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「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様2〜大人の壁、突破編〜🎩第五章 馬

5馬

 黒影はまた大勢を変え、片足を一歩後ろに下げ、両手で肘を己の脇に引き、刃を背中の後ろにのばす。
「蒼炎(そうえん)……幻影惨刺(げんえいざんし※影の無数の針を飛ばす)乱舞斬りっ(らんぶぎり)!」
 そう言って、工場内から窓の高さに合わせて、なんと銀のサーベルの蒼い刃から、無数の影の針を半回転し、飛ばしたのだ。
 ロングコートが黒影の体に広がっては、遅れて戻ってくる。
 それを繰り返す様は、確かに乱舞する鳥の如し。
「サダノブ!頭引っ込ませろよ!」
 と、言いながら、黒影は大きな漆黒の棘を撒き散らす。
 男もこれには慌てて、木箱に身を寄せた。
「ぅああ……!」
「逃げろ、やばいぞっ!」
「一時、撤収だっ!」
 外で弓使いの何人かに当たり撤収するようだ。
 影は影……。
 だからこそ、物理的な壁もするりと抜ける。更にガラスならばもっと容易く多面に擦り抜ける。
 刺さった影は貫通し、外まで届く。
 影を捕まえられるもの等、この世に存在しない。
 例え他方から光を当てても……黒影自体が……影だから。

 隠れて逃げようと企んでいた男の背後に、黒影は影の翼を落とし、一瞬で辿り着く。
 幻影螺旋十字斬りした際の男の額に、影の黒い十字架が浮かびあがり、黒影の影は手を伸ばし男の両足を掴んだ。
「幻影守護帯……発動!」
 黒影は男に手を翳し、己の影から帯状の影を手を通し、男に巻きつける。
 黒影は男を一度、無視して落ちた幻影惨刺を数本拾う。
「……先輩?……それ、どうするんですか?影に集めるんじゃ……。」
 と、サダノブが聞くと、黒影は悪魔のようにニターっと口だけ笑い、人差し指を当てて静かにする様に指示を出す。
 幻影守護帯でぐるぐる巻きになった男に近付き、
「失うのが見えるから頭に来るんだろう?だからね、君にいい機会をプレゼントしようと思って。」
 と、黒影は男に顔を寄せて笑いながら言った。
「ほぉら……君が裂いた女は悲鳴すら上げられ無かっただろう。けれど、僕は寛容だからね。感謝したまえ。」
 と、何と幻影惨刺の尖った先を男の目に、よーく見える様にゆっくり近付けて行く。
「まっ!待てっ!砒素なら山程ある。売ればいい金になる!全部やるからっ!」
 と、男は顔を必死で逸らして、叫ぶ様に言った。
「僕ね、健康第一主義なので、そう言った物は要らないのです。金に困っても黙って助けてくれる仲間もいる。……さぁ、静かに……。手元が狂っちまう。」
 と、黒影は笑いながらどんどん影の棘先を近付けた。
 男は余りの恐怖に目を閉じる。
「……それで良い。良く出来たじゃないか。」
 そう言って黒影は、男の瞼を思いっきり引っ掻いた。
「……先輩!ちょっとやり過ぎじゃ……。」
 サダノブも底知れぬ恐怖を感じて、止めようとする。
「なぁに、軽い事を言っているんだ。コイツが作ったご遺体見ただろう?僕は一箇所だって切り取っちゃあいない。あのご遺体に比べたら、こんなの擦り傷だよなぁ?……さぁ、反対の目にもプレゼントしよう。」
 と、黒影は容赦なく、男の反対の瞼も深めに引っ掻いた。
 ――――――――――――――――

「あら、お暇?」
 男は黒影から瞼を引っ掻かれた後、暫くして瞼が完治し目を開けた。
 街を歩いていると、男は娼婦に声を掛けられた。
 ふとその娼婦の顔を見上げると、黒影と同じ、青い瞳の女だった。
「くっ、来るな!化け物っ!」

