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魔法少女の系譜、その88~『明日への追跡』と先行作品~


 今回も、前回に続き、『明日への追跡』を取り上げます。

 『明日への追跡』は、筋立てや設定が複雑で、口承文芸と、直接、比較できる作品ではありません。昭和五十一年(一九七六年)ともなると、少年少女向けの作品といえども、すっかり、口承文芸の型からは、脱却しています。

 代わりに、『明日への追跡』は、先行する作品群と、共通するモチーフが多いです。同じ『NHK少年ドラマシリーズ』の先行作品から、いくつかのモチーフを、つぎはぎしたように見えます。
 それ自体は、悪いことではありません。どんな作品でも、必ず、先行作品の影響を受けています。影響を受けつつ、より面白さを増すようにしているはずです。別の方向の面白さを追求することもありますね。

 ここでは、先行作品と共通するモチーフを取り出して、分析してみましょう。


 まずは、「謎の転校生」モチーフです。
 先行する『NHK少年ドラマシリーズ』では、『暁はただ銀色』、『なぞの転校生』が、このモチーフの作品ですね。先行する魔法少女作品としては、『さるとびエッちゃん』や『エコエコアザラク』で、ヒロインが「転校生」としての存在感を見せています。

 『暁はただ銀色』と、『なぞの転校生』では、転校生は、宇宙人でした。『さるとびエッちゃん』では、転校生のヒロインは、忍者の里から来た「忍術少女」です。『エコエコアザラク』のヒロイン、黒井ミサは、しょっちゅう転校して、行く先々で、怪事件を起こします。ミサの正体は、黒魔術師です。

 そして、『明日への追跡』では、二人の転校生が登場します。二人とも、正体は、同じ星から来た宇宙人でした。ただし、種族が違います。
 竹下清治のほうは、普通に肉体を持つ宇宙人でした。浦川礼子のほうは、霊体だけの宇宙人が、地球人の体を乗っ取っていました。

 こうして並べてみると、「転校生が、普通の人間ではない。超常的な能力の持ち主である」とされていることが、わかります。
 これは、「転校生」が、子供たちの日常である「学校」に、新しい風を運んでくる存在だからでしょう。日常に現われる「異人」を表現するのに、「転校生」は、ちょうど良い存在です。

 「謎の転校生」モチーフは、意外に早くから使われています。宮沢賢治の『風の又三郎』は、日本の作品で「謎の転校生」モチーフを取り上げた、最初期の作品でしょう。この作品は、昭和九年(一九三四年)に発表されました。
 ちなみに、『風の又三郎』も、『NHK少年ドラマシリーズ』で、実写ドラマ化されています。

 一九七〇年代の半ばに、『暁はただ銀色』、『なぞの転校生』、『明日への追跡』と、同モチーフの作品が、次々にテレビで放映されたことは、後世に大きな影響を与えたでしょう。当時のテレビの影響力は、二〇一八年現在の比ではありません。インターネットは、まだ、存在しませんからね。
 加えて、漫画の世界では、昭和五十年(一九七五年)以降、黒魔術師のミサが、「恐るべき転校生」として、活躍しました。
 おそらく、「謎の転校生」モチーフが、少年少女向け作品の中に定着したのは、一九七〇年代半ば―昭和五十年ごろ―だと思います。

 「謎の転校生」モチーフは、二十一世紀になっても、健在です。例えば、宮部みゆきさんの小説『ブレイブ・ストーリー』では、転校生の芦川美鶴が、異世界で、「魔導士・ミツル」として活躍する人物でした。
 このモチーフは、二〇一八年現在もなお、古びていないと言えます。今後も、便利なモチーフとして、使われ続けるでしょう(^^)


 次に、「宇宙人」モチーフです。先行する『NHK少年ドラマシリーズ』では、『暁はただ銀色』、『まぼろしのペンフレンド』、『赤外音楽』、『なぞの転校生』に、宇宙人が登場しますね。けっこう多いです。
 それ以外の魔法少女作品では、『コメットさん』と、『好き!すき!!魔女先生』とが、どちらも、ヒロインが宇宙人です。

