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「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様3〜大人の壁、突破編〜🎩第二章 祝い

第二章 祝い

「ただいま、黒影〜♪あっ、帽子可愛いー!」
 白雪がご機嫌で帰ってきた。
「此れでよかったんだよな。」
 と、風柳は煙草を渡す。
「あ、有難う。……そう、この煙草。……僕は吸わないから分からないけれど。フレイバーを変えれば、配合次第では気に入って貰えるよね。」
 と、黒影は物珍しいものでも見るように眺め、言った。
「じゃあ……いってくる。」
 そう言って再び日本へ、景星鳳凰を繋ぎ潜り抜けた。

『まぁ、そこで正座して待ってなさい』
 と、創世神の声が聞こえた。
 日本らしいが、白い床……何か文字があるが良く見えない。
 暫くすると、足音が聞こえた。
「あっ、あの……僕は夢探偵社の代表の黒田 勲です。」
 と、自己紹介をした。
 ――――――――――――――――――――――

「先輩まだですかねー。」
 と、サダノブが詰まらなそうに光る、景星鳳凰を見ながら言った。
「……ただいま〜♪楽しかったよ〜♪はい、お土産。」
 と、黒影は蔓延の笑顔で、荷台に寿司樽を数段と日本酒、を押して千鳥足で帰ってきた。
「先輩、お酒臭いっ!どんだけ飲んでるんですかぁ〜。完璧に酔っ払い……。お土産って、その寿司樽、食べ終わったら返さないといけないじゃないですかっ!」
 と、サダノブは言いながら、早くベッドに寝る様にと、黒影の背を押した。
「あー、それなら大丈夫。大将に樽代払ったし。日本¥使えるの、楽〜♪……いやぁー、僕も設立したてを思い出して、つい……長いしちゃったよー。」
 と、黒影は上機嫌のまま、パタリとベッドに倒れたかと思うと、すやすや眠り始めた。
「……嬉しそうね。」
 白雪がクスッと笑う。
「同業者の目の敵にされてきた人ですからね。」
 と、サダノブはボソッと言った。

