#1 変動の時代を生き抜く「コーポレートコミュニケーション」|企業フェーズに応じたコミュニケーション課題の整理
本コラムは、「コーポレートコミュニケーション(特定のプロダクトやサービスではなく企業そのもの、社内外の両方を対象とした広報活動、以下、コーポレート広報とします)」に長け、広報のみならず法務、総務、開発、マーケティングなど幅広いクライアント内関係者との業務経験を有するコンサルタントが、「コミュニケーション活動を起点とした組織力の向上」をテーマに3回シリーズでお届けします。
(コンサルタントが書いた「危機管理」に関するコラムはこちら)
「広報」が価値を発揮できるシーンは?
このコラムをお読みの方は、何かしら「コミュニケーション」のお仕事に関心があったり、既に携わっていたりする方、これから携わることになる方など様々かと思います。
ところで、読者の皆さんがお勤めの企業や団体(以後、まとめて「企業」としますね)が「広報」や「PR」に力を入れよう!と思うのはどんな時でしょうか?
数年前から「採用広報」「スタートアップ広報」のように、細分化された目的や狙いに応じて扱われることもあれば、「企業としてのPR戦略」「サステナビリティ推進のためのPR戦略」など社会情勢に応じて広い文脈で扱われるなど、キーワードとして使われる文脈は千差万別となってきました。
このように、企業の成長フェーズや置かれている事業環境などにより、広報に求められる役割も変わっており、私たちヘルスケア本部にも「医療事業に新しく参入するので社名を知ってほしい」スタートアップや、「メンバーや施設が増えたので組織コミュニケーションをテコ入れしたい」医療法人グループなど、相談の幅も増えてきています。
企業や団体の成長フェーズに応じた広報戦略
このコラムでは主に次のような立場の方に向けて、「コーポレート広報」の考え方や準備の進め方をシリーズでお伝えします。
(媒体へお金を支払い一定期間クリエイティブを掲出するような「広告」や「宣伝」とは異なるアプローチですので、ご注意ください)
「スタートアップ」や「新規事業」に関わる方
企業の「認知獲得」や、対外的な「評判形成」、「組織エンゲージメント」の向上などの課題に対して、コミュニケーション活動でアプローチを試みようとするマネジメントの方
「1人目広報」や「1人広報部長」など、コミュニケーション活動の責任者として組織を強化したい方
先ほども少し触れましたが、私たちヘルスケア本部はこれまで、主に外資系の製薬メーカーや医療機器メーカーとのお仕事が多かったのですが…
国内の中でも成長産業とされる医療・ヘルスケア領域において、ここ数年は「デジタルを活用した医療スタートアップ(CEO・CMO)」や「日本に初めて法人を設立する外資系企業(1人目広報)」、また「医療機関、福祉施設を多数持つ法人(本部広報テコ入れ)」など、幅広いクライアントから相談を受けるようになりました。
規模の大きな組織と、これから成長をむかえる組織では、プロダクトやサービスの有無、社員数など種々の要因により、コミュニケーション課題が大きく異なってきます。
これまでの経験上、大まかに分類すると次の3つのフェーズに分かれます。(コミュニケーションの観点から分類していますので、「シード」や「アーリー」など一般的に言われる成長フェーズ とは異なります)
フェーズごとのコミュニケーション課題の例
これらの成長フェーズごとに、ご相談を受けることが多いコミュニケーション課題を当てはめていくと、このようになります。
0→1フェーズ
このフェーズの場合、プロダクトやサービス(以下、「製品」とします)がまだないケースも多く、広報するテーマは「人物」や「理念・ビジョン」など無形のこともあります。
そして広報先任者がおらず、CEOやCOO、またはCMOとその人たちを支えるスタッフとお仕事をすることも。
また目的が「採用」や「社内意識醸成」というケースもあるため、必ずしも「マスメディアに出すこと」が最適な打ち手でなく、一緒に「今必要なアクション」を考えるコンサルティングを行ったりもします。
成長フェーズ
このフェーズでは、製品が存在し、専任の広報責任者や担当者が在籍していることが多いようです。
その場合は、私たちがメディアに対して情報提供し、製品を取材してもらうメディアリレーションズのご相談もよく受けます。
さらに先々の事業展開も見据えて「製品=企業イメージ」にならないよう、企業ブランディングや、事業活動全体を俯瞰した年間の広報プラン策定など、一段高いレイヤーのニーズも増してくることも特徴の1つです。
成熟フェーズ
今回のコラムでは詳しく扱いませんが、このフェーズに入ると、押さえるべきコミュニケーション活動は一通りカバーできる体制が社内に整っている場合がほとんどです。
そのため、昨今では「ESG」や「フェアネス」の観点から、社会的要請に応えるための対外コミュニケーションや、アドボカシーや危機管理といった専門性の高いサポートを求められることも増えてきました。
目的から逆算した打ち手の重要性
私たちは、「今必要なアクション」をコンサルティングする際、まず組織に対する考えをヒアリングし、次のようなマトリクスで整理していきます。
そのうえで「コミュニケーション活動で解決できること」という観点で、着手すべき課題に優先順位をつけたり、課題を絞り込んだりしていきます。
課題によっては、「ミッション・ビジョン・バリュー」や「SNS利用に関するポリシー・規定」、また「危機管理事案発生時の連携プロセス」といった社内体制づくりなど、情報発信を目的とした「いわゆる」コミュニケーション活動ではない打ち手の方が適していることもあるため、慎重に検討していくことが大切です。
「広報」や「PR」という言葉のイメージから、ともすると「TVや新聞で取り上げてもらう」といった「分かりやすい」活動を思い浮かべがちですが、それはあくまでも「手法」の1つです。
特にフェーズの浅い企業では、コーポレート広報においては「目的志向」で「組織課題をコミュニケーション活動で解決する」「そのための戦略と戦術の整合性を持たせる」という発想が最も重要となりますので、心がけておきたいです。
次回は、広報体制を整えたり、強化を考えたりする際に、事前に押さえておきたい組織作りのポイントを整理してお伝えします。