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a whole new world

あなたは、道で、光り輝く小さな玉を拾ったことがあるだろうか?

私は、昨日拾った。

「道に落っこちてるものを、なんでもかんでも拾ってくるんじゃないよ!」と、小さい頃から、よく母親に注意されていた。

一時はその癖もなくなっていたが、大人になって、その衝動が再び噴き出してきた。

今は一人暮らしをしているから、なんでも拾って持って帰れる。パラダイス状態なのだ。

昨日拾ったのは、それはそれはキレイな玉だった。

夜中に拾ったのだが、街頭もないのに、わずかだが黄色い光を放っている。

道行く人は、玉の存在などに目もくれず、歩き去っていった。他に大切なものが沢山あるかのように、誰もがスマホの画面をジーっと見て通り過ぎていく。

その玉は、見た目の小ささからは想像できないくらいズッシリとしていた。

オモチャか何かだろうか?振ってみるが特に何も音はしない。電池を入れるような場所もない。表面はザラザラしていて、ヒンヤリと冷たく、「光る石」と表現するのが一番しっくりくるように思う。

拾ったばかりの玉を、鞄の中に入れて、家路を急ぐ。

そわそわ、ドキドキ。

何かを拾って帰る時は、いつも、この世界で自分だけの、秘密の宝物を手に入れたような気持ちになり、なんだか、お尻の穴が、むず痒くなる。

と、同時に、誰かに取られやしないだろうか?「それは私が落とした物だ!」と、突然言ってくる奴がいるのではないか?と不安にもなり、自然と足早になる。

途中、近所に住むオバちゃんに「あら。そんなに急いで。恋人でも待たせてるのかい?」と声をかけられたぐらいで、無事、家にたどり着くことが出来た。


キッチンを抜けた奥の部屋に、私の秘密の部屋がある。

今まで拾って帰ってきたものが、所狭しと並べられている。

人なんか家に上げたことはない。宝物の保管のために、無理してローンを組み、購入した家なのだ。この聖域にズカズカ立ち入らせたくない。

自分が肩で息をしているのを感じる。

運動不足でもあるが、何より、また新たな(それも特上の)宝物を手に入れた喜びで、私は興奮していたのだ。

目を閉じ、気持ちを落ち着け、呼吸を整える。

そして、ゆっくり、鞄の中から、さっき拾った玉を、取り出した。




「おぉ,,,,,」




言葉にならない感動が、私の身体を駆け巡る。

電気もつけていない暗い部屋の中、その玉は、黄色い光を放っていた。

見たこともないような宝物を手に入れた喜び。

自然と表情が緩む。

さて、この玉をどこに保管しておこう?

この玉が、より美しく見える場所はどこだ?

そんなことを考えながら、部屋を見回している時だった。







手に持っていた玉が、突然震えだした。


どこにそんな穴があるのか、モクモクと煙まで出てくる。






、、、、、、なんだこれは?


突然の事に思考は停止し、手の中で、煙を吐き出しながら震えている玉を見つめていると、

パカッと玉は割れ、中から大きな青い煙?水蒸気?のようなものが飛び出してきた。

バカみたいに思考は止まったままで、驚きと恐怖が身体中を駆け巡り、支配する。

青い水蒸気は空中に浮かび、ウニョウニョ、モゴモゴ、グニグニと動き、

やがて、













「うーん、ありきたりなんだよなぁ」

そういって、若い編集者は、ため息をつきながら、私の原稿を机に放り投げた。タバコのヤニ臭さがプンと鼻を突く。

「道で拾ってきた玉から、突然、青い妖精が表れて、願いを叶えてくれる?、、、、、、ありきたりですよねぇ」時間を無駄にしたイライラを静めるかのように、彼は後頭部をボリボリかいた。細かいフケが空中に舞う。

なにか言わなくては、と思いながらも、何も言葉が出てこない。「はあ」と、情けない声が口からもれただけだった。

そんな私の様子を見て、これでもかというくらい彼は目つきを尖らせ、小さく舌打ちをした。


その後の記憶は残っていない。

いつの間にか私は出版社を後にし、駅に向かっていた。

思い出せることといえば、「なんであんな素人の原稿を俺が読まなきゃならないんだよ」という編集者の声だけだった。


日曜日なので、電車の中は親子づれが多かった。

ネズミやクマの絵が描かれた袋には、夢の国から持って帰ってきた宝物が、いっぱい入っているんだろうか。

ふと、電車の窓から外を見ると、空にポッカリ大きな穴が開いたような、綺麗な満月が浮かんでいた。


重たい足取りで駅から家に向かう途中、いつも声をかけてくる近所のオバちゃんが「あら」と私の方を見て、声をかけてきた。

「あんた、最近顔色悪いよ。ご飯ちゃんと食べてるのかい?」

「ええ、まあ」

「ちゃんと食べなきゃダメよ。コンブの佃煮と肉じゃが作ったから、また後で持ってってあげるわ。あ、そうそう、この前、だいぶ急いでたみたいだけど、恋人とは仲良くやってるの?余計なお世話かもしれないけど、あんたアタシの孫みたいでさ。気になるのよ。そろそろ結婚も考えないといけない歳だもんね」

