンと同じ!
ウツボは、口を開いて男達を睨んだ。
僕以上に驚いたチャラ男達は、女の子から離れた。
「うえぇ!何だよ?気持ち悪い女だな?」
「やべーって。行こうぜ!」
チャラ男達は、顔色を変えて逃げ出した。
「アナゴっちん!あいつらを、捕まえなさい!」
「了解だっちん!」
「ええぇ!?」
僕は驚いた!
彼女の声と共に、チンアナゴとニシキアナゴが地面から飛び出したのだ!
長~く体を伸ばして、男達の足に巻きついていく!
「捕まえたっちん!」
ニシキアナゴの体は、本来はそこまで長くはない。大体、40センチ位。
でも、僕にはわかる。コレは彼女の力なんだ。
「うぇ~!何だよ、これ!気持ち悪っ!」
男達は、驚いて尻餅をついた。
「ウツボの餌になるのと、ゴミを持ち帰るのと、どちらか選ばせてやるわ」
腕に付いたウツボは口を大きく開けて、やる気満々に威嚇している。
「おい!やべぇよ、この女!」
「わかったよ!ゴミを持ち帰れば、いいんだろ!」
そう言って、男達はタバコを拾った。
「ゴミ袋をあげるわ。二度とゴミを放置するんじゃないわよ!」
男達は悔しそうな顔だったけど、タバコを全部拾うと逃げて行った。
僕は、拍手を贈りたい気持ちになった。
なんて、たくましい女の子。
そっか。新しいヒーローは、この子になったんだ。
「広海の仲間ができたギョギョ!」
ギョギョーーン!
僕の前に、特戦隊が現れた。
出てくるだろうとは思っていたけど、4匹しかいなかった。
「仲間?」
「そうギョギョ!
あの女の子は、新しい魚戦士のウツボちゃんギョギョ!広海に会わせたくて、連れてきたギョギョ!」
「・・・。」
「広海が掃除の為に、ここへ来るのは知っていたギョギョ!
俺達は姿を現さなくても、広海を見ていたギョギョ」
「えっ・・?そうだったんだ」
特戦隊は、僕を見放した訳ではなかったんだ。
「そうギョギョ!広海がウンコをしている時も、見守っていたギョギョ!
広海が行動するのを待っていたギョギョ」
余計な事を言いやがってと思ったけど、また特戦隊に会えて嬉しかった。
「広海に、ウツボちゃんを紹介するギョギョ!ウツボちゃ~ん、こっちへ来るギョギョ!」
「えっ・・」
僕はクラスの女子とも、ろくに話した事がない。
こんな時、どんな顔をしたらいいのかわからないの・・。
とか思っている場合ではなく、男らしく、いや魚らしく、「ぎょきげんよう!」の一言から始めてみよう。
ウツボちゃんが、僕の顔を見ながら近寄ってきた。よし、今だ!
「あの、ぎょきげんよう・・」
「これの、どこがスーパーヒーローなのよ?」
「えっ?」
僕の挨拶は完全にハズした。
ウツボちゃんは小者を見るように、僕を見ている。
「こんなのが、本当に海を守れるって言うの?」
「・・・。」
僕は、返す言葉がない。
「海の戦士は、私一人で充分よ!」
するとギョニュー特戦隊 第5戦士のティクターリクが、ウツボちゃんの側へ近付いた。
「俺もそう思うギョギョ!
ウツボちゃんは、選ばれし最強戦士ギョギョ!彼女1人でも、地球を守れるギョギョ!」
「私なら、戦闘力55万まで上げられるわ!」
強気な彼女は、戦いたくない僕にとって好都合に思えた。
「うん!僕も、そう思うな。
ウツボちゃんなら、スーパーヒーローになれるよ!」
すると、第1戦士のミロクンミンギアが僕の元へ近寄ってきた。
「ウツボちゃんと広海は違うギョギョ。
ウツボちゃんは魚から人間になった戦士なので、アナゴ目の魚の能力しか引き出せないギョギョ!」
「えっ?魚から人間になったの?」
僕は驚いてはみたけれど、ウツボちゃんの髪の色を見た時から、【ハナヒゲウツボみたいだなぁ】と思っていた。
「そうギョギョ!
