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「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様5〜大人の壁、突破編〜🎩第五章 9汽笛 10夢

9 汽笛

 汽笛が広大な海の塩の香りを吹き飛ばす様に、夜空に鳴り響いた。
「来るぞ……。」
 黒影はまだ霧に包まれ、その姿を現さない船の方角を厳しい目で見詰めた。
 己でも分かっていたのだ。

 犯人に心を奪われてはならない。
 どんなに同情に値し、不平等の中に生きたとしても、それでも力強く生きようとする者がいる。
 だから……捕まって楽になろうなんて考えは甘過ぎる。
 どんなにハンデを持って生きたとしても、それが他に生きようとする者を愚弄する権利等無いのだ。
 持ち合わせる全ての優しさ、感情の一切を捨てなければ……この勝負には勝てない!

 黒影は徐に、メイブリックがこの船の約束の前に、女店主に預けてくれた弟の写真をコートのポケットから取り出す。
 ……こいつが……あの切り裂きジャックを創った張本人……。
 まだ若く、自信に満ちあふれている。
 頭脳戦になれば、勝てるかも分からない。
 こいつが黒影の到着と兄の裏切りを知ったら、どんな行動に出るのか皆目見当もつかない。
 注意深い……誰よりも。それは誰よりも頭が回るからそうなるのだ。何も保険をかけずに、この作戦を失敗した地を再び訪れるだろうか……。

「いたっ!風柳さんっ!」

 その船の姿が漆黒の幽霊船の様にぼんやり霧から姿を出すと、その船の遥か高い看板からこちらを見ているメイブリックの弟の顔が見えた。
 なんら普通と変わりのない青年。キョロキョロするでもなく、好奇心に満ち溢れるでもなく、黒影を一瞥すると冷めきった視線で遠くを見据える。
 自分の策を破った者が目の前にいるのに、「その程度」と言わんばかりの平静さだ。
「……先輩っ?」
 サダノブは黒影があまりにも動き出さないので、どうしたのかと聞いた。
「しっ!静かにっ!……何かあるっ!」
 黒影は犯人から目をそらさぬ様に、注意深く考える。
 ルナは必ず此処へやって来る。他にもう逃げ場は無い。問題はそれを既に犯人が知っているかどうかだ。
 否、知っていなかったにしろ、咄嗟の判断力は確実に犯人方が上、状況把握も格段に早いだろう。
 犯人の持ち得ないものを使うしかないっ!
 黒影は考えの末に、最後の一手に賭ける事にする。
「クィーンで狙おうか……。」
 黒影はそう静かに呟くと、ニヒルな笑みを浮かべた。
「どういう事です?」
 サダノブが黒影に、もう話し掛けてようさそうだと聞く。風柳も黒影をじっと見ている。
「追い込み漁だと思えば良いんですよ。ルナと接触させない。保険は現地調達する気だ。だからあんなに堂々と
 しているんだよ。ルナを人質にいざとなれば逃亡する考えでしょう。先にルナを確保する。それが最優先事項だ!」
 その黒影の言葉を皮切りに三人は辺りを見渡した。今夜は霧で視界が随分と悪い……。
 サダノブと風柳は互いに黒影を挟んで、逆方向に歩んで行く。
 黒影から見て二人が霧に吞み込まれ消えかかったその時だ……。
「ルナッ!!」
 黒影は沿った船の下に、ロングの黒いサテンのマントを靡びかせ甲板の上を見上げる、その姿を見つけ叫んだ。
 女は黒影の声に反応して振り返る。……まるで一人の同じマントを被せた老婆を介抱している様に、連れて。
 ルナの単眼が途切れた霧の隙間から、覗く月光に照らされ地上の月の様に光ってこちらを見ている。

 ――――……パンッ!

