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黒影紳士season6-X 「cross point 交差点」〜蒼の訪問者〜🎩第十五章 力の行方

15 力の行方

 ……どんな年も、またこの季節が巡れば君に渡そう……。
 君と再び出逢えた……大切な記念日なのだから。
 記念日なんて……日にち感覚無く、毎日書いているか作業を何かしらしている様な毎日だけれど、せめて季節の記念日をらしくも無く作らせておくれよ。

「……懐かしい……ですね。ずっと昔な気がします。」

 黒影は団栗をマジマジと見て言った。
 まだ感情も乏しかった。色んな事を知らなかった。鳳凰に出逢うとも、あの日の僕は予想だにしなかったに違いない。
 推理でも無い。推測でも無い。何も予測出来ない事ばかりが起こる。
 ……だから人生は辛くも悲しくも、やはり面白い。
 其れを教えてくれたのも、直接は言わなかったが創世神なのだと思う。
 創世神の亡き母の言葉……「人間らしく在れば良い。」
 その言葉の意味が、最近わかり始めた様にも思う。
 例え哀しみに涙しても、傷付き血を流しても、生きて人間である限り……それは温かいのだ。
「人間でいようと、風柳さんに口酸っぱく言われ乍らも、どんな能力を得ても、努めてきたつもりです。……然し、今……正義崩壊域オリジナルは、僕も……貴方すら許そうとはしない。此れが一体如何言う事なのが、僕には理解出来ない。」
 黒影は「理解出来ない」や「分からない」と言う言葉を、探偵と言う立場から、普段はあまり使いたがらないが、創世神には素直にそう言って聞いた。
 黒影よりも遥かに、物語全体を俯瞰的に見ている事は明らかだからだ。
「此処が如何言う場所か、考えれば分かる。人の怒りと怒り、悲しみと悲しみ、負の力が打つかりこんな廃墟となっているが、周りの森は再生しつつある。人はつい、自分達に関連するものから考え易いが、この場所にとって……今、一番邪魔なのは過ぎた人間でも何でも無い。再生した森に息づく動物や虫達にとって、本当に邪魔な物は……この正義崩壊域オリジナル自体だ。もっと根を張り、伸ばしたくても、邪魔な大きなゴミだろうな。通過する度に隠れる場所も無くなる、危険地帯みたいなものだ。
 巨大な力を感じた時、我々に憤りを感じている訳では無いのだよ。また大きなゴミを残して行くのではないかと、警戒している。
 其れが反映され、動けないだけだ。正義崩壊域を作ったのだから、人間は其方にいろ……理に適った縄張りだな。」
 と、創世神は話した後に嘲笑った。
「言われてみれば、そうとも取れますが、笑っている場合ではありませんよ。良く考えてみて下さい。……このまま二人で動けなかったとして、腹が減ったり喉が乾いたら如何するんです?然も、僕は此処で朽ちるまで風呂に入れないなんて、絶対に嫌ですからね!気絶すればサダノブが来るでしょうけど、其れ迄雨風で汚れるなんて無理です!」
 こんな時でさえ、黒影の潔癖症は健在の様だ。
 創世神は其れを聞くなりクスクスと笑い出す。
『……では、良い加減に本題に戻そうか。もう少し遊んでも良いかと思っていたのだが……黒影は相変わらず、時を急く。
 ……良いか。黒影と僕にはイレギュラーな共通点が現在、一つだけ存在する。』
「イレギュラー?」
 創世神の言葉に、黒影は何の事かと聞き返す。
『そうだ。イレギュラーだ。さっき、二つに道が別れたのを確認しただろう?』
 その創世神の言葉に、黒影はああ……さっきの矢印付きの巫山戯た道かと思い出して頷いた。
『……あの道は一本で無くてはならない。我々が辿る物語は、常に一冊の一本の話しを追って行く物だからだ。良く分岐エンド何てものが存在するが、ただでさえ数冊の物語をハードとして集約した「黒影紳士」が、分岐エンドを起こしてしまえば、他のソフトに当たる「世界(同著別書の物語)」と呼ぶ物語にも分岐が派生し、大混乱に陥る。だからこそ、「黒影紳士」に至っては、分岐エンドが許されない。
