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【海の生き物への憧れ】奥村朝美 インタビュー

奥村朝美 個展「ガラスで彩る、海といきもの展」開催中です。

奥村さんとは、ピカレスクが2021年に開催した【 食べるの神様展】で初めてご一緒しました。

その後、2022年に【奥村朝美 作品展「海といきものガラス展」】で奥村さんの過去作品を一堂に展示。2023年1月に開催した企画展「HOU展」へのご出展を経て、今回 満を持してのピカレスク初個展をご開催いただいています。

そんな奥村さんに公開インタビューをいたしました!本記事では、そのインタビューの模様をお届けいたします!


「ねえ、奥ちゃんはどんなものが好きなの?」

ーーまずは簡単に自己紹介をお願いいたします!

奥村朝美(以下、奥村):初めまして!海や海洋生物を中心に、いきものモチーフのガラス制作をしています!

ーーまずは、奥村さんのこれまでのあゆみを辿っていけたらと思います。
奥村さんは、子どもの頃からものづくりが好きだったそうですね?

奥村:はい。子どものときから、幼少期より絵を描いたりものづくりが好きでした。
美術系に進みたいと思っていた中学生の時に、とんぼ玉体験をしたのがきっかけでガラス作家(当時はとんぼ玉作家)になりたいと思い、今に至ります。とんぼ玉体験をしたとき、ガラスに一目惚れをしたんですよね。元々光り物が好きで、天然石がお店にあると目を輝かせているような子でした。

ーー元々キラキラしたものが好きだったんですね。大きなきっかけになった初めてのとんぼ玉体験はどんな感じでしたか?

奥村:とんぼ玉は、棒状の硬いガラスを溶かして、鉄の棒に巻きつけて作っていきます。最初はすごく硬い棒状のガラスが、火で炙るとうねうね動き出すんです。それが、不思議な生き物みたいに思えて。綺麗でもあり、可愛くもあり、「なんだこれは!」と面白く感じました。

ーーその後、美術系の高校に進学された奥村さんですが、当時からガラスを学ばれていたんですか?

奥村:高校のときはまだガラスの勉強はしていませんでした。普通の高校より美術の授業の時間が長くて、絵を描いたり、デザインをしてみたり…という内容でした。
ですので、大学は絶対ガラスが学べるところに行こう!と決めていました。

ーー大学に進んで、ガラスの勉強を本格的に始めて、いかがでしたか?

奥村:まず、たくさんガラスと触れ合える時間が取れるようになった、というのがとても嬉しかったですね。そして、作ることも楽しかった!それまでは、とんぼ玉と吹きガラスくらいしか経験がありませんでした。電気炉を使うガラス製法(キルンワーク)を学んで、「こっちの方に進みたいなあ」という思いが強くなっていきました。

ーー念願だったガラスの勉強。喜びもひとしおでしたでしょうね。
その後、ガラス専門学校に進み、研修施設でも学ばれた奥村さん。その時に挫折を味わったそうですね?

奥村:そうですね。専門学校に行って、その後研修施設へ進学する際、面接があったんです。その面接は、普通であれば通るような面接で、自分としても真面目に取り組んだつもりだったんですけれど、なんと、落ちてしまったんです。「君の作品は◎点中○点だ!」と、具体的な数字を聞いたのも初めてで、「今までの私の制作はすべて無駄だったのか」と、どん底を味わいました。
それで、「次、どんなものを作ろうか?」と考えていた時、雑談の中で友人に「ねえ、奥ちゃんはどんなものが好きなの?」と聞かれて。私が「丸っこくて、短足なものに目がない」と話したら、「じゃあなんでそれを作らないの?」と言われたんです。「言われてみればそうだな」とそこで気づきました。
当時の私は、先生方のお言葉や評価の影響もあり、「複雑な考えがあって、崇高なものを作らなきゃいけない」と背伸びをして制作していたように思います。友人の言葉をきっかけに、一種開き直って、「じゃあ、好きなものを作ってみよう!」と初心に戻ることができました。そして、「そういえば、私元々とんぼ玉作りたかったんだよな。お魚も好きだったよな。お魚作りたいな」とぼんやり思い出して、今のようなちょっと変わった生き物を作るようになりました。

