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王神愁位伝 プロローグ 第1話


<あらすじ>
所有者の願い全てを叶える伝説の書物、「王神愁位伝おうしんしゅういでん」。
人々が太陽族・月族に分かれ争いが絶えない世界で、「王神愁位伝」は人々の欲望を掻き立て、数々の悲劇を生んできた。

そんな世界で、名もなき非力な少年は全ての記憶を失くし、月族の奴隷として虐げられる日々を過ごしていた。
しかし”とある出来事”により、奴隷の生活から抜け出し太陽族で保護される。

そこで出会った仲間たちと共に、「王神愁位伝」によって生まれた数々の悲劇に巻き込まれ、争いの裏に隠された真実が明らかになっていく。

謎多き少年はこの世界の破壊者か、それとも救世主となるのかー
希望と絶望が交錯するダークファンタジー。


<領地図>


<主な人種>


<言い伝えられている簡易年表>




第1話 〇喜


皇の印典すめらぎのいんてん   一節 

この世界の空には神々が住んでいる。
ー 灼熱のごとく光輝き、大地を明るく照らす太陽神・・・
ー 静かに優しく輝き、冷たい空気を大地に届け、休息を促す月神・・

偉大な二神はある日、この世界に興味を持ってしまった。
火・水・雷・風の自然現象から始まり、木や花、虫や動物・・・中でも、人間・・。二神が一番興味を持ったのは人間だった。
基本この世界に存在するものは、神々が想像している域を中々超えてこない。大体は想像通りに動く。
しかし人間は、たまに神々の想像の域を超えた行動や結果を導いてきた。

そんな人間を特に二神は気に入り、許しを得て人間の右腕にとあるをつけた。
ー 太陽神は、太陽の刻印。
ー 月神は、月の刻印。
どの人間が自分の印をつけた人間なのか確認し、観察するのが二神の楽しみになった。
いつもの日常に飽き飽きしていた二神に、人間はどんな娯楽・・を提供してくれるのかと。

二神がこの世界を観察し始めて100年経った頃から、人間は右腕の刻印ごとに族を作り、太陽族・・・月族・・で対立をし始めた。
どうも人間である私たちは、自分たちの族こそがこの世で一番優れた種族だと示したがる。証明するため、誰もがあの書物・・・・を欲望のまま求めて彷徨うのだ。
対立が発展し、500年を経った頃からは、戦争・・を起こしている。
度々休戦など交えているものの、再度戦争は勃発し続け、千年過ぎた今も太陽族・月族は争いあっている。

皇の印典すめらぎのいんてん   一節  終





"アオ―ン・・・アオ―ン・・・!" 

この世界の北東部。暗い暗い森の奥。
所々から、狼たち・・・の遠吠えが響いている。

森が鬱蒼うっそうと茂る辺鄙へんぴな場所に、高くそびえ立つ塔の一角があった。
その一角の建物は、木のつるなどの植物・・・・・・・・・で作られているのが特徴的だ。
中の敷地には左右に2つの塔と、中央に大きな高い塔が並んでいる。3つの塔とも苗木を土台・・・・・として造られ、ツタなどが絡みついていた。
地面も芝生で覆われ、新緑の香りを漂わせるが、木々が空をさえぎっているため、敷地全体が薄暗く何処か物騒な雰囲気をかもしだしていた。

両端にある2つの塔の東側。
——耳をすますと、子供が息を殺しながら泣く声・・・・・・・・・・・・・が聞こえてくる。

その塔は細長く、頭部はまるで鳥の巣のように・・・・・・・大きな円形になっている。
この塔に入ると、大人1人が登れるくらいの長い螺旋階段が続き、登りきると頭部の部屋にたどり着く。その部屋は2~30人と居られるくらいの広さだ。一切ものはなく、あるとすれば数枚の毛布くらいだった。
また、塔の中のどこもかしこも木のつるや枝・・・・・・で覆われ、暗闇が広がっている。窓など見当たらない。

そんな場所に、30人くらいの子供・・たちが閉じ込められていた。大体5~15歳くらいの子供たちだろうか。皆幼いという共通点の他に、子供たちの右腕には太陽の刻印・・・・・があり、右肩には大きく数字・・が刻まれていた。
「・・・ふ・・ふぇ・・・」
「・・・お・・・お母さ・・・ん・・・」
「ぅう・・・ぐすっ・・・」
子供たちは薄汚れた茶色の服を着て、顔を歪ませている。

そんな泣いている子供たちの中で、隅っこに体育座りをしている少年がいた。
他の子供たちと同様、茶色の汚れた服を着て、右腕には太陽の刻印がある。茶色の服から見せる痩せ細った右肩には、大きく数字のが刻まれていた。
しかし、その少年は他の子供たちのように泣きもせず、無表情のまま座っていた。

特徴的な鮮やかなオレンジ色の髪は、手入れをしていないこともありボサボサである。しかし、黄色に輝く瞳と相まって太陽・・を彷彿とさせる外見であった。
そんな黄色い瞳は生気を無くしたように瞬き一つせず、感情など持ち合わせていないかのように虚ろだ。
泣きべそをかく他の子供たちなど気にも止めぬように、その少年は微動だにしない。

"ダン・・・!ダン・・・!ダン・・・!"

