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「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様1〜大人の壁、突破編〜🎩第四章 赤子


4章 赤子

「えっ?何?どうしちゃったの?」
 白雪が作ってきた珈琲を黒影の前に慌てて置いて、リーナを見て言った。
「さぁ?急に後悔でもしたんだろう?……こちらは、聞きたい事があったのに、どうしたものだか……。なぁ、サダノブ?」
 と、黒影はケロっと知らぬ存ぜぬを通し、サダノブに口裏を合わせさせる。
「えっ?!……あっ、そうそう。申し訳ないーって、どうしようーって言い出して気絶しちゃったんですよ。」
 と、サダノブは答え、チラッと気になってニーナの足元の影を見る。
 ……怖ぇーっ!まだ蠢いてるっ!……
 サダノブがギョッとしていると、黒影が思いっきりサダノブの足を踵で踏みつけた。
「痛っ!」
 思わず、声が出てしまう。
「ん?サダノブどうかしたの?」
 ニーナの顔色を伺っていた白雪が振り向いて、サダノブを見る。
「否……えっと、そういたたまれない事件だったなぁ〜と思って。」
 と、サダノブは苦笑いをした。
「まぁね〜。」
 と、白雪はニーナを不思議そうに見て、
「ちょっと頭でも冷やしたら目が覚めるかしらん?」
 と、言って冷やすものを取りに行くようだ。
「無理に目覚めさせなくても良いんじゃないか?」
 と、黒影は幸せそうに珈琲を一口飲み、ホッとすると言った。
「ん?何で?」
 白雪がドアの近くで振り向き、黒影に聞いた。
「あー、今日も最高に美味いっ♪!……だって、ほら……現実の方が辛いと言う事もあるじゃないか。」
 と、黒影は暢気ににっこりして、白雪に言う。
「それもそうだけど。やっぱり気絶のままじゃ危ないわ。」
 と、白雪は言って、黒影に微笑むと部屋を後にする。
「起きたら……これが待っているんですよねぇ……。」
 と、サダノブはニーナの足元を見て、ドン引きして椅子ごと遠ざかった。
「そんなに怖いか?良く考えてみろ。その子達はまだ何も知らない天使だよ。リーナみたいな殺人鬼なのに、自覚もない人間の方が、僕はよっぽど恐ろしい。……それに気が済んだら、きっとその天使達も成仏して、本当に天国に行ってくれるよ。今はちょっとだけ悪戯好きなだけさ。」
 と、黒影は微笑むのである。
 灰色の天使は珈琲片手に、今日もご機嫌の様である。
 ――――――――――――――――――

「ちょいと兄さん……。赤子はいらんかね?」
 サダノブが歩いていると、橋の下からよっこらせと男が子供を木箱一杯に詰めて、持って上がってきて言った。
「何?……ちょっとぉ、こんな木箱に入れたら可哀想じゃん。」
 と、サダノブは言う。
「可哀想と思うなら、一匹買ってくれよ。」
 と、男は言うのだ。
 ……一匹だとぉ〜!?
