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坂の上のつくも|ep7「嵐の前の静けさ」



episode7 嵐の前の静けさ「幼馴染の付喪神①」

 スハラとミズハ。
 建物の所在地自体とても近く、古くから親交のあった2人は、性格は真逆に見えるけど、ずっと仲が良かった。
 天然でマイペースの私を、ほどよく引っ張っていくスハラ。
 普段はかなりの確率でテン・スイとのセットとして見られるけれど、それは飼い主的立ち位置であって、友だちという見方をするなら、多分スハラが一番距離が近いと感じていた。
 だから、今回の見回りの組み合わせを聞いたとき、スハラと一緒だということで、不謹慎だけどちょっと楽しみにもしてしまった。

「スハラ、今日はどっちへ行く?」

 まずは1週間見回りをと始めて、今日で4日目。
 歩いて行ける範囲には限界があるから、あまり遠くには行っていない。
 だけど、それでも泥人形には遭遇したし、全て祓ってきた。
 遭遇時は、スハラが泥人形の気を引いているうちに、ミズハが水を繰って祓う。
 意外とコンビネーションがよく、ミズハは、スハラがここまで考えて組み合わせを考えたのだろうかと思ってしまう。

「今日は、天気も悪いし、小樽公園辺りまで行って、駅を回って戻ってこよう」

 空を見上げたスハラが、近場での見回りを提案する。
 つられてミズハも空を見上げると、確かに、分厚い雲が空を覆っていた。

「そうね、そうしましょう」

 今日の行き先の目途がついたところで、2人は水天宮の境内から坂を下って行く。
 少しして、花園銀座商店街―通称・花銀まで来ると、見知った顔が見えてくる。

「スハラとミズハじゃない。見回りご苦労様ね!」

 ミレットのおばさんは、愛想よく2人に声をかけるが、すぐに表情を変える。

「この間、あっちのカレー屋の村上さんに聞いたんだけどさ、」

 おばさんは、意味深な間をあけると、声を少しだけ潜めた。

「夜になると、商店街に人の泣き声が響くって言うのよ。すすり泣くっていうのかい。なんでも龍宮閣の怨念が人を求めてさまよってるとか」

 こわいこわいと、自分で自分の肩を抱いて、わざとらしく恐怖を表現するおばさん。
 スハラは、久々にこの話を聞いたなと、昔を思い出す。
 この手の都市伝説的な怪談は、一定の時期をおいて繰り返し人々の間に広まってきていた。前に広まったのは、10年前だったか20年前だったか。
 結局、いつも時間が経てば忘れられていくし、時には声の主は猫だったとか、カモメだったとか、いつだったかは演技の練習をしていた高校生だったなんてこともあった。

「おばさん、あまり気にしすぎたらだめですよ。ほら、前にもその話あったでしょ」

 スハラに言われて、そうだったかいと少し考えるおばさんは、程なくして、そういえば前もこの話聞いたなと思い出したようだった。

「前は、インコだったか。人間のまねをしてたのよね」

 はっはっはっと豪快に笑うおばさんは、なんだかすごく楽しそうだ。

「まぁ、2人とも気をつけてね」

 じゃあと手を振るおばさんに、スハラとミズハも手を振って応えて、歩き出す。
 真っ直ぐに進んでいくと、小樽公園へ着く。
 公園の中は今日もにぎやかで、子供たちの楽しそうな声や、鳥たちの声などいろいろな声が聞こえてくる。

「今日は何もなさそうね」

 ミズハは、ここで泥人形に遭遇したから、辺りを注意深く見回すが、今日は何ともなさそうだ。
 そのまま2人は公会堂へ向かう。
 大正天皇が皇太子時代に「御宿」とするために建てられた公会堂は、今も当時のままに堂々とした姿をのこしている。

 異変は特に見られない。

 2人はそこから地獄坂を目指し、住宅街を通り、第二大通りを越え、旧商業高校のほうに向け歩いていった。
 地獄坂は、国道から大学まで続く道で、その勾配が通学生を苦しめることから、そう名付けられたらしい。
 地獄坂に到着し、名前通りの急な坂を下っていくと、見知った後姿が見えた。あれは多分。

