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黒影紳士season6-X 「cross point 交差点」〜蒼の訪問者〜🎩第十八章 関連性

18 関連性

 勲のその揺らぐ赤い瞳は…黒影と同じくして、「真実」を追い始めたのかも知れない。
 現実的な事件では無い、説明の付かぬ所で何かが蠢き動き始めている。
 己の影だって、そんなものだが…何か其れに似た、確かな物を感じ始めていた。
 この世には分からない物がある。
 しかし、其れに惑うのは違う。惑い奪われる心の隙など微塵も無い。
 あるのは、其れが一体何なのか……単純に知りたいと言う、本来人間が持っている知的好奇心。
 誰かが、ある物を理解出来ず「幻」と言ったとしよう。
 然し、勲も黒影も其れを「幻」だとは呼ばない。其れが見える迄の過程と確かな結論を持って、「名称に辿り着くまでが長いので幻と、一先ず呼ばれている物」と言う、考えに至るだろう。
 ……裏切られたら、騙されたら……
 人はそんな物に怯え生きている。
 だが如何だろう?裏切られ、騙され傷付くのは、闇雲に知ろうとする結果が齎すものだ。
 知った者だけが、言うのだ。
 ……そんな物……恐るるに足りないと。

 ――――――――――

 僕らは20年前に向かう。
 全員が、「夢探偵社」に集結した。
 今、持ち得る総ての知識を最大限に活かし、そのリスクに備えなくては行けない。
 現代の創世神の手により複製された、season1短編集バックアップ版が作られた。(これを発表後、ノラノベル様にて本当に現れます。中身はお楽しみに)
 最大のリスクは此れで回避出来るだろう。
 時を少しだけ戻す時夢来の懐中時計を黒影が、緊張した面持ちで眺める。
 白雪は時夢来の本を、大事そうに両手で抱え持った。
 時夢来は歪んだ時を許さない。
 ……ならば、正常に時を動かす為に歪んだ箇所を修復しようとする筈だ。
 其れが……正しい世界の理である限り。
 風柳もいる。20年前から変わったのは、サダノブがいると言う事だけ。
 創世神は現代から、この事実を書き留めなくてはならず、参加は出来ないが、我々を静かに見守り……無事を祈っている事だろう。
 黒影は風柳を幾許か、不安そうに見詰めた。
 風柳は何時もと変わらず、大丈夫だと言う様にゆっくり黒影に頷く。
 言葉は交わさなくとも、分かる。
 何かあっても、守ると……昔から変わらない、安心出来るジェスチャーみたいなものだ。
 ……そうだ……変わら無い大事なもの……その為に……。
 黒影は自分に言い聞かせ、指笛を吹いた。
 鳳が輝きの中から現れ、黒影の肩に優雅に飛来する。
 黒影の背に、真っ赤に激る、光の火の粉を散らす翼が揺れた。
「行きましょうか……。」
 そう言ったのは勲だ。
 決意が固まったのだろう。
 誰もが、もう戻れないかも知れない道へ行くのだと理解していた。
 けれど、其れを支える者がいる。
 ……誰だと思う?

 ……其れは君だ。

 此の「黒影紳士」を読む、君だ。

 僕等が歩んで来た道を……今、守ってみせるからね。
 何時も……沢山の勇気を貰った。
 僕は……君に何が出来るのか、応えられているのだろうか……何時もそんな事を考えていた。
 緊迫したこの空気の中……足は竦む。
 もし、「黒影紳士」総ての世界が消えてしまったらと、思わなくも無かった。
 けれど、20年前と違う事に気付いたんだ。

