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おとしごろ離婚 substory002_二人目の保証人。胸に掻き抱かれた新宿三丁目。

二人目の保証人もBARの人。

子供をお願いして出かける貴重な夜。
substory001のあと、続けてもう1件へ向かった。
(ただのハシゴ好きでは?と思った方、御名答。)

もともと新宿に住んでいたので、西新宿から自宅との間に位置した
新宿三丁目はトラップだらけで、よくよく立ち寄っていた。
誰にも呼ばれてないのに、勝手に吸い込まれていってはお店を開拓していた頃に出会ったお店。

西口からガード下をくぐり、歌舞伎町を横目にアルタや伊勢丹の裏手を突き進むのがいつものルート。
三丁目の区画に入ると一気に賑やかになる。

灯るい街並みをすり抜け、独立したマスターの店へ。
当時は地下深いアンダーグラウンド感ただようロックバーだったのだが、その雰囲気を見事に残した店構え。
階段を降りると、もうお店のドアは開放されていて、ジャニス・ジョプリンのポスターを目印に大きなレコード音が聴こえてくる。

なにより特徴的なのは、マスターの人情味あふれる人間性と、豪快な性格。
この店に来る人は、音楽とお酒と、そしてこのマスターが大好きなのだ。
私ももちろん、その1人。

賑やかな店内に少々しりごみながらドアからチラッと覗き込んでみる。
「こんばんは・・・」
「おぉ〜〜〜〜!aya!いらっしゃい、いらっしゃい!カウンターいっちゃって!!!」
うん、勢いがすごい。いつも通りのワッショイ感。有り難い。
1軒目のしとやかさは何処へやら。
そして、何を隠そうこの人が、もう一人の婚姻届の保証人なのだ。

豪快さと気前よさと心強さと。

ぶち抜かれた天井にダクトが這う黒い店内。
カウンターもテーブルも常連さんでギチギチだった。
そして高い天井に音がよく回る。爽快だ。

「わっしょい!いらっしゃい!今日もいい女だな!」
「あはは、ありがとね〜。じゃ、白ワインお願いしよかな」
「あいよ、白ね!おまち!」

そう、量も豪快。おまけされてないです。通常量でこれです。笑
マスターは、なんでもワッショイ豪快なのだ。

「今日のお通し、色々あるけどカレーでいい?食える?」
「あ、カレー?あ、うん食べる食べる」

このとき私は離婚のことを伝えるために、話半分で返事をしてしまった・・
「はいよ、お通しおまち!」
「あ・・・笑」

そうなのです。お通しも豪快。もはや定食。

せっかくなので別アングルからも滴る様子をどうぞ。

何度もお伝えします。マスターは、なんでもワッショイ豪快なのだ。
もうそれだけでとっても元気になれる。
小さいことはなんでもない気がしてくるから不思議。

しかもこのお通し定食。本当に美味しい。
独身男性が足繁く通うのも理解できる。
ケチケチしない具の量から出汁と気前の良さが滲み出してる。

変なテンションになるこの雰囲気と音量。
すっかり話を切り出すタイミングを置き去りにして、
ハイなカウンター陣とハイに会話して閉店ギリギリまで笑いあった。

何も言わんでいい。

「あい!グレンモーレンジのロックね!」
「もうさ、笑うよね〜、ほんとに。気持ちのいい表面張力だよ」
「いんだ、いんだ。元気に呑めるうちは元気に呑めばいんだ!」
「うん・・ありがとう、本当に元気になれる」
「・・どした。なんかあるならドンと話してみんしゃい!」
「実は、離婚することにしたの。ごめんね!保証人、書いてもらったのに」

うん、うん、と大きく頷いたマスターはカウンターから出てきて、
勢いよく、私の頭をガシッと掻き抱いた。
もう一度いいます。マスターは、なんでもワッショイ豪快なのだ。
そして、とてつもなく優しい。懐の大きい男なのだ。

何も言葉はなくても、マスターの体温から気持ちが伝わってきた。
「あ、がんばろう。」そう思って、勇気が湧いてきた。
人情と豪快さと温かさをいただいた、新宿三丁目の夜となりました。


今回もお読みいただき、ありがとうございました。
おとしごろを迎えた私の、生きる源。五感や空気感が伝わっていたらいいなぁ。
ここに辿り着いてお読みいただいた方が少しでも楽しんでいただけますように。

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