 男は証拠不十分で不起訴になったが、それ以来青い目の人を見ると、黒影に見えるらしく、恐怖に震え自ら部屋に鍵を何重も掛けて引き篭もっているらしい。

 砒素は医療用にきちんと利用されて、先ずは組織の資金を経つ事には、成功したようだ。
 ――――――――――――――――――――――

「えっ?買い出しって、まさか……これ?」
 黒影はびっくりして、涼子と穂を見て聞いた。
「……そうです。お二人とも、足が必要じゃないかと思って。馬車が来るのを待っていたら、事件に遅れてしまいますから。」
 と、穂が笑顔で言う。

 ……喜ぶべきが……素直に断るべきか……。
 黒影は悩んでいる。
「ねえ、世話とか大変じゃないの?」
 と、サダノブが言った。
 ……よしっ!ナイスだ、サダノブっ!
 と、黒影は思ったが、
「そう言うと思ってぇ……じゃあ〜んっ!お世話してくれるジョニーさんです!」
 と、穂がジョニーなる初老の、白鬚の人を紹介するではないか。
「えっ……でも、馬小屋なんか……。」
 黒影はたじたじになって言った。
「ジョニーさんと手分けして、簡単な馬小屋を作っておきました。」
 と、穂がニコニコで言う。
「嘘だろう?あそこ、そのうち売却するつもりなのにぃ〜。」
 と、黒影は額に手を当てた。
「あーら、あたい達のプレゼントが気に入らないのかい?黒影の旦那。黒影の旦那には勿論、この毛並みの良い真っ黒な美女。サダノブには狛犬みたいな真っ白な馬。よぉ〜く、このつぶらな瞳を見てご覧よ。こんな可愛い子、滅多に居ないよ。」
 と、涼子は言う。
 黒影はそう言われて、ついそのつぶらな瞳を見てしまう。
 ……たっ、確かに美人かも。
 馬も良いかと、少し心が揺れ動く。
「確かに、可愛いかも。名前は?」
 と、サダノブが聞いた。
「好きに決めれば良いさ。」
 と、涼子は笑う。
 黒影は、
「じゃあ……少し乗ってから考える。」
 と、足を掛けて鞍に跨り、ポクポクとゆっくり歩かせてみる。
「え?!先輩、乗馬出来るの?」
 サダノブが驚いている。サダノブは乗るまで手こずっている様だ。
 ジョニーの教えでなんとかコツを掴んだらしい。
「サダノブ!僕はこの馬の名前決めたぞ!先に一周、軽く走ってくる。」
 と、前足を上げさせ器用にUターンさせ、走り出す。
「えっ!聞かせてー!待ったぁ〜〜!」
 と、サダノブが追いかける。黒影は笑いながら、
「お断りだよーっ!」
 と言って、風を気持ち良さそうに切って、先を行く。
 馬に乗ろうがら昭和の告白番組遊びは、健在である。

 黒影はその馬に、鬼鹿毛(おにしげ)と言う主人の急ぎに運ぶだけ運んで死んだと言う、馬頭観音の歴史から、その名を付ける事にした。
 また暫く歩かせながら、黒影は鬼鹿毛のクビを撫でて言った。
「お前は鬼鹿毛だ。けれど、決して僕を辿り着かせたらまた会うんだ。約束だぞ。」
 そう言って微笑んだ。
 鬼鹿毛は分かったのか分からないが、ヒヒーンと鳴いた。
「頼もしい奴だな。」
 と、黒影が笑うと、サダノブが漸く追い付く。
「鬼鹿毛だ。」
 と、黒影は馬ごと振り向き、サダノブに馬の名を言った。
「また和風な。」
「じゃあ、お前の馬は?」
 と、黒影はサダノブの馬の名を聞いた。
「狛犬の馬だから、こまちゃん。」
 それを聞いて、黒影は思わずクスッと笑う。
「まぁ、厨二病の名前じゃないだけ良かった。」
 と、黒影は言った。
「もう少し、走れるようになったら、邸宅に戻ろう。白雪にも見せてやりたい。」
 と、黒影は微笑んでいる。案外、鬼鹿毛との仲は上々のようである。
 ――――――――――――――――――