 誰も……居なかったんですよね。
 一人で悩んで、一人で走って……
 だから今日は……仕方無い。

 サダノブは微笑んで、黒影のベッド傍の椅子に座った。
 ――――――――――――――
 翌日、風柳が深刻そうな顔をして、病院から帰ってきたばかりの黒影に話す。
「ショール……確かに現場から無くなっていた。現場から証拠品が消えるなんて……余りにも杜撰な管理だ。どうもご遺体はぽこぽこ出るは、毎日酔っ払いを何とかしなくては、で……警察として機能していない。感覚が皆んなおかしくなっちまったんだろうさ。」
 と。
「風柳さん……僕を逮捕して下さい。」
「はぁ?」(サダノブ)
「ぇえ?!」(白雪)
 その黒影の一言に、風柳はフリーズし、二人はドン引きしている。
「……とうとう……そんな変な趣味が……。」
 と、サダノブはきっと、創世神みたいに愛情が歪んでしまったのだろうと嘆いた。
「はぁー?サダノブ、何言っているんだ!形式だけだよ。……狙うは留置所の調査だ!新聞社に送られた「親愛なるボス」と言う手紙。娼婦への怨み、耳を切って贈ろうとしたが失敗した、と書いてあった。
 其の後45分しかご遺体発見の間が空いていない通称「ダブルイベント」が発生する。
 僕はこのダブルイベント……違う人物が行ったと読んでいる。その調査だ。」
 と、黒影は変な勘違いをするなと少し、機嫌を損ねる。
「どうする?サダノブ……二人で酔っ払って、殴り合いの喧嘩でも軽くするか。」
 と、黒影は笑った。
「いや、そのお顔がねぇ……今、数発どさくさに、本気で殴る笑顔してるでしょう?」
 と、サダノブは苦笑う。
「なんだ、バレたか。」
 と、黒影はキョトンとして、やっぱり嘘は難しいなぁ〜と思っている。
「バレたかじゃないですよ。目が死んでる営業スマイルされたら、誰でもわかります!」
 と、サダノブは言った。
「……仕方無い、別に殴り合いのフリなんかしなくても、酔っ払えばそう言う事にして、二人仲良くしょっ引いてあげるよ。」
 と、風柳は一番平和的な答えを出す。
「ほらっ!これですよっ!先輩、鳳凰にも関わらず、平和的じゃない!」
 と、サダノブは狛犬として、鳳凰を注意する。
「馬鹿犬の癖に五月蝿いなぁー。臨場感だろ?……それに、調査に平和も何も無いよ。」
 と、黒影はツンとして珈琲を飲む。
「黒影?」
「ん?」
 白雪が腕にしがみ付き横に座って呼んだ。
「アルコール中毒にならないでよ。貴方が暴れたら誰も止められないんだから。」
 と、白雪はイギリスについてから、水の様に飲むので心配していた。
「……そうだな。茶番劇の調査が終わったら、ちょっと休肝日でも設けるか。」
 と、黒影は反省して言った。
「じゃ、今夜だけね。」
 と、黒影は白雪と指切りをして、針千本飲ますではなく、次の新作のお洋服をプレゼントする……指切ったで、離した。
 ――――――――――――――――
 夕暮れ前から風柳と、黒影、サダノブはお世話になっていた涼子と穂のいる宿へ向かう。
 黒影と風柳は鬼鹿毛(おにかげ)と黒影が名付けた漆黒の馬、サダノブは真っ白なこまちゃんに乗り出掛ける。
 鬼鹿毛の手綱は風柳が持ち、黒影は既に呑気に後ろで飲んでいる。
 宿の一階に辿り着くと
「今日は任務の一環で馬鹿騒ぎをする。警察にしょっ引かれるまでが劇だ。精々派手に盛り上げてくれないか。」
 と、女店主に黒影は多額のチップを渡すと、
「まぁ、そう言う事なら……毎度ありー♪」
 と、ご機嫌そうに笑った。
 その額は店を壊して修繕できる程だったのだから、察して笑うしかないのも無理は無い。
 サダノブはジンを、黒影はウイスキーを頼みまくり、乾杯しては早く酔っ払おうとハイペースで飲みまくる。(急性アルコール中毒になりますので、一気飲みやこの様な飲み方は控えましょうby著者)
「なぁ……本気で、どっちが強いか、久々に力比べしたくないかぁ〜。」
 と、黒影が酔っ払ってニターと笑って言った。
「はあ?鳳凰出されたら、この店燃えるし、街ごと大騒ぎですよぉ〜。」
 と、サダノブは苦笑いをする。
「でも、鳳凰ならば狛犬だって力が出せるぞ。炎と氷……本当は何方が強いのか、僕すら知らん。」
 と、黒影は真実を欲しがって瞳を赤い炎で揺らがせた。
「はあ?無理ですよ。だって、鳳凰を守る為の力なんですから、鳳凰以上出る訳が無い。」
 と、サダノブは馬鹿馬鹿しいと、ジンをクイッと飲み干す。
「……そうかなぁ〜。例外があると思って……。」
 と、黒影は期待の眼差しで、頬杖をついてサダノブを見た。
「……例外?んなもん、ありませんよ。俺は先輩を護る為に守護になったんだから。鳳凰が怪我するような技なんて入りませんっ!」
 と、サダノブはきっぱり言った。
「……う〜ん…久々に良い気分だ。」
 と、黒影は幸せそうに両手を伸ばし言った。
 だが、まだその瞳は赤い……。
 真実を知りたくて、納得はしていないようだ。
「これから、その例外とやらのテストをする。」
 と、突然黒影は言い出すと、カウンターに行き、お代わりを言いながら女店主にこう言った。
「これから、危機迫る避難訓練を行なって頂きたい。警官が来たら、酔っ払い二人が暴れて酒樽に火を付けたとでも言えば言い。店は心配しなくて良い。今夜は風柳邸にでもいてくれ。涼子さんと穂さんが知っている。できるだけ騒いで飛び出してくれよ。」
 と、黒影は笑った。
「全く困った探偵さんだね。」
 と、女店主は和かに笑って返す。
 店の客や女共は店の出入り口手前に集まり、何が起こるのかと、酔っ払いの二人を見守る。
「黒影の旦那ぁ〜、シラフじゃないと真剣勝負にならないじゃないかあ。」
 と、涼子がヤジを入れる。
 黒影は始終笑い上戸で、
「酔ってなきゃ出来ない事もあるんですよ。」
 と、楽しそうだ。
「良い目だねぇー。」
 と、黒影の赤い目がお気に入りな涼子は、そう言うと何かを懐かしんでいる様だった。
「ちょっと、冗談でしょう?」
 サダノブの笑いが引き攣る。
「冗談?……だったら、こんなに楽しい冗談は無い。鳳凰だからって完璧では無いんだ。僕は平等も平和も失ったこの街に何も求めないし、求められてもいない。
 存在意義の無い鳳凰など、唯の悲しみの受け皿でしかない。……苛々していたんだよ……丁度ねぇ。
 何も出来ないと嘆く事に慣れた人々……そして、今まさにそれと同じになろうとしている自分になっ!
「十方位鳳連斬!(じゅっぽういほうれんざん)……解陣っ!」」
 と、黒影は鳳凰最強の陣、鳳凰を中心にした円から十方に伸びる炎、更に外を大きな円が囲む陣を、床に張り巡らせた。
「ちょっと、やばいですって!何で屋内なのに幻炎(幻覚の炎)じゃなくて、本物使うんです!火事になりますって!」
 と、サダノブは守護なので、その炎に害は無いが、周りに飛び火する被害を見て焦り、酔いも覚める。
「だぁーかぁーらぁー、鳳凰を必要としない願いも持てないこの街等、僕には関係ないんだよ……。切り裂きジャックが出てこない?なら、全部燃えてしまえば無くなるよ。外に出すより、効率的だ。…全鳳凰陣……炎柱壁!(全鳳凰陣の燃える線を高く壁のように燃え上がらせる防御)」
 と、黒影は唱え、2階の吹き抜けの天井まで炎を立ち上らせるのだ。
「あら、黒影の旦那……ちょいと本気みたいだねぇ。穂、他の女ども連れてずらかるよっ!」
 と、涼子は穂に言った。
「サダノブさぁーん!喧嘩は程々ですからねぇー!」
 と、穂は女共を連れて、サダノブに手を振り笑顔で出て行く。
「ぇえ?!これ、喧嘩のレベルじゃないでしょう?!皆んな、先輩止めてよぉ〜。」
 と、サダノブが鳴き声を言う。
「何、弱気な事言ってんだい!……黒影の旦那を護るのも、止められるのもサダノブしかいないだろう?」
 と、涼子はにっこり笑うと、サダノブの肩をどついてさっさと出て行く。
「……あのぉ?先輩、酔ってるだけですよねぇ?」
 と、サダノブは火柱の中に居るであろう、黒影に聞いた。
「それはどうだろう?朱雀炎翼臨(すざくえんよくりん)!」
 と、とうとうサダノブでも火傷する、鳳凰よりも一回り大きい朱雀の巨大な炎の翼を呼び出す声がした。
「嘘……だろう……。」
 此れにはサダノブも思わず後退りする。
「早く来ないと、もっと強化するぞ〜♪」
 と、黒影はウイスキーグラスを片手に言うと、空いている手を天に翳した。
「ふふ……朱雀剣!来いっ!」
 黒影は笑いながら光り現れた朱雀剣をしかと握りしめた。
 これは黒影は唯一持つ炎の剣。
 炎の渦を高速で巻いて出来たもので振りかざすと、凄まじい熱風で敵を飛ばしたり出来る。
 基本的には斬るものには黒影は使わないが、切断も可能。
 流石に朱雀剣に擦れば、熱風でさえ吹き飛ばされるので、サダノブは仕方なく、床に手をつき、氷の壁を作る。
「久々の本気勝負でそれか?……笑わせるなよっ!」
 そう言ったと思うと、黒影が鳳凰陣から朱雀剣片手に飛び出してきた。
 飛び出すと同時に、横一直線に朱雀剣を払い、氷の壁を割って、突っ込んでくる。
「先輩、酔いすぎですって!」
 サダノブはそう言うと同時に、己の肘から手までを凍らせ、朱雀剣を受けて弾き返す。
 黒影は軽いが、脚力だけは凄いので小回りが効く。
 サダノブは慌ててその隙に、自分の周りを四角い氷で囲った。
黒影はチビチビとシングルロックのウイスキーを飲みながら、
「たかが氷だろう?固くても割れる、熱けりゃ溶ける……それで、本気で僕を護るつもり?使い方も下手だし、僕ならもっと有効的に使うよ。僕が鳳凰の力を封印した時、あんなにぶうぶう言っていた割には、在っても無くても、どうでも良かったみたいだな。」
 と、黒影は再び朱雀剣を構えた。