魚の能力を最大に活かし、戦闘力55万まで上げられるのは、フィッシュマンしかいないギョギョ!」
「僕は戦うのは、嫌なんだよ!」
すると、ウツボちゃんは僕を見下す様に睨んだ。
「アンタの事は聞いてるわよ!海はキレイにならないと思っているんでしょ!
何もしないで諦めてんじゃないわよ!
ネバーギョブアップよ!」
彼女は、まさに熱血テニスプレーヤーと同じタイプだ。ヒーローにピッタリ!
「魚戦士はウツボちゃんだけで、十分じゃないかな?」
僕がそう言うと、第4戦士クラドセラケが近寄ってきた。
「広海よ、俺達は人間を殺せと言っている訳では無いギョギョ。
人間が殺し合いをすると、動物の命だけでなく、地球を壊す程の力を発揮すると聞いているギョギョ。
人間同士の争いは危険と思っているギョギョ」
僕は、その考えを聞いて安心した。
「そうだよ。考えの違うものが争うと、戦争になるんだよ。危険だよ!」
すると、次は第2戦士サカバンバスピスが近寄ってきた。言いにくい名前だよなぁ。
「 ルールを守らない者に注意をすると攻撃してくるから、身を守る為にフィッシュの力を与えたギョギョ!
この世界は、被害者が傷を背負って生きる世の中ギョギョ!
正しい心を持つ人間の行いが報われるように、強い力を役立てるギョギョ!」
「・・・。」
僕は黙った。
そうは言っても、人の考え方の違いで起こる問題は、解決するのが とても難しい事なんだよ。
結局、どちらかが力で押さえつけるしかない。僕は、それに関わりたくない。
「本当に最低よね、今の地球って。」
ウツボちゃんが言った。
「・・・。」
僕だって、好きで人間になった訳じゃないよって言いたくなる。
「俺達は、広海が清掃活動に興味を持っている事を嬉しく思ったギョギョ!だから、考えたギョギョ!
その気持ちを持ち続ける為にも、行動に意味があるものにして欲しいギョギョ!」
「僕に、どうしろっていうの?」
「清掃活動では、人の心を掴む人間を必要としているギョギョ!
率先して活躍し、海をキレイにしたいという気持ちを見せると、その気持ちが人へと伝わり人の心を変えるギョギョ!
それが、考えを持つ人間のやり方ギョギョ!」
「PR活動って事?
そういうのは有名人がやるもんだし、それで海がキレイになるとは思えないな。」
僕が答えると、ウツボちゃんはゴミ袋の中身を見せつけてきた。
「私は昨日も ここでゴミ拾いをしたのに、今日も これだけのゴミが落ちてるのよ!
1人でゴミを拾ってるだけじゃ、地球は変わらないわよ!」
「・・・。」
相手は女の子なのに、睨まれると僕の背中は丸くなる。
「ぼっ・・、僕には他にできる事もないし!」
「できる事を考えるのよ!アンタは、考える力を持った人間でしょ?」
僕は不満だった。
僕一人が悪いみたいじゃんか!
「そういうのは、環境省っていう政治家が考えて決めるんだよ」
「政治家に任せた結果が、今の地球なんじゃないの?
地球の未来を良くする為には、地球に住む人間、全員の力が必要なのよ!
誰かが何とかしてくれるだとか、人任せにするんじゃないわよ!
アンタの未来でもあるのよ?」
説教を受けたみたいで、カチンときた。
僕は、ゴミのポイ捨てなんてしたことはないのに!
そう思った時だった。
ずっと姿が見えなかった、第3戦士アンドレオレピスが現れた。
「大変ギョギョーー!
