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「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様5〜大人の壁、突破編〜🎩第六章 只今

11 只今

 「五月蠅いなぁ~何時もお断りって言っているじゃないか。」
 と、黒影は耳を塞ぎながら言った。
「今、完全に終わろうとしてましたよね?」
 サダノブが前頁の最期を指差しながら言う。
「ああ、もう良い流れだったじゃないか。それに何時もの文字換算だったらさっきの章で終わりなんだから、何時も通りが読者様だって安心するだろうが。ただでさえ一頁5千文字にまだ慣れて頂いたばかりなんだぞ。」
 と、黒影は面倒そうに答えるではないか。
「……先輩、さっき大事な事言って、去ろうとしていたじゃないですか?」
「はぁ?大事な事?」
 サダノブが言ってる事の意味が分からず黒影は聞き返す。
「は~?じゃないでしょう?先輩、確かに言いましたよ!もう一件あるんだって!」
 と、サダノブはけして忘れていまいと言う。
「なぁ~んだ。覚えていたのか。もう終わりで、観光して日本に帰りたかったのにぃ~。」
 黒影はちゃっかりツンとして知らんぷりして言った。
「駄目ですよっ!全部で11件!先に切り裂きジャックの本星に会えたからって、どうせ地元警察に言えばいいやで逃げようったって、そうはさせませんからねっ!仕事ですよ、お、し、ご、と!」
 サダノブはしっかり黒影が逃げないように腕組みをして、
「風柳さぁ~んっ!先輩、後1件残して逃亡しようとしていましたよ!現行犯逮捕しておきましたからっ!」
 もう片方の手を振りながら、船の下の風柳に手を降った。
「よしっ!サダノブ、でかしたぞっ!」
 風柳は姿を戻して救急車を要請している。
「はぁ~あ。お隣なんだし、鸞(らん※黒影の息子。フランス語学留学中。)にも良い加減会いたいよぉ~!」
 と、黒影は愚図りながらもサダノブに強制連行されて行ったのだった。

 ―――――――――――――――

 帰りにある予感がして、黒影は夕飯の買い出しをして帰った。
「お帰りなさい!……黒影あのね……。」
と、白雪が何か言いたそうに黒影を迎えた。
「うん、分かっているよ。どうせまたあの創世神の事だから、日にちすっ飛ばしてまた冷蔵庫の中身腐らせたんだよね?……そう思ってはい……買い出し行ってきた。」
 黒影はそう言うと、白雪に食材を渡した。
 リビングに戻るとやはり飲み物セットだけは忘れず置いてあった。
 カレンダーを見ると1891年2月12日だ。黒影はそれを見るなり、
「何だと!?あの人の方が端折っているじゃないか!」
 黒影は座っていたのに急に立ち上がり言うのだ。
「どうした、黒影……そんなに慌てるなんて。もう時間飛ばされるのなんか二度目じゃないか。」
 と、風柳は事態の重さに気付かず吞気にお茶を飲んでいる。
「違いますよっ!それじゃあないんですって!事件発生と発覚が明日なんです!1891年2月13日っ!」
 黒影のその言葉を聞くと流石の風柳もお茶を吹きそうになる。
 サダノブは慌てて事件の資料を確認した。
「ほっ、本当だ。何ですか?このハードスケジュールは?!」
 確かに事件資料には明日の日付がある。
「じゃあ、今日はまだ寝れないのか……夕飯だって今、白雪が作ってくれているから時間も掛かるだろうし……。」
と、風柳が少し疲れたのか珍しく心配そうにそんな事を言う。
 風柳も勿論、海に飛び込んだばかりのサダノブも体力を奪われて疲れきっている。
「先に二人とも風呂に入ってくれば良いですよ。僕はシャワーさっき浴びたから後で構わないし。それに確か……そんなに難しい事件じゃあないんですよ。」
 黒影がそんな事を言う。
「難しい事件じゃないって?」
とサダノブが聞くので、黒影はサダノブに資料を渡すように手を伸ばし、資料を見ながら、
「早めに現場につけばいいだけなんですよ。
 ……ああ、これは徹夜ですねぇ。午前2時15分チェンバーSTとロイヤルミントST間のガード下通路が現場。
 死後間もなく発見されています。発見者は巡査ですね
 。巡査の目撃情報によると、犯人と被害者がいたのを見たそうです。
 ……でね、その巡査により逮捕された人物は、証拠不十分で釈放されています。
 まぁ、警察が犯人逮捕に焦り過ぎた結果に一見見えますが、僕はこの巡査だけ見ていればどうせ犯人も目撃するんです。
 僕は、それで構わないと思いますが。風柳さん、ちょっと立場が悪くなるかも知れませんけれど、どうですかね?」
 と、黒影は風柳に聞いた。
「ああ、そう言う事なら尾行すれば良い。」
「どうも♪」
 風柳の言葉に黒影は気分を良くして微笑んだ。