 何だ?ウチの鳳凰我儘社長様はとうとう御乱心か??
 本気の殺気だ…。
 先輩は無意味な事を嫌う。
 何か意味があるならば……
 在っても無くても……。

 サダノブが考えている間にも、黒影を包む朱雀の光の炎が真っ赤に店中を包んで行く。
「よぉ〜く、考えろ。時間は無いがな。」
 そう言うと黒影はザッと音を立てて鳳凰陣内に一気に飛んで後退した。
 「蒼炎……十方位鳳連斬!……解陣っ!」
 黒影が、影に特化した蒼い鳳凰陣を広げた声が、サダノブにも聞こえて分かった。
 それだけでも、悍ましいのに、
「サダノブ、あれだけ楽しみにしていたんだ。有り難く思え。……鳳凰来義(ほうおうらいぎ)……降臨……。」
2色の鳳凰陣を重ね、赤を表にし、鳳凰の魂を君臨させる。
黒影自体の鳳凰の魂を解放させる。
この技は……
「願帰元命(がんきがんめい)……十方位鳳凰来義(しゅっぽういほうおうらいぎ)!……解陣!」
二枚の鳳凰陣が真っ赤に燃え盛り最大値に拡大した。
黒影は金の火の粉を舞い散らしながら、店中を飛び店を焼き崩して行く。
本来平和を取り戻す為の技が、地獄絵図を作っている。
「……嘘……だよな……。」
 輝かしい……あの鳳凰が……。サダノブはその姿に絶望と言う物を感じた。
「俺は、こんなの……鳳凰だとは認めないっ!」
 尊敬も、全て壊された様な屈辱的な気分に、サダノブは叫んだ。
 すると、鳳凰の姿から急に普段の姿に戻った黒影が天井に張り付いて止まっているのが見えた。
「……えっ……?」
 手首と足首にと首に細い氷の枷が出来て、天井に黒影の体を張り付かせていたのだ。
 サダノブは燃え盛る店の中、慌てて氷の階段を作る。
「先輩っ!先輩っ!」
 ……意識はないが気絶しているだけの様だ。
 ロングコートだけが、だらりと下に伸びている。
「先輩ってば!逃げないとっ!」
 自分でもどうしたら良いか分からず、仕方なく掌に冷気を纏わせ、黒影の頬に触れる。
「つっ、冷たっ!くっ、首……ぐるじぃ……。」
 と、起きた黒影は頭を軽く振って、言った。
「氷柱!氷柱で砕け、とっとと!」
 と、半分キレながら黒影は伝える。
 慌ててサダノブはそうした。
「けほっ……捕まえるにも……けほっ……もう少し、考えろよ馬鹿犬っ!」
 と、黒影は首が苦しかったようで、少し噎せりながら言う。
「あれ?先輩こうなる事分かって……?」
 と、サダノブはあまり驚いていない黒影に聞いた。
「分かっていたよ。守護なら、鳳凰が暴走した時に止める技を持っている筈だと思ってな。
 リミッターは上手く外れたみたいだが…。やはり、思考読みだから、狛犬になれたみたいだな。逆に思考読みでなくてはなれなかったようだ。
 気絶させられんからな。……応用すれば、犯人逮捕には役立ちそうだ。使えそうじゃないか。」
 と、黒影は氷の階段を滑らないように、慎重に降りながら話した。
「まさか……その為に、態々店ごと?」
 と、サダノブが聞いた。黒影は笑いながら、
「それもあるが、それだけじゃ無い。後で分かるさ。」
 と、爽やかに答えた。
「さぁ……まだほろ酔いだが、泥酔しているフリをして盛大に口喧嘩でもするか。」
 と、言って黒影が出る前に言った。
「先輩、後で根に持たないで下さいね。」
 と、サダノブは一言、断っておいた。
 ――――――――――――――――――――

「いっつも偉そうにっ!大体我儘が過ぎるから、そうやってねぇー。」
「はぁ!?お前にいちいち言われる筋合いはないぞ。お前がそこまで馬鹿じゃなきゃ、こんなに苦労しないよ!」
 と、フリのつもりが、何処となく日頃の鬱憤晴らしになりつつある。
「童顔、虚弱体質!」
 サダノブはあれだけ二度と言わないと言っていた、黒影のコンプレックスを平気で言う。
 これには、黒影も頭に来て、
「二度と言いません!って、言ったのは何処のどいつだよ。それとも何か?お前はとうとう、約束の一つや二つも覚えられん馬鹿犬になったって事か!?……こんな奴と良く何年も組んで仕事出来たと、恐ろしくなってきたよ!」
 と、とうとう口だけのつもりが、とっつきあいの喧嘩が始まる。
「キャー!誰か止めてよ!店まで火の海だわっ!」
 と、店の女共も未だと、キャーキャー騒ぎ立て、軈て待っていた風柳がワザとらしく来る。
「君達、一体何をしているんだ。ほら離れてっ!」
 と、言われても暫く暴れて、黒影とサダノブは風柳の手引きもあり、まんまと勾留される事となる。
 二人で暴れたので、サダノブと違う一人用だけの部屋だ。
 黒影は人気が無いのを確認すると、バサッと漆黒のコートを頭から被り、中をライトで照らす。
 何を観ているかって?
 そんなの……血液反応と体液に決まっている。
 鑑識専用のブラックライトの色を切り替えれば一目瞭然だ。