 サダノブは頭にきたが、そこはグッと堪えて、
「そりゃあ可哀想だとは思うけど……。何処から来たの?病気とか大丈夫なの?」
 と、ちょっと興味があるフリを頑張ってする。
「サダノブ、顔に出てる!」
 サダノブは耳から聞こえる黒影の声に、慌ててにっこりした。
 この時代に無線機なんかないのだが、黒影が蓄音機や色んな機械を分解して組み立てた、手製の無線機を付けている。
 精密機器が趣味でセキュリティグッズ開発までしてしまう黒影にとっては、このくらいの小型無線なら作るには、造作もない。
 ただ部品が足らず、音声ノイズが気に入らないらしい。
「全部、健康保証付きだよ。」
 と、物みたいに言うのでイラッとはするが、これも任務と我慢し、
「本当かなぁ〜。」
 と、サダノブは男を揶揄う様に言った。
「本当さっ。こいつらちゃ〜んと、病院でおろされた子等なんだから。しかも上級娼婦の子供ばっかり。兄さんなら女の子が良いだろう?美人になるよ、きっと。どうだい?安くしとくよ。」
 と、男が言ってくるので、サダノブは流石に眉間に皺を寄せて眉をヒクヒクさせている。
「サダノブ!我慢しろっ!そいつが本星か確かめろっ!」
 黒影はサダノブがプッツン寸前なのに気付いて、慌てて指示を出す。
「こっ、これ……アンタが中絶手術したの?」
 サダノブは苛々し過ぎて、そんな聞き方をする。
「馬鹿っ!ストレート過ぎんだろっ!とりあえず、一人買うフリだけでもしろ!怪しまれるっ!」
 黒影は、サダノブでは駄目だと今日は引き上げさせようと思い指示する。
「……兄さん、役人か何かの取り締まりかい?……。だったら何匹か置いていくから、見逃してくれよ、なっ。」
 と、男は言って、首根っこを掴むなりあれやこれやと出してくる。
「…………ぃらね…………。」
 サダノブがボソッと何か言った。
「おいっ!サダノブ、落ち着け!」
 黒影が言ったが、サダノブはもう既にプッツンきていると気付き、慌てて黒影は霧の中に影を落とし飛んだ。
「いらねぇよ!」
 と、サダノブが言うと、男はにっこりして、
「そうかい、コイツら無しでも見逃してくれるなんて、いいお役人もいたもんだ。」
 と、言う。
「…………ちげぇーよ。」
 と、サダノブが言う。男は不思議そうに、
「どっちだい?買うのか、買わないのか?」
 と、聞いた。
「人間は売り物なんかにならねぇんだよ!……この子供達じゃねーんだよ、お前が一番いらねぇーって、言ってんだよぉ!」
 サダノブは胸ぐらを掴んで男を立ち上がらせると、思いっきりぶん殴って吹っ飛ばした。
「サダノブ、やり過ぎだ!」
 慌てて男とサダノブの間に黒影が舞い降りて来た。
「あんたはっ!切り裂きジャック!」
 黒影の姿を見て、影を確認すると男は逃げ出そうとする。
「僕をまどろっこしい呼び方をするなっ!待て、待たないと切るぞ!」
 黒影は銀のサーベルを抜くと、逃げる男の走る先の地面目掛けて投げて、突き刺さす。
「きっ、切らないでっ!」
 男は慌てて立ち止まり身を屈めて言った。
 サダノブと黒影は男に追いつく。
「だから、待ってと言っただけです。僕を毒矢で打ったのはアンタじゃないみたいだな。あれだけ瞬発力が良いんだ。このサーベルも避けて走り抜けるだろう。少し聞きたい事があるだけだよ。勿論、捕まえるけど……。本物の切り裂きジャックみたいに切り刻まれたくなきゃね。」
 と、黒影は地面のサーベルを抜き、男に向ける。
「先輩、それ便利ですねぇー。投げるって使い道もあるんだぁ。……もう、頭きたから切っちゃって良いですよ、こいつ。」
 と、サダノブは黒影のサーベルを見ながら言った。
「物は使いようだ。……人間を物扱いするのとは訳が違う。なぁ、先生。」
 と、黒影は言った。
「へっ?何で……。」
 男は先生という言葉に反応する。
「やっぱり。知っているでしょう?僕が最近この辺で売春宿に匿われて警邏していたの。……そっちにその話が流れるのなら、僕の耳にも入るんですよ。娼婦の皆さんが何処で中絶手術したかなんて。聞きたく無くても、勝手に耳にする。ラズナー先生。医者ともあろう方が子供売りとはね。これは命を繋ぐ為かな?それともご趣味ですか?」
 黒影は聞いた。
「べっ、別にどうせ死ぬよりかは、多少は命が助かるのだから良いじゃないか!この辺りには売春宿が固まっているからな。1日何件中絶手術をすると思う?まともに出産より断然多い。中絶手術ばかりで安くて儲からないのに、手ばかり掛かる。やってられないんだよ!気儘な探偵には分からんっ!」
 と、ラズナーは言うのだ。
「職業差別はまぁ、一先ず心に留めておくとして、何を開き直っているんですか。だったら貴方がそうならないように声を上げなくて誰がするんです?幾ら中絶するとは言え、信用出来ない医者には頼まないんじゃないですか?