海の生き物への憧れ

ーー今回の個展名は『ガラスで彩る、海といきもの展』。いろんな生き物がいますが、メインとなっているのは海の生き物たち。海洋生物への興味はいつ頃からですか?
奥村:小さい頃からですね。毎年、海水浴場に旅行に行っていて、それとセットで水族館にも行っていたんです。キラキラした海水魚たちがすごく綺麗で、好きになりました。最初は、クマノミとか、キイロハギ、ルリスズメダイなどの鮮やかな色の魚がお気に入りでした。その延長で、サメ、クラゲ、ウミウシ…などと海洋生物全般が好きになっていきました。

ーー海の生き物も、小さい頃から好きだったんですね。“光り物が好きで”というところとも、関連性を感じます。今でも水族館には行きますか?
奥村:時間があれば!今年関東に行った時には、新江ノ島水族館に行きました!
資料を撮る目的もあるので、一眼レフを抱えて行きます。できるだけ他の方の邪魔にならないように気をつけながら、端っこの方でじーっと見ています。側から見たら変な人ですよね(笑)

ーー海の生き物のぐっとくるポイントはなんですか?
奥村:私、海の生き物にはずっと憧れを持っているんです。
海洋生物たちが、あんなに青く美しい海という世界に住んでいるということも、憧れに繋がっています。
海の生き物は本当に個性的。ビルみたいに大きな子もいれば、数ミリサイズの小さな子もいる。生き抜くために進化した姿が、あのような鮮やかな色彩や華麗な模様を纏っている姿、というのがまた素敵だと思っています。
また、謎が多いところも惹かれる部分です。

ーー多分いろんな子が好きだと思うんですけれど、特に好きな海の生き物はいますか?
奥村:今一番好きなのは、SNSのアイコンにしている“ヨダレカケ”という魚です。海中ではなく、普段は岩の上などに張り付いて過ごしています。
この子を初めて見たのは、学生の頃に行った水族館です。今SNSのアイコンにしている子が、たまたま水槽の中で、1番見やすい真ん中のところにいて、こちらに顔を向けていたんです。とても小さい顔で、じーっと張り付いている様に一目惚れしてしまいました。それからずっと、SNSのアイコンやパソコンのデスクトップもこの子の画像にしているくらい好きです。岩の上でコロコロ転がったり、水面でぴょんぴょん跳ねる時に、尾びれをくねっとさせる様など、姿や動き全て含めて大好きです。

ーー奥村さんのお話の様子から、ヨダレカケへの愛が伝わってきます。ヨダレカケは作品にはされているんですか?
奥村:実はまだ作品にしていないんです!好きだからこそ、なかなか作れないです。自分の技術が向上して、形にできるようになってから作ろう、と思いながら今に至ります。そろそろ作ろうかなあと思っているんですが、やはり本物が1番可愛いと思っているので、いかにこの可愛さや素敵さを表現できるかなあと思うと、逆に考え込んでしまって。もちろん、今までモチーフにしてきた生き物もすごく好きですが、自分が一等好きな生き物だと、ちょっと尻込みしてしまいますね。

ーーいつか奥村さんの作ったヨダレカケを見るのが楽しみです!
奥村さんの作品の中には、海洋生物以外の生き物もいますが、やはり海の生き物に強く思い入れがあるんですね。

奥村:作る時も手に馴染む気がしています。他の生き物も好きなので、徐々に作っているのですが、哺乳類を作るのはすごく難しく感じます!哺乳類は骨格がしっかりつくれないと軟体動物みたいになってしまいます。海洋生物にはない部位も作るのが難しい…。哺乳類をモチーフに作られている方、尊敬しています!

パート・ド・ヴェール技法について

ーー奥村さんは現在主に、“パート・ド・ヴェール技法”を用いたガラス制作をされています。パート・ド・ヴェール技法は、どのような技法なのでしょうか?
奥村:電気炉を使うガラス製法(キルンワーク)の一種です。パート・ド・ヴェール技法の特徴は、石膏などの型に粉ガラスを詰めて電気炉で焼成、成形することです。
たとえば、メンダコさん1匹を例にとって流れを説明すると…