密漁してる人間がいるギョギョ!」
「何ですって?」
「こっちギョギョ!」
そう言って、ウツボちゃんは走り出した。
「密漁?」
僕は、前に戦ったオジサンを思い出した。
あのオッサンなら危ない!
「広海も追いかけるギョギョ!」
えっ?
頭の中で声が響いた。
僕が頭の上を触ると、小さなヒレが動いていた。
「お久しぶりギョギョ!」
ギョギョ!?頭の上に、ギョっちゃんがいる!
僕は気付いたらフィッシュマンになっていた。
「早くレッツギョーするギョギョ!」
ギョっちゃんの掛け声が頭に響く。
ウツボちゃんがいれば、大丈夫じゃないかな・・。
そんな弱気な事を思いながら、僕はウツボちゃんを追いかけた。
はぁ!はぁ!
僕は必死に追いかけたけど、ウツボちゃんは足が速い。
もう僕は、足手まとい決定だ。
今日は、出番無しかな。
そう思ったけど、やっと登場できたギョっちゃんは やる気満々だ。
「ギョギョ!出番が無くなってたまるかギョギョ!広海に、力を与えるギョギョ!」
「えぇっ?」
「広海の大好きな速く泳げる魚は、なーんだ?ギョギョ!」
「速く泳げる魚?それなら、スピードキングはバショウカジキって言われているよ。
でも、最近の研究ではクロマグロやホホジロザメのが速いとも言われているんだよね」
「レベルの高い魚の能力は、出せないギョギョ!
広海の戦闘力は【たったの5】だから、もうちょっと小さな魚にするギョギョ!」
「たったの5・・。じゃあ、トビウオとか?」
「ギョッテン承知ギョギョ!
トビウオちゃんで、頑張ってみるギョギョ!」
ギョギョーーン!
ギョっちゃんが、声を上げた。
でも、腕には何も付いてない。
何が変わったんだろう?
「広海に、翼のような胸ビレと、発達した腹ビレを与えたギョギョ!
トビウオが水面を飛ぶように、走るギョギョ!レッツギョー!」
「えっ?」
突然、僕の一歩が軽くなった。
ジャンプするみたいに、体が跳ね上がる!
「うわあぁ!すっぎょいや!
一歩一歩が、大きなジャンプで進む!
トビウオって、一回のジャンプで数百メートルを飛べるもんね!」
「そうギョギョ!
トビウオは 尾ビレを左右に降る事で、頭を上に向けて飛ぶギョギョ!
広海は足を動かし、顔を上げて走るギョギョ!トビウオのように、全力で生きるギョギョ!」
「うん!すっぎょいよ!元気が出る!
僕は、トビウオなんだね!嬉しい!」
「広海がフィッシュマンになって、初めて笑ったギョギョ!オイラも、嬉しいギョギョ!」
「あはは!こういう能力なら、いつでも出してよ!」
「1日に使えるエネルギーは、限られているギョギョ!
だから、本当に必要な時しか能力は出さないギョギョ!」
「えぇ~。そうなの?」
それは残念だったけど、またギョっちゃんと会えて嬉しかった。
僕は大きなジャンプを続けて、あっという間にウツボちゃんに追いついた。
軽かった足は、元に戻った。トビウオの能力は消えてしまったみたい。
「あそこに男達がいるギョギョ!」
「本当だ!」
目を向けた先で、4人の男が釣りをしていた。あのオジサンではなくて安心した。
でも、男達の周りには、ビールの空き缶やビニール袋が散らばっていた。オジサンと同類の生物ではある。
「アンタ達!ここは釣り禁止なのよ。
魚を海に戻して、ゴミを拾いなさい」
男達は、ウツボちゃんを見て ギョっとした。
「また、お前かよ!腕から変なもん出してきてよ、ゴミ拾えって うるせーんだよ!」
ウツボちゃんは、腕を組んで相手を睨みつける。
「ねぇ?アンタ達って、本当に人間なの?
人間は考える力が高いのよね?
なのに、どうして言われた事を理解できないのよ?