「リク!」

 スハラが大声で呼ぶ。
 だけど、その後姿は反応せず、歩みを止める気配がない。

「あれ?リクじゃないのかな」
「う~ん、私にもリクに見えるけど…」

 リクなら、いつもすぐ気が付いて手を振ったりするけど、そういう反応がないなら違うのかもしれない。二人は歩みを進めて、後姿に追いつこうとする。
 そして、近づけば近づくほど、やっぱりリクにしか見えない。

「リク、どうしたの?」

 やっと追いついて、スハラが声をかけると、リクは今気が付いたかのように首だけで振り返る。

「…スハラ、ミズハ…何?」
「何じゃないよ。声かけたのに、気づかないんだもん」

 スハラが言っても、リクは、そう、としか言わない。

「リク、どうしたの?何かあったの?顔色が悪いわ」
「別に何でもないよ」

 ミズハが心配しても、リクの反応は芳しくない。

「…僕、行くところあるから」

 そっけないリクは、スハラたちに一瞬冷たい目を向けるとすぐに視線をそらし、振り返ることなく行ってしまった。

「どうしたんだろ」
「ね、なんか、変だったわね」

 2人は顔を見合わせる。あんなリクは今まで見たことがない。

「…まぁでも、とりあえず、行こうか?」

 スハラが気を取り直して前を向く。2人は先に進むことにした。

episode7 嵐の前の静けさ「幼馴染の付喪神②」

 船見坂へ回って、小樽駅の前を通る。
 駅は、観光客の楽しそうな声や、電車の到着を知らせるアナウンス、地元の学生たちのにぎやかな声であふれていた。

「今日もにぎやかね」

 ミズハが、行き交う人々を見つめて、楽しそうに目を細める。スハラは、そのたくさんの人の中に見知った顔を見つけて声をかけた。

「ユウケイさん!」

 最近小樽に来たという雄鶏は、正式には「雪柳雄鶏図」と言う掛け軸で、北海道では小樽でしか見られない伊藤若冲の作品が付喪神となったヒトだ。
 その姿は人型ではなく鶏で、立派な尾羽を揺らしながら優雅に歩いていく。

「おぉ、スハラじゃないか。どうしたんだい」
「ちょっと見回りを。雄鶏さんこそ、どこかからの帰り?」
「いやいや、これから札幌に行くところだよ。そちらのお嬢さんは?」
「こっちはミズハ。水天宮の付喪神よ」

 スハラに紹介されて、ミズハがはじめましてとあいさつをすると、雄鶏もよろしくと尾羽を振るわせる。

「ところでスハラよ、何か物騒なことが起きとるらしいの」
「うん…ちょっといろいろね」

 周りを気にして、スハラは小声で話す。
 雄鶏は、スハラの様子から事情を察して、それなら聞かんでおくわと頷く。
 するとちょうど、札幌方面へ向かう電車の改札が始まる。

「おぉもう行かなければ。二人とも気を付けることじゃな。そのうち美術館にも遊びに来ておくれ」

 雄鶏は人ごみに紛れ、あっという間にその姿が見えなくなった。
 2人は小樽駅を後にすると、真っすぐに海のほうへ降りていく。
 途中、ぱんじゅうのおいしそうな匂いにつられて、スハラは尊に、ミズハはスイ・テンにと買ってしまった。
 店から出ると、ミズハは買った袋からパンを一つ取り出し、半分に割ってスハラに渡す。

「味見しましょ。ね?」
 もらったぱんじゅうからは、こしあんの甘い香り。
「私、これ好きなの」

 ミズハがいたずらっぽく笑う。
 二人は、食べながら運河へ向かった。
 運河には、観光客などたくさんの人がいて、それぞれに楽しんでいるようだ。

「昔からは考えられないわね」

 ミズハがつぶやく。
 過去の運河を知っている人から見れば、今の運河の姿は、驚くほどの変貌を遂げているだろう。
 汚れて、腐ったかのような臭いが充満していた運河。
 誰も見向きもせず、むしろ迷惑だくらいに思われて埋め立ての危機に瀕していたけれど、市民運動のかいあって、今の整備された姿を手に入れた。
 今では、観光地小樽に欠かせない存在となっている。
 今、目の前に広がる景色は、一人一人の小さな力が集まって、たくさんの人が関わって生まれた景色。