「はぁ」

「なによ、しけた顔しちゃって。恋人とケンカでもしたのかい?そんなもん心配ないわよ。ケンカしたからこそ仲が深まるってこともあるんだからさ。アタシもお父さんとよくケンカしたもんだわよ。あの時なんかね,,,」

「はぁ,,,」と、オバちゃんの思い出話を背中で聞きながら、トボトボ家へと向かう。

「って、あんた!人の話は最後まで聞きなさいよー。まったくもう、しょうがないわね。元気出しなさいよ!あとでコンブと肉じゃが持って行っていくから。気を落としすぎたらダメよー」


ズボンのポケットから鍵を取り出そうとしたが、そうだったと思いなおし、そのままドアノブを回して家の中へと入った。

恐る恐る「ただいま」と言ってみる。

「おう、おかえり」と、青い魔人がリビングから顔を覗かせた。何かいいことでもあったのだろうか。笑顔で私の方を見ている。


やはりこれは夢ではないのだ。


「なんかいいよな、こういうの」青い魔人は照れ臭いのか、へへっと笑った。

「こういうのって、どういうの?」

「ただいま、おかえり、って言いあう事だよ。これ考えたやつ天才じゃねえか?やっぱりいいよ。明日からもやろうぜ。忘れるなよ」

「はぁ」とため息まじりに鞄をおろす。私の夢が詰まっていたはずの鞄は、ドサッという音をたてた。

「,,,やっぱりダメだったろ?」

「,,,ああ、全然ダメだったよ」

「言わんこっちゃない」青魔人は、ふぅ、とため息を吐いた。

「,,,だって、君は何でも願いをかなえてくれる魔人だろ?どうして私の願いは叶わなかったんだ」

「願いを叶えられる魔人だった、と言っただろ。一昔前の話だ」魔人は寂しそうに言った。

「今は違う。時代は変わったんだ。皆、科学的に証明できないものは信じなくなっちまった。誰も彼もが目に見えるものしか信じちゃいねえ。そんな時代に魔法は起きねえんだよ」

「それは誤解だ。皆が皆、そうじゃないだろ」

「はたして、そうかねぇ,,,」

そう言うと青魔人は、足元に置いていたバイト情報雑誌を手にとり、パラパラとページをめくり始めた。

「そんなことより、見てみろよ。時給1200円だぜ。明日、面接受けてくるからよ。いつまでも世話になりっぱなしじゃ申し訳ねえからな」

パチンコ店の求人募集だった。青い魔人がパチンコ屋で働いているところを想像し、私は一人、ゾッとする。

そんな私の心境などお構いなしに、魔人はご飯の準備を始めた。いそいそと白エプロン(Amazonで取り寄せたらしい)を着始める。

どこかで勉強してきたのか、一人暮らしの経験があるのか、魔人の作る料理は、意外と美味しかった。

「そういえば、またオバちゃんが何か持ってきてくれるって言ってたな」

「おお、ありがてえじゃねえか。あのオバちゃんの料理、出汁が効いててうまいんだよ。あれはなかなか出せる味じゃねえぞ」

そう言って、手際よく、かつお出汁を取り始めた。


そんな魔人の後ろ姿を見ながら、ふと思う。


本当に、もう魔法が起こることはないのだろうか?

青い魔人が、誰かの願いを叶えることは、もうないのだろうか?


青い魔人が口笛で「ホール・ニュー・ワールド」を気持ちよさそうに吹きならしている。青い魔人は料理も上手いけれど、口笛も特別上手なのだ。

鞄から原稿を取り出し、そのままゴミ箱に捨てた。

トントントントンと、青い魔人は小気味よく包丁を動かしている。


まさか青い魔人と暮らすことになるとは夢にも思っていなかった。

ものを拾って帰ってくるたび「なんだよ、それー」とか「ほおー!そんなもんが落ちてるとは、世も末だな」とか、いちいちうるさいし、

あとイビキもうるさいし、

なにより、誰かに見つかったらどうしようーと心配してるのに、明日パチンコ屋の面接に行ってくるとか言ってるし、


だけど、

意外と悪くないかもしれないな、と感じている自分がいる。

出汁のいい香りが、さっきまで落ち込んでいた心を、ほっと落ち着かせてくれる。


玄関のチャイムが鳴り、「コンブと肉じゃが持ってきたよー」とオバちゃんの声が聞こえてくる。

「はいよー」と青い魔人がウキウキと玄関へと向かった。

直後、ガシャーンと何かがひっくり返るような音が響き渡り、「おい、オバちゃん、大丈夫か?」と魔人の声が聞こえてくる。


さて、なんと言って説明すればいいだろう,,,

頭をフル回転させながら、私も急いで玄関へと向かった。


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読んでいただき、ありがとうございます。

みんなのギャラリーから選んだ写真をもとに短い物語を描いてみました。

今回は、 kosuketsubotaさんの写真を使わせていただきました。

物語を描きながら、自分でも思ってもみなかった方向へと進んでいく感覚がありました。

青い魔人は、果たしてパチンコ屋のバイトに受かることができるのだろうか?

オバちゃんのコンブの佃煮と肉じゃが食べてみたい!

など、そんなことを想像しながら描きました。

魔人との共同生活、短期間だけならありかもしれません。


今日も、すべてに、ありがとう✨











































どういうことだ?






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