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風、を楽しむ。 【台湾風好物家麺と目玉焼きの小丼】

無類のとまでは言わないけれど、かなりの麺好き。
より正確に言うと麺状の食べ物ならなんでも好きで、原料もジャンルも問わず蕎麦もうどんもパスタもラーメンもビーフンも春雨も白滝も好き。

用事の合間にさっと食べるなら立ち食い蕎麦が一番で、休日で時間があるならわざわざ老舗に出かけてビールの小瓶から始めるのが贅沢。もうさすがに近頃は飲んだ後の〆ラーメンまで中々辿り着けないから、いきなりラーメン屋で一杯か、かた焼きそばとか麻婆春雨とか何かしら麺状のものをつまみに飲んでいる。

もちろん家でも麺は食べる。家だと1人前に丁度いい小ぶりの土鍋が便利なので、多くなるのは煮込みうどん。半端野菜でもちくわでも豚肉でも、適当にくったくたに煮てうどん玉を入れ、最後に揚げ玉があれば最上。
家の麺はくたくた気味の方が“らしく”好みで、シビアになり過ぎない方が「のびないうちに」と気持ちが追い立てられることもなく食べられて、私にはいい。

もう一つよく作る好物家麺に、くたくた好きの私が台湾の「麺線」という料理をモチーフに辿り着いたそうめん料理がある。
台湾料理の麺線はスープの中に麺らしきものは入っているんだけど、麺料理と呼ぶか微妙なほどくたくたもとうに通り越した煮込まれ加減のとろみのある不思議な料理で、短く切れたそうめんのような細麺が茶色の汁に行き渡る様子は、一見したところ瓶のなめ茸を思わせる。

この料理を初めて知った時、間違いなく私好みだと直感して、食べてみてやっぱり好きになった。
こってりしたカツオと醤油の風味にほんのり異国情緒漂う香りととろみがあって、そこに日本人からするとやや唐突にも感じる豚のモツがのっている。箸は使わずレンゲ1本で食べるところがなんとも楽しくてかわいい。

力強い魚系の風味、とろりとした醤油味、くったくたの麺、おいしい。
ひらめいた。本場ものとはかなり違うけど、何しろ食べたいときにすぐできる、ちょっとおもしろくておいしい新家麺ができました。

麺に合わせて、さらに「風」を楽しむ小さな丼も一緒に。どちらも材料も道具も手数も少なく、量も自分の好きに加減しやすいから軽く済ませたい休日のお昼に、半端な時間に小腹が空いた時に、飲んだあとなんかにもぴったり。

◾️美窪式麺線の作り方◾️

【使った材料】
●サバの水煮缶…1/2缶、缶汁も使用
●そうめん…1/2束(約50g)
●水…350g〜400g
●濃口醤油…10gくらい
●好みで薬味…香菜(コリアンダー、パクチー)、青ネギなど

見慣れた材料に作り方もとっても単純。だけどちょっと初めての味わいだと思います。サバ缶もそうめんも1/2は半端な感じですが、煮込むと不思議なボリューム感に仕上がるのでまずは半分ずつで試してもらうのがおすすめ。
まず食べてみてから腹具合と相談でまた作っても、たちまちできる手軽さが嬉しい。

①そうめんを煮ます
いきなりこの料理の最重要ポイント。これからやるのはそうめんを「茹でる」ではなくて「煮る」です。
まず鍋に分量の水を沸かし、沸いてきたらそうめんを半分に折って入れ、くっつかないようにしばらく箸で混ぜながら煮ていきます。

鍋に入れるのはいつも麺を茹でるようなたっぷりの湯ではなく、そのままスープにする分量の少なめの水であることを間違えないようにしてください。ここが違うと出来上がる料理が全く変わってしまいます。

日本の麺料理は、たっぷりの湯で茹でてから水洗いしてぬめりを除き、つるっとコシのある仕上がりにすることが多い。
けれどこの麺線ではあえてそのぬめりを「とろみ」として利用して、コシも求めないから水洗いも無し。だからいきなり煮ていき、そうめん自体がもつ塩分も味つけとして使う。

そもそも台湾の麺線の麺は、そうめんに似た細麺ではあるけれど日本の物とは製法が違い色も雰囲気もちょっと別物。日本で手に入れるのも難しいから、そんな時は「今作っているのはそうめんではなく麺線だ」という心構えこそ大切。

②サバ缶、醤油を加えます
そうめんがしなってきたら、サバ缶と醤油を加えて更に煮ます。
サバ缶は出汁として具として缶汁ごと使い、身は具でもあるので大きめにほぐして。あまり細かくすると味が抜けて出汁ガラのようになってしまうのでほどよくざっくり。

そうめんから出てくる塩分にサバ缶の塩味も加わって、煮汁の味はちょっとしょっぱめ。
でも汁に塩気が溶け出ると、そうめん自体は優しい味に。煮ていくうちに自然とついてくるとろみもほんのりとした甘さを感じるようになるから、あえて甘みの調味料は加えず。食べる頃にはなんだかいい感じになります。

③で、完成です
そうめんが汁いっぱいに増えて全体にとろみがついてくれば、あっという間にもう出来上がり。
お湯に麺を入れてからトータルの煮込み時間は、パッケージの茹で時間+2〜3分というところ。

仕上げに見た目も味も盛り上がる緑の薬味を刻んで準備。香菜を添えれば本場の気分、青いネギなら親しみやすい、でどちらでもおいしい。
辛味を添えるのもまた良くて、この日は一味唐辛子をごま油で練って添えました。

味はもうしっかりあるから、塩気のある調味料(例えば豆板醤、柚子胡椒など)だとちょっとしょっぱくなり過ぎるかも。普通に一味を振ったり、ラー油、胡椒、おろしニンニクもおいしい。

たったそうめん1/2束のはずなのに一杯食べるとすごい満足感。でも実はやっぱりそうめん半束なのでじきに胃も落ち着いてくる。
残り半分の麺線をまたすぐに追っかけてもいいし、目玉焼き丼もすぐにできてお気に入り。

多めのごま油を熱したところに卵を割り落として、黄身を潰さないように気をつけながら白身をかぶせるように折りたたみ、白身のふちはカリッと黄身は半熟を目指す。

最後にオイスターソースを加えジュッとなったところを油ごと一気にごはんにのせれば出来上がり。
ごま油とオイスターソース、これだけでいつもの目玉焼きとは一味違う雰囲気になるから新鮮です。

この日の友はヒューガルデンホワイト。
コリアンダーシードを使うベルジャンホワイトビールと、麺にあしらった香菜の香りが繋がって、意外性のある相性の良さ。
麺線の強めの味もフルーティな飲み口で中和され、もっとおいしく。

コリアンダーと香菜は、日本だとタイ語のパクチーが一番馴染みがいいかもしれない同じ植物。世界中の料理で使われるから、各国ごとに呼び名がたくさんあるのもおもしろく、コリアンダー、パクチーのほか、コウサイ、シャンツァイ、コエンドロ、シラントロ。
葉と茎はハーブとして主に生で、種は乾燥してスパイスに。

とことん追求する「本場の味」、ニュアンスを楽しむ「風の味」。
作る楽しさと食べるおいしさを忘れなければ、どちらもきっと素敵な選択になると思う。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

[美窪式麺線]の動画をYouTubeに投稿しています。合わせて見てもらえたら嬉しいです。

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