「いろいろあったけど、残されてよかったよね」

 スハラの言葉に、ミズハが頷く。
 もし運河が全て埋め立てられていたら、今の小樽はあったのだろうか。

「なくなってからじゃ、遅いのにね」

 スハラは何がとは言わないが、北海製罐第3倉庫を思い浮かべていた。
 黙ってしまったミズハも、きっと同じことを考えているのだろう。

「大丈夫、なんとかなるよ」

 スハラは、なるべく明るい声になるように努めてミズハをはげますが、暗くなってしまった雰囲気は拭えない。
 空も、二人の気持ちを知ってか知らずか、今にも雨が降りそうに陰っている。
 重い雰囲気を背負ったまま、運河沿いからメルヘン交差点へ入り、外人坂を目指す。
 2人は、水天宮の境内に着くと、言葉少なに解散した。

episode7 嵐の前の静けさ「テンの見回り(おさんぽ?)」

 サワとテン。

 時間がある1人と1匹は、毎日午前午後と見回りに行くことにしていた。
 それも今日で5日目。
 見回りの回数が多いせいか泥人形と遭遇することも多く、遭遇するたびに、テンは震えながら立ち向かっていった。
 初めて遭遇した時からずっと泥人形を怖がるテンだが、正直なところ、泥人形に立ち向かう恐怖より、散歩そのものの楽しさが勝つようで、なんだかんだ言いながら見回りの回数を減らすようなことはなかった。

「サワー!行こー!」

 今朝も元気よく旧岩永時計店の扉を開けるテン。
 サワは、テンへの返事をせず、オルガに向けてぼそっと、行ってくる、とだけ告げる。
 その手には大量のお菓子が入ったエコバッグ。
 サワの見た目に反して、かわいらしい中身のエコバッグは、全てテンのおやつとなるものだ。
 ちょっと前まで市販のお菓子を持って行ったけれど、最近はオルガの手作りに替わっている。

「今日はどこ行く?我、海に行きたい!山でもいいよ!」

 オルガは、いつでも元気なテンと、きちんとそのあとをついていくサワの後ろ姿をほほえましく思いながら、いってらっしゃいと手を振った。

「テン、山に行くか」

 サワの提案に、テンはすぐに、いいよ!と尻尾を振る。
 天狗山まで上がるのは少し距離がある。
 だけど、テンはもちろん、歩くことが苦にはならないサワは、当たり前のように歩みを進める。

「きょうのお~やつ~はな~にっかな~」

 軽い足取りのテンは、どんどん進んでいき、サワもその後をつかず離れずついていく。
 まるで、本当に散歩しているだけのようだ。

「サワ、おやつ、いつ食べる?」
「天狗山に着いてからだ」

 そう言われても、テンは我慢できないのか、よだれがじゅるりと音を立てている。

「一個だけ、だめ?」

 まだ市役所までしか進んでいないのに、サワのほうへ振り向くテン。
 表情は切ないのに、眼だけは期待に満ちてキラキラとしている。
 サワは、しょうがないなと、エコバッグからクッキーを取り出すと、テンの口に放り投げた。テンはジャンプして見事にキャッチする。

「あとは着いてからだからな」

 テンは口をもごもごさせながら、うん!と頷いた。
 今日は天気もいい。きっと山頂からの眺めもきれいだろう。
 足取りの軽いテンについていくと、あっという間にふもとのロープウエイ乗り場に到着する。
 ここまでは特に異変はなく、泥人形に遭遇することもなかった。
 サワは、迷わずロープウエイ乗り場に向かう。テンも跳ねるような足取りでついていった。
 ロープウエイからの景色は、晴れていたこともあり、とてもきれいだった。
 まちと海がはっきり見える。

