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棺桶職人の背中

棺桶職人の背中

 

 トン、トン、トントン、

 トン、トン、トントン、

 

 金槌で釘を打ち込む音が、静かに響いている。

 父は、今日も、いつもと変わらず黙々と棺桶を作っている。

 汗をかきながら、集中力を途切れさせることなく、ただただ黙って手を動かし続ける父の背中からは、安易に触れてはいけないような、声をかけてはいけないような、殺気にも似た迫力が感じられた。

 母は、そんな父親を誇りに思っているよ

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名前のない祈り

名前のない祈り

 青年の手から、白いハトが飛び立っていった。

 ケガが完治したといっても、飛ぶのは久しぶりのことであり、初めはぎこちなく、慌てたように翼をバタバタさせていたが、本能的に飛ぶことを思い出したのか、やがて風に乗り、泉のある森の方へと飛んで行った。青年は、寂しそうに、誇らしそうに、ハトが飛んでいった空を眺めている。

 

 そういえば人間は、白いハトを平和の象徴だとする考えがあるんだったな。ふと、そ

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REBORN

REBORN

緑の海で、溺れている夢を見た。

葉っぱが身体を優しく包み、サワサワと風の通る音が聞こえる。

視界一杯に広がる緑に囲まれながら、

ドクン、ドクンと、自分の鼓動が小さく小さく鳴っている。

一瞬、魚のようなものが、目の前を過ぎていった。

「まさか」と思いながらも目で姿を追うと、

それは正真正銘の魚で、

気持ちよさそうに緑の中を泳いでいる。

僕は魚の真似をして、緑の中を泳いでみる。

緑を

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クリームソーダ

クリームソーダ

 2人並んで砂浜に座り、僕らはボーっと海を眺めていた。

 たくさんの人達が、今年、最後の夏を惜しむかの様に、身体中の細胞に記憶させるかのように、海で泳ぎ、笑い、はしゃいでいた。晩夏の日差しを笑顔で反射させている彼らの姿を見て、あ、輝いてるってこういう事か、とボンヤリ思った。彼らの姿が眩しくて、思わず目を背ける。光で照らし出されるのは、なんだか、すべてを見透かされているようで、落ち着かないのだ。

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a whole new world

a whole new world

あなたは、道で、光り輝く小さな玉を拾ったことがあるだろうか?

私は、昨日拾った。

「道に落っこちてるものを、なんでもかんでも拾ってくるんじゃないよ!」と、小さい頃から、よく母親に注意されていた。

一時はその癖もなくなっていたが、大人になって、その衝動が再び噴き出してきた。

今は一人暮らしをしているから、なんでも拾って持って帰れる。パラダイス状態なのだ。

昨日拾ったのは、それはそれはキレイ

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カミノツカイ

カミノツカイ

なにやら向こうの方が騒がしい。

どうやら人間がエサを配っているようだ。

何も知らず、何も知ろうとせず、無邪気な顔をしてエサにありついている者たちを見ていると、嘆かわしいやら情けないやら、悲しい気持ちになってくる。

お前たちには無いのか?

鹿としての矜持が。

鹿として、この世界を生きているプライドが。

数年前に亡くなった爺様の言葉を思い出す。

「ええか。何を失ったとしても、たとえどんな

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