ゴミは持ち帰るのがルールって、伝えたでしょ?チビッコでも、理解できるわよ」
ウツボちゃんは、素直に思う気持ちを伝えたんだろうけど、すっぎょいバカにしている。
「はあぁ?お前みたいな奴、うぜぇんだよ!」
あ~ぁ。怒らせちゃった・・。
男達は体の大きい3人組だ。大丈夫かな・・。
「魚は人間の玩具じゃないのよ!
アンタ達は食べもしない魚を捕まえて、バケツの中で見殺しにする。
捕まえるなら、責任を持って食べなさいよ!」
その時だった。
「危ないギョギョ!」
「ウツボちゃん!」
僕らが叫ぶと同時に、3人は同時にウツボちゃんを襲った。
「うるせー女だな!」
「何すんのよ!」
1人の男が、後ろからウツボちゃんをつかんだ。ウツボちゃんは、口を抑えられた。
「ううっ!」
まずい!アイツは、かなりデカくて体格が良い。
すると、特戦隊が僕を見る。
「広海!ウツボちゃんは、広海とは違うギョギョ!
精神面が強くても、体の力が弱まれば魚の能力は出せないギョギョ!」
「えっ・・。」
「広海が戦うギョギョ!
ウツボちゃんを、助けるギョギョ!」
僕の体は固まった。
「えっと・・。」
ウツボちゃんは、掴まれた太い腕からは逃げられない。1人の男が彼女の服を掴んだ。
「生意気なんだよっ!」
「服、脱がせようぜ!」
ウツボちゃんは、必死に抵抗してる。
「うう・・!」
でも、女の子の力では敵わない。
「広海!助けるギョギョ!」
「・・やっ、止めてよ!」
僕の心臓は高鳴った。
ドクン ドクン!
これは犯罪だ。
力の強い男性に狙われやすいのは、女性や子供だ。
人を平気で傷付ける者は、自分より弱い者を狙う。
僕が一番許せない事。それは、卑怯な事だ。複数の人数で集まれば、1人の人は抵抗できない。それをわかってて狙うんだ。
僕のクラスの女の子が、夜道で男の人に捕まってスカートを切られたって言って泣いていた。
もう怖くて、外を歩けないって。
犯人は、何も言えなさそうな子を狙うんだよ。
僕も、そうなんだ。
弱そうな生き物と思われて、狙われるんだ。
「最低よね、今の地球って。」
ウツボちゃんの言葉を思い出した。
「広海は、弱くないギョギョ!
オイラがいるギョギョ!オイラは、どんな時でも広海の味方ギョギョ!」
ギョっちゃんの声が頭に響く。
僕は、拳に力を入れた。
「電気ナマズで、いくぞ!
今度は、力を入れるからっ!」
「ギョッテン承知ギョギョ!」
ギョギョーーン!
僕の腕が、電気ナマズに変わった。
電気ナマズは、2回目の登場!
今度は、失敗できない!
電圧を最大に上げてくれよ!電気ナマズ!
「心配ギョムヨウ!広海は、ぶっ飛ばす事だけを考えるギョギョ!」
「わかった!」
僕達の気持ちは、一緒だ!
「くらえ!電気ナマズの最大電圧!
350ボルトだぁーー!」
僕は、電気ナマズで殴るように立ち向かった。
ピッカ、ピッカ、ギョーーン!
思った以上に、電気ナマズが光り出した!
「うわぁ!何だ?」
男達は、花火が飛び散るような強い光に驚いて後ろへ下がった。
これには、僕もビックリだ!
本当に350ボルトも出ちゃうの?
人間は、42ボルトで死ぬんだよ?
黄色のネズミのように戦わないと、僕は犯罪者になっちゃうよ!
そう思ったら、僕は戦えなかった。
「何をやってるギョギョ!早くレッツギョーするギョギョ!」
「ちょっと待って!これ何ボルト?
火花が散っているんだけど!」
「何ボルトだって、いいじゃんギョギョ!