 貴方程信頼された医者はいなかったのに。その言葉なら、耳を傾ける人もいたかも知れない。……その信頼を裏切ってまで子供売りをしたのは……ある人物に唆されたから。……警察に引き渡す前に、教えてくれますね?」
 と、黒影は言って辺りを警戒する。
「サダノブ……先生を連れて戻ろう。」
 黒影はサダノブに言った。
「何でです?もう、一人匿っているんですよ?全員匿っていたらキリが無い。さっさと聞き出して、警察に引き渡しましょうよ。」
 と、サダノブは何を警戒しているのか不思議に思って聞く。
「サダノブ……僕は1日に何本も、あの矢を受けれる元気は流石に無いぞ。……ここは余りに開けて視界が良すぎる。僕から避けれて、逃げれば視界が広い。……あの場所で売る事も提案されましたね、先生?」
 と、黒影はラズナーに聞いた。
「ああ、その通りだ。」
 と、ラズナーは頷いて答える。
「サダノブ……一旦橋の麓へ隠れる。直線では無く、蛇行して走るんだ。……ラズナー先生、僕の手を取って。一斉に走ります。良いですね?」
 黒影は辺りを見たまま言った。
 ラズナーは生唾を飲み込んで、頷く。
「……3……2……1……走るぞっ!」
 黒影はラズナーの手を取り必死に走る。サダノブと距離を取りながら蛇行して橋の麓へ向かう。
 ……ビュン……ビュン……何かが風を切る音がすぐ近くに聞こえる。
「立ち止まるなっ!振り向くなっ!走って!」
 黒影は次第に近付く真後ろの音に、的が絞られて来ていると分かり、
「飛び込んでっ!」
 と、ラズナーに言って、手を繋いだまま滑り込む様に、橋の麓に飛び込んだ。
「サダノブっ!」
 まだ走っているサダノブが見える。
「軌道が読まれる!あっちへ一直線だっ!」
 と、蛇行をやめて、黒影達の方では無く、もっと川の方へ行く様に言った。
 黒影は霧から飛んでくる、矢の発射地点を見極めようと軌道を読む。
 ……駄目だ……動いている。……走りながら打って、この正確さ。只者では無い……。
「先生、何も見なかった事にして下さい!……幻影守護帯(げんえいしゅごたい)……発動!」
 黒影はサダノブに向かって手を伸ばし、己の影から帯状の影をブワッと出した。
 何本もの影の帯は黒影の掌に集まり、そこたらシュルシュルと音を立てて、サダノブに巻きつく。
 そのまま、黒影は幻影守護帯を、思いっきり引き寄せて引っ張った。
 サダノブは橋の麓に着地し、転がって止まる。
「荒くてすまんな。」
 黒影は影に幻影守護帯を吸い込ませながら言った。
 サダノブは頭を掻きながら、
「分かっていても、ビビるもんですね。」
 と、苦笑いをする。
「此れでは逃げられない。……風柳さん並の弓の名手らしい。移動して此方に走っている。此処に来るのも、もう直ぐだ。一度影に隠れよう。……ずっと張られては出られる保証がないが、今はそれしか無い。」
 黒影は橋の麓に影を広げているのか、地面を見つめている。
 麓は橋の影で、黒影の影と重なり、何処にあるのかも見えない。
「よし、行こう。先生、急に落ちますけど深さは余りないので、驚かないで下さいね。」
 そう言って、黒影はサダノブとラズナーの手を取り、影を広げた場所へ行く。
「止まって!……後一歩で落ちますから。」
 一度、二人の手を引っ張り止めてから、そう言った。
 サダノブは慣れたので、ぴょんと入って行く。ラズナーと黒影は一緒に落ちて入った。
「一体……これは……。」
 ラズナーは不思議そうに、真っ暗な落ちた先で言った。
「夢です……って、言いたいところですが、僕の影の中です。上も暗くてあまり見えないな。……犯人の顔が見たいけど。