 軽い一発の乾いた銃声が響いた。
 その弾丸は黒影ではなく、ルナの肩を貫いた。
 ……何故だ!?
 黒影は咄嗟に甲板上の犯人を見上げる。
 ……笑っている……だと?
「いやっ、ルナ!迎えに来るのが遅くなってすまなかったね。大変だったろう?早くおいでよ。新しい地なら君の様に単眼でも自由に生きれる場所を作れそうだ。勿論、協力してくれるだろう?そんな死に掛けなんて置いて、早く上がってきなっ。」
 犯人は黒影達を見向きもせず、そうルナに言って海にロープを投げ込んだ。
 黒影は慌ててルナのいる方向へ走り出す。
「来ないでっ!貴方には分からないっ!例え罪を償ったとしても、私を待つ世界は、こんなにも冷たい。他に居場所なんて……この世の何処にも存在しないっ!」
 そう嘆き叫ぶとルナは老婆にも見えた抱えた女のマントを取り、出てきたその女の喉元にナイフを付きつけた。
 既にぐったりとして、衣服から出た皮膚の所々に殴打された跡と切り傷がある。
 傷の一部は放置したからか、腫れ上がり化膿しているのが分かる。
 ……やはり、トルソー事件の被害者はルナの母親……このままあんな地下にいたら、丁度9月10日には腐敗しきり あんな姿で発見される事だろう。
 まだ息があるならまだ間に合うかも知れない。黒影は如何に人命救助とルナを捕えるか焦り始める。
 その次の瞬間、一瞬の迷いを悟られたか、ルナが海に母親を放り投げたではないか。

 また……見失ってしまう!

 黒影に一度ルナを取り逃した後悔と、あの日の迷いが甦えって来る。
 これが……犯人の思惑だったと気付いた黒影は、甲板上の犯人を睨み上げた。
「迷うなっ!!」
 その時、風柳が目の覚めるような大声で黒影に吠えた。
 それと同時に風柳は真っ黒な視界の海の中へと、勢い良く飛び込むではないか。
「時次ぃ――……っ!(※風柳の本名)」
 黒影は波止場の隅に走り寄り手を掛け、真っ黒な海と真っ白な霧の中に向かって叫んだ。
 ……こんなに、視界が悪いのに……。
 黒影は己の所為で被害者と風柳を危険な目に遭わせてしまった事を悔いて、その場で足から崩れ落ちると硬い地面を己への許せなさに殴りつけた。
  全部……分かっていた筈なのにっ!
 そう心に強く叫んだ時だった。
 誰かが肩に優しく触れる。
「違いますよ、全然。悪いのは犯人と犯罪だけ……先輩、諦めがちょっと早くなったんじゃないですか?まだ潔癖症の後遺症が少し残っているだけ……ですよねっ?」
 と、黒影が振り返った先に、サダノブがいてそう言うと、犬歯を見せニカッと笑う。
 黒影はサダノブを見て、
「ああ……そうだった。確かに他は誰も悪くはない。まんまと嵌められて冷静さを欠いてしまっていたようだ。僕らしくない。そう……僕らしくない。ならば、僕らしく在るだけだっ!」
 と、黒影はしっかりと前を見据えて、ゆっくりと立ち上がる。
 そして状況判断を即座にすると、