 ――――――――AM1:30

「動きましたね……。」
 黒影が悪だくみをするかのように、巡査が動き出したのを確認し風柳にニコニコ笑いながら小声で言う。
「もう、誰かに被害者が殺されているんじゃないのか?」
 と、風柳は心配した。
「サダノブ、そっち誰かいる?」
 黒影はイギリスに来てから仕方なく手製で作った無線機で確認する。
「誰もいませんよ~。」
「了かぁ~い」
 サダノブは詰まらなさそうに言うので、黒影のんびりと答える。
「何だ、緊張感がなさすぎるぞ。」
 と、風柳は黒影を注意する。
「だって犯人、分かり易いから。笑っちゃって。何でこれで逮捕されないのか、そっちの方が謎のなんですよ。」
 黒影はそう言うではないか。
「さっきの情報だけでか?」
 と、風柳が聞くと、
「十分過ぎます。強いて言えば、ご遺体の状態ですがね、後頭部を地面に強打、喉を左から右に二回切られた……以上です。」
黒影はそう答えたるのだ。
「ん?……やけに今迄の犯行に比べるとご遺体が綺麗じゃあないか。」
 風柳は、気付いて言った。
「そうですよ。先に後頭部を突発的にもみ合ったかなんかして強打して殺してしまった。やばいと思った犯人は随分と  経ったのに、何とか切り裂きジャックの所為にしようと刃物で切ったんですよ。
 この間抜けな犯人、既に僕らの目の前にいるじゃあないですか。こんな時間に護身用のナイフをベルトにぶら下げて。あれ、凶器ですから。」
 と、黒影が言うので、思わず風柳は、
「まさか……巡査か……。」
 そう聞いて黒影の顔を見やる。
「あったり~♪簡単すぎましたかね。」
と、黒影が無邪気に笑うものだから、風柳は頭を抱えた。
「また身内かぁ~。それで立場がどうのか。」
 先程の黒影が聞いてきた言葉に、軽く返事をしたのを後悔する。
「まぁ、警察関係者だろうが、犯人は犯人だ。それに、これが終われば一連の事件も全て解決だ。さっさと終わったら日本に帰ろう。」
 と、風柳は今すぐにでも日本に帰りたい気分で言うのだった。
「サダノブ、犯人と被害者がもみ合ったら直ぐに氷で足止めしてくれ。被害者は恐らく一撃で後頭部を強打し死亡。絶対に頭を地面に着地させないでくれ。」
 無線で黒影は指示を細かく出す。
「一瞬ですよね、それ。あんまり自信ないんですけど……。」
 サダノブが弱気な発言をする。一瞬の判断ならば黒影の方が早いので、心配なのも無理もない。
「僕達も合流する筈だから安心しろ。無線でタイミングを出す。」
 と、黒影は言う。
「了解、それなら少し安心だ。」
 サダノブはそれで少しリラックスしたようだ。
ガード下に女が見える。巡査が近づいて行く。
「サダノブ、合流した。」
「見えます」
「………………今だ!!」
 二人がもみ合いを始めた瞬間、黒影は指令を出すと同時に飛び出し、銀のサーベルの柄で巡査の肩を突き飛ばす。
 サダノブは一気にもみ合った二人の足元に氷をバリバリと音を立てて張る。
「現行犯で逮捕する!」
 風柳が巡査に飛びつき手錠を掛けた。
「……はぁ~終わったぁ~!」
 黒影は、まるで水を得た魚の様に、伸び伸びと両手を掲げ言った。
「お疲れ様……だな。」
 それを見て巡査の腕を持ったままの風柳も、つい微笑む。
「長かった~!11件っ!」
 サダノブはフラフラしながらも笑っていた。
「少しは……此処の人達の役に立てましたかね。」
 黒影は、ふと両手を下しぼんやりと言った。
 ……早く帰ろう帰ろうと思っていたのに、いつの間にかこんな街でも何処か嫌いになれない自分がいる。