「……あった♪」

 拭き取られた後もバッチリと。
 拘留場で、売春と暴力沙汰が起きた事は明白である。
 それは日常茶飯事であったのも、血液と体液の反応はバラバラの位置にある事からも分かる。
 なのに何故、拘留場へ来るのか。
 特に悪い事をしていなくても、入る事が可能なのだ。
 そう……ダブルイベントの被害者の一人の様に、酔っ払って道で寝ていたならば、保護と言う形でこの拘留場に入った。
 その時間が不可思議でもある。
 午後8時半から翌日午前1時。
 稼ぎ時だ。若しくは客でも見つけておかないと、寝る宿に困る。

 ダブルイベントは29日から30日に起こる。

 29日目撃されたエルザは、ホワイトチャペルのバーナストリート外れの、ダットフィールズヤードにて30日午前1時にご遺体で発見される。

 ――――それからなんと、45分後

 午前1時45分シャレルのご遺体が発見されたと言う2件のまるで一括りにされた事件だが、この「ダブルイベント」と言うふざけた名称も、声明文によるもので、黒影は全く信じていない。

「……悪党の言う事なんか、いちいち鵜呑みにしてられるか。」
 そう言いながら、拘留状態をASLを用いて隈なく調べていると、足跡が聞こえてきて、慌てて寝たフリをする。
 今回はダブルイベントの2件目を調べている。
 切り裂きジャックが行ったとされる5件通常「カノニカル・ファイブ」の4件目だ。
 連続、模倣犯の可能性が疑われるならば、一件一件丁寧にヒントがあるものから崩して行く。
 それが物事を鮮明にし、一つの失われた命に対してのせめての供養と礼節だからである。
 同等の価値の命は存在しない。……そう言う事だ。