 先生、此処なら大丈夫だ。弓矢も入らない。……で、さっきの話、誰が計画を立てたのか、聞かせて下さい。」
 黒影は真上に犯人が探しに来たら顔をみてやろうと、見上げたまま聞いた。
「先輩〜、鳳凰の力何処〜?流石にあの矢は強いんじゃないですかぁ〜?」
 と、サダノブは影の中を彷徨き始める。
「勝手に探して彷徨ってろっ!この時代に既に能力者が現代程多かったとは考えられないし、そんな記録もない。サダノブ、前々から思っていたが、お前……人の行動パターンから読む事は出来ないのか?サダノブの親父さん……まだ何か出来る様な事を言っていた。自分の力を高めろ!技に頼るのはそれからで十分だろう?」
 と、黒影は何かに頼り、自分を高めるのを怠るなと、そんな言葉で言った。
「……確かに、さっきその先生にムカついた時、氷出したらやばかったと思うんですよ?分かっていても、ちゃんとあるか無いか見ないと不安で。せめて、拝みたいと言うか。」
 と、サダノブはウロウロしながら答える。
「鬱陶しい奴だな。お前には見えないんだよ!それより、今重要な話を聞いていたんだ。お前も聞けっ!」
 黒影はサダノブに落ち着いて、話に参加するように、言った。
「彼の名前は知らないんだ。しかし、医者だった。丁度医者の集まりの時に、現れて新しい産婦人科医だと挨拶に回っていたよ。それで僕のクリニック名を聞くと、大変な所でしょう?と、言ったんです。ああ、場所でも知っているのかと思いました。それで内情や愚痴なんか聞いて貰って、親しくなった。彼の言葉は何処か心地よく、悪魔的でもあった。
 経営不審も解消出来て、子供を救える……そう言われて、最初は冗談かと思ったんだ。けれと、娼婦は殺しに来ているのに、罪一つ感じない。それどころか何度もくる奴もいる。それが裁かれないのに、僕ばっかりが苦労して苦しんでいる。この世が悪い。誰も僕を咎めはしないよと。
 少しお小遣い程度で始めれば良い。罪悪感があるようなら、恵まれない子に寄付すれば良いじゃないか。そう言ったんです。」
 と、ラズナーは言う。
「悪い事をしても、善良な物を混ぜる。確かに悪魔的な誘惑だが、そんな事で……。その彼に復讐心に子供を買いにくる女の話はされましたか?」
 黒影リーナの事についても聞いた。
「ええ、半分はこの世のせい、半分はこれも子供の為だと言い聞かせれば、何処か自分の行が許されると感じていたんですよ。しかし、復讐と聞いてさらにこれ以上悪い方へ向かうのでは無いかと、不安になって彼に聞きました。
 それなら良い方法がある。教えてあげれば、人助けになるじゃないかと彼は言ったのです。そして彼が考えた方法をその復讐したがった女に伝えた。実際彼女は喜んだのですよ。だから、僕は悪く無いっ!ちゃんと避妊しないのが行けないんだ。娼婦だって金に苦しみやっている子もいるんだ。そんな社会を恨んで何が悪い!」
 と、ラズナーはやはり謝罪の言葉一つ出ない。
 巧妙な話術でさも悪い事もそうでは無いと、思わせる何かがその人物にはあるようだ。
「相手は巧妙な話術が武器らしい。サダノブの得意分野じゃないか。」
 と、黒影はサダノブに微笑んで言った。
「そう爽やかに、はい出番ですよ〜みたいな言い方されたって、話す前に、あの弓矢何とかしてもらわないと無理ですよ。」
 と、サダノブは言う。
「……ん?サダノブ、何故弓矢だと?ラズナー先生は今、彼としか言ってないのだが……。」
 と、黒影は何故断定したのか聞く。
「えっ?だって先輩が行動パターンから読めないかって今さっき、言っていたから考えていたんです。
 弓矢の奴に少しでも話が近くなると攻撃してくる。どうやって張り付いているんでしょう?