 ……なのに、分岐点が誕生してしまった。其れは、二つの時間軸が存在してしまったからだ。
 黒影は別の時間軸で生きた勲を取り込んだ。僕はもう一人の僕と分離し再び元に戻った。この不自然な時間軸を許さない物がこの「黒影紳士」の中に存在する。……其れは黒影も良く知っている物だ。そして、其れと此の場所……正義崩壊域オリジナルが化学反応の様に結び付き、今……我々はこの様な状態にある。……如何だ?分かり易かっただろう、黒影には。』
 創世神は、如何してこんな状態に二人で陥っているのか、説明した。
 確かに、黒影には其の「黒影紳士」に存在する、黒影が良く知る物の意味は分かった。
 ……そう、「時夢来(とむらい)」だ。
 時夢来だけは、どの「世界」にあろうと、能力者により時を変えられようと、自ら其処にいる世界の時間軸を直す習性がある。
 其れは、予知夢を見た時間を正しく表記させる為に必要な機能だと思っていたが、今更ながらに黒影は不気味に感じた。
 幾らFBIが優秀な化学や知能を集めた所で、時空を直すなんて……幾らなんでもおかしな話しではないか。
 黒影は団栗を大切そうにコートのポケットに入れると、今一度、時夢来の懐中時計の蓋を開き見詰めた。
「……今日は懐中時計が、何故か五時過ぎで止まっているのです。僕は確かに良く眠ったし、予知夢は見なかった。然し、レム睡眠中か脳の無意識領域で見たかも知れません。時夢来の本と合わせて見なければ、懐中時計が差す時間が予知夢の時間であるか如何かははっきりはしない。だが……時夢来本とで一対なのだから、普段は普通の懐中時計として動いている筈なのです。……丁度、壊れたのかと、FBIに修理に出そうと思っていたところです。」
 と、黒影は創世神が言いたいのは時夢来の事だと分かり、その異変について事細やかに話す。
 元は螺子巻きなので、遅れたりはあるが黒影は寝る前に螺子を巻くのが日課であったし、もし懐中時計の螺子を回し過ぎたとしたら、その時点で螺子を引っ張るワイヤーが切れ、プツンッと何かが切れた様な音がし、螺子が軽くなるものである。
 其れも無いのに、針が止まり螺子も止まったと言う事は、経年劣化で螺子を引くワイヤーが伸びたか、中が雨風で錆びたのだと思っていた。
 だが、不思議と懐中時計を耳に当てると、歯車が僅かながらに回っている様なのだ。
 だから尚更、きっと中身には問題は無く、螺子とワイヤーに問題でもあるのだろうと、その程度にしか思っていなかった。
 黒影が分解しても良かったが、懐中時計と言うものはとても繊細な作りであり、職人となると埃一つ入れない様に細心の注意を払って裏蓋を開くものだ。
 ましてや其れが、FBIの叡智の結晶であるならば、普通の懐中時計と中身が違うのも当たり前で、よっぽど安易に分解して良い物ではない事ぐらいは、黒影にも想像が付く。
『……なぁ?黒影……?僕は君に助言をしに来たつもりであったが……何か間違えたかも知れん。』
 何故か空を見上げ、創世神はそう黒影に言った。
「如何言う事です?この物語の世界ならば、貴方に出来ない、知らないと言う事の方が少ない筈です。」
 黒影も思わず空を見上げた。
 あれだけ先程まで輝かしい光を放っていた日差しが、みるみる内に暗雲の中へ呑み込まれて行く。
 そして、突然の強い風を伴う雨が、肌にやや痛みを感じる程、強く大地を打ちつけて来たのだ。
 辺りは一瞬にして灰色の水溜まりだらけになり、黒影の帽子の鍔からも滝の様に、少し頭を揺らすだけで大量の雨水が流れた。
 髪もびしょ濡れで、創世神に至っては山成りの帽子は鍔が狭く雨風を避けようと下を向けば、其の溝に沿って雨水が蛇口の様に下に流れる。
