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王神愁位伝 プロローグ 第3話

第3話 西塔のかいぶつ


ー 前回 ー

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西塔にしとう
そこは、子供たちの立ち入り禁止区域の一つである。
子供たちのいる東塔と同じ建物の形ではあるが、中の様子は誰も知らない。

禁止区域とされているが、子供たちの中では密かに、この塔には狼たちよりも怖い怪物・・がいると噂されていた。
その怪物は人間が好物、特に子供たちが好物だという噂が出ている。
その噂が出てからは、子供たちの誰もが怖がって近づかなくなっていた。

"ギィ・・・"

「あ・・・あなたは・・・誰・・・?」
そんな噂が飛び交っている中で、誰が想像できただろうか。
噂される怪物とは似ても似つかない、黄金に光り輝く美しい髪の少女が塔の中にいるなど。

長い髪で隠され顔は見えないが、少女は少年をじっと見つめているようだ。
少年も出会ったことのない少女の姿に、目が離せなかった。暫くお互い見つめあっていると、少女はボソッとつぶやいた。

「・・・太陽・・みたい・・・」
「・・・タイヨ・・・?」

訳がわからず頭を傾ける少年に、少女は扉に身体の半身を隠しながら少年をじっと見つめた。
少し沈黙が流れたその時、西塔の階段入り口が開く音がした。

"ガチャ"
「!」
少年は、入ってきた気配に瞬時に気づいた。
全身の鳥肌が立つような感覚・・・・・・・・・・・・・
これは・・・

"ギュッ"
「え」
「こっち!!」

少女は急いで少年の腕を掴み、部屋の中へ入れ扉を閉めた。
入った部屋は淡いピンクや水色などで装飾されており、何とも可愛らしいという言葉が似合っていた。

部屋の基本的な作りは少年達がいる東塔と変わらないはずだが、クローゼットや大きなベッド、脚が渦巻き状になった椅子と机などの家具が揃い、自分たちの殺風景な何もない部屋とは大違いだった。
また、ここは子供達が立ち入り禁止のため掃除ができていないはずだが、ホコリ一つなく綺麗な状態であった。

少年が部屋の中をじっと見ていると、少女は部屋に入るや否や、慌てて部屋の中で何かを探すかのように色々な所を見たり、引き出しの扉を開けたりした。

「えっと・・・、ここじゃだめね・・・。こっちは・・・」

少女が何やらぶつぶつ言いながら部屋の中で慌てていると、どんどん足音が近づいてきた。

"ダン・・・!ダン・・・!ダン・・・!"
少年は、扉の先の階段から聞こえる足音に神経を集中させた。しかし、焦っている様子もなく、じっと扉を見つめる。一方少女は足音が近づくたびに頭を抱え、より焦っていた。

「あぁ・・・どうしましょう。えっと・・・えっと・・・あ!!」

少女は何か閃き、ぼーっとする少年の腕を掴んだ。
「ねぇ!!」



◇◇◇◇◇🌙◇◇◇◇◇


"ダン・・・!ダン・・・!"
「・・・はぁ・・・奴隷たちとのやり取りも面倒だが・・・。こっちの相手・・・・・・も結構疲れるんだよな。」

銀色の毛で覆われた耳と尻尾を揺らしながら階段登ってくるのは、奴隷の子供たちを管理している狼の青年・・・・だった。
いかにもめんどくさそうに、6本の指がついた両手を頭の後ろにもっていき、表情を曇らせていた。
その後ろには、狼たちが2匹いた。この細い階段を登りづらそうに上がっており、狼の青年が言う愚痴よりも、この窮屈な階段をどうにかしてほしそうな表情をした。

「しょうがないだろ。ここの階段を細くしておけって、オルカ・・・様からの指示だから。俺は歯向かえない。」

狼たちは残念そうな顔で、窮屈な階段を登り続けた。階段を登りきりため息をつくと、憂鬱そうに扉を開けた。

”ガチャ・・・”

「・・・さーーん。」

開くと、一人の少女がベットの上で本を読んでいた。腰まである黄金の髪を無造作に伸ばしているせいか、顔が見えない。姫と呼ばれる少女は、髪の隙間から覗かせる小さな唇を開いた。