 監視をするにしても……その頭の切れる悪魔の囁きみたいな言葉を使う奴を筆頭に、同じ弓矢を持っている者が数人いないと無理なんですよ。
 さっきまで俺らを打ってきた奴はかなり上手かった。
 けれどリーナを狙った奴は先輩に打ち間違えたのに、逃げた。
 失敗したのに追いかけない。それでは口止めにならない。
 あれは先輩への事件に関わるなと言う脅しかも知れない。
 」
 と、サダノブは複数人説を出した。
「……ん?複数人……か。確かにラズナー先生も、リーナも一人に動かされている。さっきのラズナー先生の証言を鑑みても、どうやらその言葉に皆んな踊らされているようだ。そう言う才能がある人物ならば、幾らでも駒を増やせるな。
 サダノブの思考読みにも少し似た物を感じる……。話術で洗脳する者と、話術で思考を破壊する者か……。危険だな。
 ……とりあえず、今弓を打ってる奴から情報を聞き出せれば良いのだが……。このままじゃ、外に出る事も出来ないな……。」
 そう、黒影が話して上から視線を下ろすと、サダノブがいない。
「おい、サダノブっ!人が話しているのにっ!」
 と、黒影はサダノブを探す。
「……サダノブ……お前、何で……。」
 黒影はサダノブがしゃがんで拝んでいるのを見つけて言った。
「影の中に光あり……。」
 サダノブはそう言って笑った。
 一筋の光が降るその場所は、鳳凰の力を封印した場所だ。
「鳳凰は陽の生き物だから、先輩なら光の当たらない場所は、可哀想だと置ける訳がない。だから、此処だけ光が通っている。暫く休んでいて下さいねって、伝えたくて。」
 と、言うとサダノブは立ち上がり、
「……俺、欲しいものあるんすよ。」
 と、唐突に黒影に言った。
「何だ急に……。金なら貸さんぞ。」
 と、黒影は何を下らん事をと、立ち姿勢を崩す。
「タダで貰えるやつですよぉー。」
 と、サダノブが言うのだ。
「スマホゲームのカードか?」
 と、黒影は今はスマホも使えないから、サダノブの事だからそんな事じゃないかと聞いた。
「違いますよぉ〜。先輩が攻撃なら俺には防具が必要だと思いません?今だって弓持ちが交代に来られたら、いつまで経っても出れないしぃ……。」
 と、サダノブは珍しくご尤もな事を言うのだが……。
「そんなもんあったら、とっくに此処にもいないよ。」
 と、黒影が言った。
「俺、とびっきりでっかーい盾が欲しいっす!」
 と、サダノブは言う。
「馬鹿か、そんなもの何処にもないし、あったところでどうやって持ち運びするんだ?お前、犬辞めて盾背負った亀にでも転職する気か?」
 そう黒影が呆れて言うと、サダノブは黒影に、
「持ち運び可能!しかも軽量!因みにその盾は受けたものを跳ね返すのではなく、呑み込む!」
 と、言った。
「まさか……僕の影の事を言っているのか?影を切るのは、鸞の「風切り蝶」でないと無理だぞっ。」
 と、黒影はサダノブに言った。
「繋がってたって良いでしょう?影の一部ぐらい。3人盾がありゃ、出れますよ。それとも体当たりかましましょうか?」
 と、サダノブは言うではないか。
「3人分の盾……か。盾のイメージがイマイチなぁー。」
 と、黒影は形に拘り始める。
「何でも良いんすってぇ……。また神経質出てきてますよ。ほら、RPGゲームのとかー。」
 と、サダノブがイメージを伝える。
「鸞が遊んでたのを見たなぁ……。」
 黒影は鳳凰の力を封印した場所に手を伸ばす。
赤い火を掌に浮かべ引き出すと、床に投げた。
「えっ?そんな有難いものを電気代わりなら使うって!」
 と、サダノブは絶句する。