「お帰りなさぁーい!」
 白雪が、庭で本を読んで待っていたようだ。
 黒影とサダノブの姿をキョトンと見ている。
 見慣れない、馬に乗って帰ってくる姿が、不思議なのだろう。
 先に帰っていたジョニーも小走りで来る。
「どうだい?相性は?」
 と、ジョニーは聞く。
「ああ、最高だよ。」
 と、黒影は微笑んだ。
「仲良くなれそう。」
 と、サダノブも言う。
「黒影……届かなぁ〜いっ!」
 と、白雪は背が低いので、馬に乗っているとよっぽど高く見えるのか、ジャンプして跳ねた。
「ちょっと待ってね。」
 黒影は白雪をポンと鬼鹿毛に乗せる。
「怖く無い?」
「うん。……いい眺め……。」
 と、白雪は満足そうである。
「ねぇ、ジョニーさん。あの涼子さんが専属で付けてくれたんだ。白雪の警邏を頼まれているね?
 本当は何者なの?」
 と、黒影は聞いた。
「元、騎馬隊員ですよ。引退して暇をしていたら、アルバイトにでもって。」
 と、ジョニーは笑った。
「……成る程ね。それは安心だ。でも、僕らは探偵で夜更かしだから、交代制も無いし、キツいかも知れないですよ。」
 と、黒影は苦笑う。
「……街が平和ならばそれで良い。」
 と、ジョニーは朗らかに笑った。
「ええ……それに越した事はない。」
 黒影も微笑んで返す。
「さぁ……白雪、美味しい珈琲が飲みたいなぁ〜。」
 と、黒影は愛情たっぷり入り珈琲を催促する。
「良いわよ。その代わり、玄関まで乗せて行って♪」
 と、白雪も鬼鹿毛が気に入ったようだ。
「サダノブも穂さん、乗せてあげれば良いわ。白馬の王子様は乙女の永遠の夢よ。」
 と、白雪はサダノブのこまちゃんを見て言った。
「えー、あのタイツに南瓜パンツがぁー?」
 と、サダノブが言う。
「違うわよ!好きな人と白馬に乗れればいーの。」
 と、白雪は違うと言う。
「じゃあ鬼鹿毛は黒いから、一生白雪は叶わないね。」
 と、黒影は笑って言った。
「私が夢みていたのは、王子様じゃなくて紳士の方だったから、この子でいーの。」
 と、白雪は鬼鹿毛を撫でる。
 全然それでも動じない、いい馬の様だ。
 ――――――――――――――――――――

「……行くぞサダノブっ!じゃあ、ジョニーさん行ってきます。」
 黒影は深夜になると、鬼鹿毛に乗る。
「ちょ、ちょと待って……。」
 サダノブは相変わらず、乗り降りがスムーズじゃない。
「ちゃんと足を掛けないからだよ。」
 と、黒影は呆れて言った。
「あっ、乗れた。」
「よく、それで蹴られないな。」
 と、黒影さ言う。暫く歩かせて、
「今日は自警団の巡回付きだ。さっさと周るぞっ!」
 と、黒影はハッ!と言って鬼鹿毛を走らせた。
「りょーかい!」
 サダノブも、後を追う。
 二人は、当初住まわせて貰っていた宿へ向かった。
 ――――――――――――――