 拘留場の鍵が開く……。
 黒影は布団に潜り、僅かに差し込む月明かりで懐中時計を見た。
 午前0時過ぎ。様子を見に来ただけか……。
 と、懐中時計を仕舞う。
「ほらっ、起きろ!」
 ……こんな時間にか?…妙には思ったが、まだ酔っ払っているフリをしてみる。
「ゔーむ……まだ頭痛いんですよぉー。」
 と、包まったまま、黒影は言った。
「何だ、まだ歩けそうもないか。」
 と、警官が言うので、黒影は頭を少しだけ出して頷くが、顔は出さなかった。
 その後、少し間が空いたと思うと、
「おい、此処は酔っ払いの宿泊施設じゃないんだ。どいつもこいつも……。」
 と、警官は苛立っている。
 まぁ……苛立つのも仕方ない……が、やはり黒影の思った通り、その日の食いぶちもない娼婦がワザと、酔っ払って此処に来て泊まると言う、予測は正解の様だ。
 でも、クラウディーが此処に来るのを嫌がった理由は、この中に上客はいるが、随分手荒な人物らしい。
 一部の娼婦だけが知っていたのだろう。
 ……まぁ、僕はただ調査出来れば良かっただけだ。
 そう思った時だ。
「なぁ、君は探偵だったよな?」
 と、警官が聞く。
「ええ、そうですよ。探偵が酔っ払ってはいけない法律なんて、イギリスにありましたっけ〜。」
 と、黒影は酔っ払っている口調で返す。
「「親愛なる切り裂きジャック様」と呼ばれて、女達から絶大な支持もある。」
 と、恨めしそうに言うのだ。
「それは尾鰭は鰭付いて……僕だって好きでそんな呼ばれ方……。」
 黒影の言葉が止まる。
 ……ちっ、近い……。
「……君は綺麗な目をしているなぁ……。」
 と、そいつは言う。
 ……あれ?僕、やばぃ……のか?
「離れろよ、気持ち悪いっ!妻子持ちだよっ!」
 と、黒影が睨むと、警官は帽子を取り笑った。
 笑いながら、黒影の腹を蹴り始めた。
 暴れない様に掛けられた手錠が邪魔だ。
 ……傷が……開いてしまう……。
 ……意地でも……悲鳴なんて上げるかっ!
「あははは……。何て愚かなんだっ!愚か過ぎて笑いが止まらんっ!あははは……。それで、娼婦に逆に脅されて殺したんだ。どれだけ、彼女達を人間以下に思っていたか知らないけれど、殺したお前は確実に人間以下だよ!」
 黒影は悲鳴を笑いに変えて、何度蹴られて吐血しても笑っていた。
「その薄ら笑いを止めろ!」
 犯人は黒影の胸ぐらを掴み壁に突き飛ばした。
 シャツの釦が数個飛んで、床にカラカラと音を立てて落ちる。
「……流石に、侵し殺されると分かったら、笑いも止まったか。」
 と、犯人はニヒルな笑みを浮かべた。
 黒影は苛立ち、血を床に吐いて、
「僕が誰だか分からないお前は実に愚かだ。死ぬまで笑っていてやる。悪党の言う事に僕が、一言でも屈すると思うなよ。……屈するのは、お前だっ!」
 クラウディーに刺された傷を庇い蹲りながら、黒影は険しい怒りに満ちた瞳で言った。
 瞳の中の蒼い炎が、こいつを許すなと騒めく。
「幻炎……蒼炎……十方位鳳連斬……解陣!」
 と、黒影は近くの勾留場にいるであろうサダノブに、聞こえるように叫んだ。
 サダノブは鳳凰陣が展開された事に反応して、心臓がドクンとなったのを感じて、起きた。
 黒影の思考を辿ると壁越しに真後ろで、テンパってる。
「壁、ぶち破りますから〜っ!」
 と、サダノブはそう言うと拳に氷を被せた。
 黒影はその声に、慌てて中央に転がる。
 次の瞬間、バリバリと壁が崩れ落ちた。
「……はぁ〜良かったぁ〜。殺された女の恨み……僕がほんの欠片をお前に埋め込んでやる!……幻影惨刺!……貫けぇえ――っ!」
 黒影は犯人に手を伸ばし、肩に影の棘を突き刺した。
 それでも、危うく犯人の標的になりそうで、少し震えていた黒影にサダノブは言った。
「もう……だから、童顔だから……。気を付けないと。」
 と、サダノブは半泣きの黒影を見て言った。
 潤んだ瞳が……多少は可愛いが、黒影が怒るので気にしなかった事にしよう。
 首筋も肌けたシャツもセクシーだが、恐ろし過ぎるので、何も見なかった事にしよう。
「童顔、関係ないじゃん!僕は白雪一筋って決めてるんだ!それに、そいつ……肩にフケがある。あり得ない!近付けるなっ!」
 と、黒影は言い出す。
「えっ?!先輩護るだけで大変なのに、潔癖症発動中っすかー?もう、我儘が過ぎるんですよぉー。」
 と、サダノブは呆れたが、警官を金色の野生の目で睨みつけた。
「よくも……俺の先輩にっ!何してくれてんじゃーーいっ!!」
 と、サダノブは阿行と吽行の狛犬二匹を一匹にした、大きな野犬になり冷気を放っている。
「ふふ……犬のお巡りさんだ。逮捕しろ!」
 と、黒影は大きな野犬に言った。
 野犬は口から一気に冷気を吐き出して、一気に走り出すと、警官の動きを止めようと、バリバリと周りを凍らせる。
「意外とちょこまかするな……。」
 と、黒影が言うと警官は廊下に出てしまう。
