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魔法少女の系譜、その150~『七瀬ふたたび』と『NIGHT HEAD』~


 今回も、前回に続き、NHK少年ドラマシリーズの実写ドラマ『七瀬ふたたび』を取り上げます。

 前回までの『魔法少女の系譜』シリーズを読んで下さった方であれば、『七瀬ふたたび』が、伝統的な口承文芸とは、遠く離れた創作物語であることが、わかっていただけたでしょう。
 また、『七瀬ふたたび』は、一九七〇年代の作品でありながらも、二〇一〇年代の『魔法少女まどか☆マギカ』(まどマギ)に匹敵するか、それ以上の「鬱展開」の魔法少女ものでした。
 さらに、『七瀬ふたたび』は、「迫害される超能力者」というモチーフを、強く打ち出した作品でもありました。

 今回は、「鬱展開」魔法少女ものと、「迫害される超能力者」モチーフとについて、もう少し、掘り下げます。

 まずは、「鬱展開」魔法少女ものについて。
 基本的に、一九七〇年代までの魔法少女もの―当時は、まだ、魔法少女という言葉がなく、魔女っ子という言葉しかありませんでした―は、明るく楽しい作品でした。『七瀬ふたたび』と同時代の『魔女っ子チックル』や、大場久美子版『コメットさん』などを見ていただけば、わかるとおりです。

 けれども、『七瀬ふたたび』が、一九七〇年代までの魔法少女もので、たった一つの「鬱展開」魔法少女ものではありません。「鬱展開」の話を含む魔法少女ものは、いくつもあります。

 例えば、『魔法少女の系譜』シリーズで取り上げた中では、『エコエコアザラク』がそうですね。昭和五十年(一九七五年)に、『少年チャンピオン』で連載が始まった少年漫画です。『七瀬ふたたび』が放映された昭和五十四年(一九七九年)に、いったん、連載が終わりましたが、一九八〇年代になって、続編が連載されています。
 『エコエコアザラク』の初期には、ヒロインの黒井ミサが、毎回、人を殺します。それも、相手には、殺すほどの落ち度がない場合が多いです。女子中学生が、毎回、気まぐれに殺人を犯すという、ものすごい作品でした。それでいて、彼女は、作品中で、まったく罪に問われません。

 『エコエコアザラク』は、一種のピカレスクロマンです。それにしても、怪奇色が強く、残虐な場面やエロティックな場面も多く、悪のヒロインが罪に問われない理不尽さは、数ある魔法少女ものの中でも、群を抜きます。
 『七瀬ふたたび』とはベクトルが違いますが、怪奇もの魔法少女というジャンルでは、鬱展開を極めた作品と言えるでしょう。

 一般的には、明るく楽しい作品と思われている中にも、「鬱展開」がひそむものがあります。
 例えば、『魔女っ子メグちゃん』がそうです。昭和四十九年(一九七四年)から、昭和五十年(一九七五年)にかけて、放映されたテレビアニメですね。

 基本的に、『魔女っ子メグちゃん』は、明るく楽しい話です。しかし、時に、陰惨と言えるほどの描写が含まれます。
 第49回の「風車のうた」では、ヒロインのメグが、魔界の掟を破ったために、魔界の検察官に焼き殺される場面があります。メグ自身は正しいことをしたと思っていて、信念を曲げず、叫びながら、真っ黒焦げになるまで焼かれます(*o*)
 二〇二〇年現在のテレビアニメでは、この描写は、あり得ないでしょうね。一九七〇年代には、ゴールデンタイムの地上波―当時、衛星放送はありませんが―で、堂々と、これが放映されました。

 メグちゃんは、魔界の女王の力により、よみがえります。
 だとしても、当時、リアルタイムで見ていた子供たちには、相当なショックを与えたものと考えられます。普段が、明るく楽しい話だけに、まさか、ヒロインが途中で殺される―しかも、焼殺!―とは、誰も思わなかったでしょう。

 前回の『魔法少女の系譜』に書きましたとおり、『まどマギ』の鬱展開は、突然、魔法少女ものの中に現われたわけではありません。『七瀬ふたたび』をはじめ、いくつもの作品に、一九七〇年代から、現われていました。
 ただ、それが、小さな芽だったために、目立たなかっただけです。『エコエコアザラク』のように、ベクトルが違い過ぎて、「魔法少女もの」と認識されなかった作品もありました。『七瀬ふたたび』も、放映当時は、「魔女っ子もの」とは、思われませんでした。

 「鬱展開魔法少女もの」の系譜は、静かに続いていて、二〇一〇年代の『まどマギ』で、爆発しました。

 次に、「迫害される超能力者」モチーフへ行きましょう。
 これは、要するに、普通の人間とは違う異能力を持つ人間が、迫害されるモチーフですね。異能力を持つ人間=異類、とすれば、神話の時代から、このモチーフはあります。

 異能力を持つ人間を、現代的な意味での「超能力者」とするならば、このモチーフの源流は、SF小説の『スラン』でしょう。この小説が最初に発表されたのは、一九四〇年(!)です。作者は、カナダ生まれの米国人、A.E.ヴァン・ヴォークトです。
 日本では、昭和五十二年(一九七七年)に、早川書房から、日本語版が出ています。