「あっ……風柳さん……。」
 ちゃっかり、涼子さんが心配なのか、先に来ていた風柳がいる。
「明日の仕事に響きますよ。」
 と、黒影が白い目で見た。
 先に寝るとか言って、ちゃかり窓から出て此処にきたのは明白である。
「なんかな、ほら……夜風にでもと思ったら、一杯飲みたくなった。」
 と、白々しい嘘を付くが、これ以上詮索しても可哀想なので、黒影は、
「ふぅ〜ん……。」
 と、言いながらウィスキーを頼んだ。
 サダノブもジンを頼んで、穂さんに会いに行く様である。
「……穂さん」
 サダノブが、呼んだ。
「はい、何でしょう?サダノブさん。」
 と、穂はサダノブの方を見る。
「あー、その……馬の名前、狛犬だからこまちゃんにしたんだけど、やっぱり捻りが無いよなぁーって。」
 と、白雪の言っていた事が、気になってはいたが、誘うのも言い辛くて、頭を掻きながら、馬の名前の話に変えた。
「こまちゃん、可愛いじゃないですかっ!もう乗れる様になったんですか?」
 と、穂が興味津々で聞く。
「う、うん。先輩程上手くはないけど、走れる程度には。」
 と、サダノブは答えた。
「へぇ〜……似合うんだろうなぁ〜。見てみたいなぁ〜。」
 ……じゃあ、早く乗せてくれても……と、穂は思っている。
「まだ二人乗りはした事ないからなぁ〜。大丈夫かなぁ〜。」
 と、サダノブが苦笑いしている。
 二人を見かねた涼子が苛々して、扇子を閉じてパチリと音を立てると、
「二人ともまどろっこしいねぇ!行くなら行ってくれば良いじゃないか。」
 と、一喝した。
「あっ……はい。」
 サダノブは素直にそう言い、
「涼子さんは?」
 と、穂は涼子を気にする。
「あたいならほら……下に、ロミオが待っているだろう?」
 そう言ってクスクス笑った。
「涼子さん、来ているの分かっていて、顔も出しに行かないんですよ。」
 と、穂はサダノブに話す。
「……涼子さんらしいや……。」
 と、サダノブはニコッと笑う。
「先輩〜っ!穂さんも、こまちゃんに乗せて行きたいんですけどぉーっ!」
 と、声がしたので、黒影は2階廊下にいたサダノブと涼子を見上げた。
「……何だ、今夜は王子様ごっこか。僕はお邪魔だな。」
 と、黒影は苦笑いをして、風柳にそんな事を行った。
 そして、
「はは〜ん……穂さんがお出掛けなら、風柳さん……大チャンス到来ですねぇー。」
 と、黒影は悪巧みしている時のニヒルな笑みを浮かべ、ウィスキーを一口飲んだ。
 風柳はそれを聞いて、日本酒を噴き出しそうになる。
「また大人を揶揄って!」
 と、風柳は言ったが、
「僕とそんなに変わらないでしょう?現役刑事と元大泥棒が拙いんなら、夢探偵社がいつでも歓迎しますから。……そ、れ、にぃ〜よぉーく考えてみて下さいよ。……此処、イギリスですから。」
 と、黒影はははっと無邪気に笑う。
「黒影っ!」
 流石にこれには温厚な風柳も、照れて黒影の腕を掴もうとしたが、黒影は笑顔のままウィスキーグラス片手に、立ち上がり、するりと抜ける。
「じゃ、風柳さん……此処の警邏は頼みました。僕は、お邪魔虫の自警団だ。」
 と、黒影はクイッとウィスキーを飲み干し、グラスを置くと、店先に待たせていた鬼鹿毛を撫でている。
「全く、無茶苦茶言ってくれるよ。」
 と、風柳は2階を見上げて、日本酒をチビチビ飲んでいる。
 ……まぁ、日本酒、また貰いに行くぐらい……いいか……。

 ――――――――――――――――――
「先ぱぁーい!二人乗りってどうすれば良いんですかぁー?」
 いきなりサダノブが聞いて来た。
 ……それじゃ、ロマンスも何もあったもんじゃないだろうが、馬鹿犬っ!
 と、黒影は心でサダノブに言いたくなる。
「お前が少しズレて座れば良いだろがっ!僕は先に行かせてもらうよ。二人はのんびり来ると良い。ハッ!」
 黒影は鬼鹿毛の向きを変え、先に巡回へ向かった。
「やっぱり……黒影さん、格好良いですねぇ。」
 と、穂が思わず言ったが、この言葉は特に気にしなくて良いのだ。何故ならば……。
「でしょう!?先輩、やばいよなぁ……。何でも様になるし。俺も早くああなりたいなぁ〜。」
 と、サダノブが言うと、
「そうですねっ!応援していますから、サダノブさんっ!」
 ……と、この会話の通り、この二人は昔から黒影好きの馬鹿ップルである。
 こまちゃんに乗れた二人は、黒影の行った道へ進んで行く。