 後を追った野犬と黒影は、廊下の先にいる人物にホッとした。
「風柳さぁ〜ん!そいつ、犯人!」
 と、黒影は笑って言う。
 ……馬鹿な犯人……黒田家のよりによって長に飛び込むなんて……。
「止まれ!……止まらなければ、虎が吼えるぞ。」
 風柳は白月の陣の上、白い虎に成り、遠吠えをあげ睨む。
 その迫力に思わず犯人が止まった所を、サダノブが顔以外を凍り付かす。
「先輩〜っ!大丈夫ですかぁ〜!」
 半泣きの黒影にサダノブは走って飛びつこうとしたが、ジャンプ蹴りを喰らい、
「風柳さぁ〜んっ!怖かったよぉ〜!!もう、潜入捜査嫌だぁ〜っ!!」
 と、風柳にしがみ付く黒影なのであった。
 ――――――――――――――――
「あっ、お帰りなさい、黒影♪……皆んなも♪」
 と、白雪が何時ものように笑顔で迎えてくれる。
 黒影は力無く歩いたかと思うと、白雪を抱きしめ肩にがっくり頭をつけてぐりぐりしている。
「どうしたの、黒影?」
 白雪は何か無性に落ち込んでいるらしい、黒影を抱き締めて聞いた。
「……白雪ぃ〜……珈琲ぃ……。」
 と、黒影は弱々しく言うだけだ。
「白雪さん、先輩今日事件で傷心中だから、気にしても仕方ないし、そのうち元気になりますよ。」
 と、サダノブは笑いながら言った。
「そうなのぉ〜?もぅ、仕方無いわねぇ〜。」
 と、言いながら白雪は黒影の帽子を取り、頭を撫でると珈琲を作りに行く。
 珈琲が来る間も、黒影は頭をコツンとテーブルに置いて凹んでいる。
「まぁ、黒影……無事だったんだから良かったじゃないか。」
 と、風柳は苦笑いをした。
「……他人事だから、言えるんですよ……。」
 と、黒影はいじけている。
「……で?サダノブと二人で壊した宿はどうするんだ?今日はこの家のあちこち、娼婦だらけだが?」
 と、風柳は黒影に聞く。
「今は見たくなぁ〜い。……あの土地にシェルターを作るんですよ。ビルで出来るだけ困った人が泊まれる、簡易的だが衛生的で安全な場所。管理は宿の女店主に任せます。」
 と、黒影は答えた。
「……それは、警察内に犯人がいるって分かってから決めていたのか?」
 と、風柳は聞いた。
「……そうですよ。……それでも一部しか何ともなりませんがね。」
 と、黒影は言って、むくっとテーブルから上半身を起こす。
「はい、珈琲。」
 と、白雪は黒影に何時もの、愛情たっぷりの珈琲を出してくれた。
 黒影の話を隠れて聞いていた、宿から非難して来ていた女達が一斉に、黒影に群がる。
「まぁ、何て素敵なのっ!流石、私達の「親愛なる切り裂きジャック様」は、紳士の中の紳士よっ!」
「だからぁ……今はさぁ……。」
 ……落ち込んでいるのに……と、黒影は言いたいが黙って珈琲を飲む。
「離れたくなぁーい!此処にずっといたーい!」
 と、他の女達もガヤガヤ言い出す。
「駄目よ!私が許さないんだからっ!」
 と、白雪まで、ガヤガヤに参加し出す始末だ。
「あーっ!もう、僕は明日の仕事があるんだっ!解散っ!」
 ……と、まぁ、落ち込んでいる間も無いようである。
 黒影は軽食を取りながら、風柳に、
「風柳さん、もう一人……いる筈なんです。警察内に……犯人が。基本的に二人一組で組んでいますよね?ならば、一人は深夜に、留置場を見てもう一人は?」
 と、黒影は風柳に聞いた。
「もう一人?まぁ……大体、交代で外回りじゃないか?」
 と、風柳が答える。
「はい、それが答え。今日逮捕した犯人と同じ時間に組んでいた奴が「ダブルイベント」の一番目の被害者、エルザを殺害した事件の犯人です。
 留置場で何が起きているか、口封じする為に。
 出世話か、バレそうになっていたんじゃないんですかね。
 その辺は、風柳さん……調査お願いしますよ。」
 と、黒影はにっこり笑うと、風柳に言った。
「俺がか?」
 と、風柳はただの研修なのにと、思いながら言った。
「丁度良いじゃないですか?研修中を利用して、根掘り葉掘り聞けば良いのですよ。ずっといる訳じゃないのだから、相手も気が緩みます。」
 と、黒影は微笑む。
「まぁ、聞けるだけだよ。」
 と、風柳は言ったが、黒影はそれで満足した様だ。
 だって、風柳が何も掴まないで、納得する様な人じゃないと分かっているから。
 黒影は、「ダブルイベント」の第一被害者のエルザの件について話し始めた。
「先ずは私服に着替え、エルザ殺しに行く。ところが、途中で見つかりそうになり、殺すだけ殺し逃亡。今日捕まえた犯人に伝えたんだ。
 もし、「ダブルイベント」が同一犯ならば、追いかけられているのに、二番目をじっくり殺害なんてしない。
 二番目を諦めるか、やはり途中で放棄するのが普通だ。
 幾ら興奮状態にあっても、誰だって捕まりたくはないのだから。
 一番目の被害者のエルザは、泥酔して暴れては警察に通報される、要注意の有名人だった。つまり、エルザもあの勾留場の常連。酒代欲しさに、宿代が無くて仕方無く、あの乱暴な警官を客に取っていたんだろうな。

