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中島らもさんの『今夜、すべてのバーで』を読んで、愛する人を悲しませてまで飲んでしまう酒というのは、いったいなんなのかと思いながら、無性に酒が飲みたくなった。
「なぜそんなに飲むのだ」
「忘れるためさ」
「なにを忘れたいのだ」
「……。忘れたよ、そんなことは」
(古代エジプトの小話)
初めて読んだのが高校3年のときで、読後、現代社会かなんかのレポートのテーマを「アル中」にしてしまったほど感銘を受けた思い出の一冊です。
先日、フォロワーさんに「人生の中でベスト3に入る作品です」と勧めたものの、最後に読んだの、ずいぶん前だしなと、久しぶりに再読してみました。
重度のアル中である主人公の入院生活を通して、人間の愚かさと、男女関係の不思議さと、愛と命の尊さを描いた作品で、膨大な参考文献からの引用を多用し、極力センチメンタリズムを排した文体でいながら、センチメンタリズムの極みとしか言い様のない物語に仕上げている、中島らもさんの代表作です。
さすがに、初読から四半世紀以上経ってるわけで、扱っているテーマから考えて、感じることも沁みるポイントも違うんだろうなと思っていたわけですが。
びっくりすることに、高校3年のときに読んだときと、心を揺さぶられるポイントがまったく一緒でした。
念のため、当時の僕がすでに大酒飲みだったわけではなく。
これほど、若い頃と読後の感想が変わらない小説も珍しく、それはいったいなんでなのかを、さっきからずっと考えています。
酒の恐ろしさ。
アル中の惨めさ。
そういうものをイヤというほど教えてくれる作品だ。
だけど、読み終えて、僕は無性に「早く酒を飲みたい」と思った。
この作品が、酒の恐ろしさとアル中の惨めさだけを描いた作品であれば、おそらく高校生だった僕の心が揺さぶられることはなかっただろう。
愛する人を悲しませてまで飲んでしまう酒というのは、いったいなんなのか。
本書で描かれる人間の弱さと、それが故の愛しさは、きっと、読者が酒を飲む飲まないに関係なく、その人の内側の柔らかく繊細な部分を激しく揺さぶってくることだろう。
あらためて。
僕の人生の中でも、ほぼベストと言っていい作品として、あらゆる人に推薦したいと思います。
作中に、アルコール依存性スクリーニング・テストというのが出てくるのですが、ちなみに僕の点数は7.2点。
主人公の12.5点には負けますが、2点以上が「きわめて問題が多い」ということですので…。 かなり酒量を控えている今でも、こんな結果ですので、「適量」にはまだまだ程遠いなと思いました。
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