 ――――僕等はもう、とっくに……独りじゃない。

 あれから守るべき者が沢山増えた。
 始めは分からなくて、身動きも出来ないものだと感じていた。
 だけど、違ったんだ。
 ……守っているのは僕では無く、守られているのだと気付いた。
 だから、僕は守りたい。
 そんな君と歩む時間……大切な道を……守りに行く。
「……景星鳳凰(けいせいほうおう)!!……世界名「20年前の黒影紳士、season1短編集」……世界開放!」(※元は聖人や賢人がこの世に現れる前兆を意味する四字熟語であるが、黒影紳士内では世界を読み込む鳳凰の秘術とされる。)
 現season6-Xから、同シリーズ「黒影紳士」に移動するのに態々、「景星鳳凰」を通過する必要は勿論無い。
 だが、「20年前の」と、なると既に時限が違うのではないか。
 現創世神曰く、
『20年前に書いた物は20年前の僕にしか分からん。同じ内容でも、今の僕が書き直せばまるで全く別の書に成ってしまう。season2からは、ずっと書き続けていたからそんな事は無い。その時の感情により表現は異なるが、前後を辿って行けばある程度の想定がつくからだ。……僕の中でも、あのseason1短編集は異質な物なのだよ。……間に長い時が挟まれた事で、「黒影紳士」ではあるが、まるで別のタイトルの別冊にも想える。設定が若干違うと言うレベルではないのだよ。20年とは、其れだけ人を変える時の流れだ。』
 と。
 そんな事を話した創世神は何処か、儚い目をしていた。
『あの頃は……言葉は今よりも難しい物を好んで使ったが。今にしてみれば……其れも若さ故で、未だ未だ未熟であった。』

 ……そう、黒影に言ったのは、どんなに長けた推理、知能、難解さが在ったとしても、其処には一章二万文字近く一気に走り書いた形跡があり、後の僕には……其れが余韻の無い、登場人物を愛しきれていなかった様に思えたからである。
 今、思えば……season1一章で、今の黒影紳士の一冊で十分であったと思う。

 その言葉を聞いた黒影は、確かに当時のままにあえて残したそのseason1短編集が、元祖で後の基準とは成ったものの、その内容がseason2とは別物に感じた。
 では、あのseason1は何で在ったのか。
 皆が最初、不思議に思った筈だ。
 何故、season2を上げた後に、season1が来るのかと。
 ……其れが、未来との奇跡の結合にあった事は、もう此処迄読んでくれた読者様なら知っているね。
 掻い摘んで言えば、season2を無意識に書いていると、そのseason1との共通点が奇跡の様にパラパラ現れた事にある。
 勿論、20年前であるし、著者は読み返しもせずに雰囲気だけ残し、書き進めていた。此れを「黒影紳士」の奇跡と呼ばれた。
 この夏……僕は誓った。
 奇跡を永劫……この残りの命を捧げた「黒影紳士」に……否、黒影やこの「黒影紳士」を愛してくれた読者様に、見せたい。
 これが、season6の総ての答えだ。
 夏の謎、大連鎖は……season1の一つ一つの章を、season6の一冊にリニューアルし、総て網羅する事にあった。
 そして、この秋差し掛かり、season6のラストをXとした本当の理由を言おう。
 season1は第六章まで存在する。6並びは縁起が悪いとしていたが、何故……season6最終幕のみ、普段の5万文字の倍……10万文字であるか。
 6並びを避け、Xにした時、二章分が集約されるからだ。
 発表の際、第一部、第二部と前編、後編に分けアップし一冊とすると言った理由がそれだ。
 season6前編……此れをseason1で探すと、遺産相続、其れに絡む死、そして柱時計。
 そう、チェックメイトだ。
 だが、僕は未だ言っていない。後編にしてコールしていない。
「チェックメイト」
 だ、なんてねぇ。

 さぁ……黒影達と共に……景星鳳凰を潜りたまえ。
 時を動かすのは……誰でも無い己であると、証明しに行こうではないか。
 ――――――――――
 人が通れる程の長方形の眩いばかりの光。
 白と黄色味を帯びたその中に、一歩足を踏み入れると、太陽の優しい温かさを感じる。
 其の「世界」から「世界」に通ずる短い道の真ん中で止まれば、何方から来て、何方へ行くのか見失いそうに成るだろう。
 感覚の薄い者ならば、上下左右すら、転んでしまえば判断に戸惑うかも知れない。
 其れだけ、黒影でさえ影を作れない程の光を四方八方から全身に浴びる。
 その空間で、皆集まり止まった。
 黒影は其処で白雪が差し出した時夢来本を開き、懐中時計を嵌める為の隠し穴に、懐中時計を鎮めた。
 この世界と時空の歪み……僕等は一体、何処へ繋がる道へ行こうとしているのだろうか。
 そのまま、黒影は景星鳳凰を出た。
 20年前のseason1短編集と言えども、その何処に着いたかも明白では無い。
 もし、season1短編集の何処かに出たとしても、其れが20年前であるかも確認するのは至難の技である。