「おっやっつ~、おっやっつ~」

 テンは景色よりも食べることしか頭にないようで、頂上につくと、一目散に展望デッキへ駆けていく。

「ここで食べよー!」

 テンはいい場所を見つけたと言わんばかりに、サワのほうへ振り向くとぴょんぴょん跳ねてアピールする。
 そのとき、テンのうしろで、ゆらりと怪しい影が立ち上がった。

「テン、うしろ!」

 サワは思わず叫ぶ。影は泥人形だった。
 驚いたテンは、一瞬にして飛びのくと、逃げようと右往左往する。だが、逃げていいわけではない。

「テン、やれ!」

 サワの一言でテンの動きがぴたりと止まる。
 弱々しく唸ると、泥人形から少し距離をとって身構える。
 そして、気合を入れるように一声鳴くと、泥人形へ突進した。

「うりゃっ!」 

 ばちんとはじける音がして閃光が走る。

 光が散ってしまうと、そこはいつもとかわらない展望デッキ。
 眼下には美しい景色が広がっていた。

「ふぅ、我、がんばった」

 自画自賛するテンの頭を、サワはなでてやる。そして、よくやったなと言う代わりにお菓子の袋を取り出す。

「わ~い!今日はパウンドケーキだー!いっただっきまーす!」

 オルガお手製の今日のおやつは、先に食べたクッキーのほかに、パウンドケーキが用意されていた。中にたくさんのドライフルーツが入っている。
 テンは、1匹で全て平らげると、ごちそうさまと手を合わせた。

「さて、帰るか」

 サワがロープウエイ乗り場へ向かう。
 テンの帰りの足取りは、おやつを食べた後のためか、行き以上に軽くて、あっという間に旧岩永時計店に着いてしまう。
 テンが、ただいまー!と勢いよく扉を開けると、オルガが笑顔で迎えてくれた。

「おかえりなさい。楽しかった?」
「うん、楽しかったよ!天狗山でね、我、泥人形倒したよ!オルガ、おやつ今日もおいしかったよ!」
「ありがとう、テン。じゃあこれ、スイにも持って行ってあげてね」

 オルガは、スイ用に用意していた紙袋をテンに渡す。中身はもちろんクッキーとパウンドケーキだ。

「わーい、いつもありがとうー!スイも喜ぶよ!サワ、またあとで来るね!」

 そう言うと、テンは嵐のように去っていった。
 残されたサワとオルガ。急に静かになった室内に時計の針の音が大きく聞こえる。

「…オルガ、俺も」
「はい、どうぞ」

 サワから差し出された手に、オルガは当たり前のようにクッキーを置く。
 無言でサクサクと食べていくサワの前に、オルガはまだあるわよと追加のクッキーを置くが、あっという間に消えていく。
 きっと、午後の見回りもこんな感じなのだろう。

———追加のおやつ、用意しなきゃ。

 オルガは、お菓子のレシピ本へ手を伸ばした。

episode7 嵐の前の静けさ「スイの見回り(おさんぽ?)」

 俺は今週に入って3度目の見回りに出た。
 相棒のスイは、あまりしゃべらず、黙々と歩いていく。
 時折、目の前を横切る虫に気を取られたり、おいしそうなにおいがするほうへ曲がろうとしたりするが、基本的には普通の犬の散歩の様子と変わらない。
 当初の目的である泥人形には3回遭遇したけれど、基本的に俺が何かをする前に、スイが全て祓ってくれた。
 そもそも俺には泥人形を祓うことはできない。
 できることと言えば、ただの見回りと、スイのおやつ持ちくらいだ。
 そうやって考えていると情けないような気もしてくる。だから、その情けなさを、スイに何かをおごることで今日も誤魔化す。

「スイ、団子でも食べてくか?」

 築港まで来た俺たちは、ちょっと休憩にと新倉屋へ寄る。
 スイは断ることなく、店に入る俺の後ろをついてくる。
 ちらっとスイを見ると、その目は期待でキラキラして見えた。

「何味がいい?」

 スイは少し悩んだ末に抹茶あんとごまを選ぶ。俺は醤油にした。
 包んでもらった団子を持って、築港臨海公園へ行く。あそこならベンチがあったはずだ。
 公園は、昼前の中途半端な時間のせいもあって人はおらず、遠くで野良猫がだらんと伸びているだけだった。
 俺たちは適当なベンチに座って、さっき買った団子の包みを開ける。