「良いじゃ無いか。僕の力を何に使おうと。能力者以外には使わないと決めたんだ。灯りならば、攻撃でも防御でも無い。」
 と、黒影は言って赤い揺れる炎に映る己の影を見つめた。
「長方形がありゃあ良いんですよ。」
 と、サダノブがなかなか決まらずぐにゃぐにゃしている、黒影の影を見て言った。
「五月蝿いっ!今考えているんだ。」
 そう言った後、影が纏まりシュッと形を形成したのだ。
「何これ、拘り過ぎですよ!」
 と、サダノブが仰天する。
「一度作れば何度も作れる。初めが肝心なんだ。」
 と、黒影は満足そうに笑った。
 立派な騎士が持つ、下が絞られた形に、フェニックスの形が、鳳凰の炎で揺れている。
「この炎は?」
「飾りだ。」
 黒影はそれを三つに広げる。
「どうだろう?サダノブ、入ってみろよ。」
 と、黒影は盾を持ちサダノブに向ける。
「炎熱いんじゃないですか?俺、今狛犬じゃないんですって!」
 と、サダノブはまた実験台にされると思い、必死で断る。
「飾りだって。幻炎(げんえん。燃え移らない幻の炎)だって。……考案者だろう?」
 と、黒影は言う。
「確かに言い出しっぺですけど……。深さは?」
 と、黒影に聞く。
「僕の気分次第だが……。此処より浅いよ。」
 と、黒影は答えて微笑む。
「その良く分からない時にする、微笑みが信用出来ない。」
 と、サダノブは首を横に振る。
 「ふぅーん……僕が信用出来ないんだ。じゃあ、良いよ!」
 と、黒影は急にサダノブの腕をガシッと掴んで、
「へっ?」
 と、サダノブは馬鹿らしい間抜けな声を上げている隙に、盾の方を近付け放り投げた。
「あいつ……まだ、腕に未練たらたらだな。」
 と、黒影は笑いながら言った。
「おーいっ!中はどうだ?」
 黒影は盾の中にいるサダノブに聞いた。
「そっちと変わらない深さじゃないですかぁー!早く出して下さいよ。」
 と、言うので黒影は盾を平置きし、中を覗き込む。
「ふふっ……あははっ……やっぱり飛んでた。」
 と、黒影は帽子を持って笑い出す。
「笑いの沸点っ!早く助けてっ!」
 と、サダノブが言うので、黒影は笑いながら、
「お前……まだ僕の腕、欲しいんだな。」
 と言って揶揄う。
「なっ!もう欲しくないですよ!」
 どサダノブは拗ねる。
「ほぉ〜ら、お前の好きな腕だぞ、ポチ。捕まえるなら今のうちだ。どうするぅ?」
 と、黒影は腕をぶらんぶらんさせて遊んでいる。
 いつかサダノブを救った腕だ。
「怒りますよっ!本当に!」
 サダノブはジャンプするのを止め、腕組みをした。
「分かった、分かった。さっさと行くぞっ!」
 と、黒影は言う。
 サダノブが仕方無く伸ばした腕を、黒影はあの日の様に掴んで引き上げた。
 何も無かったサダノブに、絶望感を与えるとも知らずにいつか取った腕。
それを知った時、やはり救うなど性に合わない。
 ただ犯人を捕まえるだけで良かったのだと思った。
 それが今は……信頼だけで繋がっていると思うと、少しホッとする。
 サダノブは引き上げられると、
「もう過ぎた事……ですよ。」
 と、出入り口を見上げ言った。
「また勝手に思考を読むな。」
 と、サダノブに黒影は言ったが、何故かその日は怒りはしなかった。
「僕が先に出て出入り口を盾で囲む。確実に見つかる。僕は……立ち向かいたい。聞きたい事もある。この機を逃す手はない。サダノブは先生を連れて先に戻れ。」
 と、黒影も出入り口を見上げ言う。
「無理だ。幾ら影を伸ばしても盾を維持する距離は宿までない。先輩……一人で引きつけようったって無茶ですよ。まだ全快じゃないんだ。俺も行きます。白雪さんに叱られるんで。……先生、そう言うわけだから、此処にいてよ。帰ってくるように祈ってて。」