 辺りは夜の様だ。
 先が少し明るい。
「火事か?」
 風柳がそう言った。
 黒影は一瞬……歩き出した足を止めた。
 火を克服し、鳳凰や朱雀の火を見ても何も感じなくなったが、やはり他の放火や火事を見てしまうと、足が竦んだ。
 見れなくも無いが、触りたく無い虫の様なもの……と、でも言えば分かりやすいだろうか。
「……先輩」
 サダノブはその辛さを知っているので、黒影が止まらぬ様、更に氷使いの自分がいるから大丈夫だと伝えたくて、優しく声を掛けた。
「あ、ああ……。大丈夫だ。行って様子をみなければ。」
 黒影は動揺し乍らも、少しでも何時も通りの平静さを保とうとしている様だ。
「そうだな、怪我人がいるかも知れない。急ごう。」
 風柳は黒影の気持ちが分かるからこそ、後押しし、余り考え無くて済む様に、次の行動を口にする。
 黒影は、一心に走り出した。
 翼を使う事無く、漆黒のコートを広げ。
 振り切っているのだ。
 己の恐怖心を。
「……此処は……。」
 黒影が、其の先の景色に驚き立ち止まると、腕で顔を塞ぎコートのヒラが勢いで前方へ揺れる。
 大きな屋敷が燃えていた。
 其の業火で見えるのは、大きな鐘の着いた時計台だけだ。
 其処に到着した勲以外の誰もが、その大きな時計台に見覚えがあった。
 過ぎた筈の……事件の舞台だったからだ。
 此処は善次郎と言う男が建てた、時計時掛けの巨大な絡繰りのあった屋敷である。
 今は亡き、善次郎はこの屋敷の壁画とこの大きな時計台の時計を連動させ、ある物を壁画の中に隠していた。
 其れにより、多くの悲劇が起こった場所でもある。
 だが、燃えるなんて事も無かった上に、その後火事の被害に遭った何て報告も無い。

「……これが……バグだと言うのか?」
 黒影は思わず口にした。
 その直後であった。
 突然、時計台の鐘の音が鳴ったのだ。
 黒影は、
「今、何時だっ!?」
 そう慌てて言うと同時に、時夢来本から懐中時計を慌てて取り出す。
「確か……0時に、自動的に鳴るんだったな。」
 と、風柳がよくよく思い出して言った。
「あの日と一緒だっ!」
 そう叫び、黒影は一目散に走り出す。
「先輩!危ないですよっ!何が在るって言うんですか?!」
 サダノブが、黒影の後を追い声を掛ける。
「……あの日もそうだった!……誰かが作為的に鐘を鳴らしたんだ!あの上に誰かいるんだっ!」
 と、黒影は言うでは無い。
 其れを聞いたサダノブは大声で黒影に、
「ちょと待った――――!!」
 何て、こんな時に昭和の告白番組の真似ごっこを、真顔で言って、黒影の肩を取り止めるのだ。
「はぁ?……何故今なんだ。離せ!巫山戯ている場合では無いだろう!」
 と、黒影は流石に怒ったのだが、
「羽根!翼あるでしょ!宝の持ち腐れですよ!」
 サダノブの言葉を聞いて、一気に怒りも鎮まりキョトンとする。
「……そっか。……つい、昔の現場で忘れていた。」
 なんて、言うと颯爽と地を蹴り火の粉が舞う夜空へと、舞い上がって行った。
「……大丈夫かなぁ。」
 やはり、火事の動揺も、すっかり昔に戻っている気分もあるのでは無いかと、サダノブは黒影を心配そうに見上げ呟いた。
 ――――――
 黒影が時計台に登ると、大きな時計盤の針先にある人物が引っ掛かっていた。
「……ビル!ビルじゃないかっ!」
 ビル……その人物は、且つての黒影の海外のFBIを尋ねた時に親しくなった、今は亡き親友だ。
 ビルマティと言うが、親しみを込めてそう呼んでいた。
 黒影と同じくして、予知夢を見る事が出来、過去にも少し干渉出来る。
 その為、時夢来製作にも関わる。
 ビルの亡き後に気付いたが、黒影にも知らせずに密かにビル自身の少しだけ過去に干渉する昨日まで開発し、付属してくれていた。
 更に、事件よりも黒影の身に危険が予測される場合は、時夢来が其れを優先的に示す様にもしていたのだ。
 時夢来本にある箔押しの十字架は、ビルの願いでもある。
 黒影が「弔う」の意味を教え、その未来に予知夢が見れても救えなかった命へと。
 黒影が日本へ戻る日……ビルは時夢来の試作品を奪われ、娘と共に殺害された筈だった。
「なぁ、本当にビルなのかっ!?」
 黒影は、死んだビルがまさかと、確認した。
 ビルはぐったりしているが、落ちない様にか、首を縦にゆっくり振る。
 ……会いたかった友が……いる!
 黒影はビルを今度こそは救おうと、立ち上って来た時計台の火も気にせず、無我夢中でビルを担ぎ上げようとした。
「……俺は……何処に行けば楽になれるんだ。……なぁ……相棒……。」
 黒影の耳元で、囁く様にビルが言った。
「……ビ……ル……?」