「ここのお団子、おいしいよね」

 あっという間に自分の分を食べてしまったスイが、俺の手に残る口がつけられていない団子を見つめる。
 その眼は、明らかに「ほしい」と訴えていた。

「えーと、食べるか」
「食べる」

 待ってましたと言わんばかりに団子をほおばるスイの姿に、こういうところはテンと同じなんだなと思ってしまう。
 普段、テンと並ぶとその口数の少なさからクールに見られがちだか、実際にはテンがマイペース過ぎるし、にぎやかすぎるというだけで、スイも十分にマイペースだ。
 食べ終えてあちこちべたベたになっているスイを、俺は持っていたタオルで拭いてやる。

「スイ、帰ったら水浴びだな」

 まだ少しべたべたするスイは、嫌とは言わなかった。
 来た道とは違うルートで水天宮へ戻る。
 途中、住吉神社の辺りで、見慣れた三毛柄が横切っていく。スハラの飼い猫であるレンだ。
 レンは、こっちに目もくれずに、旧寿原邸のある方向とは逆へ向かって行ってしまう。

「今のレンだよな?どこ行くんだろ」
「今日は猫集会の日じゃないかな」

 当たり前のように言うスイは、それが何かわからないという俺に説明してくれる。

「レン、ああやって週1回猫集会に行くんだよ。いつも場所は違うから、どこに行くかはわからないけど。我も行ってみたくて、テンと一緒にレンのあとつけたことあるけど、途中で見失ってわかんなかった」

 俺は、スイがレンについていく姿を想像して、思わず吹き出してしまう。猫のうしろをついていく狛犬・獅子。しかも尾行を巻かれるって。

「尊、レンのあと、ついていく?」

 ちょっと楽しそうに言うスイには悪いけど、俺は猫の集会にそこまで興味はない。

「いや、やめておこう。そろそろ帰んないと、テンが帰ってきてるんじゃないか」

 テンはサワさんとの見回りだが、終わるたびにオルガの手作りおやつをもらって帰ってくるらしい。そしてそれを2匹で分け合って、ときにはミズハも参加して楽しんでいるとのことだった。

「そっか、それじゃあ帰らなきゃ」

 スイは、スピードを上げて水天宮へ向かった。

 ※ ※

 今週の集会には、8匹の猫が集まった。
 基本的にはいつもと同じ顔ぶれで、また順番に報告を行っていく。
 一番後ろで聞いていた金眼の三毛は、今日も特におもしろいことはないかと、あくびをしながら聞いていた。2本の尻尾もやる気なく、その先だけが少し揺れる。

「レンさん、聞いてます?」

 報告をしていたサビに、レンと呼ばれた金眼の三毛は、閉じていた目を細く開けると、なんだいと悪態をつく。

「聞いてたさ。港で魚もらった話だろ」
「それはキジトラが言ってたことですよ。あたしが言ったのは、へびの話」
「あぁそれね。聞いてたさ。青いへびだろ」

 やっぱり聞いてないじゃないですかとため息をついたサビは、黒いへびですよと言い直す。

「この間、サバトラが言ってた話、覚えてますか?」

 そう言われても、レンはすぐには思い出せない。
 隣にいたサバトラが、龍宮閣の話でさ、と助け船を出してくれるが、レンはいまいちぴんとこない。
 サビは、その様子を見て改めて説明する。

「龍宮閣に何かが住み着いたって噂になってるやつですよ。港に住んでるクロの一家が、オタモイの海岸から飛んでくるヘビを見たらしいですよ」

 レンは、そうかい、と言って、またあくびをする。

「ヘビくらいいるさね。驚くことじゃないよ。それに、」

 いろんなイキモノがいたっていいだろう。
 レンは、2本の尻尾を大きく振った。


※エピソード一覧

・第1部
ep1「鈴の行方
ep2「星に願いを
ep3「スカイ・ハイ
ep4「歪んだココロ
ep5「ねじれたモノ
ep6「水の衣
ep7「嵐の前の静けさ←今回のお話
ep8「諦めと決意
ep9「囚われの君へ

・第2部
ep1「北のウォール街のレストラン
ep2「高嶺の花

※創作大賞2024に応募します!

#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門

古き良きを大事にする街で語られる、付喪神と人間の物語をどうぞお楽しみくださいませ。

※コメントはこちらから

最後までお読みいただきありがとうございます。
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