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漢字

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漢字のような詩
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詭弁と焦燥

詭弁と焦燥

言葉を使役する事を教えた父は
知識と知恵の差は教えはしなかった
知識はあっても知恵にできないこの焦燥
それらの苦悩を伝える事ばかりが達者だ

社会人とは。等の強弁が
相殺法の力を借りても看破できぬ時
単純なものこそが力を持つ事に気づく
では複雑なものに力はない。

訳ではない

詭弁ばかり達者になって
人生に於いてはままごとだ
赤子の魂百までなので
私は百一歳まで生きようと思う

夕闇と夕菅

夕闇と夕菅

そこでぼくはぽつねんと座っている
漠々とした野原が広がっている
ゆうすげが辺りに咲いている
夕焼けが橙に染めている

いまここはどこだろう。

遠くからぼくを呼ぶ声がする
風にのって低い声で
どこか聞き覚えのある声だ
ぼくはいったいなんだろう。

頭上には一羽の鳥がいる
見るにあれは夜鷹だろう
夜鷹はますます上昇し
星になって消えていく

ここはどこで
なんだろう
問いに答える人はなし
ただこの僕

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「command S」

「command S」

赤銅色の錆が
僕の身体を覆い始め
橙色の夕焼けが
その区別を曖昧にする

逢魔が時
生活の崩れ去る音が
耳の内で爆ぜ
標準時は君の笑顔だけ

夢で逢いましょう
またいつかの日々の為
この時を保存して

夢で逢いましょう
善悪なんてままごとでしょう
三千世界のその内で

雪波電車

雪波電車

かるいことばを握りつぶせば
灰が掌に跡を残す

隣には幼子が欠伸をし
母親の胸に顔を押し当てている
ぬくもりと表すには程遠い
生命を顕現する営みのバトンと
車窓は雪波を額の様に彩る

不幸かどうかも分からぬ儘に
現在のこの瞬間はあぶくの様だ
楽しくない事が不幸であると
単純な思考は錆びて動かない
詩人ランボーの様だとは言わない
全ての感傷はまだらな電車の揺れに溢れる

到着地に降り立つと空は曇天だ

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素敵な孤独

素敵な孤独

なにを書こうか。

という時に限って

原稿用紙の余白が

漠々とした砂漠のように

広がって

そこで僕は

一人で立っている

”ただゆっくりと眠れる夜が欲しい

まどろみのうちに

そのまま眠れる夜が欲しい”

原稿用紙の余白は

知らぬ間に文字の高層ビルにおののき

静寂から一歩ずつ尻込みしている

”世界はこれでよいのだ

完全さと不完全さの間で揺らぎ

とこしえに眠る夜を探す

これで

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写真

写真

写真

写真はその瞬間を切り取る

写真は恥も外聞もなく

ありのままにその時を

写し取って、色を補完する。

写真

写真に潜むアイロニーを

ぼくは知らない

過去のなごりと未来の新鮮さの色は

写真の中の青空といっしょだ。

写真

写真はなおも切り取ってゆく。

つぎはぎだらけの世界が保管されてゆく。

襤褸といえば洒落っ気があるが

その実、それはただ生々しい人類の発露だ。

写真

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生え際の向こう側

生え際の向こう側

「ひと目を憚らず言おうか
僕は実は君の事を
忘れているんだ。」

病室の窓は珍しい丸型で
この部屋に宿る静寂は四角だ

ゆっくりとラレタンドする心臓に
まどろっこしい真実は要らない

爺様は世界のお隣で
ゆっくりと植物に水をやっている

昔聞いた声色を
今の微かな声色が上塗りする

僕と貴方と婆様の
それはそれは綺麗な三角形は

今はただ一筋の直線となりて
爺様の生え際の向こう側の
斜陽する未来を

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ミクロコスモスなわたし

ミクロコスモスなわたし

ポテトチップスを頬張るわたし
コーヒーを飲むわたし
おんぶ紐を編むわたし

わたしはわたしが大好きなので
他の誰よりも大切にしてあげます

電車の中で席を譲るわたし
同僚に飴玉をあげるわたし

決して自己満足がないとは言わない
けれどそれが人間の本領でしょう?

わたしはわたしを愛しているので
世界がわたしを愛してくれる

たった一度の人生ですもの
宇宙に歴史が無いように
わたしはわたしを刻んでい

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クオリエ・クオリア

クオリエ・クオリア

 夕焼けは何故
 旅情を煽るのか
 
 朝焼けは何故
 希望に満ちるのか
 

 世界をいくら解体しても
 それは玉ねぎの皮
 最後には何もない
 

 平易な言葉で良いじゃないか
 難儀な世界じゃあるまいし
 少し生き
 夜には死んだように眠り
 

 僕のクオリアは
 謎のまま、そのままに
 ただこの漠々とした大地に
 一場の夢を見て
 

 僕は僕という現象を
 この主観が終わるまで
 愛そ

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波

あの波と同じように
僕はなにかを忘れている
それは大事なことのようでいて
きっとなんでもないただの戯れごとだろう

その日に僕らはお互いを愛しあった
そしてその日に僕らはコーヒーを飲みながら語り合った
これからのこと
これまでのこと
そして君を好きということ

あの波を見ていると
最初に波を描いた人の不思議さを思う
波はこの世界で
もっとも表し難いものの一つだ。

人の一生の謎
人の死ぬ謎
それら

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