 と、サダノブは言うのだ。
「サダノブも言うようになったじゃないか。
 ラズナー先生……僕らが帰ってこなかったら発見されずに貴方は、ここで息絶えるだろう。人を物の様に扱うなんて考えられないが、何故か僕は貴方にはなんの同情も感じない。とっくに貴方が、痛める心を失った「物」なのではないのかとさえ、思えるのですよ。貴方にはあの子供達が何に見えていたのだろうか……。僕にはあの子達と貴方が同じ者に見える。何故だろうか。
 貴方があの子供達を見捨てた様に、僕もなんら罪を感じず、貴方を此処で見捨てます。……サヨウナラ。」
 黒影はラズナーに振り向く事なく上を見上げ言う。
「待ってくれ!せめて此処からは出してくれっ!」
 そう、黒影に縋りラズナーは言った。
 黒影は醜い者を見る様な目で振り返り、
「サダノブ、こいつは何を言っているんだ?箱に入った鼠の言葉など、僕には分からん。さっさと離れろ!僕の服が穢れる。」
 黒影はそう言ってラズナーを払い退ける。
「先輩、潔癖症なんだ。悪いけど要らないんだよ。可哀想だけど、ごめんね。」
 と、黒影が上がったのを見て、サダノブも手を取り上がる。
「僕は鼠などではっ!」
 ラズナーが叫んだ。
 サダノブは引き上げられながら、ラズナーの足元を指差し、
「鼠がなんかいってらぁ……。」
 と、笑った。
 二人が去るとラズナーの足元に、人間のようだが手足や顔がまるで鼠の影が映る。
「……そっ、そんなっ!馬鹿なっ!」
 ラズナーが話すと、影の鼠の顔も動く。
 ラズナが顔を掻きむしると、影を擬人化した鼠も同じ事をする。
 横には大きな木箱の影がある。
 ラズナーはその洞窟の様な影の中で、人間の物とも似つかわない獣の様な叫びを轟かせた。

 ――――――――――――――――――――
「何だ?今の叫びは?……ちょっとお灸が過ぎただろうか?」
 黒影はそう言って、影の盾を手に取る。
「良いんですよ、先輩は気にしなくて。アレでも足りないぐらいだ。」
 と、サダノブは言う。
「そうか。僕は時々やり過ぎるところがあるからな。気を付けてはいるんだが……。どうも加減が分からん。」
 と、黒影は苦笑う。
「大体、被害者遺族からすれば軽いもんですよ。」
 と、サダノブは答えた。
「そうか。じゃあまあまあだな。」
「ええ、上出来です。」
 こんな呑気な会話をしているが、実は既に矢がビュンビュン飛んで来ている。
「これが……熱烈歓迎ってやつか。」
 と、黒影はサダノブに聞いた。
「先輩、それ殿堂入りする何かですか?」
 と、サダノブはギリギリを攻めて聞く。
「白雪がな、この間夜中にメイク道具がみたーいって。あの時間に何でもあるのは驚いたよ。」
 と、黒影は言う。
「先輩なら無縁の場所ですもんねー。そこに居たってだけで激レアですよ。」
 と、サダノブは笑った。
「先輩、店入るとクーポン発行出来るの知ってます?」
 と、サダノブは教える。
「何だと!?それ、本気か?!ただでさえ安いのに、恐るべき経営手腕……。」
 黒影はそう言うと、矢が飛んで来る方向を見る。
「先輩……経営とか気にせず、もっと素直に買い物ぐらい……。」
 と、サダノブが行った時だ。
「案外、近いなぁ〜。」
 と、黒影が言う。

🔸次の↓「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様 1幕 第五章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。