①ワックスでメンダコさん原型をつくる
② ①をもとに、石膏型を作る。
③石膏型からメンダコさんの原型を取り出す
すると、石膏型の中にメンダコさんの形をした空洞ができる
④翌日以降、石膏型の空洞に、粉ガラス(色ガラスの粉)を入れる
⑤粉ガラスを詰めた石膏型にガラスの欠片を加え、4日間電気炉へ窯入れする
⑥4日後、冷めた石膏型を窯から取り出す
⑦石膏型から、出来上がったガラスを取り出す
⑧機械で加工
⑨サンドペーパーを用い、手で磨いて仕上げる

このような流れで作ります。おおよそ10日くらいですね。大きい作品であれば、もっと日数がかかります。
ちなみに私の場合は、粉ガラス以外に、ガラスの欠片も使用して成形しています。

ワックスで作った作品の原型
作品の原型を元にして作った石膏型。窪みに粉ガラスを入れていく。
粉ガラス詰めた石膏型にガラスの欠片を加え、電気炉へ窯入れする。
焼成後、窯から出した石膏型の様子。
石膏型から、中に入っているガラスを取り出していく①
石膏型から、中に入っているガラスを取り出していく②
石膏型から、中に入っているガラスを取り出していく③
石膏型から、中に入っているガラスを取り出していく④
石膏型から、中に入っているガラスを取り出していく⑤
機械で加工!この後、磨いて仕上げをして完成です。

ーーガラスの粉には元々色が付いているんですか?
奥村:はい。元々色のついたガラスを細かく砕いて粉状にしているので。例えば赤い色でしたら、赤いガラスを細かく砕いているものを使っています。

ーー色を混ぜることもできますね!ただ、奥村さんのインスタグラムで「色同士の相性や、ガラスによっては非常に濃い濃度でしか発色しないものもある」と書かれているのを見ました。色の組み合わせなど、どんなふうに試行錯誤されているのですか?
奥村:それは本当に、焼いてみないとわからないところがあるんです。
ガラスを販売しているところが、色見本を出してくださっているのですが、それとはまた異なる色になったりすることもよくあります。というのも、ガラスの発色は技法や温度に左右されるからです。例えば、電気炉で600度台で溶かしたときと、900度台で溶かしたときで発色が異なる色もあります。
色の混ぜ方も、例えば絵具で混ぜる感覚とは異なります。絵具で赤と黄色を混ぜるとオレンジ色になりますが、ガラスの赤色と黄色を混ぜると茶色になってしまいます。
「数年前に買ったこの色のガラスはこういうふうに発色したから、今回買った同じ色もこんな感じだろう」と思って使ったら、予想と違った!なんてこともあります。ですので、私のようなキルンワークで、色をたくさん使う作家は、自分で色見本を作って、それをもとにして色を考える人が多いです。

ーー綺麗なグラデーションになっているところもありますが、どうやって作るんですか?
奥村:相性の良い色ガラス同士を石膏型に詰めて焼くと、ガラスが自然に溶け合ってグラデーションになります。ガラスは溶かすと流動するので、それにより色が伸びたり流れたりして交わっていきます。それが綺麗なグラデーションになります。

ーーでは、偶然というか、たまたまできるものでもあるのですね。
奥村:再現しようと思っても、同じものは作れないですね。
なので、焼き上がった後、石膏型からガラスを取り出す時は「今回はどうなっただろうか?」と、とてもわくわくします。

影響を受けたアーティスト

ーー奥村さんが影響を受けたアーティストを教えていただけますか?
奥村:1人目は水吉郁子さん。水吉さんはガラス作家で、“パウダーフュージング”というガラス製作技法の考案者です。
初めて水吉さんの作品を見たとき「私はこういう色合いの作品を作りたかったんだなあ」と思ったんです。その後、水吉さんの工房にお邪魔させていただいて、お話を伺ったこともあります。学生相手に、とても丁寧にお話ししてくださる、とても良い方でした。もし水吉さんの作品と出会わなかったら、全然違うものを作っていたかもしれません。

〈パウダーフュージング〉
通常、ガラスフュージング技法では、切った板ガラスやガラスの欠片を電気炉で溶かし合わせて、平面のガラスを成形します。パウダーフュージング技法では、粉ガラスを電気炉で溶かし合わせて、平面のガラスを成形します。
パウダー状なので、絵や模様を作ることもできます。パウダーを使うと、無数の泡が発生し、その泡の濃度によって透明/不透明が変わっていきます。泡の膨らみによって色が膨れ上がって境目になったりするので、とても柔らかな印象になります。