「何か……ちょっと寂しいですね。」
 サダノブが言う。
「う、うん……。」
 風柳が巡査を連行し、サダノブと黒影は二人で先に家路へ向かう。
 もう眠くてぼんやりそんな会話をしている時だった。
「あっ。」
 並んで歩いていた筈なのに、サダノブの視界から黒影の姿が消える。
「なっ、何!?先輩??」
 サダノブが振り向くと見事なぐらいに、まんまとギャングの数人に囲まれ、喉にナイフを当てられている黒影がいる。
「お前らっ!先輩から離れろよっ!」
 サダノブは食ってかかろうとしたが、
「あ~、サダノブは直ぐ熱くなるなぁ~。僕が影でこんなの簡単にすり抜ける事ぐらいこいつらだって分かっているんだよ。」
 と、黒影は言うのだ。
「でも……。」
 しょんぼりサダノブは肩を落とす。
「いいの、出番とか気にしなくて。まだまだ僕らは忙しいんだ。」
 と、黒影は、笑う。
「お前の所為で、この街で稼げなくなった。負けようが落とし前だけはつけておかなきゃ気が済まない。」
 ギャングの一人がそう言って黒影の前に立ちはだかる。
「良いんですよ、それで。無駄に怪我したって誰も得はしない。僕らの仕事は終わった。ホワイトチャペル自警団もやめなくちゃあならない。丁度代わりを探していた。この辺をうろつくのは得意だろう?僕から話は付けておくよ。まだ砒素の売上はどうせ隠し持っているんだろう?それで易い買春宿を買い上げて、新しい宿泊施設を経営すればいい。僕の所は、酒だけでかなり売り上げているよ。宿泊代無しでね。それだけアルコール依存症が多い。取り敢えずの安定収入にはなると思うけど?」
 と、黒影が言うと、ギャングの達は顔を見合わせた。
「この際、転職しちゃえば?どうせなら皆から感謝された方が良いし。この街で違う一番狙うのも良いんじゃない?」
 サダノブもあと一押しとそう言ってみる。
「そんな夢もあってもいいか……確かにもう、俺達のやり方は古いのかもな。」
 そう言ったのはどうやらボスだったらしく、大人しく全員引き下がり頷く。
「なんだかんだ言って良い街だった。人が生きようとする逞しさがる。」
 黒影は、手を差し伸べた。
「また何時か……。今度は切り裂きジャックと間違えられんじゃねぇぞ。」
 と、ボスはニカッと笑う。
「じゃあ!」
 黒影とサダノブは、ギャング達に手を振って、清々しい気持ちでその場を去った。