 ――――――――――――――――
 ポクポクと軽やかな馬の蹄の音が、霧の深い闇の中に響いた。
 霧の中に、ほんやりと一際目立った、グリーンのドレスにショールを被った女が、道の脇に立っている。
 ……娼婦だろうか。
「……今晩は。自警団の者です。大丈夫ですか?変な男とかは見なかったですか?」
 と、黒影は鬼鹿毛を止め、聞いた。
 すると女は何も答えず、ズルズルと壁に凭れたまま崩れ落ち、腹を抱えて蹲る。
 黒影は鬼鹿毛から降りて、
「あの、何処か体調でも悪いのですか?」
 と、黒影はもしや医療を受ける金も無いのに、無理をしているんじゃないかと、気にした。
 そんな者も居ても不自然じゃないのが、この街だ。
 女は肩で息をしている様だ。
「病院へ連れて行きます。医療費ならば、今は気にしなくて良い。……頑張って……立てますか?」
 黒影は女の肩を持ち、馬に乗せる為立ち上がらせようとした。
 次の瞬間だった……。
 何か重く当たるものを脇腹に感じる。
 ……まさか……。
 女のショールが風で飛ぶ。
「…………クラ……ウディ…………。」
 まだ生きていたのだ。しかし、喜びの再会では無い。
 黒影が脇腹を見ると、娼婦が良く持っている、護身用のナイフが刺さっていた。
 薄白い霧の中……グリーンのドレスが揺れて包まれて行く……。
 黒影もまた……今宵の深い霧の中……
 影ごと消されるかの如く、その白さに包まれ倒れた。
「鬼鹿毛……サダノブの所へ……。」
 意識が朦朧とする中、黒影は心配そうに、頭を近付け見詰める鬼鹿毛の頬を力無く撫で、そう伝える。
 鬼鹿毛はヒヒーンと鳴くと、悲しそうに黒影を見て、それでも走り出した。
……鬼鹿毛……頼んだ……。
 黒影の意識はそこで消えて行った。
 ――――――――――――――――――

「サダノブさん……あれ、鬼鹿毛じゃないですか?」
 穂が、黒影を乗せていない、鬼鹿毛を指差して言った。
 黒影は黒田の影一族。
 動物達の長ばかりなので、早々動物に嫌われる筈もない。
「……何か変だ。先輩に早く会わないとっ!」
 と、サダノブが言う。
「鬼鹿毛!黒影さんの居場所へっ!」
 そう言ったのは、サダノブでは無く穂だ。
 一瞬でこまちゃんから鬼鹿毛に飛び移る。
 穂は涼子が筋が良いと言うだけあって、運動神経が抜群に良く、黒影にはクノイチだと言われた程だ。
「サダノブさん、付いてきてっ!」
「えっ、あ……はい。」
 そんなに上手に乗馬出来るなら、言ってくれれば良いのにと、サダノブは拗ねたくもなったが、ふと白雪の言葉を思い出す。
 ……ああ、そっか。穂さんも……言えないだけで案外、乙女なんだよね。
 と、思った。歳上でしっかりしていて……サダノブはしっかり出来なくて、甘えてばかりで申し訳ないと思うが、しっかりしたサダノブは似合わないから違うそうだ。
 ……自然のまま……それが一番良い。
 カッコいい穂も可愛い穂も見られるサダノブは、案外幸せだと感じる。
「……サダノブさんっ!大変……黒影さんがっ!」
 穂は鬼鹿毛から飛ぶ様に降り、倒れていた黒影の前でサダノブを呼んだ。
 サダノブも慌ててこまちゃんから飛び降り、駆け寄った。
「えっ……嘘でしょう?!」
 慌てて脈と心臓に耳を当てる、弱っているが反応はある。
 黒影は負傷しても何時も、出来るだけ止血や応急処置を自分でしてから意識を失う。
 ……そんな暇も無く……至近距離から……。傷は深い……。
 サダノブは慌てて、袖を破り、黒影に刺さったナイフの周りに巻きつける。
「穂さんの方が早い。鬼鹿毛に先輩を乗せて病院へ!僕は白雪さんと風柳さんを呼びます。」
 と、サダノブは言って、穂が鬼鹿毛へ飛び乗ったのを確認すると、黒影の傷に障らぬ用、丁寧に穂の前に黒影を乗せた。
 穂は黒影が落ちない様に支え、
「黒影さん、もう少しですからっ!サダノブさん、ではお先に!」
 と、穂はサダノブを見る。
「先輩を……頼みます。」
 サダノブは、穂の目をしかと見て言った。穂は、
「当たり前です!貴方の大事なものは、私にとっても大事なものです!」
 そう言って、鬼鹿毛を飛ばす様に走らせた。
 サダノブも来た道を急いで戻る。
 ――――――――――――――――