「・・・ラン。入るときはノックしてっていつも・・・」

その少女が言うと、ランは少女をギロっと睨んだ。

「…っひ」

ランと呼ぶ狼の青年に睨まれ、怯えながら口を閉じる少女。そんな少女の様子をみて、ランはため息をついた。
そして、少女が手にもつ本を見た。

「・・・本を読んでたんすか。」

ランはいかにも興味なさそうにしていた。
そんなランの様子に、少女は怯えながら本を閉じた。

「ご・・・ごめん・・・なさい・・・」

少女はランの様子に怖気づき、本をしまおうとすると、ランは部屋の中を物色するように、鋭い視線で見ながら口を開いた。

「別に。責めてるわけじゃないっすよ。」
暫く沈黙が続く。体育座りの姿勢で、少女は気まずそうに足の指を少し動かした。

「ねぇ・・・ここには、いつまで居ればいいの?」
少女が沈黙に耐え切れず、ランに聞いた。

「さぁ。俺も知りません。俺はオルカ様からの命令でいるだけですから。」

素っ気なく答えると、少女は俯き言いづらそうに口を開いた。

「そっか・・・。その・・・1人じゃ・・・寂しいから・・・その・・・
他に話し相手になってくれるような人・・・いないかなって・・・」

その言葉にランは耳をピクっと動かし、少女に視線を移した。

「我慢してください。俺が言えるのはそれだけです。」

ランの冷たい視線に、少女は怯えた表情をした。

「えっと・・・ここには・・・私たち以外いない・・・の・・・?」

ランは少女のその言葉に、物凄いスピードで少女につめよった。いきなり至近距離に来るランに少女は小さな悲鳴を上げた。

「っひ…!!」
「はい。いません。何度言ったらわかるんですか。」
ランは部屋に何かいないか探るかのように見渡し、自身の鼻をピクピクさせた。

「それとも・・・何か・・・あったんですか?」
ランの何かを探す様子に、少女は焦りを隠し切れずにいた。

「ち・・・違うわ!!その・・・前にいた城では、いつもハクが話相手になってくれてたから、その・・・寂しいなって・・・。」
そう言う少女を暫くじっと見つめると、暫くしてランはため息をついた。

「・・・ハク様は暇人でも、姫さんの話し相手でもねぇっすよ。高貴な人を無駄使いしないでください。」
ランは銀髪の頭を掻くと、少女から離れ扉に向かった。そして扉の前まで行くと、少し振り返りぶっきらぼうに聞いた。

「部屋、綺麗にしているようっすね。」
「え・・・えぇ・・・。ランは潔癖だから・・・」

少女は俯いたまま言うと、ランは素っ気なく言った。
「そうっすか。」
爛はそのまま扉を開け、出ていこうとした。
その時・・・

”ガタンッ”

部屋の奥から何やら物音・・・・・がした。
奥には薄いピンク色のカーテンがかかった窓と、その隣にクローゼットがあり、誰もいないはずのクローゼットから物音・・・・・・・・・・が聞こえた。

ランがクローゼットをじっと見つめ、その様子に少女は緊張が走った。緑が生い茂り、太陽を拒むように日差しを受け付けないこの場所は肌寒い時が多い。しかし、この瞬間ばかりは少女の手が汗ばんでいた。

そんな少女の様子に、ランは鋭い視線をクローゼットに向け、近づいた。徐々に近づくたび、少女は手だけではなく、額にも汗が垂れそうになっていた。そして、クローゼットの前まで行くと、ランは扉に手をかけた。
「ラ・・・ラン!今日ってオルカが来るんじゃなかった?」
少女が焦りを醸し出しながら聞くと、ランは何かを悟ったか鼻で笑った。

「ええ。来るのは夕刻です。それが・・・?」
ランに聞かれ、少女はどもる。

「い・・・いえ・・・その・・・」
「姫さん。俺に何か隠しているのでは?」

その言葉に、少女は何も言い返せず口を閉じた。
少女の様子に、ランは容赦なく手に当てたクローゼットの取手を引き、そのまま勢いよく開けた。

”ガラ!!!”



ーー次回ーー

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