「サダノブは風柳さんを援護!人命救助を重視!僕はルナを止める!己の安全確保を忘れず、速やかに行動せよ!誰も殺させはしないっ!」
 と、指示を出した。
「それそれっ!待ってました……りょ~解っ!」
 サダノブはそう言うと、風柳の飛び込んだ方角へ向かって、後を追って飛び込んだ。
「クロセル!」
 黒影は堕天使のクロセルを呼び出す。
「おはようございます、主。」
 クロセルは欠伸をしながら背伸びをして悠然と大きな翼を広げ現れる。
「ああ、おはよう。悪いな、ちょっと急いでいる。サダノブと風柳さんが一名を救助に海に飛び込んでいる。霧はこのままに誰も溺れないように水を読んで、必要ならばサポートして欲しい。」
 黒影は、撃たれた肩でロープを必死に上がって行くルナを見ながら、クロセルに頼んだ。
「主もご無事で。」
 そう言うと、クロセルは霧など水の欠片……視界の悪さを物ともせず霧の中へ漆黒の翼を広げ、突っ込んで行った。
 ……よし……これであっちの安全策は完璧だ。
 そう思い甲板を見上げると、犯人はルナの方へ向かおうとしているのが見える。
「――……ルナ――ッ!!」
 黒影は、これ以上出ないと言う程の大声でその名を叫ぶ。
 ルナは登る手を一瞬止めた。
「何をやっているんだ。さぁ、早く頑張って登っておいで。下のそいつが君に何が出来るか考えてご覧よ。
 罪を償うなんて綺麗事を言って、また君を住み辛い世界に閉じ込めるだけじゃないか。
 僕は君に自由を上げられるんだよ。何も迷う事は無い。本当の救済とは贖罪の様に、時代や場所で変わる詰まらなくて確実性の無い物では無い。手を差し伸べるの者の事だ。」
 そう言って上から犯人は手を伸ばした。
「違うっ!」
 黒影はそう叫ぶと、影の翼を地上に映しに、霧の中一気に舞い上がった。
 ルナの前に旋回して飛び込むと、
「ルナッ、行くな!どんな姿、形であろうと最後の良心まで捨てるなっ!人間である事を忘れちゃあいけない。
 何を言われようが、どんな事があろうが、人である為に此処まで生きてきたんだろう!?だから親さえ憎んだ。それが人間だからだ。
 人間として生きてきたならば、人間として裁きを受けるべきだ。心のない何者かにまでなる必要は無い!」
 その言葉に、明らかにルナはもっと上へと伸ばしていた手を震わせ戸惑っている。
 今はただの、孤独に迷う一人の女だ。
 誰にも愛されず、誰もの目にも触れず、存在すら消し去られた雲間に隠れた月……。
 ルナがそっと手を上へ進めようとした時、黒影は言った。
「もう僕は二度と君を見失いたくないっ!僕は……君を見捨てないっ!」
 黒影は無駄に伸ばした手が、如何に時に誰かを傷付けるかを知っている。
 だからこそ手は絶対に伸ばさない。自ら来なければ、罪を償う意思を受け取れないから。
「貴方がもっと早く……私を捕まえていてくれたら……。……私を……この私を無価値にしたのは「親愛なる切り裂きジャック」……貴方ではないですかっ!」