黒影の視界が曇ってはいるが、細く開く。
「…………クラ……ウ……ディ…………。」
 黒影は、何度もその名を言った。
 また疲れて眠りに着くまで。

「……麻酔が切れてくると、まだ意識もままならないのに、クラウディとか、言っているのですよ。何か、心辺りは?」
 と、後は意識が回復するまで、待つしかないと言う状態の時、医師がオペ室から出て暫く経ち、気になって待合室で待っていた、風柳、穂、サダノブ、白雪、涼子に聞いた。
「何だい?黒影の旦那も隅に置けないねぇ。」
 と、涼子が言う。
「違うわよっ!黒影に限ってそんな事、あるわけ無いじゃない!」
 と、白雪が言い出す。
「どうだかねぇ〜。なんせ、毎日娼婦だらけの場所に行くんだから。」
 と、涼子は扇子を広げてクスッと笑う。
「違いますよっ!パレス貸してくれるって言っていた夫人です!砒素盛られて、今度は直接刺しに来るなんてっ!マジで許せねぇ!」
 と、サダノブは少し思い詰めた顔をしている。
「とっ捕まえてやるっ!」
 サダノブは勢い良く立ち上がったが、両サイドに座っていた、風柳と涼子がサダノブの手首を同時に強く持ち、グイッと引いて座らせた。
「何で!」
 サダノブは二人に聞いた。
「サダノブ……起きたてサダノブ一人がヤケになって探しに出たって言ったら、黒影の旦那は大人しく寝ていられないよ。そんな事も分からないのかい。」
 と、涼子はサダノブに言った。
「今回は傷も深い。ゆっくり休ませてやりたいんだよ。……何も出来ない訳じゃないさ。探偵ならば、下調べぐらいは出来る。それに、動きたくてウズウズしている刑事も此処にいる。単独行動は同じ事になる。使えるものは使いなさい。」
 と、風柳が言う。
 ……そうだ……皆んな、心中穏やかじゃないのは……同じか。
 そう思ってサダノブは仕方無く、大人しく待つ事にした。
 穂は疲れてこくこくとし始める。
 サダノブはゆっくり立ち上がり、穂の横へ行き肩を貸してやる。
「お疲れ様……。」

 ……先輩にも、早くそう言って上げたい。

 漆黒の影は霧の中
 まだ目覚めぬ夢に魘されて
 今も会えぬ待ち人を
 捕らえて離さぬ闇となろう

 闇さえも
 もう一つの闇が呑み込むその日まで

 ――取り敢えず「親愛なる切り裂きジャック様」#2 おわり――
で、す、が……未だ未だ黒影紳士なのだから続くに決まっています♪🎩🌹


🔸次の↓「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様 三幕 第一章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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