カッコ良く決めるギョギョ!」
「だめだよ。僕は、人間の世界で生きてるんだ。
魚の弱肉強食とは違うんだよ。相手が死んだら犯罪だよ!」
その時、電気ウナギよりも 凄まじいエネルギーを感じた。
「ギョチャギョチャ言ってんじゃないわよ!」
ウツボちゃんは、男が油断している間に腕から逃げ出したんだ。
「全員ぶっ飛ばす!」
ウツボちゃんの腕から、大きなウツボが出てきた。
「うおらぁーー!」
ウツボちゃんが叫んで腕を伸ばすと、ウツボが1人の男に噛み付いた。
「ぎょえ!何だ、これ?」
男は簡単にウツボを振り払った。
すると、1人の男が僕を指差した。
「おい、アイツがヤバいって!
あの変なコスプレの奴!」
ずっぎょーん!僕は傷付いた。
魚のヒーローなのに!わかってもらえない!
でも僕の電気ナマズが、花火みたいに光り続けている事は気になったみたい。
「アイツ、気持ち悪いな!行こうぜ!」
ずっぎょーん!
気持ち悪いとまで言われた!
そう言って、男達4人はこの場から離れようとした。
「出てらっしゃい!アナゴっちん!」
「出番だっちん!」
ウツボちゃんの掛け声で、沢山のチンアナゴの仲間が地面から飛び出しきた!
体を何倍にも伸ばし、男達に巻き付いていく。
どこからでも、チンアナゴ達は出てこれるんだ!すっぎょ~い!
チンアナゴ達は、光に包まれている。
これは、ウツボちゃんのエネルギーだ!
「うわぁ!何だよ、これ?」
チンアナゴ達が、何匹も束になって男達の体に巻き付いた。
「ウツボに代わって、おしおきだっちん!」
男達は、まるでロープで縛られたみたいに動けなくなった。
すると、ウツボちゃんが男達にウツボを向けた。
「海は人間のものと思ってんじゃないわよ!
うおらああーー!」
ウツボちゃんは、ウツボで男達を殴った。
ウツボちゃんの会心の一撃だ!
ザボーーーン!
「うわーーー!」
ゴミが捨てられるみたいに、男達は海に落ちていった。
「さよならだっちん!」
そう言って、チンアナゴ達は消えてしまった。
「すっぎょ~いっ!すぎょいっ!」
僕は、ウツボちゃんの能力を見てテンションが上がった。
「はぁ。はぁ。」
でも、ウツボちゃんは苦しそうに息を切らして座り込んだ。
すると、ギョっちゃんがヒレをパタパタと動かした。ウツボちゃんを心配しているんだ。
「オイラには、わかるギョギョ。
ものすごいエネルギーを使っているけど、ウツボちゃんの攻撃は そこまでダメージを与え無いギョギョ。
腕を強く掴まれる位のものギョギョ」
「え?そうなの?ウツボちゃんは、戦闘力55
万でしょ?」
すると、特戦隊ミロクンミンギアが僕の目の前に来た。
「ウツボちゃんは、力が強い訳ではないギョギョ。強気なだけで、戦闘値には限界があるギョギョ。
だから、フィッシュマンの力が必要ギョギョ!ウツボちゃんだけでは、海を守れないギョギョ」
「・・そうなの?」
こんなに根性があるのに・・。
僕の精神面と取り替えて欲しい。
「はぁ、はぁ。」
座り込むウツボちゃんは、苦しそうだ。
「あの・・、大丈夫?」
ところが彼女は、僕の心配なんかどうでも良さそうに勢いよく立ち上がった。
「よっしゃー!全員で決めポーズいくわよ!」
「ギョギョーー!」
みんな、やる気満々だ!
僕が一番やりたくない決めポーズを!!
「行くギョギョーー!」
「俺達はーー!」
ウツボちゃんは、指でポーズを決めた。
「海の魚の美少女戦士!」
「ギョギョ!?ウツボちゃん!それは違うギョギョ!」
「海に代わって、おしおきよ!」
チャキーーーン!
★つづく★
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