 ……何だ……此れは……。
 ……そうだよ。死んだ人が蘇るなんて……そんな上手い話し……幾ら物語の中だからって……そうそう……無いよな……。
 何故……信じて手を差し伸べてしまったのだろう。
 信じるだとか……何も、考えが追いつきもしなかった。
 ……多分……
 裏切られても構わない……ビルが……そんな、奴だったからかも知れない。

 脇腹に重い感覚を受け、黒影の鳳凰の翼は静かに閉じ、その身体は宙に放り出された。
「嫌ぁああ――!!黒影――――!!」
 白雪の絶叫が業火のパチパチとする音も、崩れゆく建物の軋み落ちる音よりも、黒影の耳に鮮明に入ってくる。
 大切な人の呼ぶ声が……無意識に黒影の無気力な手を、其れでも上へと上げさせた。
 失いそうな意識で藁をも掴む思いで掴んだ物は、黒い鉄が熱され赤みを帯びてきた時計の針だった。
 痛覚というものは、数箇所に及んだ場合、人体を守る為に一番強い場所に現れ、他を遮断する事がある。
 黒影には、握った針の火傷の痛みは感覚として無かった。
 骨折もしていたにも関わらず、ハンガーの曲がった持ち手になったかの様に、引っ掛かけているだけである。
 自分に何が起きたのか、ゆっくり確認する為恐る恐る見下ろすと、やはり脇腹にサバイバルナイフが刺さっていた。
 止血しなければとは思っても、手を離す事も出来ず、身体は静かに揺れ、少しでも意識を失えば、火の海へ落下してしまいそうだ。
 靴の先から、此れからお前もこうなるのだよと嘲笑うかの様に、ぽたりぽたりと血が流れ落ちた。
 ビルは黒影の反対側の針へ登り、そんな黒影を見下ろし言ったのだ。
「時を変えたいと……思った。自分が能力を持っていると知った時、他のどんな能力者に狙われ死んでも、仕方無いと覚悟はしていた。家族だってそうだ。其れでも変わらず愛してくれた。……でも如何だろう、相棒。……死んでから、気付いた。一緒に娘も巻き添いになったのだと。……其れでも受け入れるのが時だ。時は決して変わらぬ物で無くてはならない。……其れは分かっているんだ、頭では。
 ……分かっていた……筈なんだ……。」

 ……ビルは一体……何が言いたいんだ。
 其れは、相棒として聞いた言葉なのか、其れとも予知夢能力者だったからか、黒影には理解出来なかった。
 分かったのは、ただ……何かに思い悩んでいる事ぐらいだろうか。
 もっと、意識がはっきりしていたならば、此の時の黒影でも理解出来た事かも知れない。


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(お急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。