色彩や色合いは、パウル・クレーや、東山魁夷が好きです。小学校か、中学校くらいに初めて目にし、「綺麗な絵で好き!」というところから始まりました。パウル・クレーは「たくさん色があるものっていいな」というのが好きになったポイントです。東山魁夷は、ふんわりとした、まるで砂糖菓子のような風合いを見て、「こういう表現っていいな」と思ったのを覚えています。

石崎光瑤という作家も好きです。石川に移り住んでから知った日本画家なのですが、作品の表現方法を参考にしています。
作品を作っていると、どこまで密に作ればいいのか迷う時があります。日本画だと、作品の中心を見せるために余白を作っていることがあります。私の場合は、画面すべてを埋め尽くしてしまうタイプなので、どうやって“抜き”を見せるか、中心をどう見せるか、と悩んだ時に参考にします。わざとぼかすような表現をしているところも綺麗ですし、一方で描き込むところは蜜に描き込んでいる。なるほど、こうすればいいのか、と思いますね。

命への世界観、といったところで、ジブリ映画も好きです。特に『風の谷のナウシカ』は腐海の世界観は大変印象に残っています。たくさんの命があって、それらが個性的かつ、幻想的な姿形をしていて。それが今、レリーフをたくさんつけるような表現に影響しているような気がします。
ジブリ映画の中で、ごちゃごちゃした部屋が出てくることがあると思うんですが、あれにも憧れます。たくさん物があって、雑多にも感じるけれど、なぜかそれが綺麗に見える。あんなに散らかしたら、現実世界だと「すごいことになっているな」と感じると思うんですが、ジブリの映画の中では、どこに目を向けても綺麗で、すごいなあと思っています。
ジブリ映画といえば、久石譲さんの音楽。久石さんの音楽も好きです。広々としたような作品を作りたい時や、波とかを纏ったような不思議な生き物を作る時、久石さんの曲をかけると、イメージが膨らんでいくような感覚があります。

見た方の気持ちが浮かび上がるような作品を

ーー最後に、今後の展望や、作品展に来場されるお客様に向けてメッセージをお願いいたします。

奥村:“続けていくこと”というのは難しいことだなあと思っています。今のように、生き物モチーフで引き続き制作をして、見た方の気持ちが浮かび上がるような作品を作って、ちょっとずつ世界を広げていけたらいいなあと思っています。
会場に足をお運びいただいた際には、日々の疲れを癒していただけたらいいなと思いますし、海系の作品については、海への思いが浮かんだり、そこに海を感じていただけたら嬉しいなあと思います。


奥村さん、ありがとうございました!

お話を聞いていて、奥村さん“好き”という気持ちのパワーをひしひしと感じました。光り物、ガラス、海の生き物…今の奥村さんがいるのは、奥村さんが“好き”を大事にしてきたから。
ご友人の「ねえ、奥ちゃんはどんなものが好きなの?なんでそれを作らないの?」というお言葉も、大きなきっかけになっているはず。
“好き”という気持ち。人との関わりや出会いが、人生を大きく動かすのかもしれませんね。

奥村朝美さんの生き物の世界をご堪能いただけるのは、10月1日まで。ピカレスクでお待ちしております!


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【基本営業日時】
*営業 水 - 日・祝 11:00 - 18:00
*定休 毎週月火
*会場 Picaresque Gallery
*住所 東京都渋谷区代々木4-54-7
*電話 070-5273-9561

※2023年9月27日(水)は、下記日程で18時 - 22時も営業いたします♪



■各展示の詳細
HP「お知らせ」よりご覧ください!
https://picaresquejpn.com/category/information/

■開催予定の展示は
HP「【随時更新】展示スケジュール」よりご覧ください!https://picaresquejpn.com/exhibition-calendar/

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奥村朝美 個展「ガラスで彩る、海といきもの展」

〈会期〉
2023年9月13日(水) – 10月1日(日)

〈詳細〉
https://picaresquejpn.com/okumura_asami_exhibition_2023/

〈奥村朝美 公式SNS〉
Instagram https://www.instagram.com/okumura_asami
X (旧 Twitter) https://twitter.com/okumura_sea




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