 無様に冷えきったあの地下で暮らす中、自分にはそんな所が相応しいのだと、いつの間にか思ってしまった。
 救いなどないこの世界で生きようとする事など、自分が望んではならない願いだと思い知った。
 ……私は生まれながらにして、存在すら許されなかった生き物……。
 ルナは絶望の中……月をただ見上げた。
 私には……導きすら見えない。

  単眼から風に流された涙が光っては霧の中へ消えていく……。

「……ルナ……僕はそんな名前じゃない。
 いないんだよ、そんな奴!僕が代わりに導けるのは人の道だけ。君はまだ人でいられる。その涙が温かいのならば。
 さっき僕の親友に言われたんだよ。
 ……諦めるのはまだ早いって。ルナもそうじゃないのか?少なくとも僕は一度捕まえた犯人の名前と顔は絶対に忘れない。今までも……これからも……。
 僕は天才でもないし、誰かの楽園を創る事も出来ない。けれど、君を捕まえる事だけは出来る…………ただの黒影と言う名の探偵だ。」
 黒影はそう言うと、手を差し伸べるでもなく静かに優しく微笑んだ。
「いいえ……少なくとも私の心の中には「親愛なる切り裂きジャック」は、存在していました。」
 ルナはそう言うと、自らの手を黒影に伸ばす。
 肩の撃たれた痛みに耐え兼ね、ふわっと風の様にその姿を宙に投げる。
 黒影は慌てて翼をはためかせルナの手を取ると抱き上げる。
「ありがとう。……人でいてくれて。」
 黒影はそう小さく言って、旋回しながら地上に舞い降りる。降りる途中に、風柳とサダノブが海から被害者を引き上げて行くのが見えた。
 クロセルが地上に折りた黒影に、
「ここは我が……。」
 と、甲板を見上げる。
「ああ、ルナを頼んだ。」
 風柳は被害者とルナの上を、麒麟と化して鈴のような澄んだ音を立てながら、金の輝きを放ち飛び跳ね少しでも治療しようとしている。
「サダノブ!あいつが切り裂きジャックと言う下手な脚本を書いた大馬鹿だよ。」
 と、黒影は犯人に聞こえるように言った。
「へぇ~なんか。思っていたより詰まらなさそうな奴っすね。」
 サダノブも態と聞こえるように言って笑う。黒影は影の翼を霧に落とし甲板へと、サダノブを持ち上げて飛んだ。
「狛犬になってもらえば良かった。その方がやっぱり軽くて良いな。」
 なんて文句を言いながら。
 上に上がると犯人は後ずさりして警戒した。
 船の客は全員降りて、濃い霧で何も気付いていないようだ。
 さっきまで海の中に入ったり全てにおいて邪魔だった霧が、今は天候さえ味方をしているようではないか。
「やぁ、メイブリックの弟君。兄にも手下にも裏切られた気分はどうかね?」
 と、黒影は吞気に聞く。
「裏切る?元から信じちゃいないものに裏切られるなんて事は無い。どうせ捨て駒だ。」
 犯人はそう言って苦笑いする。
「ふぅ~ん、捨て駒の使い方も知らないようだ。僕の妻は僕程でもないがチェスをやるんだよ。
 何時もその君が言う捨 て駒で狙ってくるんだけれどね、中々に強いんだよ。
 ……で、君の名前は?メイブリックに聞き忘れてね。犯人のままでも構わないんだが……。」
  黒影は気楽に話し始める。
「僕が教えると思うか?」
 と、犯人は笑う。
「いいや。思っていないよ。どうせ調べりゃあ分かるんだ。呼ぶのにどうかなぁ?
 と提案したかっただけだよ。君……このゲームに既に負けているよ。だって、ルナを失ったのだから。」
 黒影はそう話す。