  ――――――――――――翌日

 穗と涼子が荷物を纏めてやってきた。女店主も態々会い来てくれた。
「寂しくなるわぁ~。」
 と、女店主は黒影に縋り付こうとしたので、白雪はその間に割り込み阻止をする。
「もう!駄目だってばぁ~っ!」
 白雪はパニエ入りのスカートをふわふわさせて頑張ってジャンプするものだから、可愛らしくて皆がクスクス笑う。
「そうだ、ジョニーさんは?」
 黒影が聞くと涼子は、窓の外を指す。
「えっ!?ちょい悪かっけぇ~っ!!」
 サダノブが目を輝かせて外へ飛び出して行った。それを見て、皆ぞろぞろと後を追って庭に出る。
「あれ?復帰ですか?」
 と、黒影は、制服姿の白髪の凛々しくなったジョニーに聞いた。
「ああ、指導役にってまだまだ頑張れる様になったよ。」
 ジョニーは馬に跨ったまま答える。
「良かったな、鬼鹿毛(あにかげ)。」
 黒影は、鬼鹿毛の頬を撫でて微笑んだ。
「あれ?じゃあ狛ちゃんは~?」
 と、サダノブがジョニーに聞いた。
「ああ、あっちは色白美人だから、今頃貴族様の綺麗な馬車を引いてるよ。」
 ジョニーはそう答えた。
「そっかぁ~……寂しいけど、似合うんだろうなぁ~。安心した~。」
 と、笑顔が零れる。

「ほら、じゃあそろそろ……。」
 風柳が皆の荷物を纏めてくれていたのが終わったらしい。
「じゃあ、ジョニーさん、此処の平和を守って下さいね。お世話になりました。」
 黒影は、微笑みながら言った。
「任せてくれよ!」
 ジョニーはカッコ良く剣で敬礼する。
「また黒影に連れてきてもらうから!」
 と、白雪は女店主とジョニーに涙目になって手を振る。
 黒影は、今日は霧も晴れた美しい空に向かい指笛を吹いた。
太陽の中央から鳳凰が光り輝きやがて姿を見せ黒影の肩に飛来する。
「景星鳳凰 (けいせいほうおう)……「黒影紳士通常版」……世界解放!」
 肩に止まった鳳凰の鳳(ほう)は、目の前に光り輝く、人が通れる程の長方形を作る。
(※元は聖人や賢人がこの世に現れる前兆を意味するが、この場合は主人公や物語がこの世に現れる前兆を作ったという事。)
 黒影は、漆黒のコートに鳳凰の赤い炎を揺らがし、鞄を持って一番にこの「親愛なる切り裂きジャック様」から元の現代の日本へ帰っていく。
 皆も続いて日本へ到着した。
「あっ!そうだ、家壊れたままだった!またホテルぐらしか~っ!」
 と、黒影は嘆いた。
「今戻ればイギリスに宿、いっぱいありますけど。」
 サダノブはニヤニヤして言うのだ。
「もう、暫くは勘弁してくれよぁ~!スィートだ!」
 と、黒影はまた高級ホテルに滞在しまくるつもりである。
「雑魚寝でよきゃあウチの店でも貸すよ。黒影の旦那には約束の設計図一枚の貸があるからねぇ~。」
 と、涼子は黒影をつつく。
「あぁ~もう、分かったよ!その代わりに久々に一勝負!」
「のってきたねぇ~旦那♪」
二人はすっかり車が恋しかったのか、新しいセキュリティシステムの設計図を賭けて一勝負と言ったところだ。

 ――――――――
「ふっ……只今ベイベーっ!!」
 エンジンが掛かった瞬間に、黒影はやはり豹変し、助手席の白雪と後部座席のサダノブは、発進と共に頭がガクンとなっている。
「黒影の旦那~!今日は涼子が頂くからねっ!」
 黒影の真っ黒なスポーツカーに真っ赤な涼子運転する、穗が助手席に乗ったスポーツカーが横につく。
行先は新しい探偵社の下見である。

「そうはさせるか、涼子っ!!僕は、なぁ!

 ―――――――――この時代を駆け抜けるんだよっ――――――――!!」

 黒影は今日も幸せそうに笑うのであった。
 正しい未来の中……今を信じ…………ただ只管走るのみである。

――取り敢えず「親愛なる切り裂きジャック様 5」
 ~大人の壁、限界突破編シリーズ 終わり――
で、す、が、「黒影紳士」は未だ未だ続きます。🎩🌹

🔸次の↓「黒影紳士」season5-1幕 第一章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。