 今日捕まえた犯人はエルザの死を相棒から聞き、直ぐにシャレルを追い出し、尾行して殺そうとした。その時、事もあろうか床を拭いたショールを、ショールの持ち主だったシャレルに持ち去られた。
 ショールを渡せと言う犯人を不審に思ったシャレルは、ショールの証拠に気付き、言われたく無かったら……と、脅しただろう。
 血痕と体液が複数残ったショールを奪われる訳には行かなかった。
 だから、殺すしか無かったんだ。」
 と、黒影は現代ミトコンドリアDNA鑑定されたショールについて話す。
「まさか、現場から持ち出されたショールがそれか。」
 と、風柳は驚いて聞いた。
「時が経って、DNA鑑定が出来なくなるまで、犯人は保管していたのですよ。悪趣味な事に。そして、切り裂きジャック人気で高く売れると分かり、オークションに出そうとした。もう古く、DNA鑑定は不可能だと分かっていた。警察関係者なら分かりますよね。
 しかし、不安だった犯人はショールをある場所に持って行った。
 差別的思想を持ち、娼婦が嫌いだと、常日頃言っていた散髪屋の所へ。
 散髪屋だから、皆んなが苦手な会話を知っている。それが重要だった。
 何時もの様に散髪を頼み、寒いからと膝掛けにでもショールを掛ける。鋏を持っている時にわざと頭を鋏にぶつける等して、鋭い鋏は散髪屋の指か手に軽い傷を負わせたでしょう。
 散髪屋の主人はこれではいけないと、鋏を置いて治療しに行く。その隙にショールで鋏を拭き取った。
 これで、DNAを偽造したショールの出来上がりです。
 他でも無く散髪屋だから出来た。しかし、アリバイと、DNAが古くミトコンドリアDNAという、個人特定には至りませんでした。
 僕は冤罪が出来るよりかはそれで良いと思っていますよ。」
 と、黒影は現代に残る29万分の1の確率の突然変異の保有さえ、アリバイが崩れない限りは信じるに値しないと思っている。
 年月が経てば、証拠の捏造が容易くなるからだ。
「そして、この「ダブルイベント」二日前の手紙を犯人は思い出す。
 二日前に新聞社に届いた「親愛なるボスへ」の手紙の中で、切り裂きジャックなる者が、娼婦に恨みがあり、耳を切って贈ろうとしたが無理だった、と書いていた事を。