10 夢

 「僕が負けただって?冗談じゃない。」
 犯人は薄ら笑いを浮かべた。
「本当さ。だってクィーンを取られたなら、その横に君がいるんだろう?だからチェックメイトさ。」
 と、黒影はクスッと笑う。
「お前は既に……ってやつっすね。」
 と、サダノブが言って笑っている。
「あはは……懐かしい。危ないよ~本当に。最近お前、ギリ攻めすぎだからな。」
 と、黒影は何かを思い出して笑いながら注意した。
「何がそんなに可笑しい!僕は笑われるのが嫌いだ。」
 犯人は無視され、気分を害したようだ。
「ああ、悪いね。これ、日本人だから分かるやつだから気にしないで。それより、素直に警察行くでしょう?一応は首謀者だよ。」
 黒影は聞いてみる。
「その気はないね。」
 犯人が言ったその一言で、黒影は笑うのを止めた。
「まぁ、行った所でこんな奴がって思われるだけかもな。悪い冗談は辞めろって逆に怒られるだけかも知れない。直接的に殺していなくても、君の思考が多大なる迷惑と死を齎したのは分かっているよなぁ?」
 ふざけている様だが黒影の顔は真剣で真っ直ぐ犯人を見ている。
「迷惑?あの街が注目されて綺麗にしてやったのに?僕が思いついたからやってやっただけだよ。他に誰もいないから。僕が悪いみたいに言うけど、全くの犠牲無しであの街がどうにかなるとでも思っているのかい?
 数年後には皆、落ち着いた。これで良かったんだと思っているよ。逆に感謝されたいぐらいだ。」
 と、犯人は笑うのだ。
「犠牲無しじゃ出来ないとでも思っているのか無能が。99.8%もまだ甘いっ!100%だっ!
 君は大きな勘違いをしている。人間とは壊したり殺すのは誰だって簡単に出来るんだよ。君じゃなくてもなっ!
 馬鹿でも出来る事に興じる愚かさを知れ!己に過信するならば、その弱くて脆い人間を守る方を考えろ……100%でなっ!何がしてやっただ……感謝しろだ……冗談じゃない!
 ホワイトチャペルに住む全員の、それこそ100%の意思が理解できると思っているのか?
 その周辺地域の全ての人間が、娼婦を犠牲にして街を良くしようだなんて100%が言ったのか?
 小さい世界の意見が総意だと勘違いするな。君の見える範囲の世界等ほんの僅かだ。
 例え君が人生を掛けて世界一周をぐるぐるした所で、現地の人々を知るだけでも一ヶ所にとどまり続けなくてならない。
 全ての人間には己の人生を選ぶ権利があり、幸福も違う。
 誰もしなかっただと?誰も人を殺してまでやる改革ではないと分かっているからやらないんだよ、無知を自覚しろ!
 無知で愚かで弱い……それを受け入れた人間が強いんだ。
 断言する。君は僕が今言った事の殆どが今理解出来ていない。理解出来るのは数年後の君次第だ。
 どうかなぁ?ゲームよりも謎解きよりも難解だろうな。
 暫くは楽しめそうじゃないか。」
 黒影は時々怒りを現にしながら低い声で言う。殺気はあるが妙に沈黙に閉ざされた静かな殺気だ。
 押し殺しているわけでもない。殺気と平静が混ざっている。
 犯人は上手く無表情に口だけを引きつらせて言った。
「それは……怒っているのか?この僕にか?」
「ああ、それと忠告もしている。」
 と、黒影は答える。
「どっ、何処に忠告があるんだ?」
 犯人は不思議そうだったが直ぐに目を輝かせて聞く。
「君のこれからの人生にだよ。一生理解出来ないか、理解しようとするかも君が決めればいい。数値だけではない。ましてや感情論だけではない。
 ある程度の経験も必要だろう。君の脳は非常にバランスが悪い。
 バランスの良さは何か一つだけ秀でるよりも、賢い能と言える。得意だけ伸ばし過ぎたんじゃないのか?
 今、君がしている新天地の改革もいずれ崩れる。たった僕程度の人間一人がいるだけで、崩れる計画だろうからな。」
 黒影はそんな話をした。