すると、塔の細長い階段から豪快な足音が聞こえてきた。
木の苗が複雑に絡まったこの階段は、歩きづらさを極めているが、そんなことは今の子供たちには関係ない。
子供たちの問題は、その足音が近づいている・・・・・・・・・・・ことだ。
「ひっ・・・!」
「あ・・あ・・・」
近づく足音に子供たちは余計に怖がり始め、声にならない悲鳴と絶望感を漂わせる表情を浮かべる。

"バンッッッッッ!" 
暫くして、この部屋唯一の扉が荒々しく開いた。
真っ暗な部屋に入ってきたのは、小麦色の肌に銀髪が特徴の青年だった。
顔の真ん中に横長の傷跡があり、鋭い黄金の瞳は怖がる子供たちの恐怖心をよりかきたてた。
その青年の右腕には月の刻印・・・・があり、なによりその青年の頭と尻には、銀色の毛で覆われた大きな耳と尻尾がついていた。人の形はしているものの、まるでのようだ。

また、その狼の青年の周りには、同じく銀色の輝く毛で覆われた狼が3匹いた。全体は銀色の毛で覆われているが、尻尾や足の先は深い青色であり、綺麗なグラデーションになっていた。
子供たちの10倍以上はあるのではと思わせる大きな身体と、その大きな口から覗く鋭い牙は恐怖心をあおる容姿だった。

狼の青年は、震える子供たちをギロッと見て機嫌悪そうに舌打ちをついた。
「っち。なんで俺がこんな下等種族の相手をしなきゃいけねぇんだよ。今すぐにでもこいつらを嚙み殺してぇのに。」

イライラしながら狼の青年は手を床につけると——

”ドドドドド・・・”
苗木でできた床が動き出し、中からトゲの付いたつるをが伸びてきた。そして、あっという間にムチのようなものが完成していた。
出来たムチを、狼の青年はイライラしながら床にたたきつけた。

"パァァァン!!"
「おい!クソども、労働の時間・・・・・だ!!番号順に並べ!!」

狼の青年は大きな声を上げ子供たちに向かって言うも、子供たちは余計怯えきって立てずにいた。その様子に痺れを切らし、狼の青年はムチを子供たちにあげようとする。

しかし——

"ザッ"
「あ?」

いつの間にかオレンジ髪の少年が、狼の青年の目の前に立っていた。
オレンジ髪の少年は、狼の青年や大きな狼など恐怖も感じないという表情で、じっと見つめていた。

「・・・サンバン・・・・。」
「・・・あ?」

オレンジ髪の少年がボソッと言う。

「サンバン。俺のバンゴウ。」

感情など失くしたような黄色い大きな瞳でじっと見つめられ、狼の青年はどこか居心地の悪さを感じた。

「てめぇ・・・。」

興がさめたように狼の青年は一旦ムチを下げるも、黄色い瞳を向け続けるオレンジ髪の少年に痺れを切らし、ムチをあげた。

"パァァァン!"
「・・・っ」
"ドタッッッ!"

見事に少年の頬に的中し、その場に勢いよく倒れる。

「ったく!てめぇらみたいな下等種族が!俺たちをジロジロ見るんじゃねぇ!!」

興奮しているのか、狼の青年は耳と尻尾をピンと立てていた。
狼の青年が怒鳴ると同時に、周りの子供たちは更に泣き始めた。

「うっせぇんだよ!!さっきからピーピー!!」

さらに狼の青年がイライラしていると——
"ムクッ"

オレンジ髪の少年が起き上がり、痛そうな表情もなく、また黄色い瞳で狼の青年をじっと見つめた。
その様子に、狼の青年はタガが外れたかのように、オレンジ髪の少年をムチで何度も叩き始めた。

"パァァァン!パァァァン!"

「お前のその目、気持ち悪りぃんだよ!!こっち見るんじゃねぇ!!」

ムチに何度も打たれ、オレンジ髪の少年は身体中血がにじみ出るも、狼の青年は手を止めなかった。
その様子に、子供たちは口を塞ぎながら、目の前の恐怖に怯えるしかなかった。
—— 次は自分かもしれない・・・・・・・・・・
暫くムチで叩き続けていたが、オレンジ髪の少年の意識が遠のいていく様子に、狼の青年は手を止めた。

「ッチ。死んだか?別にてめぇ1人が死んだとこで何も変わりねぇけどな。」

そして、狼の青年の視線は怯えている子供たちに移る。
子供たちは必死に目線が合わないように顔を下に向けると、狼の青年は再度舌打ちをした。

「ったく、めんどくせぇ。オルカ・・・様の指示じゃなきゃ、こんなことすっかよ。クソが。」

そして、扉に向かうと狼の青年はムチを叩きつけた。

「クズども!労働の時間・・・・・だ。グズグズしてんじゃねぇ。そいつと同じ目に遭いてぇのか!」

横たわるオレンジ髪の少年を指し子供たちを睨みつけると、そのまま扉から出て行った。
怯えながらも子供たちは、急いで狼の青年の後を追って部屋を出た。
残ったオレンジ髪の少年はムチで打たれすぎたのか、全身腫らしながら意識を失っていた。

そんな少年を助けられるものなど、ここには誰もいなかった。




ーー次回ーー
☾第2話☀

☾第3話☀

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