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コバルトブルー・リフレクション📷第十二章 二つの椅子

第十二話 二つの椅子

「お早う御座います。紫先輩。」
 葵が何時もの笑顔でいる。
「……お早う。」
 昨日の謎の葵の電話はきっと夢だ……そう、また幽霊の次はよく分からない妄想に取り憑かれているに違いない。私は朝食が出来るまで、ソファーに座り、白いクマのぬいぐるみを抱き、顎を乗せてぼんやりしていた。
「やっぱり、可愛い……。」
 そう笑いながら葵は朝食を運んできて、珈琲を淹れてくれた。
「そういう言葉は今日からは慎みなさいっ!私はこれから「女帝」モードに戻らなきゃいけないんだからっ。」
 と、それでも現実は世知辛いものだ。
「普通通りで良いじゃないですかー?また辛くなりますよ。」
 と、葵は薬の袋を渡してくれる。私は掌の薬を見詰めた。
「不安……ですか?」
 と、葵が聞いてくる。
「……少しはね。……また、慣れるわ。」
 私はそう言って薬を水で飲んだ。皆の前でもし発作を起こしたら……威厳も何も無くなってしまう。
「もう、慣れなくて良いんですよ。さぁ、朝ご飯食べて下さい。」
 ……ふわとろのスクランブルエッグ……。葵は何も変わらない。朝食を食べ終わると、インターホーンが鳴る。
「あっ、きたきた。紫先輩……来島さん来ましたよー!」
 と、葵が言った。
「え?来島呼んだの?……読書するから電車で良いのに……。」
 と、私は呆気に取られたが、出掛ける支度をする。
「車でも読書は出来ますよ。……それにカフェも寄りたいですから。僕は今日、異動があるのでテイクアウトでも良いですか?」
 と、葵が聞いてきたので、
「え、ええ。」
 と、私は昨日の話は本当だったのだと、少しだけ実感した。
「じゃあ、先に乗っていて下さい。」
 と、葵はてきぱきと言うではないか。何時もと話し方は変わらないけど……。
「何?まさかそれ持っていくの?!」
 私が車で待っていると、葵があの真っ白なくまのぬいぐるみを持ってきたので、私は驚いて言った。
「ええ、紫先輩の癒し系……。これで安心ですねっ!」
 と、葵は笑った。
「冗談じゃないわよ、みっともない!」
 私がそう怒鳴ると、
「えっ……僕からの初めてのプレゼント。……そんなにみっともないですか……。」
 と、葵はまた涙腺が崩壊しそうだ。
「あ、えっと……みっともなくない。可愛いよ、癒し系だよ。……でも大きいから車に乗せるだけにしましょうか。」
 と、私は朝から泣かれてもと必死になる。
「そうですよね。ちょっと大きいですもんね。」
 と、その葵の笑顔が、その後とんでもない事態を引き起こす事になるのだ。

「……報告は他にないな。ではA班とB班は……。」
 私はまたすっかり「女帝」に戻っている。ただ、違うのは「お飾りの女帝」ではなくなった事だ。
「……否、B班は此方に半分向かわせた方が効率がいい……。」
 隣の席にもう一人、私を支えてくれる実に優秀な補佐官がいる。その補佐官は異例の待遇で現れたが、その才能に誰にも文句一つ言わせはしない。彼の事を皆は「皇帝」と呼び、「女帝の隣に皇帝あり」と言う。「皇帝」の唯一の困った趣味は職場に小さなくまのぬいぐるみを持ってきてはいっぱいにする事で、その異才に嫌われるのではないかと心配されたが、直ぐ泣く性格や現場に「女帝」を連れ走る姿に、そう言ったやっかみは今は無い。
 その「皇帝」の名は葵。
 彼の澄んだ心と彼の澄んだ涙はまるで……

 コバルトブルーのリフレクション。

 もう、私は独りではない。己が間違えてしまったらという重圧にも、威厳がなくては人を動かせないと怯える事もなくなった。それは隣にいつも彼がいてくれるから。

 私達は同じ色の、反転しあう二人。
 私の色を空に喩えて君は言った。

 君はバニラスカイのリフレクション。

「ちょっと!現場にカメラは持って来ないっ!」
 私はまたピンヒールを鳴らして走る、刺激的な日々をまた送っている。葵が作った画期的な移動本部のシステムを構築出来たお陰で。
「待って、リフレクション見つけたんだって!」
 と、葵は相変わらず葵のまま。
「ああ、もう……犯人逃げちゃう!こうなったらぁ……!」
 私は靴を脱いで、犯人の後頭部目掛けて投げつけた。
「紫さん、また靴……今月何足目ですか?ほら、ガラスが危ない……行きますよっ!」
 と、葵は私を軽々とお姫様抱っこしたまま犯人を追う。
「全く……困った「女帝と皇帝だ」……。」
 そう言ったのは、仲さんだった。
「仲さん!仲さんもサイコパスだったなんて、私さっき葵から聞いたのよ!」
 と、私は先に張っていた仲さんに言った。
「別に秘密にしていた訳じゃないよ。言う必要がないからさ。それより、葵……良い写真撮れたか?」
 と、仲さんは笑顔で葵のカメラを覗き込む。
「ああっ!最高のリフレクションさっ!」
 僕らや仲間が走る……その上には白い鳥が飛ぶコバルトブルーの空。そして、水溜りに美しく反転し、何処までも広がる。

 地上線を讃え僕らは走り続ける
 そのコバルトブルーのリフレクションに包まれて……。

―――――完―――――

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(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。