「先輩、捕まえるんですか?どうするんですかっ!」
 サダノブは痺れを切らして言うのだ。
「無駄だ……警察に連れて行っても無意味だ。……そうする為に慌てて新天地の英雄に成り上がったのだからな。
 切り裂きジャックという架空のシナリオを成功させた時、既に探していたのだよ。
 改革を求めるフラストレーションが溜まっている地を。完璧に捕まらないように……。
 君はそれで笑っていたんだ。……どうせ最後には自分が勝つと分かっていたから。
 ……だがどうだろうな?それは本当に勝利と呼べるのか。君は元から戦場にもいなかった。
 つまり、チェス台にも上がっちゃいない。ゲームは始まりもしないし、存在しなかったと僕は解釈しているよ。
 初めからキングが無いのでは成立しないのだからね。ちょっと弱腰が過ぎたんじゃないのか?詰まらなくて当たり前だ。負けるか負けないか……ギリギリで勝負した方が、ゲームってものは楽しいんだよ。
 僕からも感想を伝えておくよ。……とても味気の無い詰まらなくて、尚且つ人の命を掛けるなど下劣な、人生最悪のゲームであった。
 これをゲームと呼ぶにも相応しくない……不要物だ。」
 と、黒影は心底醜い者を見る目で見た。
「最高のエンターテインメントじゃないか。
 じゃあ、あれはなんだ、マスコミも人々も踊らされているのも知らずに熱狂しただろう?しかもリアルだ。こんなに もリアルな恐怖は滅多に感じられない。
 ゴシックホラーなんて目じゃないよ。実際に加熱していったじゃないか?
 この計画では、人間の恐怖心と好奇心の実験も兼ねていたつもりだが。
 それなりに良いデータが取れたと思うけれどね。君がいなければもっと精密なデータが取れたのに……残念だよ。」
犯人は此処でやっと本当に笑うのだ。
「やっぱデータが収集が趣味なだけか。」
 黒影は面倒くさそうに溜め息を付いた。
「何だ?」
 犯人は黒影の反応を訝しげに見て聞く。
「ありふてるんだよなぁ~そう言うの。聞き飽きたし。僕はもうずっと事件ばかりを追ってきたけれど、君が一般的な犯人の言い分を言うものだから実に詰まらない。
 君は自分が凄くて何をしても良いんじゃないかと思い過ぎだ。
 もう少し謙虚に生きられないのか?時には謙虚さも必要だよ。
大概周りが見えていない奴はそんな趣味の延長だったみたいな言い方をする。
 だから言っただろう?無知を知れ。弱くて脆い人間を守る方がよっぽどマシだと。
 ……じゃあ、僕は忙しいんでね。これでもまだ一件事件が残っているんだよ。」
 と、黒影はなんと帰ろうとするではないか。
「えぇ!?先輩、ちょっと……そりゃあまずいんじゃあないですか?」
サダノブが去ろうとする黒影を大慌てで止める。
「何がだ?言いたい事は言ったし、逮捕しても意味が無いんじゃあどうしようもないじゃないか。」
 そう黒影はサダノブに振り返って言う。
「はぁ?それじゃあ読者様が納得行かないでしょう?!大捕物、バトル!」
 と、サダノブが言う。
「はぁ?お前馬鹿か?僕は必要だから闘っていたんだ。必要もないのに好戦的な方が逮捕されるよっ!
 いいか……僕が見ているのは未来なんだよ!だから態々イギリスまで来たんだよ!
 僕の夢がそれで満足ならばそれでいいだろう!
 ?大体、最近人間離れし過ぎだし、似たようなのはいっぱい出てきたし、飽き飽きしたんだよ。
 元は何もない所から「黒影紳士」は始まっているんだぞ。初心忘れるべからずだ。」
 と、黒影は面倒だと言わんばかりに眉間に皺を寄せた。
「はぁ?はこっちの台詞ですよっ!俺が入ってからバトルばっかじゃないですか。
読者様サービスしないなんて優しくてないっ!「黒影紳士」じゃないっ!」
 と、サダノブは言い張るのだ。
「何時から決まったんだよ、そんなお約束っ!僕は認めていないからなっ!」
 黒影はサダノブを突っぱねて帰ろうとする。