 不思議なことに、昭和五十一年(一九七六年)の段階では、アニメの魔法少女に、宇宙人ヒロインは、ほとんどいません。ほぼすべて、実写ドラマです。
 これがなぜなのかは、私も、まだ、考察が行き届きません。

 一九七〇年代の『NHK少年ドラマシリーズ』に、「宇宙人」モチーフが多いのは、時代を反映しています。一九七〇年代の日本は、オカルトブームで、UFOや宇宙人の話題が、タイムリーだったのです。
 昭和五十年(一九七五年)に、ロボットアニメ『UFOロボ グレンダイザー』が放映されたことが、ブームの片鱗を表わしています。『グレンダイザー』は、なんと全七十四話で、昭和五十二年(一九七七年)まで、放映が続きました。ヒットしたのでなければ、こんなに放映が続くことは、あり得ませんね。

 『グレンダイザー』のヒロインの一人、グレース・マリア・フリードは、一九七〇年代に数少ない、アニメの宇宙人魔法少女の一人です。

 「宇宙人」モチーフでは、『NHK少年ドラマシリーズ』や、『グレンダイザー』の前に、『ウルトラマン』シリーズがありました。少年少女向け作品としては、「地球に、何らかの目的を持つ宇宙人が来ている」というモチーフは、もはや、普通のものでした。

 「宇宙人」モチーフの派生として、「宇宙人同士の争い」というモチーフもあります。これも、すでに、『ウルトラマン』シリーズに現われていますね。
 『明日への追跡』では、違う種族の宇宙人同士の戦いがありますね。これは、『暁はただ銀色』と共通します。『なぞの転校生』でも、違う世界の宇宙人同士の争いがあります。


 三番目のモチーフは、「環境汚染」です。これも、一九七〇年代という時代を、思いっきり、反映しています。
 以前にも書きましたが、当時は、多摩川に、洗剤の泡が浮いていました。大気汚染もひどくて、喘息にかかったり、光化学スモッグで倒れたりする人が、続出しました。
 二〇一〇年代になって、中国の環境汚染が、よく揶揄されますね。でも、一九七〇年代の日本も、あんな感じだったのですよ。

 『NHK少年ドラマシリーズ』では、『暁はただ銀色』、『赤外音楽』、『なぞの転校生』に、「環境汚染」モチーフが現われます。『明日への追跡』も、それに連なる作品です。

 一九七〇年代の日本人にとっては、「環境汚染のために、世界が滅びる」のが、実感を持ってとらえられたのでしょう。『暁はただ銀色』、『赤外音楽』、『なぞの転校生』、『明日への追跡』、これらの作品では、すべて、「環境汚染のために、滅びた世界、あるいは、滅びそうな世界がある」ことになっています。


 四番目は、「複数のヒロイン」というモチーフです。一九七〇年代に、少年少女向けの作品では、複数のヒロインが登場することが、少なかったのです。
 『NHK少年ドラマシリーズ』では、『まぼろしのペンフレンド』が、当時には希少なトリプルヒロインでした。他の魔法少女ものでは、『魔女っ子メグちゃん』が、ダブルヒロインで有名ですね。
 魔法少女作品ではありませんが、先述の『グレンダイザー』が、ダブルヒロインです。主人公のガールフレンドの牧葉ひかると、主人公の妹のグレース・マリア・フリードと、二人のヒロインがいます。

 『明日への追跡』には、椿芙由子と、浦川礼子という、二人のヒロインがいますね。主人公の落合基をめぐって、二人は、直接、火花を散らします。

 『明日への追跡』は、複数ヒロインの登場する作品として、先駆的なものでした。実際に見ていた方に話を聴くと、「悪役だけど、浦川礼子のほうが好きだった」という方にも会います。むろん、「椿芙由子のほうが、かわいくて好きだった」という方もいます。どちらも、魅力的だった証拠ですね(^^)
 二〇一八年現在では、一つの作品の中に、複数の、バリエーション豊かなヒロインを揃えるのが、当たり前です。そういう時代を準備する作品だったと言えるでしょう。


 『明日への追跡』は、先行する創作物語のモチーフを受け入れつつ、時代の空気を敏感に取り入れ、次の時代に来るものの準備もしました。二〇一八年に振り返ってみれば、そういう作品だったと言えます。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『明日への追跡』を取り上げる予定です。



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