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桜井鈴茂さんの『冬の旅』を読んで、会社員だってロックンローラーなんだよってことは、会社員にならなければ、分からなかったということを思い出した。
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あんたは変われるのかい?
·······どうかな。
世の中のほうには期待できないよ
そうだろうな。
だったら折り合いの悪さをそのまんま受け入れるしかないだろうね。
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桜井鈴茂さんの『冬の旅』を読んだ。
これを読み終えると、桜井鈴茂さんの著作は、すべて読んだことになってしまう。
だから、大切に、じっくり、味わうように読もうと思っていた。
だけど、結局、僕はいつものように、鈴茂さんの文体が織り成す心地のよいビートに乗せられ、同時に焦燥感に駆られるように、一気に読んでしまった。
他の桜井鈴茂作品と同様、延々と続くつれない日々の中で、たいていのことはもう終わってしまったと観念している男の物語だ。
こんなの、俺以外の誰が読むんだよ、そりゃあ、文壇からも見捨てられ、著作の大半が絶版にもなるわな、と自分を納得させようとするけど、やっぱりうまくいかない。
だけど、ふと思う。
そういう世界に生きているからこそ、鈴茂さんの作品は僕にとっての「生きる糧」になりうるんだと。
まだ僕が文筆業で生計を立てようと七転八倒していた頃、いわゆる「普通の生活」というのは、自分の感性を鈍らせ、ひいては自分が書く文章を陳腐なものにしてしまうと思い込んでいた。
だから、たとえばサラリーマンになるなんてもっての他で、とにかく刺激的な毎日を送らなければ良い文章は書けないと、そう頑なに信じていた。
ところが、どうだろうか。
あの頃に夢見た自分は今はどこにもいないけど、僕が書く文章は、今が過去最高だ。(たぶんね)
会社員だって、ロックンローラーなんだよ。
ってことは、会社員にならなければ、分からなかった。
昔、ロッキングオンJAPANで、読売新聞を蹴ってロッキングオン社に入社した神谷弘一さん(現リアルサウンド代表)が、エレカシのディスクレビューで「俺はサラリーマンだ、バカヤロー!」と書いていたのを、当時の僕は爆笑していたけど、その叫びこそが「この世界との折り合いの悪さを受け入れるための軋轢」で、それこそが現代のロックンローラーなんじゃないかな、と今ならそう思える。
桜井鈴茂の小説は、自由業の人々を描くことが多い。
本書の主人公も、コンビニの深夜バイトをしながら、売れない小説を書き続ける40男だ。
だけど、そこでの主人公の苦悩や葛藤、あるいは、もっとライトな「なんかわからんけどもやもやするこの気持ち」は、すっかりサラリーマンが板についた僕にとっても他人事ではないという、この事実に、いま改めて胸を熱くしている自分がいる。
仮に良い文章が書けたからといって、何か得になることなんてないのに、それでも僕がひたすらこうやって感傷を垂れ流しながら文章を書く理由が、この作品にばっちり刻まれていて、それが一番嬉しかった。
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