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図書館にある、本を「読んでもらう」以外の役割とは?

図書館と博物館、共通点は何でしょう?

静かなところ?頭がよくなりそうな雰囲気?意外と多く見つかりそうですね。

ここで、図書館勤務で博物館学芸員の資格を所持しているという立場から、この2つの共通点を述べてみますね。

それはズバリ、資料を保存する役割があるということ。

たとえば、博物館や美術館(美術館も大きなくくりでは「博物館」です)でレプリカが展示されていたり、撮影は可でもフラッシュは禁止だったりしますよね。理由は様々ですが、そのひとつに資料を保護するためというものがあります。光に弱いのは想像しやすいかもしれませんが、人間が排出する二酸化炭素でさえ、資料の劣化に繋がってしまうのです。それでも何とか来館者の皆さんに見てもらえるよう、工夫をこらした結果がレプリカの展示やフラッシュの制限、というわけなんですね。決して意地悪をしているわけではないのです。

では、図書館での資料保存とは何でしょうか。これは、図書館の規模によって異なることが多いです。例えば小規模の市立図書館の場合は、それほど保存を重視していません。話題の本や新刊をどんどん購入し、一定期間がたったら「リサイクル本」として処理をしているタイプの図書館は、市民にとっては一番身近ですよね。このような図書館は、本の内容よりも利用者が興味のある本を優先し、どんどん読んでもらうことを目的としています。

それに対し、大きな県立図書館などでは「誰が読むんだ?」と首をかしげたくなるような本を見たことがあるかもしれません。「〇〇県史学会」という名前の団体が発行しているマニアックな学術誌やら、旧仮名遣いの小説やら、ぼろぼろで触っただけで手が汚れそうな洋書やら……「絶対に誰も読まない!」と自信を持って宣言できそうな本に、あなたも1冊は出会ったことがあるはずです。

ですが、たとえ100年に1回しか手に取ってもらえないような本だとしても、その1回のために環境を整えておくのもまた、図書館の役目なのです。本だって、残そうという意識がなくては時代の流れとともにあっという間に消えてしまいます。博物館がモノを保管する場所なのだとしたら、図書館は情報を保管する場所。国立国会図書館を思い浮かべてみると分かりやすいかもしれません。あの場所には、日本で発行されたすべての本が所蔵されています。まさに情報の保管庫です。

そして図書館にも、館ごとにカラーがあります。今度、規模の大きな図書館に行く機会があったら、ぜひ館内を歩いてまわってみてください。思わぬ出会いがあるはずです。大学図書館なら、それ専門の先生が在籍している分野の本が多く所蔵されている傾向があります。たとえば、同じ「中世」という時代でもある国の文献だけ飛びぬけて多かったり、逆に「アメリカ史」という分野の中でやけに南北戦争期の資料が多かったり……など。もし、その分野の先生がいないのにやたら蔵書に偏りがあるなと感じたら、おそらく過去にその分野の専門家が在籍していた名残りでしょう。図書館は、本の中に歴史が詰まっているのはもちろん、本の収集過程にも歴史があり、そこに館の特徴が表れるのです。

県立図書館などの公共図書館にも「その館らしさ」は表れます。例えば地方自治体史の資料の豊富さは、その土地の図書館が一番です。私は昔、高知県の歴史について調べていたことがありますが、東京都立図書館よりも高知県の県立図書館のほうが、必要な文献がそろっていたことは言うまでもありません。都内では見たこともないような絶版になった本や、地元の郷土史家が発行している論文など、初めましての連続でした。これはまさに、県立図書館が情報の保管庫としての役割を果たしてくれていたからこその出会いです。その土地ならではの本というのは発行部数も少なく、地元以外で所蔵されていることは稀、なんてこともあります。なかには絵がたくさんあって読みやすいものもあるので、ぜひご自分の地域の図書館で探してみてくださいね。地元や自分に縁のある土地の歴史を知ると、よりその土地に愛着が湧きますよ。

また、地方自治体史以外に図書館の個性を際立たせるものとして、本の寄贈があります。その土地の著名人や研究者が図書館に自分の蔵書を大量に寄贈した結果、特定の分野の蔵書が増えるなんてことも。こうやって、その館らしさというものが作られていくのですね。

まとめ

今回は、博物館と図書館の共通点として、資料を保存する役割があることをお話ししました。

こんど図書館を訪れる機会があったら「この館はどのような基準で本を集めているのかな」と考えながら歩いてみるのも面白いかもしれません。そうすることで自然と館ごとの個性や得意分野が掴め、自分の目的に合った図書館を選んで使い分けることができるようにもなります。

いつ使うか分からないようなものは捨てなさいというのは片付けをする時によく言われる言葉ですが、モノや情報が次々と現れては消えていくこの時代こそ、きちんと体系立てて情報保存につとめてくれる図書館という存在は必要なのではないかと感じています。私たちが過去を知ることができるのも、先人たちが情報を残しておいてくれたおかげ。私たち現代人も、今を生きる存在として責任をもって歴史を紡ぎ、未来へと繋げていきたいですね。

この記事が、図書館を新たな視点でとらえるきっかけになりますように。そして皆様、素敵な読書ライフを!せっかく保存されているのですから、どんどん活用していきましょう!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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