 『スラン』では、超能力を持つ人間は、スランと呼ばれ、普通の人間から迫害されています。主人公は、ジョミーという名の少年で、スランです。彼は、スランであるがゆえに、常に普通の人間に追われます。
 ジョミーは、多くのスランや普通の人間や、第三勢力の人間と出遭い、その戦いに巻き込まれます。ラストは、読んでのお楽しみにしておきましょう(^^)

 ジョミーという名で、ぴんと来た方がいるでしょう。『スラン』は、竹宮惠子さんの漫画『地球【テラ】へ…』に、直接、影響を与えています。『地球【テラ】へ…』の主人公の名前も、ジョミーですよね。

 日本で、昭和五十二年(一九七七年)に刊行された『スラン』は、一九七〇年代末から、一九八〇年代初頭の日本の娯楽作品に、甚大な影響を与えました。「迫害される超能力者」のモチーフが、深く刻まれた作品が、いくつも現われました。
 前記の『地球【テラ】へ…』がそうですし、柴田昌弘さんの漫画『紅い牙』も、間接的な影響があるでしょう。

 『七瀬ふたたび』は、原作の小説が、『スラン』の日本語版より先に、出ています。
 そこは、原作者が、名だたるSF作家の筒井康隆さんですからね。日本語版が出る前から、「米国に、そういうSF小説がある」ことくらいは、御存知だったのでしょう。一九七〇年代の米国では、『スラン』は、すでに、古典的なSF小説として、著名でした。

 昭和五十二年(一九七七年)に日本語版『スラン』が出た二年後に、『NHK少年ドラマシリーズ』で、『七瀬ふたたび』がドラマ化されたのは、時宜を得ています。まさに、そういうものが流行る時代でした。

 一九八〇年代末以降になると、「迫害される超能力者」モチーフの作品は、目立たなくなります。が、なくなったわけではありません。
 魔法少女ものでなくとも、興味深い作品を、一つ、紹介しておきましょう。

 昭和から元号が変わった平成四年(一九九二年)から平成五年(一九九三年)にかけて、『NIGHT HEAD』という、実写(特撮)ドラマが放映されました。
 この時代は、深夜ドラマというものの黎明期です。『NIGHT HEAD』は、そのはしりでした。この作品が、深夜ドラマとしては驚異的な視聴率を出したために、その後の深夜ドラマの発展を促した面があります。

 『NIGHT HEAD』は、二人の男兄弟が主人公です。兄が霧原直人で、弟が霧原直也です。ドラマが始まった時点で、直人は成人しているように見えます。直也は、まだ十代の少年です。
 二人は、超能力者です。兄の直人は、動的なサイコキネシス能力を持ち、弟の直也は、静的なリーディング(テレパシー)能力や予知能力を持ちます。
 彼らは、その超能力ゆえに、両親から引き離され、山奥にある御厨【みくりや】研究所に閉じ込められて育ちました。御厨研究所は、御厨恭二郎という人物が、超能力を研究する施設でした。

 ある時、研究所の結界が途切れたため、直人と直也は、研究所から脱出することに成功します。兄弟二人で力を合わせて生き抜こうとしますが、彼らは、研究所育ちで、世慣れしていません。そのうえ、超能力の制御もきくとは限らないために、さまざまなトラブルを呼んでしまいます。
 加えて、二人を追うARKという謎の組織も現われます。ARKは、表向きは貿易会社ですが、実際は、超能力者ばかりで構成される組織です。ARKの構成員たちは、超能力を持たない人間を見下していて、自分たちこそが正しい人類だと思い込んでいます。強い超能力を持つ霧原兄弟を、自分たちの仲間にするか、さもなくば抹殺しようとして、付け狙います。

 ARKは、『紅い牙』に登場する敵組織のタロンを思わせますね。『超少女明日香』の敵役にも、こういう感じの組織が、たびたび登場します。
 『NIGHT HEAD』の、常に緊張感に満ちたドラマの展開は、『七瀬ふたたび』によく似ています。

 『NIGHT HEAD』が放映される前には、テレビドラマの世界では、超能力ものはやり尽くされたと思われていて、「こんなものはウケない」と言われたそうです。
 ところが、ふたを開けてみれば、深夜ドラマとしては、異例のヒット作となりました。

 一九九〇年代初めには、『七瀬ふたたび』のことは、忘れられていたのかも知れません。少女漫画の『超少女明日香』や『紅い牙』は、テレビドラマ界の人たちには、視界に入っていなかったのでしょう。当時は、漫画原作のドラマは、まだ珍しい時代でした。
 『NIGHT HEAD』の内容を見てみれば、一九七〇年代から一九八〇年代に、何回もやられてヒットしていた「迫害される超能力者」モチーフ以外の何ものでもありませんよね。十年以上前のウケる要素を、一九九〇年代風にリメイクして、ヒットを飛ばしました。

 霧原兄弟の兄弟愛が、とても泣かせる作品です。
 これ、男兄弟なので、「魔法少女もの」ではなくて、「魔法少年もの」になっています。直也のほうが、まだ少年ですからね。
 もし、主人公たちが、男兄弟ではなくて、姉妹だったら、『NIGHT HEAD』は、「魔法少女の系譜」に名を連ねたでしょう。その場合は、こんなにヒットしたかどうかは、微妙なところです。
 霧原直人に豊川悦司さん、霧原直也に武田真治さんという美男子を二人揃えたことで、『NIGHT HEAD』は、女性にたいへん人気がありました。姉妹にしてしまったら、女性人気が得られなかったかも知れないので、男兄弟で良かったのだと思います。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『七瀬ふたたび』を取り上げます。



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