『はぁ~い!ぴぃぴぃ~っ!黒影、駄目だよ読者様に謝って!言い過ぎ!
 どうせ白雪に心配ばっかりかけているから、どうせなら今回ぐらい無傷で帰ろうって根端だろう?
そう言う手抜きは駄目だし、このままサダノブと喧嘩すれば何ととなくい~やの流れも許さないからねっ!』

 と、天の声こと、創世神の声が響き渡る。
「はぁ?だったらさっさと降りて来いよ!僕だって昔とは違うんだ。妻子持ちで頑張っているんだぞ!守るものが増えたんだ!我儘でも何でもない。当然の事だ。」
 黒影は完全に拗ねて腕組みをして外っ方を向いてしまう。

『なぁ……そんな歳を態々感じさせる主人公が何処にいるんだ。』
「此処にいるだろうが。若いのが良ければシーズン1に戻ればいいじゃないか。」
『えっ?今、何て言った?!』
「だぁ~かぁ~らっ!そんなに若いのが良ければシーズン1にって…。」

『♪ピィ~ンポ~ンパンポ~ン♪本編の途中ですが、黒影紳士のキャスト及び、読者様に此処で重要なお知らせです。え~この度、黒影紳士全シリーズと全世界を一気に一冊に集約予定、更に出来るだけ誤字脱字を頑張って直し、ずっと間違ってほったらかしだったチョイミスも修正された「黒影紳士完全版」その名も「影炎(えいえん)のバラード」をシーズン2初めよりずら~っと収録予定で、作成中です。
 作成中も公開につき、懐かしのシーンなどを更新の度にお楽しみいただけます。
 題して黒影紳士エアゴスティー○的な物です。更新は著者の執筆の間を縫って行いますので不定期更新をご了承ください。
 特典は最後に、黒影解体新書が付きます。……と、言ったらじゃあ最後にブックマークすればいいじゃないかと、誤解を招いたようなのですがこの「黒影紳士」……実は長すぎてお気づきの通り、全タイトル表紙を表示するだけで非常にゆったりとした動きになり、何かを破壊しそうな勢いで御座います。
今後、何かを破壊してしまう前に事前に軽くしようという試みです。
 収録予定は「親愛なる切り裂きジャック様の今期」以外のこれまでの作品予定となります。
 表紙イラストにつきましても今後、何かしらの形で残して行くつもりですが、旧作品がのバラは「影炎のバラード」 が完成時に削除対象になる予定です。
 お忘れなきよう、出来るだけ早めのブックマークを推奨させて頂きます。
 尚、一部エラー報告がありましたが、お問い合わせしたところ、此処まで中編で長い作品数シリーズは想定外らしく、今後も対応出来るか難しいそうです。
まぁ、そうですよね;納得して頂きたいっ!ここはどうかっ!
 正直、この「黒影紳士」の為だけにシステムまで変えていただくのは大変申し訳なく思う次第で、著者もそこまで望んでいる訳では御座いません。
 しかし、出来る限りの改善はしていただけると言うお話でしたので、もしご不便がありましたらご報告下さい。
 皆様の温かい応援と、お手数をお掛けし重ね重ねで大変申し訳ありませんが、ご協力をお願いいたします。
 追伸
勿論、いい塩梅でシーズン1も収録されますのでご安心くださ~い。♪ピィ~ンポ~ンパンポ~ン』

「わ~あの人、すんごい長いお知らせとお願いぶっこんできましたねぇ~。」
 と、サダノブが呆れて言った。
「あっ……ああ、長くて何話していたか忘れたよ。」
と、黒影も流石に呆気に取られている。

 ――ザッパーン!!

「えっ!?何!!?」
 サダノブが大きな水しぶきの音に辺りを見渡した。
「犯人、逃げたぞっ!あいつっ!」
 黒影は船の船頭から海を見下ろした。
 霧の中へ犯人が消えていく。
「お前っ……!!」
黒影はこの霧の中へ無謀にも海へ身を投げた犯人に思わず叫んだ。
「それでも僕を待っている民がいる……。時代は変えられないっ!!」
 そう、犯人は黒影に向かって叫び伝えると真っ白な霧の中へと消えたのだった。

 ……彼は今も……英雄としてその名を残している……。

「サダノブ……彼を追ってはいけない……。」
 黒影は静かにサダノブの肩に手を置いた。
「何故です!?あいつが全部!」
 サダノブは黒影に聞く。
「願う事しか出来ない事もある。僕が言った事が、彼の何かを変えてくれればそれで良い。
  僕は、彼が犯人だと分かって直ぐに、彼に何か伝えなければと思った。
 既にその時には逮捕出来ない人物だと分かっていたのに。
 ……もしこれも運命の一つだったならばと……そんな気がする。
 彼が言うように時代は変えられない。歴史も……過ぎた物は全部。
  納得出来ないかも知れないが、これが僕の出した「最善の答え」だ……。」
 と、黒影は静かに落ち着いた声で答える。
「……先輩、じゃあ……。」
「ああ、全ては夢のような話だ。本当の……僕の夢だ。」

 …………いいか……僕が見ているのは未来なんだよ!…………
 …………だから態々イギリスまで来たんだよ!…………

 長い…………夢…………だった。

 ――――「黒影紳士 親愛なる切り裂きジャック5 おわ…………

「ちょっと待ったぁああああああ――――――!!」
「んんっ??!何だよ耳の近くで……!」

🔸次の↓「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様 五幕 第六章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。