 だから、自分に容疑が掛からぬよう、右耳の一部があれば、今度こそ切り裂きジャックの犯行だと思わせる事が出来ると切断した。しかし、他のご遺体と違い、態々衣服に入れたから違和感が出てしまった。

 殺害後、急いで「ゴーストン•ストリートの落書き」を書いた。その後午前2時55分シャレルの血塗れのエプロンの真上に、差別的な言葉をチョークで上に書いた落書きが発見される。
 暴動を懸念し、直ぐ様消されたが、これには差別的な内容よりも、重要な他の意味があった。

 イーストエンドで起きた事件は、スコットランドヤード管轄。シャレルの事件はロンドン市警管轄。落書きはスコットランドヤード管轄。
 管轄を変える事で、協力体制を崩す。
 警察関係者だからこそ、思いつく発想だ。
 ねぇ、風柳さん。現代だって管轄を変えて事件を混乱させようとする知能犯はいますよね?」
 と、黒影は言い終えると、風柳に微笑んだ。
「なぁ〜?その清々しいまでの微笑みだが、警察の所為なんだから、そっちで勿論片付けますよね?って言いたいんだろう?そうしたいのは山々だがな、まだ研修で来たばかりで、仲間を売りまくるって聞いた事ないぞ。それとなーく、アピールするしか出来ないからな。日本に追い返されてしまうよ。」
 と、風柳は困った顔をする。
「今は一応、平ですからねー。能力者対応特務課の威厳もないしぃ……。でも、僕はどんな肩書きであろうと、僕の兄は尊敬できる素晴らしい功績を残せると、心から信じていますよ。イギリスでも、犯人捕まえまくってさっさと出世してくれますよね?ねぇ……僕の「お兄ちゃん」なら、当然だ。」
 と、黒影は風柳が「お兄ちゃん」と呼ばれると弱いのを知っていて、ワザと言うと満足そうに微笑み、珈琲を口にする。
「……分かったよ。見事にとんとん拍子に出世するさ。その代わり、犯人は勲(黒影の本名は黒田 勲)が犯人を見つける。俺が捕まえる。無理はしない!いいね。」
 と、風柳は黒影の体を気遣ってそう言って、微笑むと緑茶を啜る。
「はぁ〜い♪」
 と、少しだけ、黒影も事件の話が出来て、気分が良くなったようだ。
 ――――――――――
 その日、黒影はソファーで眠り、サダノブは床に布団を引いて寝ていた。
 何せ宿を壊したのだから、女性にベッドを譲るのは仕方ない。ただ、サダノブは穂さんがいるだけで、少し嬉しそうだ。
 風柳と涼子はのんびりとした雰囲気が、周りを落ち着かせる。

 黒影が自警団に入る少し前、「ダブルイベント」後の10月16日。「地獄より」と言う手紙が腎臓の一部と共に、自警団に送られてきている。
 血の様に真っ赤なインクで、半分食べた。半分をやる。血塗れのナイフをやる等と書いた、警察への挑戦状が届いていた。

 黒影がイギリスへ到着したのは、「ダブルイベント」含む、「カノニカル•ファイブ」の最後の5件目と鉢合わせたので、この手紙が出された近々で腎臓を取られたのは、シャレル。つまり、この腎臓はシャレルから奪われた左腎臓ではないかと思われる。

 シャレルの顔にだけ、逆さV字が、目の下の頬に二箇所、切られている。
 ただ、怖がらせる為にか、何かのメッセージ制を持たせたかったのかは謎である。
 より、切り裂きジャックや劇場型犯罪に見せたかったのかも知れない。

🔸次の↓「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様 三幕 第三章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。