 黒影は重くなった帽子の鍔を押さえ乍ら、辺りを見渡す。
 まるで其処は……絶望が支配する、登場人物の力を吸い尽くすと言う、創世神とマザーコアだけが有する、禁忌の裁きの移動世界「正義崩壊域」にそっくりだ。
「貴方……まさか、正義崩壊域を読み込んだのではっ!」
 ただでさえ、強い力を出さまいとする正義崩壊域オリジナルに、創世神が移動世界の「正義崩壊域」を重ねたのでは無いかと、黒影は聞いた。
『そんな事はしていないっ!幾ら僕でも、黒影の尊厳無しに「正義崩壊域」を発動する程、無慈悲では無いよっ!……良いか、黒影……落ち着いて聞くんだ。全ての「物語(世界)」が、今……「黒影紳士」のハードのバグにより、揺らぎ始めている。制御不能状態なのだよ。僕が此処に来てしまった事で、ニ個体の力が存在すると……通常の「正義崩壊域」なら認識し、其々から余分な分だけの力を大地に吸う。然し、バクの状態で僕が現れ、如何やらニ個体であるのに、一個体と認識し、その余りの巨大な力に正義崩壊域オリジナルは怒り……または同じ事が再び起きる危機感から、我々が元から知っている「正義崩壊域」に変化した様だ。
 マザーコアや僕が守って来た物は、此れなのだよ。大地の怒りを鎮めて来た。
 其れもまた力を産み書く者の宿命としてだ。
 ……此れは……第二の「正義崩壊域だ」。来るぞっ!黒影、勲の影を切り離すんだ、早く!!』
 創世神が、今の正義崩壊域オリジナルが、限りなく我々の知る正義崩壊域と同じ物だと、必死に黒影に伝えたその直後だ。
「――うぅ!!」
 黒影は余りの衝撃に、唸り声を上げる。
 両手が身体を支えられない。
 既に「正義崩壊域」の大地は、黒影に大きな重力負荷を掛け始めていた。
 目の前で、書いてばかりで体力も無い病弱な創世神は水溜まりに突っ伏す様に、倒れ落ちた。
「駄目だ!しっかりして下さいっ!……せめて、20年前の貴方を切り離さないとっ!」
 黒影は創世神を覚ます様に、この強い雨に掻き消されぬ様に、口に雨水が入ろうとも、気にせず叫ぶ。
 だが、強い重力に押し潰された創世神は、呼吸をしているのは分かるが、意識は遠く返事も出来ない状態だった。
 ……せめて……せめて……。
 貴方が命の様に大切にしてきた……。
 黒影は直ぐ様創世神を助けたかったが、自分にもかなりの負荷が掛かり続け、創世神が意識を失ったであろう瞬間に、時期創世神の力が更に加わり、其れは重みとして我が身に降りかかった。
「……はぁ……はぁ……。」
 目の前がぐらつき、大地が斜めに歪んで見える。
 然し、其れは黒影から見た視点の話しであり、正しくは身体が地面に落ちそうな程斜めになっているのは、黒影の方だ。
 黒影は創世神が手を伸ばしてくれた先程の事を、脳裏に想い浮かべていた。
 何時も……その手に救われて来た……。
 そんな気がする。
 例え見えなくとも、後悔が産んだ「黒影紳士」であろうとも……。ずっと……見えない手を差し出してくれていた。
 もし、朽ちる時があるならば……貴方が与えてくれた、仲間の為か……貴方の為だと……心に決めていたんです。
 沢山の笑顔をくれる日々をくれた……其の沢山の掛け替えの無い人の為にと。
 決して主人公がそんな悲しい詰まらぬ事を言うなと、貴方は言うかも知れない。
 だから言葉になんかしなかった。
 ……こんな時に……人って、馬鹿な事を考えるものだ。

 ……大丈夫、大丈夫に此れから成る!
 ……社訓、やってみなきゃあ、分からないじゃないか!

 そんな言葉が過ぎるなんて。
 笑える……笑えてしまう。
 最後まで……僕は幸せ者だ。


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(お急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。